第七百八十七話 『共通の敵』
「前にも言ったがよ、俺とアルは性格上真逆だ』
『だから事ある毎に対立しては言い合いになってなぁ、ティアラは殆ど喋らねぇしエティルはコミュ障だしで止める奴もいないままそりゃもう険悪に言い合ったわけだぜ」
「ルーンは止めなかったのか? それにセシルとか……他にもルーンには仲間がいっぱいだったんだろ?」
「ルーンならニコニコしてるか、僕達以上になんらかのベクトルで暴走してたからね」
「セシルは加入順番的に一番最後だったからその頃には僕達も落ち着いていたし、最初からいたカムイやリーデが僕等の喧嘩を止めるタイプだと思うかい?」
「あー…………いや…………」
「思い出すときりがないくらい、僕等は喧嘩したもんだよ」
「些細なことだったら分かれ道はどっちにいくかとかそんなくだらない事まで、一番仲が悪かった時期は毎日なにかしら言い合ってたよ」
「酷い時は殴り合ったっけな、こいつ硬いし強いしでそれも気に入らなかったんだぜ」
「その度ティアラは怯えるしエティルはあわあわするし、いやぁ険悪ここに極まれりだったね」
今まさに笑い合ってる二人からは想像もできない地獄のような空気が存在したらしい、当の本人達は懐かしそうに笑っているが、それを見るティアラとエティルの目は本気で呆れていた。
「……ほんと、最悪な……空気だった」
「エティルちゃんは契約を後悔するレベルだったよぉ、地獄かと思ったもん」
「しゃーねぇだろこいつうぜぇし折れねぇんだからさ」
「君がいつもいつも何も考えずに行動するからだろう」
「僕等の一番の衝突の原因は、間違いなく君が悪かったと思うけど?」
「…………そりゃ悪かったって思ってるよ、あの時は言い過ぎた」
「許してなかったら、今こうしていないけどね」
「一番の衝突って何があったんだ?」
「フェルドが僕を煽ったのさ、一番触れられたくない場所をね」
そう言って笑うアルディに対し、フェルドはバツが悪そうに顔を背けた。これは大昔、いつものように口論に口論を重ね二人がヒートアップしまくった結果起こった事故だ。
『フェルド!! また勝手な事をして……君一人がルーンとリンクを高めてどうするんだ!? 僕だけじゃない、エティル達ともズレが生じているじゃないか!』
『ついてこれない奴に合わせる理由がねぇよな! 役立たずって言葉を知ってるか?』
『や、やめようよぉ……喧嘩は良くないと思……』
『喧嘩じゃねぇよ、喧嘩ってのは同レベルじゃねぇと起きねぇんだ』
『そうだね、脳みそまで燃えカスのこいつとは喧嘩なんて起こりえない』
『ふぇぇ……下手に近寄ると飛び火するよぉ』
『ティアラちゃん……あたし一人じゃどうにも出来ないよぉ……助け…………いつもの如く居なくなってる!? うえーんみんなーー!!』
しかし他の仲間達はいつもの事だと慣れた様子で各自好き勝手に騒いでいる、そして契約者は穴を掘ったり池に飛び込んだりいつものように訳の分からない事をしていた。
『本当に何してんの!? ねぇルーン止めてよぉ!!』
『今日は魚の気分だからね! 手掴みしてくる!』
『精霊の話を聞けええええええええええええっ!』
エティルの悲痛な叫びは誰にも届かず、アルディとフェルドの口論は加速していく。そして、遂にフェルドがラインを超えたのだ。
『…………ッ!! 毎回毎回グチグチグチグチグチグチと…………口ばかり達者な土くれが……!』
『そうやって口ばかり動かして、その結果が信頼を失い、誤解を生み、何も守れず……お前等の国は滅んだんじゃねぇのかぁ!? あぁ!?』
『…………ッ』
『守護を冠するノーム様が情けねぇ話だよなぁ、失態しかねぇテメェの言葉に何の力があるんだ? 説得力の欠片もねぇ!! 偉そうな説教垂れる前に結果出せ結果っ!』
『ちょ……フェ、フェルド君言い過ぎ……!』
『そうだね、僕は今でも引きずっている、後悔してるし思い出すと胸が痛い』
『人間二人に……蛇人種一体だっけ? 君が興味本位で契約した数』
『あ? それがなんだよ』
『軽い気持ちで契約を結び、破棄するような薄っぺらいお前には分からないさ』
『いつだって自分基準でしか物事を考えない劣等精霊の言葉にこそ、何の力があるって言うんだ?』
『…………テメェ、マジで消し炭にされたいんだな』
『先に喧嘩を売ったのはそっちだろう』
凄まじい殺気がぶつかり合い、熱と振動が辺りに伝播する。エティルは涙目で慌てふためき、後方ではルーンが巨大魚と死闘を繰り広げていた。
『偉そうにほざきやがって、俺が劣等精霊ならお前は出来損ないだろう』
『結局言葉でこねくり回すしかねぇんだ、情けねぇなぁ』
『そうだよ、僕は出来損ないだ、何一つ守れやしない』
『だからなりたいんだ、今度こそ守れるように、何一つ零さない……守護の名に恥じない精霊に』
『だから何も考えず、自分の好きに動くお前が嫌いだ』
『だったらお前の教示ってのを腕っぷしで示してもらおうかぁ? 信念一つ守れねぇ無様を晒す事になるだろうけどさぁ』
『今日という今日は、容赦しないぞ』
『粋がるな、格下が……!』
「待って待って待って、殺し合いが始まりそうなんだけど!!?」
回想シーンを放り投げ、クロノがストップをかける。このままじゃ洒落にならないバトルが始まってしまいそうだ。想像の100倍は険悪だった。
「いやぁ若かったねぇ、売り言葉に買い言葉」
「こいつ意外と喧嘩っ早いんだよ、今は鳴りを潜めてるけどその分昔より腹黒くなったか?」
「今の険悪具合からどうやったらこうなんだよ!」
「そりゃあもう語り切れないくらいアルディ君とフェルド君は喧嘩したもんだよ……ほんと……」
「けど今クロノがストップした場面、実は殴り合いには発展しなかったんだよね」
「嘘だろ? 殺し合い2秒前みたいな空気だったぞ? 誰が止めたの?」
「止めたというか……止まったというか……止めにいったというか……」
「……ルーンが、池の主と……ボス戦を始めた……」
「はい?」
「池の数倍ある馬鹿みてぇにでかい魚とバトルを始めやがったんだ、俺達はそれに巻き込まれて喧嘩なんて有耶無耶にされたよ」
「今でも納得いかない、どう考えても池のサイズと合ってない化け物だったよ」
「結局全員で対処する事態になるし、喧嘩どころじゃなかった」
「毎回そうだ、あの馬鹿契約者が僕達以上に意味の分からない事ばかりする……」
「何度も何度も何度も喧嘩はしたが、その度80%くらいでルーンのアホに邪魔される」
「その内正反対だった俺達が唯一同じ方向を向ける事に気づいたんだ、ルーンのアホを止めるって一点でな」
「落ち着いて言い争うためにまずはあの馬鹿を大人しくさせようってね」
「でもそれが難儀だ、なんせあのアホは俺達が束になっても敵わない化け物レベルのアホ」
「それこそ協力でもしねぇと歯が立たねぇ」
「そうして心身共にズタボロになりながらルーンを止めて…………結果喧嘩なんてする体力は毎回使い切り…………」
「その内互いを労うようになってだな……」
「尖りまくってた僕達はルーンの暴走で棘を削られまくり……なんやかんやで今に至るわけだよ」
「えぇ……」
『土くれ! 早くあいつを止めろ!!』
『馬鹿言うな! 僕一人で止められるわけがないだろう!』
『クソが……このままじゃまた災害レベルの被害が……俺も手伝うから何とか……』
『フェ、フェルド! 下がれ、地面が割れる!!』
『おわああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!』
毎回毎回、予想のつかないタイミングで契約者が暴走する。四精霊が揃った事でルーンの無法レベルは毎日跳ね上がり、自然体の練度が異常な速度で成長する化け物契約者のブレーキは日に日に壊れていった。
『……昨日までアノールドに居た気がするんだがぁ……?』
『どうして僕達はコリエンテにいるんだろうね……やっと寝てくれたよ……』
『今日も君は…………いいや、もう……君以上に滅茶苦茶なのがいるし……』
『それに関しちゃ同感だ……テメェより先に殴るべき存在が居る気がするぜ……』
『同感……今日もお疲れ……』
『おう……お疲れ……』
『うおおおおおおおおおお! よく寝たああああああああ!! 火の自然体で回復力が上がって助かるなあああああああああああああああああっ!!』
『存在自体が害悪なクソサラマンダーがっ!』
『俺のせいじゃねぇだろうこれはっ!! 理不尽にキレてんじゃねぇよ!』
『ふにゃああああああああああ待ってルーン! もうお月様が出てる時間だよおおおおおおお!』
『いかん! エティルじゃ止められねぇ! アル、今すぐあの馬鹿の意識を奪え、気絶させろ! 殺しても構わねぇ!!』
『僕を飛ばせ! 取り返しが付かなくなる前にぶん殴ってくる!!』
その内喧嘩する暇も無くなり、協力してルーンを抑えている内に自然と距離も近まり、いつの間にか仲良くなっていた。
「共通の敵がいれば、大体の場合で手は組めるわけだ」
「一人ってのは無力なんだよ」
「敵って……お前等の契約者だろう」
「災害だ、災害」
「なんだかよく分からないが、つまりお前達を繋いでくれた人がいたんだな!」
「それが今はクロノ、なんだな?」
「ルーンと比べりゃ天使みたいに大人しいが……」
「違う方向性で手がかかるね、目が離せないし毎回心配させるし」
「けどまぁそうだね、ルーンと比べると涙が出るくらい大人しいよ」
「同感だ」
「褒められてるんだよね? 全然嬉しさを感じないんだけど」
「恵まれてるってこった……お前も、今の俺達も」
「そうだね、道の果てに何が待っているのかわからないけど……道中穏やかでなによりだ」
「過程を楽しめる道中でいたいよね、この先もさ」
「頼むぜ契約者、こっから先もさぁ」
「あはは、お手数かけないように頑張るよ」
「期待はしてるが、どうせお前はトラブルに首突っ込むさ」
「そだねー、ルーンはジェット噴射でイベントに突っ込むけど、クロノだって命中率100%でトラブルに突っ込むもんねー」
「……同じくらい、アホだし……ね」
「俺そんなに酷い? ねぇ?」
「あのアホクソ化け物契約者を抑えてきた僕達が付いてるんだ、経験値が違う」
「だから、安心して馬鹿をやればいいよ、ちゃんと支えるし、叱ってあげるからさ」
「超えてきた場数が違ぇのさ、馬鹿やって、しくじって、俺達は今ここに居る」
「安心してミスりゃいい、俺達が居るんだ」
「成長したよね、君が誰かに歩幅を合わせるなんてさ」
「俺も歳を食ったってわけだな、はっはっは」
そう言って笑い合うフェルドとアルディだったが、今の関係性になるまで大変だったのだろう。方法はともかく、二人を纏め上げたルーンはやっぱり凄いのではないだろうか。
(……意図してやったかどうかは……怪しいけど……)
ルーンの影響で変わった精霊達が、今の自分の導き手になっている。そう思うと、縁とは実に奇妙なモノだ。
「俺も、いつかの未来に何かを残せるかな」
「どうしたクロノ、悟ったような顔をしているぞ」
「縁を重ねるってのは、面白いなぁって思っただけだよ」
「ふふふ、深いような事をいってもこの切り札にはピンとこないぞ」
「浅い切り札っすね」
「ぐぬぬぬぬ!」
いつまでも、こうして穏やかに歩んでいきたいと願うばかりだ。




