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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十一章 『ジパング三幕! 四飾る果てに、呪いは芽吹く』
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第七百八十四話 『呪いが運ぶエンドロール』

 クロノにより破壊の限りを尽くされ、世無家の地下研究施設は今尚火の海と化していた。多くの者が消火活動に当たる中、世無家当主は気を失った終牙を蹴り飛ばしていた。



「ふざけるなよ出来損ないがァ!! 長年のデータを無駄にしやがって……!! お前のせいで小僧には舐められるわデータはパーだわ大事な設備がぶっ壊されるわ散々だ!!!」



「危ないですよ長! 火の巡りが早い!」



「黙れゴミ共! 小僧一人になんだこの様は! 強者こそ絶対! 勝者こそが正義のこの世で我が世無家が負けただと!? お前等は今まさに恥を晒したのだ恥ずかしいとは思わないのか!!」



「俺達にとって一番大事なのは、殺ったか殺ってないか…………殺したか、殺せなかったか」

「そう教えたのは、あんただったろう……親父殿」



「なんだ、まだ意識が残ってたのか」

「親父だと? 負け犬のゴミ屑が何の縁を持ってそう呼ぶのだ、汚らわしい……」



 目を開けた実の息子に対し、現当主が向けるのは軽蔑の目だった。それを見て、終牙は深く息を吐いた。



「負けたんだ、殺せなかったんだ」

「俺達は絶対でもなければ、正義でもなかった」



「お前のようなゴミに託したのが間違いだったよ、負けを受け入れるとは」



「殺しは一回勝負だ、しくじればそこで終わりと教えたのは親父殿だ」

「終わってから騒ぎ立てるのは、それこそ恥だろう」

「強さを求め、それだけを掲げ生きてきた…………負けたのなら終わりだ」

「…………いつか来ると、こうなると……分かっていたさ」

「俺が貫き通せば、ずっと続くと思ってたんだがな…………続けたところで苦しいだけだった」

「…………あいつらの終わりは、出来る限りマシで在って欲しいと願うばかりだ」



「あいつら……? この期に及んで何を……」



「親父殿、俺は強さを求めた殺し屋だ、殺して殺して殺し続けてきた、だがそれは俺の為であり、俺の友の為だ、断じてあんたの為でも家の為でもない」

「俺は俺の意思で殺した、罪も恨みも、呪いも受け入れて逝く」

「俺はあんたの作った殺しの道具としては死なない、俺の心を抱いて友を想って死ぬ」

「あんたは心を作れなかった、俺の心も殺せなかった、あんたは何も残せない、何一つ先の未来に生かせない、生かすも殺すもあんたの好きには出来ない」

「世無家は終わりだ、敗北を噛み締め無様に散るといい」



 そう言って笑う終牙を怒りのまま踏みつけようとするが、どす黒い何かが噴き出し終牙の身体が飲み込まれた。辺りを見渡すと、燃え広がっていた炎を飲み込む黒いオーラが満ちている。



「なんだ!?」



「これはまさか……彼岸家が事を……」



「…………っ!!! えぇい!! 呪いを生む歯車共に情を抱く若造共が……! 殺しの歴史をエゴで台無しにするつもりかっ!!」

「上の役立たず共を呼べ! 呪いなど払い飛ばせっ!!」



「そんな無茶な! 本当にヨノハテの亡者を解き放ったのなら我々にどうにか出来る術は……!」



「黙れゴミが!! 強さこそ全てを掲げた世無家の面汚しが!! どいつもこいつも役に立たん!!」



 次々と黒いオーラに人が飲まれていく、危険を感じ取った当主は誰よりも早く研究所から飛び出し地上に脱出した。



(亡者共如きに……死んだ負け犬如きに憑り殺されて堪るか……! 我は最強の世無家当主……殺しの歴史の紡ぎ手ぞ……!!)



 家の表側では叫び声が響いている、間違いなく彼岸家は呪いを解き放ったのだ。呪いの矛先は四任橋、殺しに加担した全てだろう。



(’役立たず共が襲われている内に……裏手から……!)



 逃走を図る当主だったが、木々の間から子供が姿を現した。



(こんなところに子供……いる筈がない、亡者が化けて出たか!?)

「退けクソガキ! 我を誰だと思って」



「誰でもないよ、お前なんか」



 声は、前からじゃなく横から聞こえた。数十本の腕が、当主の身体を横から突き飛ばす。決して深くないただの川に、当主の身体が突き落とされた。



(?! 水、川……なんだ、こんなに深い川は近くに存在しな……)



「誰でもないお前は、誰でもない人を殺めて、笑ってた」

「だから、有象無象に殺されろ、誰にも見向きもされないまま、ずっとずっと殺されろ」



 手が、全身を掴んで引きずり込んでくる。命を奪い続けてきた男の身体は、怨念の渦に飲み込まれ消えていく。気が付くと、男の魂は身体から弾き出されていた。下を見ると、自分の身体が黒いオーラに押し流されていく。



(か、返せ……我の身体を……我がこんな、こんな死に方……こんな終わり方有り得ん、許されん!!)



(そうだ親父殿、これで終わりなわけがない)



 終牙の声がする、だがそんなのどうだっていい。死ぬわけにはいかない、終わるわけにはいかない。



(きっと俺達の殺してきた奴等も、そう思っていただろうよ)

(この程度では終わらんさ、俺達はこれから長い時間苦しむんだ)

(ヨノハテに囚われ、ずっと死に続けてきた者達のように……ずっとな)



 その言葉にゾッとし、思わず振り返った。いつものように笑っている終牙と、大量の亡者が迫ってくるのが見えた。



(往生際の悪い親父殿だ、とても……強者の姿には見えんな)

(もっとも……もっと早くに気が付き行動に起こしていれば……俺にも何か残せたかな)

(まぁいいさ、時間はあるんだ……せめてこの培われた図太さで……お前達に付き合うよ)



(や、やめ……ふざけるな……こんな、こんな馬鹿な事があって……許さんぞ、彼岸家のゴミ共、役立たずのクソ共ッ!! や、あ……や、め…………ぎゃあああああああああああああああああああああああッ!!?)



 膨大な数の怨霊が世無家全員の魂を引き出し、飲み込んでいく。怨念の渦は己の念のままに荒れ狂い、想いを遂げた。それを見届けたクロノは、ただ黙って手を合わせるだけだった。














 同刻、鈴と波の戦いにも終わりの時が来ていた。弾かれた針が、気が付けば地面を埋め尽くしていた。



「どんだけだよ、互角ってさぁ」

「真面目に人殺してきた俺と、お前の技術が横並びって……心底クソだわ」



「…………空…………」



「わーってるよ、時間切れだ」

「彼岸家が、正確に言えば沙華とホロビが幕を引いたんだろうな」



 空模様が異様だ、呪いが周囲に広がっているのを感じる。



「今頃どの家も大パニックじゃないか? ここにいるのは大なり小なり人殺しだからな」

「あぁ、お前は結局人を殺した事ねぇか」



「…………」



「何がケリを付けるだよ、戻ってこなきゃ見たくないモン見ないで済んだのにさ」



「…………貰った先を歩むなら、後悔を残したくなかった」



「そうかいそうかい、勝手に言ってろ」

「生き方も考え方も、何もかも正反対だったなぁ俺達は」



 両手を広げ、波は背を見せ鈴から離れていく。鈴は黙って、その背を見つめていた。



「真面目に生きて最後がこれだ、呪い殺され長い間怨霊に嬲られる……いやぁ人殺しの最後ってのは悲惨だねぇ、因果応報とはいえ不幸の極みだぜ」



「…………自業自得だ」



「…………正反対ならよぉ」

「俺が不幸なら、お前は幸せになれよ」



 そう言って、波の身体が黒に飲まれて消えた。暫く立ち尽くしていると、鈴の元へルインとシャルロッテが駆けつけてきた。



「鈴! 何があった!? お前の家が大変だぞ!」



「琴葉家が黒いのに覆われて、そしたら全員跡形もなく消えたんだよ」

「一体何がどう…………鈴、泣いてるの?」



「…………泣いてない、私には泣く資格もない」

「…………私は、ケリも付けれなかった…………最後まで、何一つ……」

「…………ズルいよ…………沢山言の葉を刈ってきた癖に、私の言葉だけは一言も刈ってくれやしない」

「…………最後の最後で、沢山交わした…………ズルいよ…………!」



 黒は波だけを攫い、後には風が吹き抜けるだけ。呪われる資格も持たぬ鈴は、風に音を乗せるだけ。



















 そして、悲鳴が響く疫芭家からはニコニコ笑顔のカラヴェラと、濃を背負う狂が帰路についていた。



「いやぁ絶叫絶叫、怨霊怨念悲願達成って奴だねぇ! 良い呪われっぷりだぁ」



「…………そう、ですね……」



 疫芭で最も殺し、恨みを買っている存在は濃の筈だ。なのに呪いは濃を素通りしている。



(当然理由がある……それもまるで言葉遊び……何でもありの反則技……)



「手段は選ばない、そう言っただろう」

「人を殺し、呪いすら殺しの手段にしてきた奴等だ……因果応報ここに極まれりだよ」



 カラヴェラが行ったのは、呪いの条件付けだ。長年呪いを生む道具にされてきた怨霊達は、その念こそ強いが己の意識は既に極限まで薄くなっている。彼岸家の術式により、己を苦しめた四任橋を狙うのは間違いないが、自分達で正確に狙いは付けられないだろう。



 恐らく、殺しの主犯、自身を殺めた者、そういった条件を元に呪いを成就させようと動くオートロック攻撃のような物だ。だからカラヴェラは濃と、濃の父親に条件を付け足した。父親に殺しをやらされていたとか、こいつが全ての元凶だとか、取って付けたような条件をありったけ付与したのだ。結果、濃の犯した罪全てが父親に押し付けられる形となり、文字通り呪いの身代わりとなった父は受ける筈の数百倍の怨念を引き受ける羽目になったのだ。




「……………………」




「そう、これは形を変えた呪いさ」

「狂ちゃんも、濃ちゃんも、生きる為に父親を犠牲にした……その罪悪感に永遠に苦しむことになる」

「ここで死んでた方が楽だったろうね……濃ちゃんはこれからの人生、ずっと殺しの重荷を背負う……ずっとだ」

「君も、妹にそれを背負わせてまで生かしたんだぜ?」

「辛いよ、苦しいよ、それでも生きていかなきゃならない」

「責任を取って生きるってのは、終わる事のない生き地獄と知れ」



「…………それでも、共に生きると決めました」



「目を覚ました妹ちゃんが、応じるとは限らないけどねぇ」

「自ら命を断とうとするかも? 君から離れようとするかも?? 開き直って一人で殺し屋になるかも???」



「もう手は離しません、離れないように、道を踏み外さないように……互いに……です」

「…………こんな厄介極まる姉妹ですけど、これからもお世話になります」

「…………結果的に、カラヴェラ様が一番損な役ですね、こんな呪い姉妹を傍に置くことになるなんて」



「…………へぇ、言うじゃないか」

「良いんだよ、決して日の光の下に出られないような、クソ極まる外道王の手駒なんて、呪われてるくらいが丁度いいさ」

「精々今の内に笑ってろ、近々姉妹纏めて弄り潰してやる」



「濃ちゃんだけは、私が守ってみせます」



「生意気な、狂ちゃんの分際でさ」

「損どころか、十分な収穫だよ……わざわざ出向いた甲斐があった」



 呪われた地から、王と従者は戦利品を持ち帰る。誰が勝者か、悪者か、少なくても……彼等は笑ってこの地を後にした。













 呪いが四任橋を襲う中、マルスが彼岸家の中を見渡していた。黒いオーラが飛び交い、彼岸家の者を飲み込んでいく。まるで地獄絵図のような室内を抜け、マルスは沙華のいる部屋まで辿り着く。



「身内もお構いなしか、容赦のない事だ」



「むしろ、姉さんや僕を一番苦しめてきた奴等だ、襲う怨霊の背中を押したいくらいだよ」

「……もう少し姉さんに時間をあげたかったけど……彼等も我慢の限界らしくてね……」



 沙華の手元の術式は、既に破裂寸前だった。呪いが解放される勢いが強すぎて、制御もギリギリに見える。



「もうすぐ四任橋の全てが呪いに飲まれる、ヨノハテと同じようなシステムで僕達は長い時間犠牲者の念に祟られるだろう」

「僕達だけを永劫呪い続ける永久怨念牢獄だ、これからのジパングに生きる全てに迷惑をかけない事を誓うよ」

「僕達は誰にも気づかれず消え、誰にも悟られず呪いに沈む、殺し屋集団、四任橋は人知れず滅ぶんだ」



「お前達の悲劇も苦しみも罪も、世界は知らずに進んでいく」

「これほどの呪いを生んで尚、世界は大して変わらない」

「まったく救いようのない話だ、膨大な数の命を犠牲にしても……世界は何食わぬ顔で日々を重ねる」

「知れば知る程、世界はクソだと認識するよ」



「…………そうか、君達は僕達を忘れずに刻んでいってくれるのか」

「巻き込まれただけの被害者なのに、最後まで優しいな」



「僕は憤怒の大罪だからな、巻き込まれ、迷惑をかけられた怒りは忘れないぞ」

「忘れたくても、忘れない」



「…………ありがとう」

「許される日が来なくても、この悲劇の連鎖は僕達がここで断つ……永劫呪われるとしても、僕達が受け止める」

「願わくば……僕達を覚えていてくれる優しい君達に託したい」

「二度と、こんな呪いが生まれないように……僕達みたいな、殺しの連鎖が起こらないように……伝えていって欲しい」



 呪いの術式が輝き、沙華の身体が黒いオーラに飲み込まれていく。黒いオーラは消え去り、後にはマルスだけが残された。窓から外を見ると、空模様が正常に戻り始めている。



「…………呪いは成就し、四任橋は滅んだか……」

「面倒を頼んでくれるじゃないか、最後の最後で僕達にまで呪いをかけやがった」

「…………全滅か、僕達は何の為に戦ったのか……まったく腹立たしい……」



 呪いの後には、何も残らない。世界はこの日、何が消えたかも知らぬままだ。多くが何も知らないまま、祭りの夜がやってくる。何を知り、何を重ねようとも、日は沈みまた昇る。



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