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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十章 『約束の桜』
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第八十話 『クロノの才能』

「ぐぬぬぬ……ぬぐおおおおっ……」



 咲き誇る見事な桜舞い散る中、アルルカの村で暑苦しい声が上がっていた。宿屋の前でクロノが石を握り締めている。



「違う違う、もっとこう地に根を張るイメージをだね?」




「な・ん・で……しばらく休憩を取ろうって話が……修行に……繋がってんだ……よ……!?」



 ジェイクやガルアに比べると雑魚同然だったが、それでも8対1は多少堪えた。その為ウンディーネの泉に行く前に数日間の休息を取る事になったのだ。その筈なのだが、クロノは現在、大地の力の修行中だ。



「黙って寝ているのは飽きた、そう言ったのはクロノだろう」

「ちゃんとした修行をしてこなかったしね、ティアラ相手に舐めてかかると酷い目にあうぞ?」



「とりあえず、金剛無しでも石くらい握り潰してくれないとお話にならないよ」




「急に無茶振りすぎだろ……ふんぐぬぬぬぬぬ……」




 精霊技能エレメントフォースを使っていない状態のクロノは、自然の力の扱いがからっきしだった。金剛を使えばなんて事ない筈なのだが、こんな小さな石すら砕けない。顔を真っ赤にして力むクロノだったが、その左手がピキッと嫌な音を立てた。




「ぎゃああああっ!?」




「はぁ……全然ダメだ、2時間進歩無しってやる気あるのかい?」




「あるよ! ありまくりだよ! だから2時間石握り締めて頑張ってんだよっ!」




 精霊の力無しでも最低限の力は身に付けていたほうが良い、それに普段から扱える力の向上は、精霊技能エレメントフォースの向上にも繋がるのだ。だからこそ、クロノは真面目に取り組んでいるつもりだった。




「クロノ、見ろ」




 アルディが石を拾い上げ、親指と人差し指だけでそれを力任せに砕いた。



「僕達精霊の力は、契約者の力量で制限がかかるんだ」

「嘗てルーンと共に数多の死線を潜り抜けた僕達の力は、並の精霊を軽く凌駕する力を持っている」




「自慢じゃないが、僕は全力を出せば山を割る事くらいできるだろう」




 さらっととんでもない事を言ってくれる。



「けど今は無理だ、クロノと契約してるからね」




「何だそれ、どういうことだ?」




「少しきつく言えば、クロノが弱すぎるからだ」

「クロノの強さに合わせた力しか使えない、制限みたいなのがかかるからね」



「今の僕やエティルは、今のクロノが出来る限界の力しか使えないってこと」



 自分が枷になっていると言う事か……クロノは肩を落とした。



「逆に言えば、その制限がかかってる僕でも、この程度は楽勝って事」

「つまりね、クロノの力の扱いが下手ってことだ」




「俺をいじめたいのかな?」




「いやね、不思議だなって思ってさ」

「エティルの話を聞いたけど、クロノは風のコントロールを信じられない速度で会得したんだろ?」



「失礼だけど、そんなセンスがあるようには到底見えなくてね……」



 その視線がとても痛い。



「風と違って、小難しい事は必要ないんだけどなぁ」

「自然のまま、大地の力を取り込むイメージを持てれば、こんなの簡単に出来るんだけど……」




「うっ……」




 アルディがクロノの左手を見る、2時間握り締めていた石にはヒビすら入っていない。



「……はぁ……」



「何か言えっ! せめて何か言えっ! 凄い傷つくだろっ!」



「ふぅあ~……エティルちゃんが朝をお知らせしまーす……むにゃむにゃ……」



 寝ぼけ眼のエティルが、泣き叫ぶクロノの頭の上に現れた。言い忘れたが、現在早朝である。朝早くからアルディに叩き起こされ、クロノは修行していたのだ。



 ちなみに、セシルは布団の中で丸くなっている。コリエンテ大陸の朝は冷えるのだ。



「エティル、クロノに才能があるって何かの間違いじゃないか?」



「アルディ冷たいなぁ……」



「冷えた土って冷たいだろ? そんなもんさ」



「ん~? クロノにさいのー?」



 目を擦りながら、エティルが首を傾げた。



「ん~……? 無いと思うなぁ……」



「うっわぁ……傷付くわぁ……」



「だって、あったらこんなに頑張ってないと思うからねぇ」

「諦めの悪さは認めてるよ」



「アルディ君、ルーンと比べちゃダメだよぉ」



「あんなのと比べるか、あれと比べたら人類の99%が才能無い事になる」

「そもそも、僕はあれを人間だってたまに忘れたりする」



 ……ルーンってどれだけぶっ飛んでたのだろうか。



「クロノには自然の力を使う才能は無いだろうねぇ」

「けど、違う才能があると思う」



「なんか光る物を感じてるよぉ」




「……光る物? なんだよそれ」




「ふえ? ……分かんない」




 認めてくれてはいるのだろうが、エティルの言葉はどうも的を得ない。アルディは溜息をついていた。



「……まぁ、風のコントロールの話は本当らしいし、エティルとのリンクの経験があったからこそ、僕とのリンクも実用レベルになってるのは認めるけどさ……」



「それでも今のクロノは弱すぎる、こんなんじゃいつまた死にそうになるか分かった物じゃない」

「安心して見てられないよ、ほらほら続きするよ!」




「うぅ……厳しい……」




 自分の為を思って言ってくれているのだ、無視できる筈もない。結局、昼頃まで修行は続いたが、一切の進歩は無かった。



「想像を絶する才能の無さだね……」



「クロノ手真っ赤ー」



「……スゲェ悔しい」



 あれから5時間ぐらい石を握り締めて終わってしまった、凄まじい徒労である。クロノは地面に手を付いて落ち込んでいた。



「まぁ、何だ……励ましようの無い成果だね」



「せめて、罵ってくれ、そっちのほうがまだマシだ……」



「一度は第二段階のリンクにまで至った男とは、到底思えないよ」



「うぅ……」



 返す言葉も無い、昔から魔法系の修行はこんな結果ばかりだったのを思い出す。そんなクロノの元へ、人影が近づいてきた。



「クロノ! 修行か、精が出るな!」



「あぁ……ゲートさんか……こんにちわ……」



「……精も根も尽きて無いか?」



 いい笑顔で話しかけてきたゲートに、マイナスオーラを纏って返すクロノ、流石に引かれた。



「ゲートさん、引越し終わったのか?」



「ん? あー……まぁ、終わった……かな」



 引越しとは、セラスの新たな宿木の場所についてだ。話し合った結果、村の、それもゲートの家の傍に植え替える事になったのだ。宿木を変えたセラスの体力は回復しつつあり、宿木となった2代目の桜も通常では考えられない速度で成長していた。



 元の桜の大樹もセラスが離れ、一時はまた枯れつつあったが、セラスが定期的に力を分け与え、元気を取り戻していた。元々の寿命が尽きていなかったのと、セラスの宿木が挿し木よるクローンである事で可能となった奇跡だ。



 村の人達もセラスの存在を受け入れていた。存在そのものを知っていた事実も大きいが、村のシンボルを蘇らせたのだ、その功績は大きい。



 2代目の桜もセラスが居れば何の問題も無く成長するだろう、桜を愛する村の者が彼女を受け入れるのは当然とも言えた。




「ごめんな、ゲートさんは村の人に秘密にしてたのに、勝手に話しちゃって」




「何言ってる、クロノが話してくれたからこの結果に繋がったんだ」



「……俺は、俺には言い出せなかった」

「クロノが居なきゃ、セラスを助けられなかった」




「感謝してる、本当にありがとう」




 頭を下げてくるゲートだが、クロノは慌ててそれを制した。



「止めてくれよ、俺は……自分の我侭を通しただけだ」

「放っておけないから、突っ走っただけだ」




「けど、俺はそれを凄い事だと思う」

「それが出来るクロノを、凄いと思うよ」



 そう言って笑ってくれるゲート、クロノも自然と笑顔を浮かべていた。



「クロノは、共存の世界が夢なんだよな?」



「うん、笑われようとも、俺はその夢を叶える為に旅をしてる」



「この村は、小規模だけどさ」

魔物セラスと人間が、手を取り合ってるって、俺は思う」


「俺はこの村のあり方、絶対に間違ってないって思うよ」

「クロノの夢は、きっと間違いじゃない」



「きっと、実現できる、俺はそう信じたい」



 そう言って、手を差し出してくるゲート。



「応援してるよ、君の旅の成功を祈ってる」

「この村は俺が守る、もう退治屋の好きにはさせない」



「何があっても、必ず」



 迷いの無い笑顔、クロノは頷き、握手に応じた。



「セラスさんと、仲良くな♪」



「ば……年上をからかうなよ……」



 一気に顔が赤くなるゲート、紫苑並に分かりやすい。笑い合う二人だったが、遠くから声が聞こえてきた。





「ゲートー! 村長さんが呼んでるですよー!」





 人間の姿をしたセラスが、こちらに向かって手を振っていた。その表情は、とても明るい。



「俺はそろそろ行くよ、修行頑張れよ」



「あぁ、またな」



 駆け足でセラスの元へ向かうゲート、あの二人ならもう大丈夫だろう。



「うん……良かった……」



「無事に解決だね、……クロノ?」



 クロノの表情が、険しい物に変わっているのにアルディが気が付いた。



「……前もそうだし、今回も退治屋だ」

「クリプスさんも、セラスさんも、話せば悪い魔物じゃないって……すぐ分かるのに」



「やっぱ、おかしいよ、絶対」



 自然と握った拳に力が篭る、クロノは左手に持っていた石を握り潰していた。



「!?」

「クロノ、石……」




「わぁ、凄いねぇ」




「ん? …………うわっ?」




 意図せずにやった事だが、今のクロノの力は間違いなく大地のそれを纏っていた。



(無意識下で……自然体の型を取ったのか……?)

(それに……握られた石が粉状になるまで潰されてる……)





「え? ……俺、今どうやった……? 全然気が付かなかった……」





 何か、何かとんでもない物を秘めている。アルディは目の前の契約者を見て、そう確信した。その数分後、ちょっとしたコツを教えただけで、クロノは大地のコントロールの基礎をマスターした。




 その成長速度は、間違いなくルーンを超えていた。




(才能が無いなんて、とんでもない……)

(天才……なんて言葉じゃ説明が出来ないほど、クロノの飲み込みの速さは異常だ……)




(クロノ、君は……一体……)




 修行が成功し、はしゃぐクロノを見つめ、アルディは静かに考えを巡らせていた……。





















 ウンディーネの泉の近くに存在する洞窟、その奥に広がる地底湖で、目を開く存在が居た。


 微かに、本当に小さな力の波紋が、洞窟の天井から水滴を落とした。


 間違えるはずがない、ずっと共に戦ってきた精霊の力だ、鮮明に覚えている。


 500年前の友の力を使役した人間を、感じ取った。





「……………………アル?」





 水中の中、薄く目を開いた少女。 



 見た目は人魚のようだが、その全身は水のように透き通り、天女の羽衣のような物を纏っている。青白く染まった長髪を靡かせ、500年ぶりに水面に顔を出した少女は、久方ぶりに力を集中させた。




「…………アル、エティ……セシル……それと、誰?」




「知らない、人……」




 少女の名はティアラ、嘗てルーンと共に戦っていた、幼きウンディーネ。


 500年前からこの場所に引き篭もっていた彼女と、クロノが出会うのは、今から4日後の事だ。




 心を試すゲームが、始まろうとしていた。



次回、新章です。

ついに始まる、3体目の精霊編……お楽しみに!

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