表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
8/863

第七話 『大馬鹿に免じて』

 エルフが住むという森を目指す事数時間、クロノは良く考えるとこのセシルと言う少女のことを何も知らないことに気が付いた。


 

「なぁ、お前は何で空から落ちてきたんだ?」

 


 旅に同行されるのならば幾つか聞いておいたほうがいい、それに数時間ほど沈黙が続いて辛かったのもある、クロノは何気なく話を振ってみた。



「言う必要が無いな」



 そしてばっさり切られた。




「……お前さ、旅についてくるなら少しは友好的にだな」




 ちなみに先導しているのはセシルである、クロノは彼女について行っているだけだ、なんとも情けない話である、言葉に何の説得力も無い。




「先に言っておくが、貴様の旅にはついていくが私は貴様の味方ではないぞ」




 前を向き、歩きながらセシルはキッパリと告げる。



「私はお前の夢に興味を抱いた、そしてどこまでそれを貫けるかが気になるのだ」


「貴様がその夢の途中で折れようが、死のうが、手を貸すつもりはない」


「まぁ、泣き言をほざいていた貴様のままでは……知れている旅やも知れぬがな」



 こちらにチラッと顔を向け、ふっ……と笑う、挑発しているのだ。




「そう言われると、何が何でもやり遂げたくなるよな……」




 我ながら単純だが、旅立ちを決意した瞬間から覚悟はしたつもりだ、そう簡単に諦めてなるものか、と心に誓うクロノだった。




「それはそうとだな」




 ピタッと足を止め、セシルはクロノに向き直る。



「腹が減ったぞ」



 助けるつもりは無いが、飯は要求するつもりらしいぞ、このトカゲは。



「お前、俺にタダ飯を要求するつもりかよ」



 タダ飯食らいを同行者につける訳にもいかず、クロノは講義の声を漏らす。




「……ふむ」




 セシルは少し黙った後、チラッとこちらに視線を向ける。








「貴様を飯にしてもいいのだがなぁ……貴様の冒険は肉塊ENDか……」



「いや残念だ、つまらん最後になったな」







 何とも分かりやすい脅しである、そんな物に屈するクロノでは無い……事も無かった、結局クロノは文句も言えずに、昼飯を提供する羽目になった。




「前途多難すぎるだろ、俺の旅……」



(だって怖いんだよあいつの目、絶対に何人か殺した事ある目だよ……)



 調理セットで卵焼きとサラダを作り、パンで挟んで簡単な食事をセシルに差し出す。



「肉は無いのか、肉は」



 このトカゲいつか絶対に殴ってやる、クロノはそう、心に誓った。



「旅立ちの貴重な食料の消費速度を加速させた挙句、肉を要求するかお前は!」



 クロノは勇者ではない為、国からの旅立ち資金も出ず、その他諸々の勇者特権を持っていない、その為、この旅は資金の問題も当然ある。


しかも旅の同行者(飯は食うが、手助けはしない)までいる始末、クロノは村を出て数時間で既に、この旅の行末に不安を抱いていた。




「ふむ、まぁ美味いから勘弁してやろう、感謝しろ」




 パンをムシャムシャと食べるセシルは幸せそうな笑顔を浮かべていた、不味かったら肉を要求されていたのだろうかと、クロノは『ははっ……』と乾いた笑みを浮かべる。



 まぁ素直に美味いと言ってくれることは嬉しいものがあった、感謝云々はイラッと来たが。




「……お前は、やはり変わっているな」




そんなことを思っていると、セシルがこちらを見ながら唐突に呟く。



「大体私は初対面で貴様に襲い掛かったんだぞ?」



「その私を助け、今もこうして素直に飯を食わせてくれている」



「お人好しと呼べるレベルを超えているぞ」



 変人だ、とセシルは続ける、やかましいわ。



 今は脅されたから飯を出したのだが、と言う本心は心の奥に押し込んでクロノは笑った。



「喰われるなら飯出したほうが賢明だろ? 前も、今もさ」



「……前は見捨てればよかっただろう?」



 指に付いたパン屑を舐め取りながら、セシルは言う。確かにそうだ、自分を食い殺そうとした相手を助ける道理は無い。



「でも、助けたかったからさ」



「……何故だ?」



「理由はねぇよ……つかさ」



 共存を訴える自分が、他の種族だから見捨てると言う選択を取りたくなかったのもある、たがそれは単なる自己満足、恐らくクロノはそれ以前に……。



「助けたいって思うのに、理由ってそんなに必要なのか?」



「放って置けなかった、それが馬鹿らしいと思われてもさ、俺の性格上仕方ないんだよ」



 きっと『ただ、助けたかったから助けた』のだろう、それは単なる自己満足ではない、極まった自己満足だ。



 相手の理由なんぞ知ったことではない、クロノが助けたいから助けたのだ。




 それを聞いて、セシルは少し黙った後に。




「ぷふっ……あははははははははっ!!」




「やはり貴様は変人の大馬鹿だなぁ、面白いぞ!」




 空を見上げ、笑いながらそう言った。



「そんな大馬鹿に免じて一つ教えてやる、あの時私は貴様を喰う気はなかった」




「へ?」



 あの時のセシルを思い出す、殺気に満ちているあの目を思い出すだけで鳥肌が立つ。



「じゃあ喰わずに、ただ殺そうと……なんて残酷な……やはり魔物の凶暴性ってのは危険なのか……」





「馬鹿タレ」




 ジト目で言われた、マジで馬鹿を見る目だ。



「……こちらの都合でな、あまり他者に気がつかれたくなかったのだ」



「だから失神させてあの場を離れようとな」



「ちなみに私は人肉なんて食った事ないからな、一応言っておくが」



 尻尾で自身の肩をトントンと叩きつつ、セシルはあの日の真意を語った。



「セシルさん? 俺があの時の一撃避けなかったら失神どころか死んでますからね?」



「つかあの時の尻尾の一撃で、既に瀕死にされたからね?」



 凄まじい速度で突っ込んできたセシルは間違いなく、その爪で『首』を狙って来ていた、まともに喰らえば首から上が吹き飛んでいたのは間違い無い。




「何ぃ……? 人はそんなにも脆かったか……?」




 マジであの一撃が『失神目的』だったことにクロノは眩暈を覚えた、魔物と言うのはは規格外すぎる……。



「まぁ、空腹で倒れるほど限界だったのだ」



「うまくあの場を去ることは、お前がいなければ無理だったかも知れん」



 改めて礼を言うぞ、とセシルは頭を下げる。



「い、いや! いいよ、そんな礼とかさ!」




 あの夜、確かに色々あった。




 食料を食い荒らされ、何発も尻尾でぶっ飛ばされたりもしたが、あの夜セシルに正論を言われなければ……正直クロノは今もくすぶっていただろう。



変な話だが、感謝を言いたいのはこっちのほうだったのだ、だが変に恥ずかしくなって、素直に言えない自分の情けなさをクロノは呪った。




「えっと、何で誰にも気がつかれたくなかったんだ?」




 気恥ずかしさを紛らわすように、話を元に戻す。




「大体なんでそんなに疲弊した状態で、竜人種リザードマンが空から降って来るんだよ?」



 リザードマンは爬虫類の様な鱗で全身の8割が覆われている種族、空など飛ぶ能力は無い。


 似た種族で龍王種ドラゴニアと呼ばれる種族が存在し、彼らはその翼で空を飛ぶことが出来ると言われているのだが、彼女セシルに翼は無い、間違いなく竜人種リザードマンだ。




「……言っただろう、馬鹿に免じて教えてやるのは一つだけだ」




 そう言って腰掛けていた岩から立ち上がり、脇に置いていた大剣を軽々担ぐ。



「何だよ、気になるじゃねぇか」




「女はミステリアスな部分を残すものだ」



 そう言い残し、セシルはスタスタと先に進む。



「おいこら待て! せめて荷物片付けるの手伝えよ!!」



 聞こえない、とでも言いたいのか両耳を手で押さえセシルは先に行ってしまう。




「まったく、何なんだアイツは……」




 疑問は残るが悪い奴では無さそうだ、今はそれだけ分かれば十分だとクロノは結論付ける。





 荷物を片付け、セシルの後を追いかけようとしたクロノは遠くに人影を見た。



(……荷馬車だよな、人は……4人か……?)



 4人の人間が荷馬車を使って移動しているようだ。



「俺達と同じ方向に向かってるのか?」



 この先はセシル曰く、『エルフの森』だ、一般人に用がある場所ではない。



 クロノは少し疑問に思いながらも、これ以上モタモタしてると本当に置いて行かれるのでセシルを追いかけ始めた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ