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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十章 『天上地獄のエルルゥ・ホロウ』
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第七百四十六話 『外法の申し立て』

 時は多少遡り、ルイン一行へと視点は変わる。クロノが寝込んでいたり、大罪達が傲慢を追いかけ回していたり、切り札が必死に世界を巡っていた頃、彼等は『勇者』を巡っていた。



「……ここも外れ?」



「薄っすらと感じるモノはあるよ、懐かしい感覚……これは……憧れだろうか」



『だから何度も言ってるじゃんね、『君』は勇者に憧れて、あたしの息子と共に少年時代を駆け抜けた……ロート・ルイン、それが君の名前だ』



 発光するシャルロッテの中から、半透明の女性が現れる。ルイン達は記憶の手がかりを求めクロノの住んでいたカーリ村を訪れ、そしてこの自称勇者を名乗る幽霊に憑り付かれたのだ。



「……シャルの身体を、返せ」



『人聞きが悪いなー! 中にお邪魔してるだけで意識も身体もしっかりしてるってば!』



「意識も身体もしっかり残ってるせいで光り輝くこの身体に苛立ちを隠せないよ」



『仲良くしようよぉ、善意100%でお助けするからさぁ』



「悪意無き善意ほど厄介なものはないよ、お祓い求む」

「ただでさえ幼少期から利用され改造された殺戮人形鬱展開製造機のシャルがあんたのせいで呪いの人形って属性まで足されてるんだよ」



『苦労したんだね……これからはお姉さんも味方に足しておいてね』



「鈴、この悪霊話が通じないよ」



「……魁人なら祓えるだろうか……」



『おっかしいなぁ、どうやってもあたしをお祓いする方向に話が進んじゃいますねぇ』

『これでも生前は勇者の中じゃまともな方だった筈なんだけどなぁ……』



「……貴女の息子さん、クロノって子と俺は……なんで勇者に?」



『君自身、村長から聞いた通りだよ』

『妹さんを亡くして、その想いを胸に救われぬ者に救いを……そんな君に惹かれてうちの子も後ろをついてった』

『お墓の中からいっつも見てた、仲良くしてた君達を』



 思い出そうとしても、記憶は何も答えない。だけど、身体が叫ぶ。もはや、自分がロート・ルインであることに疑いはない。だが、それでも空っぽは己を認めようとはしなかった。



「例え俺がロート・ルイン本人であっても、何一つ取り戻す事なく同じ道には戻れない」

「俺は……あの子を、クロノを悲しませた……あの顔が、あの言葉が、取り返しの付かない罪を犯したと俺に教えてくれた」

「何に償えば良いのかすらわからない、こんな状態であの子の前には出られない」



『何が原因で君が悪魔になったのか、どうして死んだことになってるのかはわからないけどさ、そういう根っこの部分見る限り君は変わってないとは思うんだけどねぇ』

『もしくは、『それ』が君の欲なのか……』



「この悪霊の息子とかろくでもないよ、討魔紅蓮だって倒しちゃったし常識の外にいる奴だよ」



「…………まぁ、規格外ではあった……今だから言うけど悪人ではなかったけど」

「…………何をしても、折れなかった」



『自慢の息子です!』



「親バカだよ……」



「…………」



 仲間達の声を背に受けながら、ルインは一人空を見上げる。あの時、まるで感情を写し取ったように空は曇り、雨が降ってきた。



『死んだんだよ、お前がっ!! お前等悪魔が殺したんだろっ!! ローを真っ黒にしてっ!! 俺の目の前で心を喰った、殺したっ!!!』

『次は俺か!? 迫真の演技だ良く思いつくもんだっ!! 人のトラウマを一番鋭利に刻んでくる!』



 覚えがない、何一つ思い出せない。その筈なのに、彼の言葉の一つ一つが空っぽを切り裂いた。失ったはずの、己の内にある空っぽが抉られた。



『その顔で……その声で…………その姿で……っ!! 俺の前で笑ってんじゃねぇっ!!!!』



 償いと申し訳なさと、後悔が溢れ出した。一番守りたいモノを、自分の手で壊したような気がした。もう二度と、あんな想いはさせたくない。自分がそれを言う資格、一番無いと本能で分かってる。だけど、どうして自分が今生きて動いているのか、それも本能で分かってる。自分は、あの涙を拭うためにここにいる。ロート・ルインが出来なかった全てを、掴み取る最後のチャンスなのだと。悪魔故に、『欲』としてそれを欲しているのだ。



「違う奴として、生きる道もきっとあるんだろうけど……」

「それでも俺は、これをチャンスと思いたい……やり直すチャンスなんてきっと本来有り得ない事だ、奇跡か何かが許してくれたのなら……悪魔だとか人間だとか関係なく、俺は取り戻したい」



「……シャルが言うのもなんだけど、自分が変わっちゃったらそれすら難しい」

「けど、こんな罪で汚れた殺人人形にすらチャンスがあるって言ってくれたのはルインだよ」



「あぁ、俺自身で証明してやる……! 罪人の生き様を」



「……それで? 前向きな意見は結構だが実際問題これからどうするんだ」



『あれだけ勇者に憧れて色々やってたロー君だし、勇者が関係してる場所やら文献やら漁りまくったけど今のところ進展は無いからねぇ』



「……私の能力で好き勝手世界中飛び回って進展なしは許されないぞ」



「シャルはてっきり観光かと思ってたよ」



『そういえば我が愛しの息子は今何をしているのかな?』



「……流魔水渦と大罪の悪魔に関わっているぞ、今の私の上司もその件に首を突っ込んでいる」



『ロー君が記憶を取り戻さないと、直接会うのも無しなわけだしー』



「勇者の色々は懐かしさは感じるんだ、ここは地道に手当たり次第巡ってみよう」

「頼んだぞ、鈴」



「……お前に頼まれても嬉しくはない」



 そんなノリでルイン達は世界中の勇者スポットを手当たり次第に巡っていた。シャルロッテの言う通り、半分観光のようなものだ。そしてそのノリのまま、エルルゥに辿り着き……。



「……私は一度、上司に定期報告をしてくる」

「……すぐに戻るから、それまでこの国に滞在しろ、シャルに何かあったら海の底に転移させてやるからな」



 それだけ言い残し、鈴は姿を消した。今までと同じように観光気分で時間を潰そうとふらついて約30秒、秤のゴーレムとエンカウントしたのだ。



「生き物じゃない……ゴーレムかな?」



『これがこの国名物、秤のゴーレムだね! どうしてここにいるのかなっ!?』



「貴方は悪魔ですね?」



「え、あ……まぁ、そうだ……そうだな……」



 マントを頭から被って隠していたのだが、簡単に見破られた。



「『有罪』」



「え」



 そして、速攻で監獄に送り込まれた。



「それが三日前の事だな」



「三日もこんな地獄に!? 大変だったな、切り札である私は見ての通り3分で限界だったぞ」



「どんどん治安が悪くなってるんだ、みんな正気を失っているとしか思えないよ」

「切り札ちゃんはどんな罪でここに?」



「切り札なのに役立たずだからってぶん投げられたよ」



「……なんか、ごめん」



「目を逸らすな! 余計虚しいだろ! 泣いてやってもいいんだぞ!?」



 襲い掛かってきた囚人を一掃し、一息ついたルインはセツナと雑談しながら安全地帯まで避難していた。安全地帯とは名ばかりの、牢の中だったが。



「看守が落とした牢の鍵を拾ってね、こいつで牢の中に閉じこもってれば安全だ」



「どうして自分から牢の中に……私切り札なのに……」



「牢の外にいちゃ、落ち着いて話も出来ないからな」

「鈴が戻ってくれば、すぐに助けが来ると思ってたんだけど……三日経っても助けは来ない……向こうでも何かあったのか、流石に監獄内に転移系の能力は届かないのか……」

「シャルロッテは賢い子だ、この国に何が起こっているのか調査から始める筈……監獄を力技で抉じ開けるなんて最終手段だ、出来ればあの子の手を煩わせないで自分で脱出したいが……」

(……悪魔は、有罪……監獄内の様子からおかしな事になってるのは理解出来たけど……それでも、ゴーレムが狂ってなかったら俺は無罪だったか……? 力技で脱獄しても、良いのだろうか……)



「クソ―! クロノは何処だー! 早く助けにきてくれないと私は一巻の終わりだぞー!」



「…………クロノ?」



「そうだ! 私より先にここに飛ばされたんだぞ! なんでいないんだ!」

「そういえば私は力技でぶん投げられて監獄の上の方に飲み込まれたんだった……じゃあクロノは下にいるのか……?」



「…………聞いていなかったけど、君は何処の切り札なんだい?」



「流魔水渦の切り札! セツナだ! クロノはどっか行ったけど、実はそんなに慌てなくても良いんだぞ!」

「きっとレヴィ達が助けてくれる! 大罪の悪魔だからこの切り札より全然強い頼もしい奴等なんだ!」

「そっか……圧倒的に私が最弱で役立たずだから有罪なんだな……分かってるけどやっぱ辛い……」



(…………流魔水渦…………?)



『そういえば我が愛しの息子は今何をしているのかな?』



『……流魔水渦と大罪の悪魔に関わっているぞ、今の私の上司もその件に首を突っ込んでいる』



 流石に、ここまで情報が一致していて他人なわけがない。



「……クロノが、ここにいると?」



「いるな、目の前で有罪喰らって魔法陣てシュンッて消えたぞ」



 会うわけにはいかない、会える筈がない。この顔を、晒すわけにはいかない。一刻も早く逃げ出さなければ、また悲しませる事になる。だが、それとは別に、同じくらい強い気持ちが動き出していた。



「あの子が…………」



「ん?」



「あいつが……あいつが有罪なわけが、ないだろうがっ!!」



「うわぁっ!?」



 世界があいつを否定しても、自分だけは味方で居る。どこに居ても、助けに行く。そう、約束したんだ。例え悪魔に堕ちたとしても、何もかもを失っても、空っぽだとしても、そこにあった想いは、この身体を突き動かす。



「あいつ自身も、あいつの仲間も救い出し、この身を晒さず決して悲しませない、曇らせない」

「やってやろうじゃねぇか……この欲のままに……俺は全てを諦めない……っ!!」

「何一つ切り捨てず、勇者も腰抜かすくらいの大立ち回りをしてやろうじゃねぇかっ!!」



「いきなりどうしたんだっ!? 良い悪魔のやる気が満ちているぞ!?」



「バグったクソゴーレムの判決に異議を申し立てるぜっ! 何が有罪だ馬鹿にしやがってっ!」

「行くぞ切り札っ! 脱獄だあああああああああああああっ!!」



 自分で閉じた牢の扉を開け放ち、反撃の狼煙が今上がった。



「待って待ってついていけないんだがっ!? 何がどうなって何が起きたんだっ!?」



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」



「待ってくれ! 置いて行かないでくれーーーーっ!」



 空っぽになったとしても、それは身体が覚えてる。欲はそれを、離さない。



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