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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十一章 『ジパング三幕! 四飾る果てに、呪いは芽吹く』
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第七百八十二話 『因果応報』

 人工精霊の核が発する気配を追い、クロノは世無家に辿り着く。結構な数の人影が見えるが、そんなの関係ない。クロノは核の気配がする場所に突っ込み、床を蹴り破って地下に降り立った。



「ジパングらしくない場所だ……研究室かな」



「この忙しい時になんだというのだ……小僧、ここが何処か、我等が誰か知っての狼藉か」



「ここが世無家で、お前等が嫌な奴等だってことは知ってるよ」

「災岳の精霊達の核を返せ、あんまり手荒な真似はしたくないんだ」



「…………なるほど、戻った災岳が思うように動かないと思ったが……お前の仕業か」

「戦いを好み、他を食い潰す事に快感を得る人工精霊……それらの思考が組み上げた器が奴だ」

「外に放ち欲のままに生かす事で悪魔の力すら物にした我等の最高傑作が、まさかこんな小僧に敗れるとは失望したよ」



「核を返せ」



「返せとは訳の分からない事を、あれは我等の作った物だぞ」

「まぁ敗北もある種の経験値、自由意志は力を拡張したが兵器としてはやはり扱いづらいものではあった」

「欲で成長を促すのは一旦ここまでだ、純粋な力として核を扱うターンだ」

「タイミングとしては良かったのかも知れないな、物事にはメリハリが必要だ」



「知らねぇおっさんの話に興味はないんだ、核を返せ」



「押し入ってきた小僧の要求を何故聞かねばならん、無礼の極みだ」

「世無家は殺しの家、強者に無礼を働いた末路は決まっている」

「そんなに返してほしいのなら……奪ってみればいい」



 その言葉を合図に、一際大きな機械が異音を発した。大掛かりな動きで開いたそこから、何かが凄い速度でクロノに飛び掛かってくる。咄嗟に受け止めたが、異常な力で僅かに後ろに押されてしまう。



「…………右腕が四本…………」



「紹介しよう、我等の次なる最高傑作となった終牙だ」

「君が災岳を破った時点で、我等は奴を見限ってね……人工精霊を回収し、その核を使い終牙に最後の強化を施した」

「移植した腕を器代わりにし、精霊の力を常にフルパワーで宿している……自由意志を排除し、純然たる力のみを追求した精霊使いの新しい形だ、堪能してくれ」



 大地の力で踏み止まるが、ジリジリと後ろに押されていく。足元が砕け、クロノは壁際まで追いつめられる。



「…………話に聞いてたけど、あんた沙華さんと同期なんだろ」

「なぁ、意識はあるのか」



「殺す、殺す、殺す、殺す」



「…………」



「過剰な負荷で意識は朦朧としているが、兵器として圧倒的な力があれば問題はない」

「精々足掻いてくれ無礼者よ、出来るだけ新兵器のデータを」



「大概にしろよ、クソ野郎」



 精霊球エレメントスフィアを展開し、両腕に集中、一気に力を増したクロノは終牙の右腕を全て払い飛ばす。霊化した両腕の力を左手に一点集中させ、渾身の力で終牙の顔面を殴り飛ばした。




「は?」




 研究者の言葉がマヌケな音として漏れ出したのは、終牙の身体が吹き飛び研究室の壁にめり込んだ後だ。呆然と立ち尽くす男を、クロノは睨みつける。



「お前等は兵器を作りたいのか、精霊使いを作りたいのか」

「ただでさえ人を傷つける兵器を作るのに、追加で命を踏み躙る要素を足しやがって……」

「生み出した物に責任も持たないで、心を弄びやがって……どうして他の家が色々悩んでる中、お前等は命に対してそこまでクソなんだよ」

「心を理解してないお前等が、繋がりも何もない空っぽの力が強いわけない、お前等は精霊使いを分かってない」

「何が強者だ、馬鹿にするな外道がっ!!」



「わ、我等の築いた殺しの歴史も知らんガキが、その重みを知らんガキが好き勝手吠えるな!!」

「時代が証明している、殺しの必要性、それを紡いできたのは我等だ!」

「誰もが見てみぬフリをしてきた、汚れ仕事を担ってきたのは我等だぞ! それを追求し! 伸ばしてきた、真摯に殺してきたのだ! 研究に研究を重ね強さを求め、よりよい殺しを!」



「もういい、お前等の裁きは俺の仕事じゃない」

「お前等を裁くべき人達は他に居る、話す価値もない」



「何を……!」



「なんなら理想に真っ直ぐだった分、サイレスの方がまだ夢だった」

「お前等のやってる事は、不毛で陳腐なお遊びだ、命と心を使った最低なお遊びだ」

「裁きは下る、だから俺はこいつ等の想いを果たしに来た」



 そう言って、クロノは背負っていた錫杖を手に取った。そのまま大きく振るい、並んでいた機械をぶち壊す。舞い散った沢山の紙が、それだけで燃え始める。



「バ……ッ!? 小僧貴様何を!! どれだけのデータが、お前、ふざけっ!!」



「お前等が裁かれても、データは残る」

「道具として使われていたあいつらは、お前等に逆らえなかったんだろ?」

「だからこうして、無念を晴らしに来た」



 錫杖を振るい、風の刃と水の刃で機械だけを狙って切りつける。何度も振るっている内に、錫杖がクロノの手からすっぽ抜けた。



「…………」



(ロー君が言ってた通り、君って本当に武器の扱いが終わってるんだね)



(不思議なもんだ、何使ってもダメダメとか呪いか?)



(しまらないねぇ……)



「うるさいな……毎回自分に何かしら跳ね返ってくるんだ」

「今回はそれがないから、マシな方だよ」



 もしくは、何かしらの意思が働いているのなら……今回はその意思が別の方向に向いているということになる。この錫杖は人工精霊の力で出来ている為、何かの意思が宿っていても不思議ではない。クロノは錫杖を拾い上げ、地面に向けて突きつける。地面が砕け、隆起し多くの機械を飲み込んでいく。



「やめ、やめろクソガキ!! おい、地上の兵を呼べ、あのガキを止めろ!!」



「無理です! 終牙が、我等の最高傑作が敵わなかった以上誰が勝てると!」



 おっさん達が慌てふためいているが、正直どうでもいい。あらかた目につく機械は破壊し尽くしたので、クロノは錫杖を肩にかけ、終牙が出てきた一番でかい機械に近寄っていく。



「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!! それに手を出すなそれには今までの研究データが詰まってんだ価値も分からないクソガキが触れるなあああああああああああああああ!!」



「価値がないって事は分かってるから、安心しろよ」

「それにこれは俺の意思じゃない、帰るべき場所に帰るだけだ」



 錫杖に力を込め、クロノは機械に向けて振りかぶる。放たれた錫杖が機械に突き刺さり、爆炎を上げ大事な機械が大破した。まるで満足したかのように、錫杖が光り輝き消えていった。



「ざまぁみろだとさ」



「お、おあ、おああああ、あごぎょあがあああああああああああああああああああああああ!!!」



 殴り掛かってくるおっさんを軽くいなし、クロノは蹴り破ってきた穴から外に出る。戦える者は地上にまだ残っているが、動揺を隠しきれず脅威は感じない。



(……どう、するの……?)



「どうもしない、何もしなくてもきっと終わる」

「…………もうすぐ、始まると思うから……事が終わったらもう一回ここに来て核を回収しようぜ」

「……どうにも出来ないってのは、何度経験しても悔しいし悲しいけどさ……変な縁だしな」

「墓くらいは、作ってやろう」



 雲が、再び空を覆い始めている。呪いが、その時を待っている。裁きは下る、それは正当な手順と理由を持って解放される。全てを終わらせる為に、暗い歴史に幕を下ろす為に、四つの家に終わりの時が迫る。それぞれの想いを胸に、ジパングの裏の物語は最終章を迎えた。決して語られる事のない、殺しの物語。決してハッピーエンドになることはない、呪いで終わる物語。



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