第七百三十七話 『難儀な縁にも感謝せよ』
錬金国アゾット、砂漠の中に位置するこの国は錬金とポーションで有名な国だ。前までは錬金と言えばアゾットだよねーくらいには世界に名が知れていたのだが、討魔紅蓮の一件以来は別の意味で名が知れ渡る事になっていた。凄まじい腕のハーフエルフが国に認められ在籍しているとか、ずっと姿を見せなかった王が最近は表に出て暴れているとか、話題に事欠かない国になっているのだ。クロノ自身噂のハーフエルフ、ミルナイ・アルケミストとは良好な関係であり、友達と言える仲だ。だがこの国の王とは未だに面識がない、前にいつか会える筈だとマイラに言われた筈だが……。
「この部位は物体の性質を考えれば妾の案が適切じゃろうがっ!」
「理屈はいつだって発想が超えていくものだろう、超絶天才の名が泣くぜ!?」
「錬金術は理論と知識、想像で創造するモノだ! 可能性とはゼロから無限を生むことを言うのだよ!」
「脳みそまでキラついておるのか貴様っ! 理想を形にするのが先決、理想の追求はその後突き詰めればよいっ!」
「夢見る事を忘れちゃ脳みそはカビちまうぜ天才さんよぉっ!」
「不確定な要素を計算に入れて進めればバグるじゃろうがポンコツ白衣がぁ!」
「バグすら俺様にとっちゃ可能性のワンピースなんだよ! ふははははははっ!!」
メガストロークが建物の隙間を超速で抜け、通行人を紙一重で避け続け、回転しながらアゾット城の敷地内に滑り込む。こっちは心臓が止まりそうだったのに、呼びつけた超絶天才は宝石まみれの白衣を着た男と言い争っていた。
(多分あの人が王様なんだろうけど、会話の内容からして関わっちゃいけない気がしてならない……)
「クロノ、帰ろう! 今すぐここから離れるんだ!」
「悲しい事にメガストロークが動かないんだよ」
既に完全にシステムがロックされている、魔改造からは逃れられないのだ。大罪達は面白そうな空気に誘われ既にメガストロークから降り始めているし、もう覚悟を決めるしかない。ぐずるセツナを引きずりながら、クロノはまだ言い争っているフローに近寄っていく。
「よっすフロー、久しぶり」
「黙れ部外者!」
「関係者なんだけどなぁ!?」
振り向きもせずフローがこちらに向けて発砲してきた。毎度毎度額を打ち抜かれては敵わない為、クロノは寸前で銃弾を回避する。銃弾はメガストロークに当たり、そのままクロノの後頭部へ跳弾してきた。
「ぐはぁ!」
「惜しいが、爪が甘いな」
フェルドの反応が恐ろしいほど冷たい、どうして無理やり連れてこられた上に自分はこんな扱いを受けているのだ。
「む? お主クロノではないか」
「凄いね、俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ? まさか誰にでも発砲してるのかお前は」
「ゴム弾じゃからな」
「ゴム弾だからって誰にでも発砲して良いわけないよね? 凄く痛かったよ?」
「うむ、元気そうでなによりじゃ! お主は毎度毎度無茶ばかりしよって、心配する者の気持ちも考えよ」
(こいつこのままスルーするつもりだな)
「件の魔物馬鹿か! こうして会うのは初めてだな!? だが俺様はお前を知っている、お前が想像する10倍は知っているぞ! 何故なら俺様は! この国の王! アルトタス・フレッシスだからだっ!!」
フローを押しのけ、キラキラ白衣の男がクロノの前に歩いて来た。何故だか名乗っただけなのに凄まじい存在感だ。
「…………人、じゃない?」
「! ふふふ、ふははははははっ!! 良い目をしている! 魔物馬鹿の名に恥じぬ慧眼!」
「お察しの通り、この俺様は数百数千の年月を跨いできた、あの日あの時から俺様よ」
「命を、魂を定義したあの時から俺様は俺様を継いできた、俺様は錬金生命体だ」
「だが人を辞めているのは肉体のみ、あの時から俺様の魂は俺様だ、だから遠慮せず人として接するがよいぞ」
「はぁ……」
「魂が人なら人間だと? それを僕達の前で言い放つなんてね」
マルスが不満げに言い放つが、アゾットの王は笑顔を崩さない。大罪達に向き直り、声高らかに宣言する。
「魂は変わらぬ、在り方なぞ世界に決めつけられるモノではない!」
「何に翻弄され悪魔に堕ちたかは知らぬが、堕ちたなどと他に貼られたレッテルに過ぎん!」
「お前達も己の底にあるモノは変わっていない筈! 悪魔だろうが魔物だろうが人だろうが、お前達は変わらず自分自身だ! 個である事を誇れ! ふははははははっ!!」
「…………っ」
「レヴィはレヴィだよ、今も昔も」
「とんでもねェ王が居たもんだなァ」
「素敵な考え方だと私は思うな、だってそう在りたいって思うもの」
王の言葉に大罪達は圧倒される。その隙を狙ったのだろうか、フローがいつの間にか傲慢と強欲に詰め寄っていた。
「あの時は世話になったの、傲慢と強欲よ」
「人の分際で我の前に立つか、命知らずな」
「いやぁあの時は迷惑をかけたな、おれの器になった男はどうなったんだ?」
「…………ドゥムディ貴様……!」
「ツェン、もう我貫くの辞めた方がいいよ、嫉妬も出来ないよ」
フローはヘディルとツェンに襲撃され、ラベネに被害を出されている。そのまま囚われていたジュディアをドゥムディの器にされ、いいだけ国を荒らされたのだ。
「フロー、あのさ……気持ちはわかるんだけどさ……」
「言うな、妾達は共存を志す者、許し合う答えを体現する者じゃ」
「ならば、ケジメは付けてもらう」
「言うじゃないか人間、傲慢の大罪である我を前に踏ん反り返るなど大概に……」
「あの時のおれは器の想うまま力を貸した、振るわれるまま国を傷つけた」
「心から謝罪するし、そちらの要求は全て呑もう」
「ドゥムディッ!!!」
(もう傲慢が可愛く見えてくるなぁ……)
「…………お主の器となったジュディアだが、ゲルトでの戦いが終わった後ラベネに戻された」
「人が変わったように大人しくなっておったし、なにやらウンディーネが一匹へばりついておったわ」
「憑き物が落ちたのは、そこの少年のおかげだがな」
「おれは欲の行く末に付き合っただけだ」
「願わくば、あの時奪った能力を持ち主に返却する機会を与えてくれればと思う」
「……この場でお主の処罰を決める事は出来ん、色々と複雑すぎるのでな」
「今お主らはルトの管轄、妾の考え一つで何か決める事は出来ん」
「じゃが、聞けばお主は元々ゴーレムだとか?」
「あぁ、作り物だ、だが想いは本物だぞ」
「魂の有無が自身でハッキリしているとは面白い! 俺様興味津々だぞ!」
「えぇい入ってくるな鬱陶しい……しかし、妾も興味がある」
「謝罪の気持ちがあるというなら、今後何かあればお主の手を借りても構わぬな?」
「願ってもない、マルス、良いよな?」
「好きにするといいさ、僕等は自由だ、そうだろクソクロノ」
「敵意隠してよ……勿論、お前等は自由だよ」
そう、大罪達は今を生きている。この先何かに縛られる必要なんてない、罪も憎しみも何もかも背負い、今を生きていくのだ。
「ところであの船を改造すると聞いたのだが、おれ自身作り物故あの船のイカレ具合は乗っただけでわかった」
「あれ以上に狂うというのは本当か? 実に興味深いのだが見学させてもらっていいだろうか」
「マルス、あの自由は止めた方が良い、最悪怪物が生まれるぞ」
「お前は何を言っているんだ」
「ほぉ? 中々見込みがあるのぉ」
「俺様も手伝うんだぜ! 俺様考案の浮遊石にあれやこれや要素を鬼足ししたエターナル浮遊石の試し錬金だぜ!」
「そう妾達超絶天才のあれやこれやをこれでもかと盛り込んだ文字通り天へと届きうる全く新しい新兵器……!」
「兵器って言ってんだよな……」
「その名もギガストローク! 音の壁を越えた先はもう光の壁しかあるまい!」
「凄いぜ格好良いぜ! 空も飛ぶぜ!」
「ふむ、ロマンだな」
「ファクターさんは何処!? 貴重な突っ込み役は何処なの!!?」
「向こうから美味そうな匂いがするなァ」
「特産品はポーションらしいよ」
興味を無くした大罪達がフリーダムにこの場から離脱しようとしている。止める奴が一人も居ない。
「あぁクロノ、ファクターを探しておるのか?」
「お前を止められる可能性がもうあの子しか居ないからね」
「ファクターならそこの錬金馬鹿の弟子と素材集めじゃ、直に戻るじゃろ」
「既にそっち側だったかぁ……って弟子?」
「ティトだ! 死人だが見込みがある!!」
「へぇ……ミルナイさんに弟子入りしてたけど王様にも弟子入りを?」
「ティトは凄いぞ! 可能性の塊だ! この前も錬金生命体の錬金に成功していた!」
「あれには俺様を超える可能性が眠っている! 数多の道を究められる可能性がな! 成れば、母親を元に戻す事も叶うだろう!!」
父親に狂わされ、自身も母親も歪められた悲劇の少女。そんな子が自らの才覚で全てを取り戻せるかもしれない、そんなの応援しないわけがない。
「王様、ティトの事お願いします」
「あの子はこれ以上、傷ついちゃいけないんだ」
「頼まれるまでもない、何故ならあの少女は既にこの国の国民なのだ」
「俺様は国を、国民を、愛しているのだよ! ふははははははっ!!」
変な人なのは間違いないけど、この王様も良い人だ。この縁に、感謝を。
「アゾットの王よ、雑談は構わぬがそろそろ手を動かすとするぞ」
「今宵、また新たな超絶兵器の誕生じゃ」
「ふーはっはっはっはっは! 胸躍るぞ! 共存馬鹿よ安心しろ! 俺様が背を押すのだ、未来は明るく狂っていくさ!」
前言撤回だ、この縁は新しい地獄を招き入れている。
「誰か! このカオスを止め…………ドゥムディさん以外誰も居ねぇ!?」
見学を望んだドゥムディ以外、いつの間にか姿を消していた。
「皆アゾットを観光してくると、今さっき歩いて行ったぞ」
「セツナは!? あいつが自分からそんな行動出来るわけ……」
「白目のまま動かなくなっていたから、レヴィとミライが連れて行ったぞ」
「じゃあプラチナさんは!? 面倒くさがりのあの人が観光!?」
「いやプラチナは……」
「なんじゃこいつは、何か転がっておるぞ」
メガストロークの中から、お休み中の怠惰が引っ張り出されてきた。
「降りてすら居なかった!?」
「ふふ、同じ機械としてどんな改造が始まるのかワクワクするな」
「馬鹿な、このカオスの中ツッコミが俺一人だと……!?」
ちなみに精霊達は心の奥底に逃げ込んで観戦状態である、味方が一人も居ない。
「何度も言うが安心しろクロノ、お主には超絶天才の妾がついておる」
「この先も、お主の道は阻ませぬよ」
「ありがたいお言葉の筈なんだけどなぁ、メガストロークの速度に不満なんて一つもないんだよ俺は」
「お客様に満足して頂く、それこそが開発者のモットーなのじゃ」
「天井知らずだからこそ、妾は超絶天才なのじゃ」
「マッドだよ……」
「さぁ始めようぜぇ!! 開発・錬金・発明の織り成す、パーティーをなああああああああああああっ!!」
狂気の祭りが始まった、もう誰も止められない。この地獄から離脱できただけ、切り札は幸運だったのかもしれない。そんな幸運な切り札は現在意識を失い、嫉妬に引きずられていた。
「どうしてセツナちゃん気絶したのかなぁ?」
「現実から逃げたんでしょ、この国はポーションが有名らしいから適当に選んだカラフルなポーションでも口に突っ込んで起こそうよ」
「ボクの口に合う美味なポーションはあるんだろうなァ」
「用途が違うだろうそれは……ん?」
「おいマルス、貴様我の前を歩いている癖に何を道のど真ん中で止まって……」
先頭を歩いていたマルスが、あるモノを見て足を止める。
「何々~? 依頼板?」
「プラチナが拒絶反応を示しそうなお仕事みっちりだね」
「何を考えている、どうせロクでもない事だろう」
「船が魔改造された後、僕達はクロノの国巡りに付き合う事になる……目的はあいつの知り合いへ挨拶周り、僕達は完全にオマケで今後も観光メインになるだろう」
「奇跡みたいに再び集まれた僕達は、流魔水渦やクロノの世話になるばかり……これでいいわけがない」
「まぁそうね……私も恩返ししたいよ」
「再び始めると言うのなら、この暇の中で出来る事をするのも悪くないだろう」
「悪魔の我等が、世界を巡る中でお仕事だと? 笑わせる」
「そう、笑ってしまうな」
「けどそれが笑われない、普通だと言わせる世界の為……頑張ってる奴等が今も居るんだ」
「なら先輩として、先頭で体現せねばならないだろう」
「やだやだ、欲を隠さず昔と変わらず頑張るつもりだよ、嫉妬しちゃうよ」
「仕方ないから、レヴィは手伝ってあげるよ……ね、セツナ」
呆れたようなレヴィがセツナのケツを蹴り上げる、気絶していた切り札は痛みで覚醒した。
「いでぇっ!? 切り札のお尻が痛いぞ!!」
「ね、セツナ」
「は? え? なに、なんだ? 痛いぞ!?」
「ね?」
「あ、はい?」
「やったね、切り札も手伝ってくれるってよ」
「それは心強いな」
「え、なに? 何の話だ?」
「よかったねセツナちゃん、カラフルなポーション飲まされなくて」
「本当に何の話なんだ!!?」
「…………難儀だ」
「難儀なのかっ!?」
クロノの知らないところで、大罪が頑張る事になっていた。そしてまたしてもセツナは何も分かっていなかった。




