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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十一章 『ジパング三幕! 四飾る果てに、呪いは芽吹く』
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第七百八十三話 『最後の呪い』

「子供の頃は空いた時間にさ、この中庭で沙華と蹴鞠とかしたもんだよ」

「殺しに染まった日常の、数少ない子供らしい記憶だね」



「数少ない……」



「人の呪い方、殺し方、そんなもんが周りから刷り込まれていく毎日だったからね」

「間違いなく、今目の前に居る幽霊は悪霊の類なんだよ? 頭の先からつま先まで立派な人殺し」



 手を広げ、中庭の中をぐるっと回りながらホロビは自らを人殺しと言った。笑って、そう言った。



「セツナさんは利用された事を怒るべきたったのに、見た事ないくらいのお人よしだよ」



「……ホロビ、これが最後なら」



「うん、どんな言葉でも受け止めるから……なんなら殴ってくれても……」



「蹴鞠をしよう」



「んー???」



「友達だから、最後の時間は陰気な話じゃなくて遊んでいたい」

「私は、お前の最後まで人と違う終わりにしたくない」

「私はお前と、当たり前でいたいんだ」



「…………あはは、変なの……変だよ、セツナさん」

「手加減しないからね?」



 蹴鞠に手加減なんて概念があるのか疑問だが、そもそもドジのスペシャリストなセツナに蹴鞠が出来るわけがない。毎秒凍結のデバフに晒される雪奈との蹴鞠ですら、五回蹴り返せればいいレベルだった。



(でも蹴鞠は勝敗とか無くて、相手が蹴り返しやすい感じで渡すって雪奈が言ってた……今の私なら接待込みで十回くらいなら……)



「霊体の私でも触れるように……質量を持った呪いの鞠を用意しました」



 そう言って、幾つもの顔が圧縮されたような世にもおぞましい鞠がホロビの手元に現れる。



「じゃあ通常ルールで三回被弾した方の負けで」



「私の知ってるルールでお願いしたいぞ」



「大丈夫、私は大して強い方じゃないから……いっくよー」



 間違いなく蹴鞠であってはならないフォームから蹴り出された呪いの鞠は、セツナのすぐ横の地面に着弾し、地面を景気よく抉り飛ばす。地面にめり込むおぞましい鞠を見て、自分の死を悟った。



「こんな当たり前があって堪るかぁっ!!」



「うえぇ!?」



 どうやら同期とはこれが普通だったらしい、とんだ戦闘狂共の狂った遊びである。



「参ったなぁ……まさか蹴鞠が普通はそんな和やかな遊びだったとは……」



「解釈違いで大怪我するところだったぞ……!」



「じゃあなるべく蹴り返しやすいようにまったり蹴るね」



「そこは本当に頼むぞ……殺意とか込めなくていいんだ」



「あはは、そう言われると私達は子供の遊びですらおっかない感じだったんだねぇ」

「そりゃそうか、私のお人形遊びとか藁人形だったからね」



「怖すぎるぞ……」



 言葉を交わしながら、二人は蹴鞠に興じた、ホロビの蹴る鞠は、全てが足元に飛んできた。相手が蹴り返しやすいよう、配慮されていた。



「これでも同期と遊ぶ時間は少しくらいは取れてたんだよね、何度も集まって同じ時間を過ごしたんだ」

「外を知れば知る程自分達はズレてるって理解して、それと同時に同期は染まるか、壊れるか」

「私が外に憧れたのも、自分達とはかけ離れているからだ」



「……そうなりたくてなったわけじゃないのに、ホロビは覚悟が決まり過ぎてるぞ」



「これでも代々育てられてきた呪いの器やってるんでね、前にも言ったけど自我を保てたのは弟を虐げたクソな家への怨念の賜物だけど、自我を保てたおかげで犠牲者の念ってのは嫌って程見せつけられた」

「ヨノハテでセツナさん達も少し見たよね、犠牲者の記憶……私は正気を保ったままあれを毎日毎日延々と眺めてたのよ」

「だから、あの人達を放っておく事は出来ないよ」



「……想い想われ、呪い呪われか……」



「うん、私はあの人達の呪いを成就させるの」

「呪いが消えるまで、呪われながら見守っていく」



「…………消える保証もないのにか」



「永遠に呪いを繰り返し、それを強めるなんて地獄よりかは消える可能性はあるよ」

「もっとも、私達の罪は消えない……だからそれを呪う念も消えない可能性はあるね」

「けどそれでいいんだ、責任だって消えたりしない、これは代々一生懸命こしらえてくれた最低最悪の責任だから、簡単に消えて貰っちゃ困るのさ」

「だから、私達は最後の代として……呪いの家として、私達の為に呪うのさ」



「……馬鹿だよ」



「知ってる、でもセツナさんだって馬鹿だよ」

「こんな悪霊の為に、泣くなんてさ」



 気が付けば、涙が頬を伝っていた。いつも通りの無表情だが、それでも涙が溢れていた。今までだって何度も泣いた、そりゃあもう切り札の名が泣くくらいは泣いた。いつだって自分の表情は感情に伴わないけど、今日の涙はいつもより熱い気がする。



「セツナさん達を自分の都合で振り回して、自分の都合で消えていく」

「そんな勝手な悪霊なんて、放っておけばいいのにさ」

「他人の為にそこまで出来る人なんて、ここにはいなかった」



「…………今、目の前にいるぞ」



「そんなんじゃないよ、誰も救えず、変えられない、呪って呪うただの悪霊だ」

「ここに善人なんて居ない、それぞれが欲のまま生きて、振り回して振り回されて、誰一人いい感じに終わらない……ここは文字通りの地獄で、行きつく先に救いはない」

「欲から始まった地獄は、呪いで締め括られる……因果応報、悪いことすりゃロクな事になんない良い見本だね」



「私は、友達にそんな風に思って欲しくない」



「…………セツナさんは、どうしても放してくれないんだね」

「…………困ったなぁ……参ったよ……勿体なさ過ぎる」

「私だって、最後に出来た友達にこんな酷い事したくないのにさ」



 ホロビが泣きそうな顔をして、そのまま俯いた。蹴鞠が地面を転がって、返ってこない。見上げると、空がどんどん暗くなっていた。空気が変わる、張り詰め、冷たくなる。



「…………ホロビ、まだ…………」



「これは、呪いだ……言うべきじゃない」

「だからさ、聞き流して良いよ…………セツナさんは私を恨んでもいいんだから」

「…………私を、私達を忘れないで、優しい貴女の記憶の中に、居させて……」



「ホロビ、私はまだ……!」



「けど、それはずっと残る、きっと優しい貴女は思い出す度に苦しんで悲しんでくれる……そんなの呪い以外の何でもないから……」

「私は、友達を呪いたくないから…………」



 咄嗟に駆けだし、手を伸ばす。何がしたいのか、何を思ったのか、それすら分からないくらいの勢いで。



「だから、忘れてもいいよ」

「忘れた方がいいよ、私の事なんて」

「なんて言ってさ……この後何を言っても忘れにくくなるだけなのに……根っこまで悪霊だな私は……」



「ホロビッ!!」



 伸ばした手を、ホロビは取ってくれた。両手を繋ぎ、ホロビは笑った。



「ごめんね、でも、それでも最後に伝えたいんだ」

「ありがとうって、言っちゃうんだ、何を言っても貴女を傷つけるし、苦しめるのに」

「何をしても、誰かを傷つけるだけだったなぁ……神様は残酷だ……」

「こんな悪霊の最後に、こんな良い子を用意するんだからさ」



 両手から伝わる冷たさが、消えていく。その笑顔が、消えていく。ホロビの姿が消え失せ、辺り一帯に強烈な圧が広がった。それは意思を持つようにうねり、何かを目指して動き出した。呪いが、四任橋を覆い尽くす。始まりと終わりの呪いが、空を覆っていた。ホロビが作ったおぞましい鞠から呪いが抜け、普通の鞠になる。セツナはその鞠を拾い上げ、抱き締め、声を押し殺して泣いていた。



「…………始まったね」



「清々しいくらいボク達はスルーされてんなァ、マジで四任橋だけを狙ってやがる」

「誰一人逃がさねェって想いを感じるぜェ、全滅間違いなしだなァ」



 大罪達が揃って空を見上げながら、結末を悟っていた。彼等にとっては珍しくもなんともない、人の欲の末である。



「いつの世も、暗い結末ばかりだな」



「でも、いつの世も足掻く人がいるよ」

「レヴィは、そんな人がいるからこのクソな世の中が続いてると思ってるよ」



「世界は馬鹿が繋いでるってかァ?」



「ミライちゃんもそう思いたいな、馬鹿でもなんでも、愛は本物だって!」



「…………さてさて、今度はどう嫉妬させてくれるのかな」

「…………物事は、最後の〆で全部が決まるものだよ……セツナ……」



 殺しの歴史を、呪いが喰らっていく。解き放たれた呪いが思いを遂げる中、残された者が何を思うのか。これから先に何を紡ぐのか、エンドロールが始まろうとしていた。



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