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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十章 『天上地獄のエルルゥ・ホロウ』
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第七百五十七話 『運命が呼んでいる』

「リムニアとコールにサインを貰った!」



「冗談抜きで値打ちもんだよ、それは」



 無表情のドヤ顔を決めるセツナは、サインをクロノの鼻先まで押し付けてきた。体力を使い切って昼まで寝ていたセツナ達だったが、驚いた事になんとセツナは昨晩の記憶をクロノの影響抜きで覚えていたのだ。



「忘れるもんかって、歌を聞きながら思ってたんだ」

「綺麗で可愛くて、でも格好良くもあって胸がドキドキして耳が幸せで、なんかこうドーンってなってハチャメチャが滅茶苦茶で切り札って感じがしてっ!!」



「分かった分かった、楽しんでくれたようで何よりだよ」



「起きてからずっとこうだよ、語彙力が糞過ぎるくせに興奮冷めやらぬ感じで流石のレヴィも疲れたよ」



「まァうるせェけど気持ちはわかるぜェ、ボクも満たされたからなァ」



 料理長と固い握手を交わし、何かを得た様子のディッシュは見た事がないくらい爽やかな笑顔を浮かべていた。



「欲に溺れ堕ちた先で、ボクは新しい世界を見たぜェ」

「今なら暴食の新しい可能性を示せそうだァ」



「そいつぁよかったな」



「そんな事で可能性を示されたら元リーダーとして僕は複雑だが?」



「満たされても平和ボケだけは勘弁してよねー」



「未だに半分寝てるお前にだけは誰も言われたくないだろうな」



 辛口を叩き合う大罪達は、荷物をギガストロークへ積み込んでいた。食糧や旅の荷物は勿論、大罪各々が勝手に買い漁った土産などを好き放題詰め込んでいる。



「一回アジトに戻れば良いんじゃないのか?」



「それはそうなんだけど、ギガストロークの船尾辺りはフロー特製のアイテムボックスになってるんだよ」

「最先端の技術をこれでもかってぶち込んである、亜空間みたいな超便利空間なんだ」

「せっかく便利な機能があるんだし、楽しい勢いのまま突っ走ろうじゃないか」



「船より大きな物が吸い込まれてるんだが……どうなってんだあれは……わかんない、切り札には何もわからない……」



「ふふふ……強欲にも何もわかんない」



 また超絶天才の波動で強欲ゴーレムがショートしてる。しかし聞かれてもクロノは凡人、答えようがない。



「元々俺の荷物入れは……これ、このちっこい正方形の魔道具なんだけどな? 名前は収縮の箱ルール・リフォーム・改四式、何でもかんでも収縮させて箱自体もこんなに小さくなるビックリ魔道具で勿論フロー作」

「滅茶苦茶便利なのは言うまでもないよ、重くもないし場所も取らないし容量異常だし……でも流石に生ものは腐ったり欠点もある」



 以前、討魔紅蓮との戦いの後にフローから貰った魔道具だ。大変活用させてもらっているが、食材がダメになった件はフローに相談させて頂いた。そうして改良されたモノが、ギガストロークには備わっているのだ。



「ギガストロークの貨物機構はこいつのパワーアップ版とも言える、なんでも収縮させて吸い込むし、容量は異常×異常に進化したし、中に入れた物は腐らない」



「凄いな、なんでだ?」



「知らない」



「時間でも止まってるのかもな、ははは」



「フローだしそのくらいやりそうだな、ははは」



「はははははははははははは」



 ドゥムディがおかしくなったが、クロノは凡人なのでどうにもできない。



「じゃあセツナがダメになったらあそこに入れれば保存出来るね」



「かもねー」



「切り札を何だと思ってんだ! 大体生き物を入れて大丈夫なのか!?」



「ダメって言われてないし大丈夫じゃないかな」



「ドラゴンの尻尾まで吸い込んだぜェ」



「なんと奇怪な、まるで底無し沼だな」



 後ろでツェンとディッシュがやべぇものをぐいぐい押し込んでいるが、ものの数秒で吸い込まれていく。なんだか怖くなってきた。



(そういえばどうやって取り出すんだろう……)

「さ、さぁて……コリエンテついでに次はアルルカの村に少し顔を出して……その次ジパングに行きますよー」



 ゲルト・ルフでの戦いの際、コリエンテ中にプラチナの能力で発生したコピー体が現れた。アクト・レリーフにもコピー体は現れ、コール曰く魁人達と手を組み戦ったのだという。



「そしてアルルカの村にはラック達が向かったと……どこから話が聞けるか分かんないもんだね」



「討魔紅蓮との戦いでもあの村は襲われたらしいしね、様子を見に行くのは良いと思うよ」

「思うけど、どうしてそこから大陸を跨いでジパングへ?」



「コールさんは流石だよ、世界中のお祭りに精通してる」

「ラーナフルーレのお祭りに行くって話をしたら大喜びでさ、今休暇中でみんなを楽しませることに全力なんだって言ったら力を貸すって言ってくれて……スケジュールを伝えたら色々アドバイスをくれたんだ」

「元々ジパングには行く予定で、雅の村にちょろっと寄ったり暦さん達に会いに行った後仙山登ってみたいなぁって思ってたんだけど……なんとジパングでも大きな祭りをやるらしいんだ」

「日程的にそのお祭りに顔を出したりジパング観光でぶらぶらしたり、アクトミルの様子を見て、知り合いにも会って~って感じでふらつくと丁度いい感じで疲れも溜まって……そこで温泉国・フィンレーンですよ」



「クロノも温泉の力を理解してきたみたいだね」



「しかもコールさんがサービス券をくれました……」



「俺達の契約者がどんどんせこくなっていくな」



「大所帯なので……規模が大きくなるとどうしても迷惑もかけちゃうものなのです……」

「削れるところは削るし……お得なもんは何でも使っていくのだよ……」

「そして全てを糧にする……温泉国の業を呑み込み俺は精霊風呂を新しい次元に…………だぁっ!!!」



 正気を失いかけたクロノは自らの頬を殴り飛ばす、もう少しで自我を風呂に呑まれるところだった。



「俺は一体……」



「……汚染……」



「重症だねぇ……」



「勝てやしないよ、温泉の『和み』には」



「もうこれ呪いの一種だろう」



 己を蝕む謎の力に恐怖を感じるクロノだったが、旅立ちの準備を進める彼等の元にコールとリムニアが現れた。



「やあクロノ君! 出発の準備は順調かい!?」



「うん、今正気に戻ったところ」



「うん?」



 頬を赤くしたクロノに対し、コールは首を傾げていた。



「しかしせわしないなぁ、昨日あんだけ騒いでもう出発かぁ」



「ジパングのお祭りまでもう何日も無いし、ジパングには詳しくないから余裕をもって出たくてね」



「寂しがる事はないさリムちゃん! 僕達はラーナフルーレで再び出会える! 今よりももっと輝かしく! 昨晩より更に楽しい時間が待っている!!」



「別に寂しくねぇけどさ……まぁラーナフルーレの祭りはかなり大規模なんだ、あたし達も結構ガチ準備してんだ」

「昨日レベルで満足されちゃ堪んないよ、本物を見せてやる」



「はわぁああ……」



 すっかりプロみたいな事を言うようになったリムニアを、セツナはキラキラ無表情で見つめていた。隣のコールが保護者みたいな優しい目をしているのが、なんか面白い。



「リムちゃんの言う通り、ラーナの祭りはその規模も凄まじいからね? 僕等も当然超本気さ!」

「雪が彩る夢の時間、君達と過ごせたら嬉しいな」

「大きなお祭りなんだ、クロノ君も知り合いを誘いまくってくれよな」



「うーん、みんな忙しそうに働いてる中俺達に休暇をくれてるからなぁ……そんな立場で誘うのは空気を悪くするような……」



「ノンノン、その考えは間違ってると思うぜクロノ君」

「人の善意に善意で返して何が悪いんだ、それに誰にだってお休みは大切だ、君にとっても周りにとってもね」

「大体そんな面倒な気遣いするような奴が、制止も振り切って命懸けでやべぇところに喧嘩売ったり無茶するかね」



「返す言葉もねぇや……」



「まぁ無理は言わないけどさ、大切な仲間がいるなら誘ってみてくれよ」

「共に過ごす時間、僕達が最高の音で彩ってみせるからさ」



「……うん、誘ってみる」

「セツナも誘ってみたらどうだ? ラーナの祭りまではまだ日があるから、流魔水渦のみんなをさ」



「…………そだな、今度アジトに戻った時にみんなに聞いてみるぞ!」

「レヴィ達と計画を立ててくる! お祭り計画だ!」



 そう言って駆け出すセツナ、転ばないなんて成長を感じる。思わず笑顔になるクロノに、コールが近づいて来た。真面目な顔で、耳元に顔を寄せてくる。



「あまり大きな声で楽し気な空気を壊したくない、そのまま聞いて欲しい」



「……ん?」



「ジパングで四任橋しにんばしが動いたと、情報があったんだ」

「大きく動いてるわけじゃないが、彼等は四つの殺し屋からなる闇の組織、表立って動きを確認出来るわけもない、むしろ表からでも動きがあると分かる事が既に異常なんだよ」

「ジパングで大きなお祭りがあるこのタイミングでこれだ、無関係とは思えない」



「ほほぅ……どうしてそんな話を俺に……?」



「休暇中の君に面倒を押し付けるような形になって心苦しいんだけどね、勇者として僕に舞い込んで来た情報が放ってけないというか……君に黙っても居られないというか……」

四任橋しにんばしが内部崩壊を起こしているらしいんだ、君が世界に放った魔物との共存騒動が発端でね」

「毒殺、暗殺、呪殺、封殺……それぞれに特化した殺し屋からなる組織、四任橋しにんばし……毒殺と封殺は討魔紅蓮に家系の者がいたらしく……討魔紅蓮崩壊と共に家の力が欠けたそうだ」

「パワーバランスが崩れたタイミングで、呪殺の家が魔物側に寄り殺しから足を洗うと言い出したらしい……結果四つの殺し屋は今ゴタゴタしているんだとか」



「魔物側に……寄った?」



「放っておけないだろう? だけどタイミング的に僕達はジパングに向かえないんだ……ラーナの祭りまでまだ日はあるけど準備はそろそろ始めないといけない」

「困っていたところに、君が来た…………僕はこれを運命の導きと見たんだが……どうだろうか?」



「そりゃあ…………関わるよ」



「それでこそ、君だよ」



 笑い合うクロノとコールだったが、レヴィの元へ転がり込んだセツナは背筋に冷たいものを感じ取っていた。



「また顔から転んで……呆れさせるんじゃなくて嫉妬させろって何回言わせるのさ」



「予感がするぞ……」



「はぁ?」



「またっ!! 大変な事が起きる気がするぞ!!!」



 こうして運命に導かれ、クロノ達はジパングへ向かう。そして、切り札が呪われる。



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