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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十三章 『混沌の温泉国』
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第八百五話 『格下狩り』

 クロノとカーヤ、二人の乱打が周囲に熱と炎を撒き散らし空気を揺らす。いつの間にか周りが炎の輪で囲まれており、逃げ場が無くなっていた。



「こんな事しなくても逃げないから安心しろよ、ぶっ倒してちゃんと鎮火させてやるからさ」



「おいおいおいおい、何を生意気言ってやがるこの場の進行をお前が勝手にするんじゃあねぇぞ」

「しかも言うに事欠いて鎮火だぁ? 何を鎮めるってほざきやがってんだ炎か? 俺の炎を消すと言うのか? 感情の、衝動の、激情の、俺を俺とするこの罪の炎上を消すと言うのか? 良いね、生意気だ、腹が立つ、苛立つ、嫌いになってきた、それが喜ばしい、嫌いな奴を燃やして良い解放感、達成感、この上なく嬉しい、至上だ、快感だ、それが何より俺を楽しませるっ!!」



 頭部以外が燃え盛る炎で形成された推定全裸男が興奮すればするほど、その火力が上がってきている。炎が膨張し、辺りに飛び散り、激しさを増し燃え盛る。



「これは、国の中に戻らせるわけにはいかないな」


(火事が動いてるようなものだからね、人の避難は大罪達が進めてくれているとはいえ……大火災に繋がりかねないよ)


(フェル兄より……暑苦しい……)


(こんなのと比較されちゃ堪らねぇよ、制御する気もねぇ何を巻き込んでも知った事じゃねぇって感じの暴走上等な炎じゃねぇか)


(このままじゃ炎が広がって酷い事になるよぉ! ぶん殴って暴力的に解決しよう!)



 エティルの提案が非常にシンプルで暴力的だが、平和的な解決なんて望めそうにないのも確かだ。何より、先に仕掛けてきたのは向こう、それも理不尽極まりない手段でだ。



「お前等は神聖討魔隊サンクチュアリナイト、間違いないよな?」



「お喋りしたいなら付き合ってやらんでもないが、炎は待ってくれないぞ? 燃え尽きたいなら勝手だが」



「ご親切にどうも、この程度の炎じゃ俺は燃えないから安心しな、心にもっと熱い奴が住んでるから」



「一々生意気なガキだ、そうとも俺様達は神聖討魔隊サンクチュアリナイト切り込み隊・三業さんごうっ! 正義の場を整えし罪作りの三戦士だ!」



「……正義の為って言うけど、これがお前等のやり方なら俺は許さないぞ」

「討魔紅蓮ですら、舞台の準備に時間をかけて追い詰めてきた……お前等のやり方は短絡的で言い分も無茶苦茶だ」

「討魔紅蓮ですら、魔物が関わっててもいきなり襲ってきたりしなかった、段取りちゃんとして狩りにきてたぞ、あっちも大概だったけどお前等はそれ以上だ、こんなやり方じゃ誰も納得しない」



「何故納得させなきゃいけない? 何故罪人の許可など欲する? 俺様達が正義、それ以外が間違っている、だから燃やす、それだけだ」



「……それがお前等の正義と罪の区別かよ、自分達とそれ以外」



「そうだが?」



「定義の基準すらふざけてる、正義も罪も立ち位置で変動する」

「俺から見ればお前達は正義じゃない、ただの暴徒だ」



「なら俺様からすれば、お前は正義の邪魔をする罪人だな、お前の言う通り立ち位置で変わるわけだ」

「やったなお互い納得する結果が出たじゃないか、互いが互いを正義と信じているわけだ……思想が交わり衝突した……後は強いものが正しいシンプルな世界だ」



「暴力で訴えるのは好きじゃないけど、お前を殴るのに躊躇いは要らないっぽいな」

「俺はそんなに優しくないぞ、火達磨野郎」



「それは嬉しいな、こっちもお前を燃やす事に躊躇しないぜ」



 互いに飛び出し、拳を交える。一手交差する度に熱が発生し、炎が舞う。相手の身体は炎その物だが、攻撃の度に形を変え拳や蹴りが飛んでくる。



「メランより更に暑苦しい……! 炎を殴ってるみたいだ……!」



「メラン、メラン……? 討魔紅蓮のヒーロー野郎か」



「知り合いか!?」



「討魔紅蓮の八柱、俺様達は討魔紅蓮の暴れっぷりを隠れ蓑に活動してたんだ知ってるに決まってる」

「俺様と同じ炎使い、熱く滾るヒーロー精神、正義として一目置いていたのさ」

「だぁけどっ! 今は失望したねっ!! あれはぬるくなった、冷めた、鎮火したぁっ!!」



 その場を思い切り踏みつけ、足元を爆破させるカーヤ。衝撃で吹っ飛ばされ、クロノは空中で回転し何とか着地した。



「メランなら今も変わらず暑苦しいヒーローやってんぞ」



「いいや変わったね、なんとかって退治屋に移ったらしいが、しけった生ゴミだあれは」

「やり方を変え、人も魔物も守り助ける烈火のヒーロー? 今更っ! 殺しより救いに鞍替えかぁ!?」

「馬鹿じゃねぇの!? 自分が何をしてきたと思ってる、どう生きてきたと思ってる、どんだけ殺してきたと思ってる! 人も! 魔物も! どれだけ焼き殺してきたと思ってるっ!! 今更やり方変えて、誰が何が何処が受け入れるっ!!?」

「変わろうとするその考え自体がおこがましいっ!! 奴は捻じ曲がった、その時点でヒーローじゃねぇ、格好悪い! 熱くねぇっ!!」

「燃えたもんは戻らねぇ、戻せねぇ……燃やしたもんは燃え続けるか、燃え尽きるかのどっちかだっ!」

「罪は消えねぇ、あいつは踏み越えずに押し潰された、だから迷った、だから止まった、だから燃え尽き腑抜けになったっ!! 同じ炎使い、暴力的で強力な炎、それを使って世界を蹂躙する圧倒的な存在感! 一目置いてたのは本当だったのに、あろうことかそんな炎が腑抜けになったっ!!! 腹立たしい、腹立たしいっ!! 軟弱すぎて吐き気がするっ!!」

「あのゴミクソヒーロー、ヘラヘラとカスな奴等と組んで今も燃えカスヒーロー論で活動してるらしいが、今にみてろ、俺様が燃やしてやる、俺様が正義の名の元に、正真正銘燃えカスにしてやるっ!!」



 火力を上げ、カーヤは怒りの炎で周囲を焼き尽くす。そんなカーヤに対し、クロノは冷める一方だった。



「……逆恨みにしてもつまらねぇ奴、きっとメランはお前のことを知らないし、知ってても眼中にねぇだろうな」



「あ? なんだテメェ火に油でも注いでくれるのか?」



「お前の言う通りだよ、罪は消えない、メランのしたことはなくならない」

「たった一つを守る為、あいつが奪った命は絶対に帰ってこない、あいつの歩いてきた道に積もった灰は、きっとあいつを許さない」

「それでも、だからこそあいつは自分の炎を絶やさない、燃え尽きた? 馬鹿言うな、あいつは燃えてるよ」

「辛くても、苦しくても、間違えても、あいつはたった一つの為に踏ん張った、それ以外も拾い集める為にもう一回燃え上がった、罪の意思も情けなさも全部背負って今もヒーローで在り続ける為に燃えてんだ」

「正義も罪も正しく自分の中で燃やして、原動力にして、あいつは真っ直ぐ燃えてんだ……間違った正義と罪を燃やしてるお前とは比較にもならねぇ」

「お前如きがメランを悪く言うな、世界があいつを許さなくても、俺はあいつを信じてる」

「薄っぺらなお前じゃ、メランの相手にもならねぇよ」



 地面が割れ、炎が噴き出した。激昂したカーヤに呼応するように、炎が激しさを増す。



「油投入ありがとうっ!! 誰が、誰様がぁっ! 相手にならねぇってっ!!?」

「自分の道をグニャグニャ曲げるような根性なしがっ!! 誰様より凄いってっ!? 討魔紅蓮を相手にした大罪人だからって調子に乗るなよクソガキッ! メランと戦ったからって、付け上がるなよゴミガキッ! 丁度いい、世界を敵に回した変態思考の大罪人、テメェを焼けば俺の炎にも箔が付くって事じゃねぇか!? ここで炎上させて俺様の踏み台にしてやるよ!!」

「ボスの、正義の到着なんて待ってられるかっ! 罪も正義も知った事か! 全ては俺様が気持ちいいか気持ち悪いかだ! 燃えろ燃えろ燃え尽きろ、全部燃えて無くなっちまえっ!!!」



 周囲の炎全てがカーヤの拳に吸い込まれ、圧縮された熱が光を発する。一点集中された炎が、次の瞬間クロノに向けて打ち出される。



「大熱線・炎上波ぁあああああああああああああああああああああっ!!」



「”紅蓮・回帰”」



 その熱を全て絡め取り、そっくりそのままお返しした。



「はぁっ!? ちょっと待てなんだそれ……どわあああああああああああああああああああああっ!!」



 直撃からの大爆発、カーヤの身体は一旦消し飛んだが、すぐに炎が集まり再生した。



「ふざけ……ふざけるなよ……!!」



「おぉ流石半端者のぬるい炎、燃え尽きる事も無く再生したな」



「だ、誰が……誰様の炎がぬるいだと……!」



「お前だよ空っぽ野郎、暴れたいだけの口だけ野郎」

「大体正義の為の場を作るとか大層な事言って、自分は暴れたいだけ、そしてそれを上の奴等に使われてるだけの下っ端野郎じゃんか」

「前座を良い感じに言ってるだけ、作戦が上手くいかずにここで折られてもそのツケはお前等に擦り付ければ上にダメージもいかない、使い捨てとしてのポイントは高めだな」



「なっ……なに……何を……テメェ……何を、俺様を……」

「俺様にっ!! 舐めた口を、許さねぇ……絶対に逃がさねぇ、テメェはここで燃えカスに……」



「最初に言っただろ、逃げねぇよ」



 クロノの熱が、一段階上がる。



「セツナがさ、珍しく怒ってたんだ……そりゃそうだこの国は楽しくていいところだ、良い人達ばっかりだ」

「この国の人達とアプさんを見たか? 仲良くてさ、凄く嬉しくなったんだ」

「お前等はそれを罪と呼んだ、お前等はこの国の日常を否定して、言葉も心も交わさずに一方的に罪として、傷つけた」

「…………セツナが怒りを表面に出すくらいだぜ? 俺だって当然怒ってんだよ」



 カーヤの炎とは違う、辺りに漏れ出すような熱じゃない。その熱は内側に灯り、静かに、確かに、激しく燃え盛る。



(なんだ……俺様の身体は炎と化しているはずだ……熱く燃えている筈だ)

(なんでこんなガキ相手に……ガキ相手に立ってるだけなのに……)



 最初から灯っていた怒りが、内で燃やしていた炎が、クロノの中から顔を覗かせる。両目に熱を宿し、今それが発動する。



精霊技能エレメントフォース紅蓮巴ぐれんともえ……強化の方向性によって炎の色が変わるんだけどさ……火力特化、つまり熱さに特化するとこんな風に青い炎になるんだ」

「今からやるのはこの火力特化の蒼炎状態に速度と硬さを足した読み抜きの上から殴り潰す脳筋モード、今まで格上ばっかりだったから出せなかったモードだ、使えば余裕で俺がぶっ飛ばされて終わりだったと思う」



「急に何を……」



「格下狩り用って事だよ、空っぽ野郎」



 次の瞬間、カーヤの視界がぶれた。とんでもない威力が横から飛んできて、蹴り飛ばされた。それは周囲の炎の輪を突き抜け、地面を数回跳ねてやっと止まる程の威力だった。



「……ッ! ああああっ!?」



「火力特化の炎に風と大地を重ねた三重トリプル……ヴフト・フランメ……通ってきた道に悉く立ち塞がってきた強敵達相手には出したくても出せなかった文字通りの攻撃特化、受ける事なんて微塵も考えてない脳筋仕様だ」



(僕の力使ってるんだから、最低限の防御力はあるんだけどね)



(相手が相手でまともに喰らえばクロノがグロノになっちゃう感じだったしねぇ……)



(暇、仲間外れー……)



(応援でもしてろ、珍しく我等が契約者の苦戦なしの戦闘だぜ)



「ふざけんなふざけんなふざけんなっ!!! 誰様に向かって格下だと!? 俺様を誰だと思って……」



「ギリギリでも俺はメランに一回勝ってんだぞ」



 眼前に迫るクロノの拳に対し、カーヤは反応すら出来ていない。まだ無駄口の途中だった。そこに遠慮せず、クロノの拳は叩き込まれる。



「強さは勿論、心もメランの足元に及んでないお前なんて……格下で十分だろ」



「ぼっふぉぁっ!!?」



 振り抜いた拳の威力をしっかり顔面で受け止め、カーヤの身体がボールのように吹き飛んだ。丁度アクアレイドで使ったボールくらい軽い。



(なんだこれ、なんだよ、なんなんだよ……!! 俺は炎だ、万象を炎上させる炎だぞ……!)

(対峙してるだけで……俺が焼けるなんて、どれだけの熱……!)



 クロノの蒼炎は、カーヤの身体を焼いていた。炎と化した身体を、対峙しているだけで焼いていた。その事実が、目の前の現実が、カーヤの心に耐えがたい屈辱を与える。感情が狂ったように荒れ狂い、力量差なんて度外視した激情が溢れ出す。



「殺す……殺す殺す殺す……俺様を侮辱した、俺様の心を踏み躙った……俺様を不快にした……!!」

「誰に断って……俺様を怒らせたんだ? 燃やしてやる、燃やしてやるぞクソガキがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

「俺は正義の名の元振るわれる殲滅の炎だっ! 俺の炎には正義の影響力があるんだっ! 逆らえばどうなるか……」



「他力本願なお前の言葉に、一体何の力を感じろってんだ」

「口閉じろ、お前等の裏に居る正義がどんなもんか知らないけど……お前が喋れば喋る程黒幕の株が下がる」



「どこまで馬鹿に……!! テメェこそ無駄口叩けねぇよう焼き殺して……」



 言葉を遮るように、拳がカーヤの顔にめり込んだ。



「ッ!? …………速いんだよ、クソガキが…………!」



「今からお前が倒れるまで殴り続ける、早めに降参した方が痛くないぞ」



「上から目線でほざくなガキッ! 俺様は……」



 容赦なんてしない、今のクロノは怒っているのだ。渾身の乱打に晒され、雑魚敵カーヤは一分持たずに沈黙する事になった。被害拡散要員の直接的な戦闘力なんて、たかが知れている。



「けど、まぁこれは予想外だな」



 厄介な点は、相手側もそれを承知だったところだろう。意識を失ったカーヤの身体は完全な火の玉と化し、暴走炎上を始めたのだ。カーヤの力なのか、その裏に居る者の仕込みなのかはわからないが、迷惑極まりない。



「水で切ってもいいんだけど……せっかくだしな……せいやっ!!」



 水で能力自体無効化する方が簡単だが、クロノは文字通り火力で押し切った。燃え盛る炎をこっちの火力で消し飛ばし、力技で捻じ伏せた。カーヤの炎は跡形もなく吹っ飛び、気絶した全裸男だけがそこに残った。



「力技とは珍しいじゃねぇの」



「せっかくだからな」



「素直に楽勝ムーブで調子乗ってるって言えばいいのにぃ」



「調子乗ってる事を素直に言う奴存在する? それに調子なんて乗ってないよ、そんな余裕はない」



「しっかり怒ってたしね、冷静に動けてた時点で僕から言う事は何もないけどさ」



「ところ、どころ、まだ燃えてる……消化消化」



 ティアラが水を撒き、周囲の炎を消化している。クロノもそれを手伝い、気絶したカーヤを捕縛して国に急ぎ戻る事にする。騒ぎはまだ終わっていない、休んでいる暇はないのだ。



「しかしいつにも増して瞬殺したな、相当お怒りなようで?」



「そりゃ怒ってるのもあるけど、元々俺は今日やらなきゃいけない事があったんだよ」

「国を襲った奴等を許せないのも勿論あるけど、とっとと片付けてその予定も済ませたいんだ」



「うーん? なんかあったっけ?」



「あぁ、俺が俺で在る為にやらなきゃいけない事だ」



 人知れず覚悟を決め、クロノは国へ戻る。その表情は真剣そのものだったが、精霊達は皆首を傾げるのだった。



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― 新着の感想 ―
今回の三重で組み合わせは全て登場しましたね これ以上上のステップとなると四重もしくは第3段階のどちらかですね。 質問ですがベルちゃん印のヤバいお酒って ベルちゃん自身も飲めばベロンベロンになるのでし…
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