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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十一章 『ジパング三幕! 四飾る果てに、呪いは芽吹く』
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第七百七十九話 『変わらぬ結末だとしても』

「ふんふんふふん、ふんふふん、今日の私はとっても凄い切り札ふふ~ん♪」



「聞くに堪えない最悪な歌だね、謝って」



「痛っ!? とんでもない暴言と共に脇腹に鋭い痛みがっ!!?」



 無表情のままセツナはご機嫌ソングを歌っていたのだが、嫉妬の悪魔はそれを許さない。鋭い手刀が容赦なく切り札の脇腹に突き刺さり、セツナは蹲ってしまう。



「他の家がいつ襲ってくるか分からないこの警戒態勢の中でよくそんなふざけた歌を歌えるね、真面目にやらないと嫉妬するよ」



「ぐ、ぐぅ……正論を織り込んで絶妙に反論しにくい形で追い詰めてくる……」

「わ、わかってる……マルスやドゥムディはしっかり周囲警戒してるし……クロノは戦ってる真っ最中だ……状況はピリピリ真っ只中なのは良く分かってる……」

「けどっ! 少しは褒められたい! なんだかんだで私は一番危ない部分をどうにか封じ込めたじゃないか!」



「自分自身どうやったか良く分かってない癖に」



「それはそう、だけどーーーっ!! 荒れ狂う呪いをビシッと封じた事実は認めてほしい!!」



「うんうん、セツナちゃんは偉い! 凄い! 切り札!」



「全肯定系悪魔のミライだけだ……私に優しいのは……」



 ミライはセツナを撫でまくり、全力で甘やかしていた。あっという間にだらけきる切り札に緊張感の欠片すら見当たらない。



「これ以上駄目にすると本当に救いようが無くなるよ」



「活躍した時くらい素直に嫉妬してみろ!!」



「え、セツナは私の何処に素直さを期待してるの? 一回生まれ直したら?」



「このチビ口から生まれたのか!?」



「まぁまぁ、レヴィはあれでもセツナちゃんを認めてるんだよ?」

「愛情表現愛情表現♪ 色欲の私の方が嫉妬しちゃうよ」



「それは困るね、これ以上面倒になられるといよいよミライを止める術が無くなるよ」



「暴力的すぎる愛情表現に私の方が現在進行形で困っとるが?」



「レヴィ今真面目な話してるんだから引っ込んでてよ」



「こっちだって真面目だわ!」



 ぎゃあぎゃあと抗議の台詞を並べ立てる切り札だったが、その99%くらいは聞き流されている。何処からどう見てもアホなのだが、先の戦いでレヴィはある意味でセツナに恐怖を感じていた。



(…………本人は覚えてないけど、呪いを断ち切ったセツナはゲルト・ルフの時以上にやばかった)

(どれだけ忘れてる……? どれだけを秘めている……? もし全部思い出して、このアホが全力を出したらどれほど…………)



 呪いの影響を全て弾き、たった一振りで凝縮された呪いを両断、それどころか周囲で渦巻いている呪いすら叩き斬り、そのまま封じ込めてしまった。あまりにも呆気なく、周囲の事柄全てがどうでもよくなるくらいの存在感。あの瞬間、間違いなくセツナは怪物の域にいた。それこそ、大罪と呼ばれたレヴィ達以上の化け物だった。



(…………セツナは、セツナのままで……)



「聞いてるのかレヴィ! 私は正当な評価をだな!」



「あぁもううるさいなぁ、聞いてないよ」



「こ、この野郎……嘘でも聞いてるって言ってよ……」

「ふんだ、もういいよ……全部終わったらクロノに褒めてもらうもん……ホロビ達にもいっぱい感謝されてさ、一緒にお祭りで遊ぶんだ」



 いじけるふりをするセツナだったが、不意に零した言葉にレヴィが目を細めた。ミライも何かを察し、口を紡ぐ。



「ん? どうした二人とも?」



「あ、えっと……あはは~……」



「…………別に、お花畑だなって」



「え、なに? なんだ?」



 ミライの膝の上から頭を上げ、セツナは二人の顔を見比べる。流石のアホ切り札も、空気が変わった事に気づいたようだ。



「なんだ? なんで急に静かになるんだ?」



「さっきの音痴な歌で頭が痛いんだよ」



「…………嘘だ、それならミライも変にならない」

「なんだ、なんで変な空気になるんだ」



「えっと……それは……その……」



「人生経験の差だよ」



「分かるように言え! なんだこの空気! ほぼ解決な感じだっただろ! 後は他の家返り討ちにして終わりだろ! お前達やクロノが居るんだからほぼ勝ち確定だろ! なんだこのお通夜みたいな空気っ!」



「祭りには一緒に行けない、レヴィ達は気を使って口にしていないんだ」



 周囲警戒で外に出ていたマルスが、ディッシュと共に部屋に入ってきた。



「外は良いの?」



「今のところ、ドゥムディだけで余裕だなァ」

「まァ、状況を考えればなりふり構わず突っ込んでくるのも時間の問題だけどなァ」



「それも自殺行為だけどね、どの道結果は変わらないね」



 淡々と言葉を繋いでいく大罪達。その様子は、まるでこの先が見えているようだった。



「…………お祭り、一緒に行くって約束したぞ」

「みんなで笑ってお祭りだって!! なんでそうなるんだっ!!」



「制御不能寸前だった呪いをお前が抑え込み、他の家も僕達が止めている」

「すれ違っていた姉弟も今本音をぶつけ合い一つの場に居る、呪いの……力の結晶を手元に抱えてな」

「どちらかが犠牲になりどちらかを救おうとしていたみたいだけど、共通の意思はどちらも罪」

「十中八九、あの姉弟は呪いの力を解き放つだろう…………四任橋へ向けて」



「……当然、自分達も含めてだよ」

「在るべき場所へ、呪いの発露、罪の清算、被害者から加害者への報復が始まる」

「四任橋は滅ぶだろうね、凝縮され育った呪いはきっと全員を殺し尽くしても満足しない、そのままじゃきっと周囲に飛び散り大惨事」



「……だから、呪いを操れるホロビちゃんと沙華くんがヨノハテの時と同じような仕組みを作ると思う」

「呪いの念が納得するまで、四任橋のみんなは祟られ、苦しみ続ける……復讐の地獄が始まるだろうね」



「責任を取るって、そういう……?」

「そ、そんなの酷い事の繰り返しだぞ! 呪いなら私が斬って……封じるんじゃなくて消すことだってきっと!」



「散々苦しめてきた被害者達の念を、お前の都合とエゴで消し去るってかァ?」

「お前よォ、それが本当にあの姉弟の救いになると思ってんのかァ?」



「それは……でも、だけどっ!! それじゃ誰も救われないっ!!」



「殺しの罪は、消えはしない……それを正当に釣り合わせることは神にだって出来やしない」

「奪うだけでそれほどの重さだ、弄んだ罪は同じ地獄じゃないと納得されないだろう」

「代々繰り返してきた地獄を終わらせるには、相応の覚悟と代償が伴う」

「ここは文字通り地獄そのもの、綺麗ごとじゃ終わらない」



「私は納得できない!! クロノだってしない!! ハッピーエンドを諦めない!!!」



「そうだな、あの馬鹿は諦めてない」

「…………納得もしていない、今だって抗おうとしている」



 マルスは肉体を取り戻しているが、未だクロノを器としている。繋がっている状態は続いている為、何か感じるモノがあるのだろう。



「だけど、それしかないのもわかっている」



「っ!」



「だからこそ、約束とやらを果たしに行ったんだろう」

「馬鹿だから、敵の未練すら放っておけないらしい」

「残った時間で、救えるだけ救うつもりらしいぞ」



「救う……って……このままじゃ全員呪いで死んで……犠牲者達が納得するまで、苦しみが続いて……そんなの……そんな先に……何が救いがあるって……」



「…………セツナ、この結果は多分変わらないし、変えられないよ」



「地獄が終わって、新しい地獄が出来るだけじゃないか!!!」

「ホロビ達は道具みたいにされて、ずっと苦しんでっ!! 家が、家が悪いだけでっ!!」



「犠牲者達の記憶を見ただろう」



「っ!!」



「まだ生きていたかった者がどれだけいた? 理不尽に命を奪われた者をどれだけ見た?」



「あの姉弟はよォ、ずーーーーーーーーっとあれを見続けて育ったんだろうなァ」

「あの積み重ねを見てよォ、自分達だけのうのうと生きるのは違う意味で地獄なんだろうよォ」

「誰かが断ち切らねェと、ケジメ付けねェと、終わらねェんだろうなァ」

「釣り合わなくても、捧げねェとよォ」



「…………けど……っ!!」



 分からない、納得できない、諦めたくない。なのに、どうすればいいのか分からない。言葉が、出てこない。



「私は、切り札で……けど、空っぽで……ずっと、ずっと何も、想えなくて……!」

「けどクロノに出会って……やっと、想えるようになったんだ……嫌だって、助けたいとか、守りたいとか、心から、自分で想えるようになったんだ」

「何も感じなかった私はもう居ない……私は、ホロビ達を助けたいって、自分で感じて……なのに……なのに……」



 救えない。呪いの果てに待つのは、自己犠牲の終焉だ。




「なにが……切り札だ……」




 飛び出し、呪いの塊を叩き切ってやろうか。だがディッシュの言葉が身体を縛る、多分それじゃ何も救えない。逆に、ホロビ達を苦しめる事になる。救える筈の力があるのに、自分には何も掴めない。



「…………価値観は人それぞれだ」



「…………え?」



「少なくても、あの馬鹿は僕とは違う価値観で、今も敵と殴り合っている」

「…………救いの意味を考えろ、何かしたいならな」



「……意味?」



「…………レヴィは切り札じゃなくて、セツナに出来る事があると思うけどね」

「ちなみにホロビ達はこの先、一番奥の部屋でなんかしてるよ、まぁ十中八九呪いの準備、おぞましいね」

「どうせ敵が来てもセツナは大体役に立たないからね、奥に引っ込んでるべきだと思うよ」



 レヴィが指差したのは、長い廊下の先だった。今更気が付いたが、廊下の先から不気味な気配が漏れ出している。間違いなく、自分が叩き切った呪いの塊と同質なものだ。ホロビ達は、呪いの準備をしている。長く続いた殺しの歴史に幕を引く、自分達への呪いの準備を。破滅への、準備を。それは、きっと止められない。その未来は、変えられない。だけど、まだ時間があるのなら。





「――――ッ!!」





 駆ける、まだ時間はある。まだ、言葉は交わせる。救いの意味なんて、正直全然分からない。だけど、出会えた意味を、ここで終わらせたくはない。結果は変えられなくても、せめてその過程を変えたい。呪いで染まる地獄だとしても、届けたいモノがある。この衝動は自分のモノだと、今は胸を張って言えるから。



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