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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十一章 『ジパング三幕! 四飾る果てに、呪いは芽吹く』
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第七百六十一話 『彼岸家の闇』

 強さは、特権だ。何をするにも強い者が有利であり、その行動や発言には一定の力が宿る。己の欲を貫くにも有利だし、結局周りも強い者を頼る、頼らざるを得なくなる。生きる上でそれは真理であり、この世の不平等の極みでもある。生き物の生が長く続けば続くほど、欲の多様性は上がっていく。それは依頼内容にも反映され、単純な物探しから草むしりなどの雑用、貴重品の運搬、危険な存在の討伐など様々だ。その全ては強者が優遇され、独占されていく。時代が進むほど勇者や退治屋が台頭していく。



 嫉妬か、焦りか、仕事を失った者が増えていく中、違う視点でその者達を見る者が現れる。搾取の為、甘い蜜で人の道から外れさせる。報酬さえ払えば、邪魔者を消してやろう。人でも、魔物でも、なんであっても消してやろう。欲の果てに、外法の存在が世に生まれた。



「殺し屋のルーツ、いやぁ血生臭いよねぇ? 僕だったら絶対傍に置いておきたくないなぁ~」



 ここはメリュシャン、森の奥に在る国だ。国の王カラヴェラは妹のミルメルを撫でまわしながら、日課の部下弄りに勤しんでいた。被害担当は当然、元疫芭やくば家の毒使い、狂だ。



(胃が痛い…………)



「最近調子良いよねぇ? 人魚ちゃん達と和気あいあいでここにいる時の数倍明るいみたいじゃない? ゲルトでも張り切ってたしねぇ、珍しくボロボロになるまで戦って人生に生きがい感じちゃってますかぁ?」



「すんません……」



「褒めてるのになぁんで謝るのかなぁ? 心配してたんだよ僕はさぁボロボロの狂ちゃんの事をさぁ」



「だってだって……いっつも主様は虐めてくるから……」



「いつから待遇を指定できるくらい偉くなったん?」



「ほんとすいません……全裸で土下座するから許してください……」



「良いよそんなの、ミルメルの教育に悪いでしょ」

「話を戻すけど、君捨てられたにしても元疫芭だろ? もっとないの? 内部情報」



「知ってる事は全部話しましたよぉ……殺し屋の存在自体、良い目で見られるものじゃないですし……情報が漏れるのは基本的にNGですし……四任橋しにんばしが殺し屋の集まりの癖に割と名が知れてるのも……殺しの手口が割れてるのも……強さ故ですから……」



「お家の初代から固有技能スキルメントを継承してんだっけ? 精度はそこそこで、なんかそういう技術があるとか?」



「私みたいな出来損ないもたまに生まれるんですけどね……あはは、はは……」



「たー!」



「んぎゃん!!」



 ミルメルの操る木の根が、ウジウジする狂の顎を正確にぶん殴った。



「狂は弱虫、もっと胸を張って」



「ミルメルは優しいね、情けないボケナスに気合いを入れてあげるなんて」



「あの……脳が揺れるレベルの打撃でしたが……」



「我が愛しの妹に感謝はまだかな? 僕の気は短いんだけど……」



「あ、ありがとうございました……」

(やっぱり虐めなのでは……助けてシーさん…………)



「強さ故、ねぇ……結局強い奴が踏ん反り返る世の中なんだよなぁ」

「お前だって弱くはないだろう、それを簡単に捨てるかね……能力は無くても努力だけでその毒耐性と調合技術だろ? 捨てて惜しくはないのかな?」



「ないでしょうね」



 はっきりと、そして諦めの混ざった声色で狂はそう言った。



「継承されるほど、能力は強力になっていったらしいです……時代と共に使い手の練度も上がっただろうし、強さに対する欲望とか、気持ちのせいでしょうかね」

四任橋しにんばしを構成する4つのお家は、それぞれの継承した能力特化型の殺し屋集団……暗殺を生業にしている世無よなし家以外は手口がばれてもお構いなし……ぶっちゃけると鍛え上げたつよつよ能力でぶち殺しに来る力技ですよもう」

「出来損ないは切り捨てる、だから残ってる家の者は強い人しか居ない……弱者に対する情も未練もないです、間違いなく」



「強さ故、だーれも手出し出来ませんと……思い上がってるねぇ」



「正直……家族とはもう関わりたくはないです……」



「あ、そう? 僕は関わろうと思うけど」

「流魔水渦から情報流れてきたんだけどさぁ、狂ちゃんジパングに旅行行かない~?」



「え”…………えっとぉ……用事、用事があるんでぇ……」



「それって僕より優先する用事? 優先出来る用事? 次の言葉はよく考えてね? これ優しさだから」



「わーい旅行だー、やったーうれしいーたのしいなー」



「そうだね、可愛い可愛い部下を虐めたクソ共にご挨拶したいと思ってたんだ」

「楽しい旅行にしようじゃないか、出来るだけさ」



 そう言って笑うカラヴェラの手元から、葉っぱが一枚舞い上がる。葉っぱは太陽を遮り、視点を移し替えた。風が木々を揺らし、多くの葉を吹き飛ばす。宙を舞う葉の一枚を、鈴が針で射抜いてみせる。



「鈴は針の扱いが上手」



「…………家に伝わる技術、昔叩き込まれた」



「…………ルインは感情の扱いがへったくそ」



「やめて?」



 エルルゥ・ホロウの一件でクロノを煽り逃走したルインだったが、シャルロッテや鈴が追い付いてみると膝を抱えて凹んでいた。



「あれでよかったのかなぁって……」



「少なくてもシャルの中のお化けはなんか満足してるよ、中で腕組んで誇らしげにしてる」



「そっかぁ……」

「うん、壁になると決めた……もうやっちまったもんはしょうがない……クロノに恥ずかしくないような障害で在り続けて……」



「…………クロノ・シェバルツは善行ばかりしているが、その障害になるなら悪行に身を染めるのか?」



「無理じゃん詰んだじゃんっ!!?」



「悪魔らしからぬ台詞だよ、まったくもう」



 頭を抱えるルインだったが、ここで鈴に通信が入った。魁人からの短い連絡だ。



「…………何故それを私に」



『外で活動してるメランやノクスにも伝えてるよ、あいつはいつも騒動の中心になるから一応な』

『それに、四任橋しにんばしがざわついてるのはもうこっちまで伝わってるから、元琴葉家のお前には言っておいたほうがいいだろう』



「…………切るよ」



『あ、ちょっ』



「……? 鈴、怖い顔してるよ」



「…………魁人からだ、今クロノ・シェバルツはジパングに居るらしい」

「…………殺し屋の集まり、四任橋しにんばしの内部問題に首を突っ込む数秒前だって」



「ジパングに行くぞ」



「情緒どうなってんのさ、ついこの前煽って目の前から逃げ出したばっかりだよ」



「顔さえ見られなきゃ問題ねぇ……助けに行くぞ……!」



「救済という名の鎖に囚われた哀れな悪魔……」



「嫌われていても……俺はあの子に笑っていて欲しいんだよ……」



「ほんとに空っぽなの? 衝動が隠せてないよ」



「いやマジに何も思い出せない……けどなんか身体が動くから、こうしてるといつか思い出せたりしないかなって……」



「シャルはルインが心配だよ、主に頭が」



「心配してくれてありがとな」



「そうだけどそうじゃないんだよ」



 漫才を繰り広げるルインとシャルロッテだったが、その背後では鈴が顔を曇らせていた。



「もしかして行きたくないか?」



「鈴はジパングにおうちがあるんだけど、ちょっと因縁があるんだよ」



「…………縁は切った、未練もない」

「…………だが、クロノ・シェバルツが四任橋しにんばしと関わるなら、そして私達がそれに関わるなら、避けては通れないかもしれない」



「なるほど? 四任橋しにんばしとはなんぞや?」



 鈴は頭を抱えながら、ルインに四任橋しにんばしについて説明する。それに合わせ、今四任橋しにんばしがごたついている事も、その理由なども分かりやすく伝えた。



「なるほど? よぉしクロノを助けに行くぞ!」

「だけど鈴! お前は気まずいなら来なくても……」



「鈴の能力なしでジパングまでどうやって行くのさ、着くころには何もかも終わってるかもだよ」



「と、飛んで……」



「うーん、遅いよ」



「この翼は飾りかあああああああああああ!?」



「…………気は使わなくていい、家とは縁は切ったと言っただろう」

「…………それに、今回の件で四任橋しにんばしが崩壊するなら私としてはざまぁみろだ」



「鈴も助かるなら万々歳だな!」



「…………事はそう簡単じゃない、呪殺の彼岸家が抜けるなら四任橋しにんばしの崩壊は確実だが……あの家はそう簡単に足を洗える家じゃない」

「…………他の家が許さないとかそういう話じゃない、積み重ねた念があの家を離さない」

「…………怨念なんて生易しいものじゃない、呪いを掲げる家が真っ当な筈はないだろう?」

「…………ある意味、あの家こそ四任橋しにんばしの核であり、長年の殺しが圧縮された家だ」



 そう語る鈴の顔は、青ざめていた。自身の家に対する嫌悪感とは別の、心からの恐怖が見て取れる。その理由を、丁度同じ頃クロノ達は聞いていた。



「ジパングは独自の文化を持つ地域、故に情報が外に出るまで時間がかかる」

「だからこそ、ご先祖様達はここを拠点に隠れ住んだ、力を磨き、時を待った」

「時代が殺しを容認する程に腐れ切った頃、ご先祖様達は殺しを生業とし始めた」

「名が売れ、ご先祖様達は各々殺しの能力を伸ばしていった……綺麗ごとを払うため、口出し手出しを捻じ伏せる為、ご先祖様達は手を組んだ……殺しへ伸びる四方の橋、四任橋しにんばしを名乗り出した」

「当初は四つのお家の力関係はほぼ互角だったけど、私達彼岸家が劣り始めてね」

「私達は呪殺を扱う……呪いとは想い、念の力……結局何処まで伸ばしても、極めても、個人の念なんてたかが知れているものよ」

「だから、立場が悪くなる前に……ご先祖様は手を染めたの、外法のそれに」



「…………外法って?」



霊体種ゴーストがどうやって生まれるか知ってる?」



「死んだ人の魂と魔力が結合して現世に精神体で留まる者、って図鑑で読んだよ」

「自分でそうなる奴とか、他者にそうされる者とか、沢山種類があるって、厳密に言ってお化けとは違う原理も正体も説明出来るモノだっつってんのにいつまで経っても俺の精霊はお化けが怖いと駄々をこねる」



「怖いものは怖いんだよぉ!」



「精霊虐待はやめたほうがいい、僕の意思とは別に拳が唸る」



「死ね、クソ、契約者……」



「ほら、ね?」



「う、うん……なんか大変そうだね……」

「話を戻すけど、うん、理由はそう、沢山ある」

「けど共通してるのは、念だよ……念が強ければ強いほど霊体種ゴーストは強くなる、未練、恨み、殺意…………なんでもいい、やり残した何かへの執着が、想いの強さが、精神の糧、霊体の力の源」

「だからね、彼岸家は死者の念に目を付けた……だって私達の周りには日常的に死が転がっている……死者の魂が、未練が、膨大な数漂っている」

「彼岸家はね、自分達が殺した人達……それだけじゃなくて、他の家の犠牲者達の魂もかき集めたの」

「殺された恨み、憎しみ、果たしたかった願い、犠牲者の嘆きと苦しみをかき集めて、殺意の塊を形成した…………呪いの塊を生み出した」

「彼岸家は四任橋しにんばしの核になった、四つの家が殺しを重ねる度、抱えた呪いは力を増す」

「人の手には負えないほど肥大化した呪いをコントロールする為、家の者を殺め霊体と化し、呪いの器にするほどに……人の所業から外れてしまった……」

「…………私は当代の器、家の為、呪いの注ぎ口になるため……己の欲を歪められ、こう在り続ける事が存在理由になった者、私を世に縛る念は……家の為、呪いの制御の為……!」




「…………」




(重すぎて切り札の私でも圧死しそうだ……!)




 空気が異様な重さを孕む中、マルスが呆れたように口を開いた。



「で、散々自分達の為に殺しを重ね、限界が来たから解放して欲しいと?」

「このままじゃ抑えきれず呪いを撒き散らしそうだから助けてくれと? どの口が」



「おい……マルス」



 マルスを制しようとするクロノだが、正直同じことを思ってしまった。何処まで行っても、彼女達は加害者側だ。呪いとして被害者がそこにいるのなら、死後も道具のように扱っていたのに変わりない。それで助けて欲しいは、虫が良すぎると思ってしまう。



「もっともです、私自身は救われるわけにいかない罪人です」

「…………呪いの肥大化は深刻、既に家の者は多くが逃げ出してしまった……私が器として呪いを抑え込むのも限界があります」

「…………器になってから毎日、ずっと聞こえてくるんです、呪いに取り込まれた者の叫びが、苦しむ声が、私達への憎悪が……ずっと、ずっと……」

「…………殺しを重ねてきた我等、その責任から目を背ける事は出来ません、私は当代の器として責任を果たしたい、この呪いを終わらせたい」

「私は地獄に堕ちてでも、器としてこの呪いを終わらせ、彼等の念を天に注ぐ……それが役目です」

「…………ですが偉そうなことを言っても……既に自我を呪いに取り込まれ一人じゃ殆ど何も出来ぬ有様……他の家の妨害もあり、私だけでは役目も果たせぬ惨状……」

「なりふり構ってはいられないのです……どうか、お力添えを……犠牲者の救済及び、罪人の私を断ってほしい……!」



 今回立ち塞がったのは、まさに死の凝縮体だ。今まで関わった事がないくらい、殺しが渦巻く地獄のような世界。それも、人の欲が招いた死、力で積み上げてきた殺しの歴史。



「力の果ては、どう転んでも悲惨な末路だなァ」



「レヴィ達も笑えない、嫉妬しちゃうね」



「で、どうするんだクソクロノ」



「当たり強くない?」

「んー、セツナ、どうする?」



「なんで私!?」



「何か言いたそうな無表情だったから」



「え!? 私顔に出てたか!?」



「変わらぬ無表情だよ、いつも通りのつまらない顔だよ」

「まぁでも、いつも通り分かりやすい無表情だよ」



「えぇ~……?」

「………………私は、その……助けたいと思う」

「なんでかわかんないけど、そう、思う」



「切り札の決定だし、やりますかぁ」



「え!? 私のせいなのか!?」



「お前の成長じゃないか?」



「セツナちゃんクロノに似てきたねぇ、本当に」



「えぇ、私あんなに馬鹿じゃないぞ……」



「言うじゃねぇかこの野郎…………まぁそういうわけでさ」

「どうしようもないくらい救いようがない呪いを、救い上げにいこうか」



 そう言って、クロノはホロビに手を伸ばす。ホロビは顔を上げ、涙を流してその手を取るのだった。



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