第七百六十二話 『旅は道連れ、呪いの果てへ』
「ってことでモミジ、この子借りていくね」
「華響や猫又様の勘は正しかったにゃ、クロノ達の目的は果たされたにゃ」
「お前達はもっとあたし達に感謝するといいにゃ、支払いはここで済ませていくにゃ」
「お金取るの? 嘘でしょ」
「嘘だから気にしなくていいよー」
「なんで居候妖精のお前が決めるにゃ! こちとらちびっ子三匹押し付けられて金がいるにゃ!」
「ぴょん……お荷物ぴょん……」
「にゃあー」
「渡る世間は鬼ばかり……」
「お前等は鬼に拾われてるにゃ、そこに絶望するのはお門違いにゃ」
「泣き落としが通用すると思ったら大間違いにゃ、家でゴロゴロさせると思うにゃ、子供はのびのび外で遊んでくるにゃ……」
「まぁこんな感じであまっあまだから心配しなくて大丈夫だよー」
笑顔でじゃれついている子供達をモミジはコロコロと転がして遊んでいる、仲良しでとても微笑ましい。
「話が纏まったならお化けさんはそっち任せるけどさ、とりあえず最近のどんより空とかも解決してくれるって事でいいんだよね?」
「その辺どうなの? ホロビさんや」
「ジパングを覆うこの曇り空も、我が家から漏れ出した怨念の影響なのは間違いないです」
「今はこの程度ですけど、このまま漏れ出せば良くない現象が形を成し始めるでしょう……霊障は我が家を中心にジパングを、そして世界を覆い尽くすはずです」
「天災なんだよなァ、どんだけ呪いを溜め込んでんだかなァ」
「そしてレヴィ達は今から呪いのど真ん中を目指すわけだね、セツナが大変な事になりそうでワクワクするよ」
「嫉妬しとけよチビ大罪め……」
「呪いの中心を目指すって事は、彼岸家を目指すって事でいいのか?」
「そうなりますね」
「犠牲者の怨念が凝縮された家か、史上最恐のお化け屋敷になってそうだ」
「概ねその認識で良いですよ、怪奇現象にご注意ください」
「あら? クロノ君既に呪われてない?」
ミライがそう思うのも無理はないだろう、死にそうな精霊が三体も背中に憑いているのだ。
「お祭り目的だった筈なのにぃ……どうしてこんな事に……」
「僕達は今回不参加でいいんじゃないかな」
「良いわけがないでしょうが、お前等契約者だけで行かせる気かよ」
「うるさい、黙れ、死んでしまえ」
「ティアラが凄い饒舌に言葉で切り付けてくるんだけど……」
「諦めろ、こいつらは最悪なんだ」
「一番最悪なのは面白そうにしてるお前なんだよな……」
面白そうに笑っているフェルドがむかつくので、いざとなったらこいつに怯える精霊を押し付けてやろう。出発前から精霊三体が戦闘不能状態になっている為、これ以上の戦力低下は避けたいところだ。
「ホロビさんの話を纏めるとさ、呪いの連鎖を断ち切る手伝いをして欲しいって事だろ? 方法とか考えはあるのか?」
「私が器として全ての呪いを抱え飲み込みます、犠牲者全員分の怨念を私がこの身で受け止めます」
「皆が貯め込んだ念全てをぶつけ、満足し消えるまで……全てを私が抱え込みます」
「傲慢な、器として選ばれたとはいえ……数百数千の呪いを一人で受け切れるはずもない……跡形も残らず消し飛ぶぞ、輪廻の輪からも外れかねん」
「…………積み重ねた罪、ここで断ち切るには相応の代償がいるでしょう」
「やらねばではなく、やりたいと思った以上……これは私の役目なんです」
「という事で考えも方法もありますが、その為には呪いの全てが圧縮された我が家に行かねばなりません」
「ですが今の私は、その家から逃げ出してきた状態でして……一人じゃとてもじゃないけど戻れないのです」
「逃げてきた理由はまだ聞いてないよな、なんでなんだ?」
「他の家と対立したのが原因です、彼岸家が呪いを手放せば、当然四任橋に大きな影響が出ますから」
「それと……彼岸家も一枚岩ではなく……呪いがやばすぎて逃げ出した者もいれば、呪いを断ち切るのに反対する力の亡者もいるわけで……」
「器である私を拘束しようと、家の者や他の家の過激派が動き出しています」
「なんとかここまで逃げてきましたが、呪いは抑えきれず家から溢れ出し、器である私を蝕み始め……ついに意識も身体も取り込まれ真っ黒になったところでこの村で超強い鬼に捕獲されたってわけなんですよ」
「それって色々ギリギリだったんじゃ?」
「ギリギリでしたね……」
「思うんだけどさー、このお化けの追手がこの辺りの村襲い出すのも時間の問題なんじゃないのー? 面倒なことになりそうなんだけどー?」
「なるほど……こうしている間にもモミジの家が戦場になる可能性が……」
「物騒な話してないでさっさと出てけにゃああああああああああああ!」
蹴り出されてしまった、危機感知能力が高い猫娘である。
「冗談はさておき、ここで黙ってると四任橋の追手がいつ襲ってくるかわからないわけだな」
「話は移動しながらにしよう、ホロビさん案内を頼む!」
「オォオオ……ア、ア、ァ……!」
禍々しさ100%の闇に覆われ、悶えるホロビがそこにいた。
「呪いの供給半端ないな」
「これで呪いをどうこうするなど、よくもまぁ傲慢な事をほざけるものだ」
「言ってる場合かぁ! あぁ人型ですらなくなっていく!!」
「セツナ出番だ! 切り札の力で呪いをぶった切れ!」
「うわあああああああああああああああっ!!」
セツナの一撃により、ホロビは無事正気を取り戻した。
「重ねてすいません……私は呪いの器なので……家から離れても直でこう、流れ込んでくるんですよ……」
「ですのでこのように一定間隔で呪いが身体を蝕み……溢れてしまって……」
「レヴィ観察してたけど、空にまで呪いのオーラが昇ってたよ」
「あれは良い目印になるね、多分追手とやらにバッチリみられてるよ」
「今すぐここを離れるぞ!!」
こうしてドタバタしながらも、クロノ達はホロビの案内で彼岸家を目指すのだった。そしてその道中、とても大切な事を確認しておく事にする。
「ぶっちゃけ大罪組はお化け大丈夫だよね?」
「真面目な顔で何アホな事言ってるんだ」
「大切な事だ、既に俺の精霊は三体が戦闘不能……戦力がこれ以上落ちるのはやばいだろう」
「…………僕は平気だ、人間の方がずっと怖い」
「ミライちゃんは怖いな……守ってほしいな……」
「冗談は能力だけにしろ、お前は怖い話が大好きだろう…………我も別段何も感じないがな」
「世の中を知れば知る程、生きてる奴の方がよっぽどおっかねェってなるぜェ」
「おれも怖くはないな、興味深いとは思うが」
「怖がる方がめんどくせー……」
「色々理由付けて現世にへばりつくなんて嫉妬しちゃうよ、そこまでの価値を感じちゃうなんてね」
なんて頼もしい先輩方だろう、キラキラ輝く天使に見えてきた。彼等がいれば、何の問題もないかもしれない。
「私は怖いぞ」
「よぉし張り切っていくぞ!」
「待てクロノ! 私の存在を無視するな!」
「俺を起こす為にダンジョンの幽霊屋敷で頑張ったってフェルドから聞いてるよ、嘘つくなよな」
「あれは怖がる暇も無いくらいスパルタされただけだっ!!!」
「ホロビさんだって立派に助けてるじゃないか、大丈夫大丈夫お前は出来る切り札だ」
「あれは怖がる暇もないくらい必死なだけだっ!! ふざけんなお前全身から怠惰が溢れてんぞ!!」
「大丈夫だって何かあってもミライさんかレヴィちゃんがお前についてるよ」
「ついてるよー♪」
「ちゃんと水底に蹴り落してあげるから大船に乗ったつもりでいると良いよ」
「こいつらが一番怖いだろっ!!!」
それでもなんだかんだ言ってミライとレヴィはいつもセツナのすぐ傍についている、頼りにしても良い筈だ。
「何かあったらちゃんと俺も助けるって」
「クロノはいっつも一歩遅い」
「結構痛いところ突くな……」
「漫才しているところ悪いが、もし四任橋の追手が複数襲ってくるなら僕等はそれの対処をしなきゃいけないぞ」
「そうならない為にも、追手に悟られないようホロビの呪いは出来るだけ抑えていかないといけない」
「怖い怖くないはどうでもいいが、現状それを一番簡単かつ素早く払えるのはセツナだけだ」
「確かに」
「待て! 私の意見も取り入れて話し合え!」
「というわけなんで、ホロビさんはセツナの傍を離れちゃ駄目だよ」
「大丈夫、こいつは俺等の切り札だから」
「はぁ……」
「何が大丈夫なんだ! おい! 切り札と会話しろ!」
「じゃあ切り札さん、改めて宜しくお願いします……」
「あ、ご丁寧にどうも……切り札です……」
というわけで、セツナに特大怨念の器・ホロビが装備された。いっつも背負われてる側だったセツナが、今回はおんぶする側だ。
「霊体なので重くはないと思いますが……」
「特大の怨霊を背中に装備したね、嫉妬しちゃうよ」
「じゃあ変われっ!!! セルフで呪われた気分だぞこれh……」
その瞬間、突如曇り空から悲鳴のような音が響く。ホロビから溢れる赤黒いオーラが空に昇り、雷がセツナの真横に着弾、カラスが一気に飛び立ち、近くの木々が風もないのにガタガタと不自然に揺れ出した。
「ななななななななんか周りから不気味な声が聞こえるぞ!!!!!」
「何言ってるのさセツナ、なにも聞こえないよ」
「冗談言ってる場合かレヴィ!?」
「え、怖……流石に笑えないよ……」
「というか、今の落雷で感づかれたのではないか? 此方に向かって来る気配があるぞ」
「祭り目的だった筈なんだがね、とんだ道中になりそうだなクロノ?」
「流石に慣れてきたみたいで嬉しいよ」
「抜かせ疫病神」
「待ってくれ! 展開を進める前に切り札を落ち着かせてくれっ!!」
ジパング珍道中、呪いと共にいざ開幕。




