第七百五十四話 『笑顔満ちる場所』
「フローがコールさんはここを拠点にし続けてるって言ってたんだけどなぁ」
コール・ミジットは有名人、探せばどこに居るかすぐにわかると思っていたのだが……意外なほど情報がなかった。
「関係者じゃない人は中々会えないのかなぁ?」
「リムニアちゃんも一緒だし、魔物関係で最近ずっと世界が荒れまくってたし、セキュリティ上げてても仕方ないよね」
「前貸し切ってたホテルにも居なかったしなぁ、ラーナフルーレのお祭り前に一回会っておきたいのに……討魔紅蓮の時はコールさん達の歌がマジで世界を押し上げたって聞いたから改めてお礼も言いたいのにさ」
世界中を巻き込んだ戦争同然の戦いの中、コール達の歌は間違いなく奇跡を起こし、各地を勝利に導いた。クロノが撒いた火種を、燃え盛る災禍を、世界を鼓舞し消してみせた。
「来るのが遅すぎるくらいだ、地面に頭擦り付けるレベルで謝って、お礼言って……それから……」
「俺はあの歌馬鹿勇者はそんなノリじゃねぇと思うけどな」
「きっと何が起きても、あの勇者はリムちゃんや仲間達と馬鹿やってると思うよ」
「お前等最初の印象で語り過ぎだよ、そりゃコールさんはイメージの憶倍くらい変人だったけど、凄い勇者で滅茶苦茶忙しい人なんだからな?」
「クロノに変人って言われたらこの世の終わりだよぉ?」
「……類は……友を、呼ぶ……お友達……」
「ぐぅ……まぁ光栄ではあるけど、それだってさ、本来は俺なんかが友達になれるわけない凄い勇者だって話で……ぶわっ」
前を見ないで歩いていた為、クロノは人にぶつかってしまった。見上げないと顔が見えないくらい、大きな人だ。
「ごめんなさい! 前見てなくて」
「あら? いいのよんこっちもごめんなさいねぇん? ちょっと筋肉保有用が多すぎてマッチョな巨体を…………」
「あれ? 貴方……サンフラワーさんだ!」
「あらあらあらぁん!? クロノ君じゃなあい!? コールきゅんのお友達! リムちゃんとあたし達を巡り合わせてくれた大恩人! 会えて嬉しいわぁっ!!」
筋肉の怪物のようなオカマだが、コールの仲間の中では一番の人格者と言ってもいいくらい良い人なサンフラワーと偶然遭遇できた。ライブを手伝った時や、天焔闘技大会の空き時間など地味に話したことがある。コールの仲間の中では、一番関わりがあった人だ。
「フローから無事を聞いてはいたけど、こうして元気な姿を見られて嬉しいよ」
「いやぁねえ! 筋肉は死なないのよぉ? っていうか無事云々ならクロノ君の方でしょ!? あたし達みんな心配してたんだから!」
「その節はご迷惑をおかけして……」
「馬鹿ねぇ、迷惑上等! リムちゃんの一件以来あたし達だって魔物との共存ラブリー勢なんだから!」
「むしろ理不尽に魔物を糾弾したり殺したりする奴等は許せなかったし、リムちゃんを敵視したり、酷い事する討魔紅蓮とはやったろうじゃないって感じだったんだから! みんな喧嘩上等オラオラだったのよ?」
「あの一件でコールきゅんの評価は爆上がりしたし、リムちゃんとあたし達の絆は永遠の物になった……結果オーライ万事解決ラブ&ハッピーな終わりだったんだから、君も気にしないで頂戴ね?」
バンバンと笑顔で肩を叩いてくるサンフラワーに、正直救われる。何もかも良い方向に落ち着いたのなら、本当に良かった。
「あの、無理なら良いんですけど……コールさんには会えますか? 直接お礼を言いたくて」
「なによなによ他人行儀ねぇ! もはやクロノ君はファミリー! あたし達の仲間じゃない!? むしろ会いに会いまくって頂戴よ! 実はこのアクト・レリーフと正式に契約してね! コールきゅんは世界を巡る勇者ではあるけど、ちょっと名が売れすぎて腰を落ち着ける拠点が欲しくなったの! だから今はこの国の専属勇者でもあるのよぉ!」
「へぇええ! コールさんが専属勇者! 益々格好いいなぁ」
「『双極』のコール・ミジットって呼ばれていてね、最初は固有技能に合わせて『天極』って二つ名を国から授かったんだけど……リムちゃんとのライブが大人気過ぎて! 二人合わせて『双極』って呼ばれるようになったのよぉ! 鼻が高いわ!」
「コールきゅん達は目立つから! 出来るだけ目立たないようにひっそりとした拠点まで用意してもらってね! 世界中を巡って活動するのは変わらないけど、それに加えてこの国の更なる発展にも力を入れるようになったわけ、コールきゅん歌鳥人種好きだから……関わりのあるこの国の事も放っておけないのよぉ」
「そうそう! この国に昔からあった歌鳥人種との取り決めも無くなりそうなのよ! 互いのエリアには立ち入らないって奴!」
「今やライブエリアは歌鳥人種の溜まり場だし、透駈山への立ち入り禁止も取り下げられてるわ!」
快く拠点へ案内してくれるサンフラワーは、物凄い早口で現状を説明してくれる。その表情はとても楽しそうで、聞いてるこちらも笑顔になってしまう。
「……この国は、共存の道を歩んでくれてるんだな」
「今じゃ歌鳥人種以外の魔物も顔を出してくれてるわ、この前ちょっと悪魔が国の中で悪さした時があったんだけど……流魔水渦の子達と撃退したのよ」
「そこからあれやこれやと色んな種族の子とお話して、んもう距離が縮まったわ・け! この国も、コールきゅんも、もはや止められないわよ! 煌めく楽曲は世界を巡り彩るのよぉおおおおおおお!! んああああああああっ!!」
「あはは、リムちゃんは大変そうだ」
「ふふふ、確かに毎日大変そうね……」
「幸せそうで、困っちゃうわ! あたし達も幸せ過ぎて筋肉が育っちゃうっ!!」
こうしてクロノはサンフラワーに案内され、コール達の拠点に辿り着いた。なんと隠密魔法で入口を隠蔽された、地下に拠点は存在した。
「あぁ我が友クロノ君っ!! 元気な姿が見られて僕は感激だよ!! 見てくれ僕等のリムちゃんを! 愛らしさで目が潰れてしまったら申し訳なぐはぁっ!!」
キラキラしながら現れたコールが、リムニアの回し蹴りで吹き飛び壁に激突した。
「よぉ久しぶり、生きててなによりだ」
「リムちゃん久しぶり、俺のせいで大変だったろ……ごめんな?」
「おう、とんでもねぇ目に遇ったよ」
「でも、大切なモノにも気づけたからいいよ、何も失わずに済んだしな」
「お前も、守れたんだろ?」
「…………守れなかったモノもあった」
「だから、もう二度と零さない」
「……またなんかあったら、あたし達も手伝ってやるよ」
「一人じゃなんにも出来ないから、みんなが居れば無敵だから」
そう言って笑うリムニアは、本当に天使のようだった。何か吹っ切れたようで、その顔は自身に満ちている。
「リムちゃん、あたしお買い物途中なのよね」
「コールきゅんはクロノ君に任せて……ちょっと手伝ってくれるかしら?」
「しゃーないなぁ、付き合ってやるかー」
そう言って、リムニアは笑顔でサンフラワーの隣に飛んでいった。残されたクロノは、床に転がるコールに視線を移す。
「……ありがとうございます」
「お礼を言うのはこっちだよ、本当にね」
「君は迷惑をかけたように言うけど、君が僕達を巡り合わせた……僕だけじゃ切れてしまっていた縁を、君は命を懸けて繋いでくれた」
「君が繋いだ奇跡が、僕達を幸せにした……僕等はそれに感謝し、報いたに過ぎない」
「…………改めて、君の勝利を、生還を心から祝福させてほしい…………また会えて嬉しいよ、友よ」
笑顔で手を差し出してくるコールに応え、二人は握手を交わす。本当に、自分は縁に恵まれたと思う。
「色々話したい事が山積みなんだ! 今夜は僕達と夕食を共にしようじゃないか!」
「実はこっちも少し大人数で……それにコールさん忙しいんじゃ……?」
「何一つ問題じゃないさ! 君との時間は今この時を満たすもの! 僕達は今を生きているのだから!」
「何千人でも呼ぶといい! 美味しい食事と僕とリムちゃんの歌で天国に招待しよう!」
「……実際の天国を見てきたから思うけど、コールさんの歌は天国超えてるよ」
「地獄も見てきたから、余計にね」
「相変わらずスケールの大きい子だ、本当に君は面白い」
「今みんな買い出しでね、サンフラワーさん達もまた出ていってしまったし……少し時間をくれるかい? 僕も書類を片付けてしまうからさ」
「今夜は、君と思いきり語りたいんだ」
「じゃあ手伝いますよ」
「それはいい、素敵な時間になりそうだ」
コールの歌を聞きながら、クロノは穏やかな時間を過ごすのだった。
クロノが穏やかに過ごしている頃、セツナはレヴィ達とはしゃぎ回り……。
「レヴィ! ミライ! どこに居るんだああああああああああああああああ!」
迷子になっていた。
「また一人だぞ……なんで……ちゃんとミライと手を繋いでたのに……」
手を繋いでいても迷子になる切り札は、多分世界中探してもそうはいない。
「ふふふ……孤独に絶望するか……迷子になる自分の切り札レベルの低さに絶望するか……選び放題でやんなっちゃう」
「泣くな……私は切り札……泣くもんか……あっ……財布レヴィに預けてた(絶望)」
絶望のラッシュに打ちひしがれるセツナ、往来の真ん中で崩れ落ちる切り札を、天使が発見する。
「サンフラワー、なんか絶望って二文字に押し潰されてる奴がいるぞ」
「あらやだ、迷子かしら」
「おーい、どうしたお前! 道の真ん中で邪魔だぞ!」
「あぁ……この世界に対して切り札は無力だって思い知ったところなんだ……」
(なんか無表情なのに滅茶苦茶可哀想に見えてくるな……こいつ……)
「迷子か?」
「……うん、仲間に財布も預けてるんだ……楽しい休暇が絶望に急転直下だ……」
「じゃあ一緒に来いよ、仲間が見つかるまで面倒見てやる」
「いやいや……見ず知らずの人にそんな迷惑……」
「うちの仲間ならそうするし、あたしも放っておけないよ」
「この国で笑顔じゃない奴は、あたしが許さねぇ」
そう言って笑うリムニアを見て、サンフラワーは後方保護者面をしていた。腕を組み、満足げに笑っていた。
「リムちゃん……立派になって……」
「うちのリムちゃん、マジ天使っ!!」
「後ろのあれは放っておいてくれ、見た目やべぇけど悪い奴じゃないんだ」
「う、うん……」
こうして保護された切り札は、少し後に無事レヴィ達と合流する。そのまま拠点に案内され、クロノとも合流するのはまた別の話である。




