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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十一章 『陰の瞳・ウンディーネ』
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第八十一話 『人間嫌いのウンディーネ』

 4日間の休息を取り、すっかり回復したクロノは旅の準備を進めていた。



「旅立ち旅立ち~♪ 今日は出発の日~♪」



「ちょっ、エティル、危ないから飛び回るなよっ」



 今日はウンディーネの泉に行く、朝から精霊達は張り切っていた。落ち着かない様子でエティルはクロノの周囲を飛び回っている。



 流石にいつまでも半袖では寒い為、クロノも長袖の服装に着替えていた。準備を終え、何気なく部屋の鏡に視線を移す。




(髪、ちょっと伸びたかな)




 銀髪が耳にかかる程度には伸びた気がする。クロノの髪はローが揃えてくれていたので、ローと別れてからは手付かずだ。



「ちょっとは成長、できてるのかなぁ」



 この髪と同じ速度で成長できているならいいなぁと、クロノは左手の指輪に視線を落とした。



(……うん、きっと大丈夫だよな)

(……へへっ)



「あぁ、大丈夫さ」

「この休息中に、随分大地の力の扱いが上手くなったしね」



「ぎゃあああああっ!? 聞いてたのかっ!?」



 完全に独り言のつもりだったのだが、ニヤニヤしたアルディが肩に手を置いた。



「クロノは健気だねぇ」



「お、おおお前ら! 人の心覗くのは良い趣味じゃないぞ!」



「クロノがダダ漏れ過ぎるんだろ?」



「んなこと言っても……」



「はいはいー! セシルちゃん待ってるんだし! ほら行こうよー!」



「うぅ……」



 エティルが小さな体で手を引っ張ってくる、クロノは顔を赤く染めながら、しぶしぶ村の入り口に歩いていった。

















「遅いぞ、馬鹿タレ」



「その抱え込んでる大量の饅頭は何なんだよ」



 村の入り口付近で待っていたセシルは、村の名物『アルルカ桜饅頭』の箱を大量に抱えていた。



「半分以上は空だから安心しろ」



「何を?」



 ゲートがお礼にとくれたのだが、このままではクロノの口には入らずに食い滅ぼされるかもしれない。



「クロノ、色々世話になった」

「ウンディーネとの契約、頑張れよ」



「感謝しても、し足りないです」

「また来てください、歓迎しますです」



 ゲートとセラスがクロノに続けてお礼を言う。二人の笑顔の為、少しでも何か出来たのであれば、それは凄く嬉しかった。



「また来るよ、絶対」


「それまで仲良くな、喧嘩しちゃだめだぞ」



 少しだけ顔を赤く染めた二人に、手を振りながら、クロノはアルルカの村を後にしたのだった。




















「ふぅ……本当に良かった……」



 退治屋なんかにめちゃくちゃにされず、本当に良かった。




「貴様はお人好しだな、底無しの」




 そう言いながらも、セシルは饅頭を口に放り込んだ。セシルの胃袋のほうがよっぽど底無しだ。そんなセシルを見て、クロノは笑顔を浮かべた。



「へへっ……」



「……? 何だ貴様、人の顔を見てへらへらと……キモイぞ」



「んーん、セシルっていい奴だなぁって思ってさぁ」



「キモイな……」



 久々に冷たい目で見られた、この感覚すら懐かしく思う。



「俺、セシルと旅が出来て良かった」

「案外、楽しいしさ」



「何だというのだ、急に……」



「ねぇねぇクロノー、あたしとはー?」



 珍しくどこか不安そうな声で、エティルが頭の上から聞いてくる。



「え? 良かったに決まってるだろ?」

「友達、だろ?」



「……えへへ~」



「まぁその友達に心の中を見透かされ、プライバシーも何も無い状態だがな」



 セシルが饅頭を2個同時に口に投げ入れながら、そんな事を言った。



「あー……それで思い出した、本当にそれ何とかなりませんかねぇ……」



「あーん……クロノの目が一瞬で冷めた物に……」



「僕達も常に心の声を聞いてるわけじゃないぞ」

「クロノがダダ漏れにしすぎだから、聞きたくなくても聞こえる時だってあるんだ」



「んなこと言っても……どうしろってんだよ」



 心の声を心の中に漏らすのは当然だ。本来なら聞かれるはず無い事なのだから、警戒のしようもない。



「心のコントロール、それはティアラに出会えば少しは出来るようになるさ」

「水の力は、心の力だからね」



「ん? そうなのか?」

「水でぶわーっ! とかじゃないのか? アクアさんの使ってた奴みたいに」



「精霊法ならそうかもだけど、水の自然体は心を落ち着かせ、動きの波紋を感じ取る事だよ」

「そもそも、クロノが残す精霊の力は、共に心の力だ」



 正直、心の力と言われてもピンと来ない。



「クロノー、頭にハテナ浮かんでるねぇ」

「精霊の力は2種類に分けられるんだよぉ」


「身体的に強化する、『動の風』と『静の大地』」

「精神的に強化する、『剛の炎』と『柔の水』ってな感じでね」




「動きに風を宿す、速度強化」

「肉体に大地を宿す、肉体強化」

「精神に水を宿す、感覚強化」

「精神に炎を宿す、全体強化」


「大雑把に説明すれば、こんなとこかな」




「炎の全体強化って何だ?」




「その時に詳しく説明するって言うか、フェルドが説明すると思うんだが」

「簡単に言えば、心を燃やし、全体的に強化するって感じだ」




「あたし達の力は契約者の精神に影響受けまくりだからねぇ」

「フェルド君の力は、ブースト技の精霊技能エレメントフォースをさらに強化する2重ブーストみたいな感じなんだよぉ」




「へぇ……」




「この馬鹿タレに今そんな説明しても無駄だ、どうせ10%も理解出来ん」

「今は目の前に集中しろ、見えてきたぞ」



 クロノが頭をパンク寸前にしていると、セシルがそんなことを言ってきた。前を見ると、森のような場所が見えてきている。




「あそこがウンディーネの泉か」




「森の中心部に泉は広がっている、今の内に何から話すか決めておけ」

「ティアラは気難しいというか、ガキだ」




「正直、会話すら難しいぞ」




「生まれたばかりでルーンと契約したんだっけ?」

「けど、それから500年経ってるんだぞ?」




「貴様の頭の上を見ろ、そういうことだ」




「どういうことなのさぁ~!」




 なるほど、そういうことか。クロノは無言で頷いていた。森をしばらく歩くと、すぐに開けた場所に出た。透き通る泉が目の前に広がっている。



「えっと、ここに居るんだよな?」



「……いや、力を感じない」



 アルディが難しい顔をしていた。




「もしもーしっ! 親切なウンディーネちゃんは居ませんかーっ!?」




 エティルが急に大声を出す、その声に反応し、一体のウンディーネが泉から顔を出した。



「……シルフ? 珍しいわね」



「きゃはっ! こんにちわーっ!」

「ねぇねぇ、聞きたいことがあるんだけどいいかなぁ?」



「何かしら?」



「こうこうこうでー、こーんな子、どこに居るか知らない?」



 それで伝わるのだろうか。




「あぁ……あの子ね」




 伝わったらしい、突っ込みたい気持ちをどうにか押さえ込む。



「殆ど喋ってくれなかったし、すぐ地底湖に引き篭もっちゃったから、よく知らないわ」

「もう何百年も出てきてないわよ」




「あのコミュ障が……っ!」




 セシルが隣で呆れていた。



「その地底湖ってどこにあるのかな?」



「あっちよ、地下へ続く洞窟があるわ」

「入り口結構急だから、落ちないようにね」




「親切にどうもー♪」




 クロノも頭を下げ、ウンディーネが教えてくれた方向へ歩き出す。 



「あの馬鹿……まさか500年ずっと引き篭もってるのか……?」



「あーん……ティアラちゃんが引き篭もりに……」



 まさか会うだけで大変な事になるとは、流石に想像していなかった。



「今の内に聞いておきたいんだけど、ティアラってどんな奴なんだ?」



「ガキだ、ガキ」

「何かあればすぐ水をかけてくる、鬱陶しい」



 セシルの天敵な気がしないでもない。



「だが、その力は本物だよ」

「生まれたばかりとは思えない力を秘めていた、強力なウンディーネだった」



「まぁ……性格は幼かったけど」




「初めて会った頃は、会話してくれなかったしねぇ」

「あたしルーンの最後の精霊だったから、最初は少し気まずかったなぁ」



「けど、仲良くなったらとっても良い子だったんだよぉ?」




「うーん……聞くほど不安になるなぁ」

「ちゃんと契約結べるかな……」



 クロノが腕を組んで悩んでいると、頭の上のエティルがポカポカ叩いてきた。



「それダメー! そんな事考えてたら一発アウトだよぉ!」

「ティアラちゃんはあたし達の中で一番心に敏感なんだからぁ!」




「ティアラは心に直結する力を使う、他者の心ですら読み取ることが出来る」

「クロノ、無理を言うかもしれないが……出来る限り心を不安で満たすのは止めてくれ」



「もしかしたら、今のティアラには……それだけで弾かれるかもしれない」



 それは、かなり難しい。




「そんな事言われてもなぁ……ってうわあああああああっ!?」




 よそ見して歩いていたせいで、地下への入り口に気がつけなかった。クロノは殆ど縦穴のような洞窟の入り口に落っこちてしまう。



「急だから気をつけてって言われてたのにぃ」



「あいててて……」



「この奥か、また面倒な所に引き篭もったなぁ」



 落っこちたクロノの隣に、エティルとアルディが飛び降りてきた。



「ルーンと出会う前も引き篭もっていたらしいしな」

「ルーンと旅をして多少アグレッシブになった為、泉から場所を移して引き篭もる事を覚えたのだろう」



「そんなのは成長とは呼ばん、あの馬鹿タレが……」



 セシルも続いて飛び降りてくる。クロノは荷物からランタンを引っ張り出し、先へ進む事にした。



「流石にジメジメしてるな」

「お、水体種スライムが居るぞ」



 洞窟の壁にへばり付いている、ゼリー状の物体がクロノに近づいてきた。水体種スライムは知能の差が非常に大きく、賢い者なら言葉も話せるし、人型を取ったりもする。


 しかし、知能の乏しい下級の水体種スライムは、害も無く、綺麗な水を求めてプルプルするくらいしか出来ない。




「あははっ プルプルしてるよ」




 足元に近寄ってきた水体種の大きさは、テニスボールくらいだ。指で突っつくとその体を左右にプルプルと揺らしていた。しばらく突っついていると、体を潰れたような形に変え、逃げるように去って行った。



水体種スライムが住み着いてるってことは、ここの水は綺麗なんだろうな」




「ウンディーネの住処だしな、当然だろう」

「後貴様、無闇に水体種スライムに触れないほうがいいぞ」



「酸性の体を持つ物もいるんだからな」




「……気をつけます」




 そんな事知らなかった、やはり魔物関係の情報が自分には足りていないようだ。



「しかし、結構奥深いぞここ……」



「ティアラちゃーん……どこー……?」



「ティアラなら僕達の力に気づいていても不思議じゃない気もするけど……」

「まさか僕達にも会いたくないって事か……?」



 暗い洞窟の中を5分ほど進んだだろうか、うっすらと光が見えてきた。



「? 地下に光?」



 不思議に思って駆け寄ってみると、地底湖が広がっていた。うっすらと洞窟の壁や水の中が光っている。



「光苔だな、綺麗な物だ」

「ちなみに美味くはないぞ」



「何で味知ってるんだ?」



「あっ……この感じ……」



「最小限に力を抑えていたんだな、けど、ここまで近づけば流石に感じる……」

「ティアラッ! 僕だ! アルディだ! 出て来いっ!」



 地底湖に向かってアルディが叫ぶ、しかし、言葉は返ってこなかった。その代わり、水面に何かが顔を出した。




「ん? あれって?」




「ティアラちゃんだーーーーーーっ!!」




 エティルが飛び上がる、それに反応し、ティアラも近づいてきた。



「わーわー! ティアラちゃん! 500年ぶりだねぇ!」

「うわーっ! 変わってないよぉ! すっごい懐かしごぼぼぼぼっ!?」



 ティアラの周りを飛び回っていたエティルが、水に閉じ込められた。



「エティ、うるさい……」

「変わって、ない……嬉しい……」




「ぶっはっ!? 嬉しいなら水やめごぼぼ……」




 空中で水の球に閉じ込められているエティルがバシャバシャともがく、そんなエティルを無視し、ティアラが水から上がってきた。



「アル、久しぶり……」



「あぁ、変わってないようで安心したよ」



「プルプル……水から出たの……久しぶり……」



 顔を振り、髪から水を振り落とすティアラ。青白く染まった長髪と、人魚のような姿はとても美しい。身に纏った羽衣のようなものが、彼女の雰囲気を神聖なものにしていた。



 しばらく水を振り落としていたティアラだが、セシルの方をジーッと見つめ始める。



「何だ」



「本、人?」



「貴様には私が別人に見えるのか」



「…………」



 しばらく黙っていたティアラだが、背後の地底湖の水がうねり出し、蛇のようにセシルに襲い掛かった。




「セシルッ!?」




「随分な挨拶だ、なっ!」




 結構凄まじい勢いで叩き込まれた水を、セシルは尻尾の一撃で払い飛ばした。



「うん、本物、間違い、ない」



「あぁ、貴様も本物だな、こんな事する奴貴様しかいない」



 腕組みして睨みつけるセシル、そんなセシルに、ティアラは空中を泳ぐように近寄っていく。そのままセシルの腰辺りに抱きついた。



「貴様の身体は冷たいから、あまりくっつくなと言っていた筈だが」



「ちゃんと、覚えてる」

「……けど……もう、会えないと思ってた、……嬉しい」



「はぁ……面倒くさい奴だ」



 口では嫌そうにしているが、セシルは優しい表情でティアラを撫でていた。その様子が、とても微笑ましい。



「良かったな、再開できて」



「あぁ、変わってない様子で何よりだ」



「あぅ~、ビショビショだよぉ……」



 水の球から脱出してきたエティルが、フラフラと飛んできた。その様子が、とても微笑ましい。



「それはおかしいと思うっ!」



「あははっ、悪い悪い」

「拭いてやるから勘弁な」



 タオルでエティルの頭を拭いてやるクロノ、その瞬間、心臓を握り潰される感覚が襲ってきた。背筋が冷たくなり、身動きが取れなくなる。





(…………なん、だ……これっ!?)





 何かに心を鷲掴みにされるような錯覚を覚えるクロノ、そんなクロノを睨みつける者が居た。




「…………その人、誰?」

「……知らない、人…………私、人間嫌い……」




「……凄く、不愉快……」




 ジト目で睨んでくるティアラは、周囲の雰囲気すら冷たい物に変えていた。




「ティアラ、よせ」




 アルディがティアラを睨む、ティアラは無言で顔を背けた。それと同時、クロノを襲っていた感じは消えた。



「この人間はクロノ、今の僕達の契約者だ」

「……君と、契約にしにきた人間でもある」




「嫌」

「契約、しない」



「私の……契約者は、ルーンだけ」

「絶対、嫌」



 その言葉は非常に冷たい、素直に契約に応じてくれる様子では無い。だが、こちらも引くわけには行かないのだ。



「そう言われると思ってたけどさ、簡単に諦めるわけにはいかない」


「俺は、諦めは悪いぜ?」






「…………嫌」




 これは、長期戦になりそうだ。


 セシルは早々に傍観を決め込み、饅頭の箱に手をかけていた。



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