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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十章 『天上地獄のエルルゥ・ホロウ』
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第七百五十三話 『全ての娯楽が集う国』

 監獄での騒ぎをなんとか収め、事後処理もフローのおかげで片付く目途が付いた。万事解決とは言い難いものの、事態は収束したと言ってもいいだろう。



「じゃあ始めるか、裁判」



「はい?」



 当然のように連行されたクロノは、大罪達の前に正座させられていた。



「さてクロノ、此度の件どう言い逃れするのかみせてもらおう」



「ど、どうって……」



「ボク達は観光に来たんだよァ? 大立ち回りからの戦闘救護後片付けのお仕事の詰め合わせセットなんだけどなァ」



「そーだーそーだ!」



 大罪の後方からセツナが声を上げている。なるほどあいつに乗っかって楽しんでるわけだ。



「待った! 今回の件は俺にとっても予想外であって!」



「だが今回の件の根っこの部分は貴様の活動が引き起こしたものなのだろう、それを知って尚言い逃れするのなら中々厚い面の皮だな」



「休めるって聞いて付き合ったのに働かされたんだけど、マジ怠惰ー」



「そーだそーだそーだ!!」



 ここぞとばかりに乗ってくるし、何かマルスニヤニヤして凄く楽しそうだし、セツナクッソうるさい。



「レヴィは犯罪者セツナが見れて結構楽しかったけど、まぁ面倒かけられて迷惑だったよね」



「レヴィは私が嫌いなのか?」



「大丈夫だよセツナちゃん、レヴィは私達の事大好きだからね……色欲の私が保証するからね」



「まぁこのように楽しんでる奴等もいるんだ、あまりクロノを責めてやるな」



「ドゥムディさん……」



「未知のゴーレムの残骸漁ってご満悦だなァ、ボク達全員が満足してねェ時点で息抜きになってねェんじゃねェのかァ?」



 ディッシュの言い分はもっともだ、正直クロノ自身も申し訳ない気持ちはある。息抜きプランを暴走までして練りに練ったのに最初から躓いてしまった。移動で振り回し、新天地にまで赴いたのにこの様である。仲間を働かせ、切り札に有罪の烙印まで押してしまった。



「うぅ……」



「この裁判でお前に勝ち目はないぞクロノ! 言い逃れできるならやってみろ! マルス達があの手この手でお前を陥れてやるからな!」



「これが切り札の台詞? 嫉妬も呆れて物も言えないよ」



「じゃあちょっと黙ってろ! 性格の悪いオウムみたいに一々切り札を虐めるな! 泣くからな!?」



「威厳が行方不明になって久しいよ」



「私は楽しくわいわいしたいだけなんだよ! 切実に! 気の休まる時間を! 切り札に! 切り札にぃぃ!!」



「騒がしい奴だ、視界の端で鬱陶しい」



「みゃああああああああ!!」



「ツェンが睨むからセツナちゃん壊れちゃった」



 休みたい衝動と恐怖がごちゃ混ぜになったセツナが無表情のまま飛び跳ね続けている。どうやら溜め込んだストレスが限界らしい。寝込んでいた自分を起こす為、セツナは相当頑張ってくれた。セツナにガス抜きさせたい気持ちに嘘はない。ここらで本気を出して楽しませる必要がある。



(今回のプランの目玉は、ラーナフルーレのお祭りだ……絶対楽しい最後の切り札……この流れを引っ繰り返すことだって出来るはず……でもまだ開催日まで日があるから他で繋ぐしかない……今のセツナをジパングや海の底に連れて行っても落ち着くとは思えないし、温泉国も精霊風呂の余韻がまだ残ってそうでインパクトに欠ける……セツナの不満無表情を粉砕するには……)



「良いんだ良いんだ、クロノもどうせ私の事なんてどうとも思ってないんだ……虐めて面白い反応する切り札程度にしか思ってないんだ、良いんだもう、拗ねてやる拗ねまくって拗ね系切り札になってやる」



「虐められるのがお望みなら仕方ないけど虐めるね、あー嫉妬嫉妬」



「嫉妬の意味を辞書で引き直してこいクソチビ悪魔!」



「物忘れの激しい切り札様が辞書なんて知ってるなんて嫉妬しちゃうなぁ!」



「あーうるせェなァ、ミライその馬鹿二人黙らせとけよなァ!」



「喧嘩するほど仲がいい二人が愛おしいなぁ!!」



「馬鹿しかいないのか、煩わしい……」



 収拾もつかなくなってきた、このままでは暴走した理不尽は全てを焼き尽くすだろう。所持金に大打撃を受ける可能性があるが、予定を変え奥義を使うしかない。元々お祭り前に挨拶に行こうとは思っていたのだ。



「…………今回は予想外の事態に巻き込まれて、みんなには迷惑をかけた」



「本当にな! この有罪クロノ!」



「有罪切り札がなんか言ってるよ」



「セツナの怒りももっともだ、悪かったと思ってる」



「ばーかばーか! 役立たずの有罪切り札でごめんなさい!! そんなに泣かせたいなら泣いてやるよ!」



「レヴィ、謝った方が良いよ」



「一周回ってなんか悪気を感じてきたよ」



「だから俺も、切り札を切るよ」



「なん、だと……?」



「何かあった時、行こう行こうとは思ってたけどこんな形で向かう事になるとは思ってなかった」

「全ての娯楽が集まる場所……欲望渦巻き満たされる歓楽境……楽しみ以外存在しない眠らぬ国……」



「ば、馬鹿な……そんな国があるわけが……この悲しみ切り札を救ってくれる流れなんてある筈が……」




「行くか…………アクト・レリーフッ!!」




 エルルゥの王に軽く挨拶を済ませ、クロノ達はギガストロークを走らせる。海を越え、透駈山を脇目にクロノ達はとんでもないフットワークの軽さでアクト・レリーフへと雪崩れ込んだ。



「沢山のお店! すっごい人の数! キラキラで賑やかで! お祭りかあああああああああっ!?」



「この国はいつもこんなだよ」



「いっつもこんな金ぴかなのかっ!?」



「あぁ、ここはアクト・レリーフ…………全ての娯楽が詰まりし国だ」



 前回来た時も精霊達が大はしゃぎで微笑ましかったのを覚えている。流石に今回は二回目だし精霊達も落ち着いて……。



「キラキラピカピカ楽しいねー!!」



「ここはいつ来ても賑やかだね、こっちも笑顔になるよ」



「……甘い、の……いっぱい……」



「今日くらい羽目を外して良いんだろう? 契約者様よぉ?」



(……セツナの手綱任せようと思ったけど、こりゃ無理だな……)

「休暇だしね……楽しんでこいよ……」



 前回は楽しみ途中でライブ問題に関わった為、今回は思いきり遊ばせてやりたい気持ちもある。出費はかさむだろうが、この際目を瞑ろう。



「わーわーわーわー!」



(機嫌治ったな……この切り札ちょろすぎないか)

(けど問題は大罪……こいつらは油断できない……こいつらにも楽しんでもらわないと意味が……)



 振り返ったクロノだったが、マルス、レヴィ、ミライの三人しか居なかった。



「え、ちょ……他のみんなは?」



「欲のままばらけていったぞ」



「止めろよリーダーッ!!!!」



「僕等は元々人間だった頃からこんな感じだ」



「欲のままに楽しんでいただけてるようで何よりですぅ!!! でも流石にバラバラは……」



 よく見ると国の中に魔物の姿が少しだけ確認出来る。前から人が多かった国だが、ここまで堂々と魔物が出歩いていただろうか。



「コールさんのおかげかもね、彼の歌鳥人種セイレーンに対する訴え、討魔紅蓮や悪魔騒ぎを経てこの国は魔物に寄った変化が生まれたのかも」



「受け入れられてるんだねぇ、この国楽しいもんねぇ」



「……心も、穏やか……気持ちの良い、波紋……感じる」



「この調子なら人間化の上手い大罪達は問題ねぇだろ、悪意を持って接しない限りこの国の奴等は前から寛容だったしな? 精霊の俺達でも普通に買い物出来たくらいにはよ」



「……コールさん達に挨拶するのが楽しみになってきたな」



「じゃあ僕もこれで」



「…………もしかしてマルスって、俺が振り返るの待ってたのか?」



「慌てる君を見たかっただけだよ」



「…………そりゃ、どうも」



 律儀な奴だ、本当に憤怒の悪魔か疑わしいくらいだ。でもクロノは知っている、マルスの過去は全てこの目で見てしまった。だからこそ、怒りで我が身を焼き尽くしたマルスにこそ、今を一番楽しんでもらいたい。根がどんな奴か、もう知っているから。



「集合場所くらい決めて……」



「器の位置くらい、僕にはわかるさ」



「みんなの位置は……」



「もう見失わない」



「そっか、んじゃ後で」



 人混みに紛れていくマルスを見送り、クロノは残ったレヴィとミライに目を向ける。この二人は多分セツナについてくれるんだろう。



「クロノクロノクロノクロノクロノ! あれもこれも気になって目が足りないぞ!」



「落ち着けって、別に逃げたりしないから」



「あれだけ膨れてたのにちょろいセツナだよ、嫉妬しちゃうな」



「レヴィってば心配しなくてもセツナちゃんは逃げないってば、可愛いなぁ」



「は? 別にどうでもいいよ」



「どうでもいいなら他のみんなみたいに勝手にどっか行っちゃうと思うんだけどなぁ~~~」

「セツナちゃんと回りたいんだもんねぇ?」



「ニチャつくのやめてよ色欲漏れてるよ、大体なんでお前は残ってんのさ」



「愛するレヴィとセツナちゃんと一緒がいいからだけど?」



「心の底からうざったいよ」



「えっと……レヴィちゃんとミライさん、セツナ任せていいですか? 俺ちょっと知り合いに挨拶が……」



「ちゃん付けやめて、別にいいよ面倒押し付けられるのは慣れたよ」



「心配しなくてもちゃんと愛すから、お任せ!」



「助かります、俺は俺で精霊見てなきゃなんないんで……」



「あっちも光ってるぞー!! わぎゃあ!」



 はしゃぐセツナがすっ転んでいる、あれで到着してから26回目だ。いつもなら1回転べばめそめそしてる筈だが、珍しく今はテンションで上書きされているのかすぐ起き上がってまた転んでいる。



「あのままじゃダメージ麻痺のまま死にかねないので、宜しくお願いします」



「あれもう一種の固有技能スキルメントだよ」



「挨拶終わったら感知してこっちから合流するんで、それまで頼みます」



「はいは~い、よっしゃセツナちゃん! 私達も遊びにいこー! お仕事で稼いだお金を使うぞー!」



「うおー!」



「セツナは多分財布落とすからレヴィが預かるよ」



「お前は切り札をなんだと思ってんだ!! でもきっと落とすから預けるぞ!」



「セツナこそ切り札をなんだと思ってんのさ」



 なんだかんだ言うけど疑いもせず財布を預けるセツナと、ちゃんと気遣うレヴィが本当に微笑ましい。この調子なら何の心配も要らないだろう。クロノは後の事を任せ、コール達へ挨拶をする為歩き出す。色々なものに目を取られる精霊達を引きつれ、まずやるべき事を済ませる。それが終わったら、精霊達にも息抜きをしてもらおう。今度こそ、思い切り遊んでもらうのだ。



 ちなみに解き放たれた大罪達が各々欲のままに暴れ回り大混乱を生むのだが、ここは全ての娯楽が集いし国。その混沌はクロノの耳に届かず、方々で伝説が刻まれたりするのだが、歓声と笑い声に包まれ呑まれていく。ここは娯楽の国、細かい事は笑い飛ばされる煌めきの国。楽しんでもらいたい、そんな慎ましい欲なんて一瞬で満たされる、夢の国。今宵、少年の欲は満たされる。




 ――――ただし、財布は崩壊する。



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