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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十章 『天上地獄のエルルゥ・ホロウ』
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第七百四十七話 『監獄の太陽』

 私の名前はセツナ、切り札をやっている者だ。ひょんなことから切り札故に監獄行きになった私だが、大ピンチを見知らぬ悪魔に救われた。最近はどうも悪魔とは名ばかりの奴等との縁があるようだ、助かったのは事実だから何でもいいけど。そして数分の平穏はいつも通り呆気なく崩れ去り、助けてくれた悪魔の暴走に巻き込まれる羽目になったのでした。



「さぁ! 反撃の時は今っ! うおりゃあああああああああああああああああああっ!!」



「待って待ってー! とりあえずどこに向かって走ってるんだ私達は!」



「良く分からないが、クロノ君がここにいるなら合流だ!」



「全力疾走させたまま突っ込ませるな! 私の体力はすぐに尽きるぞ! よくわからない状況で突っ込んで事態が好転するわけないだろう!」



「なるほどクールだな、そんな切り札に相談があるんだ」



「切り札に相談!? ま、まぁ私は役立たずとはいえ切り札だからな? 頼りたくなる気持ちもわかるけどな!」



「実は俺は諸事情でクロノ君の前に顔を出すと不味いんだ、顔を出さず出来れば存在も知られる事なく君を守りながらクロノ君の助けになりたい、良い案はあるか!?」



「無茶ぶりも大概にしろ!! 切り札やヒーローが何でもできると思うなよ!? おんなじ人間だ労われ!!」



「ご、ごめん……」



「謝るな!! 良い案出せなかったから役立たずな切り札ってレッテルが濃くなっただろどうしてくれんだ!」



「うーん……人は切り札じゃなくても生きていけるよ頑張ろう!」



「うっせー! 私は切り札として頑張っていかなきゃいけないんだよ!」



「ははは、なんだ意外と余裕あるじゃないか!」



「毎回こんな扱いだからな、自分でもタフになったと思うぞ……ってんぎゃああああ!?」



 ドヤ顔になった瞬間足を滑らせずっこけるセツナ、速度が出ていた為顔面でスライディングし一時的に加速、ルインを抜き去った。



「その加速は危険じゃないか!?」



「やりたくてやったように見えるのか!?」



 鼻血を出しながらもツッコミを優先するセツナは、間違いなくクロノの影響を濃く受けているだろう。とりあえずセツナが悲惨なダメージを負った事により、目的地不明の進行は一旦ストップした。



「鼻血吹きなよ」



「ティッシュを鼻に詰め込む切り札を笑うがいいぞ」



「んー、笑えないなぁ」

(そして何故だろう、なんか懐かしい気持ちだ)



「それにしても本当にカオスだなこの監獄……」



 走りながら見てきたが、多くの牢が開けっ放しになっている。閉じている牢の中には、怯えている者や正気の者が閉じこもっていた。完全に内と外の状況が逆転してしまっている。



「見回りの兵は悉く脱獄した奴等に薙ぎ倒されたよ、怪我人も何処かの牢の中に避難してた筈だ」

「この混乱は起きてどのくらい経っているのかわからないけど、このままじゃ衰弱が進んで危ない……事態の解決に急がないと」

「この監獄は天に近いほど罪を注ぐ罰は気高く身を焼き、地に深いほど永遠に近しい罰に沈む……そう大ガイドブックに書いてたんだ」



「なにをガイドしてんだその本は……」



「多分だけど大罪を犯した奴は、それも注げる見込みもないくらいやばい罪人は下の方に集まってると思う、現にこの辺にそこまでの奴等はいない」

「秤のゴーレムを狂わせ、監獄内も狂気で滅茶苦茶にするような特大の影響力を持つ奴は、きっと下に居るはずだ」

「人を狂わせ、欲を暴走させ、悪魔に近しい奴が連鎖的に生まれ、狂気が狂気を呼んでパニックになってるんだ」



「なるほど? じゃあ私達は下に向かえばいいのかな?」



「監獄の入り口がある一階は看守達の部屋とか監視室とかがあるんだ、まずはそこを目指して状況を把握、出来ればクロノ君の居場所もそこで確認して次の動きを決めるってのはどうだ?」



「冷静になればお前凄く頼りになるな、勇者みたいだ」



「あぁ、何故だかこの立ち位置がしっくりくるよ」

「さて……待ってろクロノ! 今行くぞ!!」



「あぁ待て!! 脳内から一回クロノを取り出せっ!!」



 なんとかルインの冷静さを保とうとするセツナだったが、ルインは既に走り出していた。仕方ないので追いかけようとするが、不意に真横からナイフが飛んできた。



「ふぉあわがああああああっ!?」



「ん!?」



 上体を逸らしナイフを避けるセツナだったが、上体は後方に、そして下半身が前に駆け出した事でバランスが大きく崩れてしまう。そのまま勢いに負け、後頭部が地面に吸い込まれるように激突してしまう。



「んぎゃああああああああ! 結局大打撃だ!!」



「っ! セツナちゃん!」



 セツナにナイフを投げつけたのは、監獄の中央部分、吹き抜けを這い上がってきた男達だった。下層から壁面を登り、力技で上を目指してきたらしい。



「あひゃははははっ! あは、あははははは!」



「人の転んだ様を笑ってんじゃない!!」



「いや、明らかに正気を失ってる……その身は人でも精神は悪魔に近い……堕ち始めてる」

「堕ちた心と身体を注ぐ為の場が、この監獄の上層の筈……そこに自ら登ってきたのは皮肉か、それとも救いを求めてなのか……」

「この騒ぎは必ず俺達が納めよう、今は悪いが力技で鎮圧させてもら……」



「あ、ルイン見つけたー」



「あひゃぐわああああああああああああああああああああああっ!!」



 下から巨大な骸骨のような魔力を纏ったシャルロッテが飛び上がってきた。頑張って這い上がってきただろう男たちはシャルロッテに跳ね飛ばされ、更に上層に吹っ飛んでいく。



「もぉ、心配かけないでよしょうがない人だねルインは」



「シャルロッテ!?」



「これだから記憶喪失の暴走偽善者はダメなんだよ、しょうがないから迎えに来たよ」



「監獄の中までか!? いや助かったけど……!」



「どうせまたお節介が発動して問題解決に動こうとしてるんでしょ、しょうがないから街中回って外の情報も集めてきたよ」



「シャル……お前って奴は……」



「あのー……吹っ飛んでった奴等は良いのかー?」



「とんでもないちびっ子だよ、レヴィ達何にもする事なかったね」



「あ、セツナちゃん発見!」



 遅れてレヴィとミライが下から飛んできた、その瞬間セツナの無表情が歓喜の無表情に変わる。



「レヴィィイイイ! ミライィイイイイイ! 助けにきてくれたのかあああ!」



「うっさいよ、邪魔だよ、暑苦しいよ」



「あっぶぇっ!?」



 飛びつこうとしたセツナはレヴィに跳ね飛ばされ、吹き抜けに落とされかける。ギリギリでミライが受け止め、事なきは得た。



「お前! お前は!! お前は本当に!! 助けに来たなら照れずにそう言え!!!」



「ハッ」



「鼻で笑ってんじゃねぇっ!!」



「セツナちゃんどうしたの? 見ない間に鼻にティッシュ詰めて」



「どうせ転んで鼻血でも出したんだよ、こんな無様な切り札いる?」



「ここにいるだろうが!」



「えーっと、セツナちゃんのお仲間も一緒なのか、一気に戦力が増したな」



「おチビの仲間も一緒だったんだ、じゃあもう外には出れるけど」

「国で暴れ回ってる秤のゴーレム、そしてその暴走の原因がこの監獄の中にいるっぽい……解決するならこの2点を狙うべきだよ」



「あ、それならミライちゃんの仲間達が今秤のゴーレムを追いかけてるよ」



「それなら心置きなく俺達は監獄内の問題に当たれるって事か」

「名も知らぬ悪魔達よ、俺は個人的な理由でここにいるクロノ君を助けたいし、ここで起こってる問題をどうにかしたいと思ってる」



「シャルはルインに従うよ、どうせ止めても無駄だし」



「レヴィはセツナが見過ごせないって言ってるから付き合うよ」



「言ってないが!?」



「切り札が最前線から逃げ出すの? 流石役立たず罪で投獄されただけはあるね、笑っちゃうよお腹痛い」



「やってやろうじゃないかっ!? 誰よりも活躍して汚名返上してやるからな嫉妬で狂えよ馬鹿レヴィ!!」



「張り切るセツナちゃん可愛い! 愛だね!! ミライちゃんも一肌脱ぎましょう!」



「よし、なら下を目指そう、この騒動の発端は多分下層に……」



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



 ルインの言葉を遮り、悲鳴が轟いた。上層から突然、異様な気配が噴き出してくる。狂気が、辺りを一瞬で染め尽くす。



「気分悪いね、何か出てきたよ」



「は、肌がゾクゾクするぞ……なんだこれ!」



「……ん?」



 明らかに異様な空気が周囲を包み込む中、突然周囲の牢屋が開け放たれた。怯えて牢の中に閉じこもっていた者達が、牢の中から飛び出してきたのだ。



(……目が変だ、正気を失ってる……正気を保ってる人達は…………目と耳を押さえて……より怯えてる……)



「跪いて祈り出したね、懺悔してるように見えるけど……ルインどうする? シャル達も祈ってみる?」

「この身を染める罪が、浄化でもされるかな」



「馬鹿言うな、一生背負っていくと決めたばっかりだ」

「それに、俺にはあれに祈っても罪が注がれるとはとてもじゃないが思えない」



 上層から、光り輝く円柱が降りてきた。輝く光の翼を持つ、水晶のような円柱。神々しい光は祈りを捧げる者達を照らし、焼き始めた。



「あぁ……あああああああああああああああああああああああああっ!」



「ぎゃああああああああああ人が燃え始めたあああああああああああ!」



「物理的な火じゃないよ、落ち着いて役立たず」



「落ち着いて罵倒するな!」



「肉体は焼いてないけど……それ以上に厄介かなぁ」

「レヴィ、上」



「気付いてるよ、中々気色悪いね」



 輝く円柱に続き、上層から天使の大群が現れた。虚ろな表情に二対の翼、全員が明らかに正気ではない。



「なんだあれ……なんだあの数……ん?」



 光に焼かれていた者達の悲鳴が、いつの間にか途切れている。セツナが周囲に目をやると、焼かれていた者達の背に翼が現れていた。まるで天に昇るように焼かれていた者達の身体が浮かび上がり、円柱の近くに吸い寄せられる。円柱はただ全てを照らし、その光で生き物を天に誘う。



「監獄の太陽?」



「あぁ、ダンジョンから発掘された希少なアイテムは秤のゴーレムだけじゃない、この国に限らず日々色々なモノが見つかってる」



 同刻、国の王と下層を目指すクロノは、王から気になる話を聞いていた。



「その円柱は、ただ光るだけの円柱だった、最初は何の価値も付けられなかったんだ」

「超絶天才の手により調査され、その光には浄化の効果がほんの少しだけある事が分かった、永続的な微量の浄化、そして発光効果……監獄内の最上層に備え付けられた監獄の太陽だ」

「上層の罪人たちは毎日それに祈りを捧げる、己の罪が注がれるように、光を浴びながらね」

「ほんの少しの浄化作用だから、それが何かをもたらすなんてことはない、だけど投獄された者達はそれしかない場合本質はどうでもいい、何かに縋るのさ」

「本当に罪を償いたいと心から思っているから、一心不乱に、祈り続けるんだ」



「少しでもその想いの後押しになればいい、だから浄化の効果なんてあっても無くてもどっちでもいいって事ですか?」



「そうだね、ついでみたいなものだった」

「どっちかっていうと動力不明で永久に光ってる方が明りとして有能、って感じで採用されたわけでね」

「だけど秤のゴーレムが暴走し、牢に放り込まれて我は考えた、古代のアイテムが暴走した現状、何が起きても不思議ではない……だから色々考えてふと思い出したんだ」

「超絶天才は仮説を一つ立てていた、あの円柱の動力は浄化した人の心なのではないかと」

「僅かな浄化で気づきもしない程の効果でも、僅かに焼いた罪や欲を自らの動力に変換しているのではと……もしそうなら還元の倍率こそこの円柱の凄さなのだと」



「還元の倍率?」



「ほんの少しでも浄化できれば、膨大なエネルギーを生むのかもしれない」

「そしてこの状況、何もかもが狂ってしまった暴走状態……あれも暴走してしまってもおかしくない」

「暴走の原因が下層に居るのは間違いない、上に割く戦力はない……だけどどうしても気になるんだ」

「あれも狂う可能性があるなら、尚更急いで解決しなければ……」



「王様は俺が来るまで怪我人とか助ける為色々動き回ってたんだろ? その太陽の様子はどうだったんだ?」



「一応毎日確認はしていたが、異変は無かった……太陽自体には」

「だけど、日に日に上層の様子は変になっていて……祈りを捧げる者達が感情を失い抜け殻のように……」



「……急いだほうがいいってわけですね、聞いてた以上に底が深い……!」



「空気も変になってきたね、まるで地獄だ」



「そういう風にガイドブックには書いてましたけど?」



「此度の件が終わったら、王として色々整える必要があるな」

「これは、慢心していた我の罪というわけだ」



 下層の闇に身を投じるクロノ達。時同じくして、セツナ達は上層の光に晒されていた。罪人を意識無き天使と化し、大軍を率いる監獄の太陽。輝く翼を備えた円柱に、巨大な目玉が浮かび上がる。それは神々しさの中に浮かび上がる、悪意無き狂気。善悪の区別なく浄化し喰らい輝き続ける永遠の光。




 万象を照らし喰らい続ける円柱、古代兵器『穢れぬ永光カオスシリンダー




「邪魔をするなら、ぶっ壊すだけだ」



「罪人の鑑みたいな台詞だね」



 天使を従えし太陽に対し、悪魔達の反撃が始まろうとしていた。



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