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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十九章 『大罪珍道中、切り札を添えて』
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第七百三十五話 『苦労を楽しめ』

「前回来てくれた時は長く話せず残念に思ってたんだ、よく来たなクロノ」



「ユリウス王も元気そうでよかった、討魔紅蓮の件で迷惑かけたのに今回も……」



「どうせガルア辺りがもう言ってるだろうが、そんなもんお前が気にする事じゃねぇ、元々あいつらは過激すぎたんだ」

「引き金を引いたのはお前だろうが、世界中に喧嘩売ったのはあいつ等の方で、俺達は返り討ちにしてやっただけだ」



 王座に座りながらも、この王は軽い調子で笑ってそう言ってくれた。細かい事を言うと喧嘩を売ったのもクロノの方が先な気もするが、ユリウスの言葉に救われる気持ちだ。



「大体謙虚なのか傲慢なのか分かんねぇ奴だよお前は、今回港を襲撃した悪魔に加えてゾロゾロヤバそうな奴等を引き連れて来やがって……兵がざわついてしょうがねぇよ」



 クロノの後ろにズラッと並ぶ大罪の悪魔達を警戒しているのか、王座の間にはいつもの倍の兵士が集まってきている。大罪達は誰一人気に留めていないが、セツナだけが緊張で白目になっている。



「色々と話したい事があるんだけど、まず最初に謝罪をしなきゃなって」

「大罪の悪魔達とは協力関係を結べたんだ、仲間として受け入れる為にも罪は罪として謝らなきゃ」



「我は謝る気はないがな」



「本人もこの通り反省しているから」



「していないがな」



「してないらしいが」



「空気読めやっ!」



「反省だの謝罪だの、我が何をしたところで襲撃の傷がどうなるわけでもあるまいよ」



「傲慢が過ぎるぞツンデレ悪魔!」



「我は傲慢の大罪なのだから仕方なかろう!」



「開き直ってんじゃねぇぞ!」



 ツェンと取っ組みあい殴り合うクロノ、勿論本気ではないが向こうのパンチが避けても顔面に叩き込まれる為本気じゃなくても結構痛い。頭を抱えたマルスがクロノの代わりに前に出てユリウスに向き合う。



「此度の件は僕達の仲間が犯した罪、罪に焼かれ歴史に晒しあげられた僕達が今を歩むに当たり、罪から逃げるのは筋が通らない」

「心からの謝罪を、いかなる罰も甘んじて受け入れる」



「……との事だが、全員同じ気持ちって事で良いのか?」



 ユリウスの問いに、大罪達は同時に頷く。ツェンを含めて、だ。



「なら謝れよ……!」



「人に下げる頭など切り落とされた方がマシだ」



「自分が裁かれた方が仲間には迷惑かからないとか思ってるなら、何一つ成長してないよ」

「いい加減学習しなよ、レヴィ達は誰一人欠けるのは許さないよ」



「自己犠牲など悪手だということだ、強欲のおれが居るんだからさっさと気づくべきだったな」



「……バカな仲間を持つと苦労が絶えん」



「お前が言うのそれ? 面倒極まってるな」



 大罪達の反応を眺め、ユリウスが息を吐く。ユリウスの左右から見守っていたロニアとガルアが、僅かな沈黙を破った。



「で、どう落とし前つけさせんだ?」



「港を襲った姿は皆に目撃もされていますから、お咎め無しとはいかないかと」



「あー……お前達はクロノと、加えて流魔水渦と協力関係にあるって認識で良いんだな?」



「不本意だがそれで間違いない」



「一言余計なんだよな……悪魔ってのはこれだから……」



「んじゃいいや、この件は謝罪を受け入れそれで解決で」



 笑いながらそう言い放つユリウスに、大罪達は目を丸くする。ロニアは微笑み、ガルアは呆れたように首を振る。



「威厳ってもんがねぇ、長は舐められたら終わりなんだぞボケが」



「ガルア様がその分威厳を保てば宜しいかと」



「困った事に舐め腐ってくる同僚がいるんだがなぁ!」



「そちらの意向に口は挟みたくないが、王である貴方が罪人を裁かなければ不満や疑いは晴れないと思うぞ……」



「流魔水渦の奴等はずっと復興の手伝いをしてくれてんだ、それこそ討魔紅蓮とのいざこざからな」

「言ってみりゃ、そこの傲慢君の尻拭いと謝罪はとっくに成されてんだ……お前達が今回正式に自ら謝りに来たことで正当性と筋は通った」

「だからこちらからする事はおう分かったと告げるだけ、後はお前達がじゃあもうこれで終わりだなって適当に済ませるか、恩義に報いるかだ」



「……泳がせ、僕達次第とする……と」



「贖罪ってのは強制させることじゃねぇ、今後のお前達の在り方を見せて貰おうじゃねぇか」

「今後何か困ったら、助けてくれや」



「……王とは思えぬ、それでどうやって国を……!」



「一度滅んださ、在り方を捨てて壁を自らぶっ壊した」

「だから俺は、今種族を超えて手を取れた」

「ガキの頃の恩人や、ずっと近くにいた隣人とこうして同じ場所で同じもんを目指せてる」

「終わりの定義は、他人には決めさせねぇ」



「図太い野郎だ、頭のネジが外れてんぜ」



「だからこそ、マークセージは壁を失っても変わらず堅牢なのですよ」



 結局謝罪云々の話はこれで一区切り、ユリウス王の性格と判断に救われた形になった。



「それはそうとクロノには聞きたいことが山ほどあんだ、お前は少し残れよ?」



「あはは……ですよね……」



 クロノだけを残し、悪魔達は解放されることになる。仕方ないので気絶寸前のセツナを起こし、悪魔達のお守りを任せる事にした。



「話が終わったらすぐに追いつくから、マルス達と一緒にマークセージを観光しててくれ」



「はっはっはっは、大罪七人を私が? 出来るわけないだろうはっはっはっは」



「うっせぇ行ってこい」



「待って待って待って無理だ絶対無理だレヴィ一人でもう虐められる未来しか見えてこない! 私の休暇が絶望スタートダッシュになっちゃう!」



 仕方ないので精霊達にセツナのお守りを任せる事にした。



「荷物を増やすなっ!!!」



「言うようになったじゃねぇかこいつ、しっかりお守りしてやるから覚悟しろよ」



「じゃあクロノ、また後でね」



「なにして遊ぼうかなぁ~」



「既にどっか飛んでいきそうな奴がいるんだが!? 後ティアラが背中に引っ付いて既に寝てるんだが!!」



「すやすや……」



 フェルドに引きずられ、セツナが連行されていく。悲鳴が遠くなるのを背中で感じながら、クロノは大罪達にセツナを追いかけるように片手で促す。



「後で追い付くよ」



「……王に感謝を伝えておいてくれ、僕の知り得る言葉じゃ上手く表現できそうにない」



「分かってるって」



「おう、傲慢くん」



「あ?」



 王座の間を後にしようとするツェンに、ユリウスが声をかけた。



「さっき仲間に言われてたけどよ、自己犠牲はやめときな」

「そりゃ残酷だ、後に残される奴の気持ちも考えろ」



「人の身で大罪の我に説教か? 自惚れも天井知らずだと恐ろしいな」



「あぁそうだ、これでも人の上に立つ立場、国を背負った王様なんでな」

「自分を犠牲にしてでも守りたいくらい大切なもんがあるなら、自己犠牲なんて逃げ道早々に捨てちまえ」

「大切なら、常に隣で守り続けろ、守られた方はお前が居なくなった時間の方が基本長くなんだぞ」

「お前が欠けちゃ、仲間達は笑えねぇだろうが」



「…………そんな事、再三言われたわ」

「それが出来たら、苦労はしない」



「おう、苦労しやがれ」

「苦しんで、何度も転んで、泣いて怒ってイラついて、足掻いて足掻いて地獄を味わえ」

「理想を貫くってのは、苦しいもんだ」



「それが当たり前なら、この世の中はクソだ」



「いいや? そんだけ苦しんでも構わないと思える、思わせてくれる存在に出会えた幸運を喜べ」

「貫き通した先で、きっと幸せだったと思えるさ」



 ツェンが振り返ると、ユリウスは笑っていた。王座の左右に立つガルアとロニアも、笑っていた。



「傲慢だな、人の王よ」



「いつかまた来い、その時同じセリフ言ってみやがれ」



「…………覚えておこう」

「…………今日の無礼と、恩は忘れぬ」



 それだけ言い残し、ツェンは王座の間を後にした。クロノはユリウスと顔を見合わせ、素直じゃないなと言い合い笑った。



「それで話って?」



「討魔紅蓮の件で色々と、今回の悪魔騒ぎで気になる事があってな」

「それとマークセージの現状と、世間話だ」



「お茶でも飲みながら、ごゆるりと致しましょう」



「俺はパスだ、警備周りを確認してくる」



 ガルアが早々に離脱した、きっと面倒を察知したのだ。これはこの後に何かを押し付けられる可能性が出てきた。



「王様や種族の長とお茶って……分不相応過ぎるよ」



「世界を引っ掻き回した奴が何言ってんだか、トラブルの中心を狙い撃ってるくせによ」



「クロノ様は想像を超えていくお方ですからね」



「あ、そういえば茜とまた出会う機会があってさ、正式に友達になれたよ」



「…………想像を超えていくお方ですからね……」



 思い付きだったが、ロニアの余裕のある笑顔を粉砕出来て面白かった。そんな軽いノリでお話は進んでいく。緩々なクロノ達とは打って変わって、セツナサイドは地獄のような空気だった。寝てたり勝手に飛び回ったり面倒くさがったりピリピリしたり意味なく脇腹突っついてきたり各々が自由過ぎる。



「五分でキャパを超えていく……」



「セツナ顔色悪いよ、面白いね」



「なにが?」

(しかしこのままじゃ倒れちゃうぞ、だからって自由行動とか言って大罪を国に解き放つわけには……)



「なんだなんだァ? 毎秒頼りなさを更新していく切り札だなァ」



「うぅ……頼れる切り札になれる方法を教えてくれよ……」



「お前の能力は間違いなく規格外なのになァ、理解が追い付いていない点が恐ろしくも未熟だなァ」

「一度ボクにバラさせてくれたら何か変わるかも知れねェぞォ」



「謹んでご遠慮させて逃げさせていただきます」



「けどセツナちゃんの能力は本当に不思議だよね、私達が言うのもなんだけど自分の力を理解することは強さに繋がるのは間違いないよ?」



「おれ達ももう少し早く自分の力、その危険性を理解していれば他者との距離の取り方も違っていただろうにな」



「単純な無効化ではないしな、能力の影響を受ける時と受けない時がある」



「やっぱ色々実験してみるかァ、研究欲が抑えられねェよ」

「試しにボクの牙で抉れるか……ツェンの必中を避けれるかも試してェ!」



「あーあ面倒……未知への欲求すら底無しの研究暴食マンが暴走してら」



「身の危険感じるー」



 このままでは意味はあるが慈悲はない実験に巻き込まれてしまう、セツナは日常的に不幸に見舞われている為、こういった直感は結構冴えている。つまり、このまま手を打たないと確実に酷い目に遇う。



(考えろ……前までの切り札を更新するんだ……何の為に記憶や経験を失わないようになったんだ……こういう時役立てる為だろう……! 経験! そうだ経験を生かせ! 私の中の全てを使って、せめてディッシュの意識を実験から逸らすくらいは……)



「善は急げだからよォ、まずは軽くボクの牙を突き刺して……」



「お腹が減ったなああああああああああああああ! 丁度あそこにパン屋があるぞおおおお!?」



「あァ?」



「せっかくマークセージに来たんだ! ここでしか食べれない物を食べてみないか!? 休暇に美味しい物はつきものだもんな!!!」



 逃げるようにパン屋に逃げ込み、セツナは出来るだけディッシュの気を引けるような美味しい物を探す。彼の冠する欲は暴食、食事の際彼は狂った量を黙々と食べてたりするし、美味しい物を用意出来れば助かる可能性は高い。



(たまたまあったお店に飛び込んだけど……! パン屋さんだ、そこまで変なモノはないだろう……ここはマークセージの地域性に賭ける……! 何か珍しく美味しい物が……)



 サソリパン、クモパン、トカゲパン、ウネウネパン、ウゾウゾパン、デラックスインセクトパン……。



(私が何をしたっていうんだ……クロノの呪いか……? サソリパンが美味しかった記憶残ってるけどこんな記憶真っ先に消えるべきだろ……)



「へいらっしゃい!」



 ウルフ族が出迎えてくれる、もう退路が見えない。



「サソリパン一つください」



 結局白目になりながら食べた事のあるモノを買う羽目になった。自分の命運をサソリパンに委ねる羽目になるとは、当時のセツナも思うまい。



「なにしてんだお前ェ」



「うるさい暴食! これでも喰らえ!」



 いつの間にか背後にディッシュ達が追い付いてきていた。ヤケクソ気味にセツナはディッシュの口にサソリパンを叩き込む。



「!?」



(不味かったらキレられるかなぁ……美味しくても複雑だけど……もうどーにでもなーれ)



「おい店員……テメェどういうことだこれはよォ……!」



(怒ってらっしゃる……)



「なにこのメニュー、やばめなパンしかないよ」



「獣人印の特製ご当地パン……素材の味が生きてます……貴方の価値観、塗り替えます……?」



「ふふふ……気づきましたかお客さん……中々お目が高い」



「自分の死期になら気づきそうだぞ……サソリを信じた私が間違っていたんだ」



「そう、そのサソリパンは前とは違う……俺達獣人の知識と人の技術、そして上を目指す向上心と執念で進化したアルティメットサソリパンなのさ」



「お前達は何を目指しているんだ? サソリを信じるのはやめたほうがいいぞ」



「準伝説種のフショクダイオウサソリの生肉を贅沢に使ってやがるなァ……それでこの値段とか狂ってるぜェ」

「生食はかなり危険な筈……相当な調理人が裏に居やがるなァ……ははは……! 面白いじゃねェかァ!」



「分かるか!? お客さん凄いな!」

「捌いたばかりの奴があるんだが、刺身でどうだ、食ってみるか?」



「へェ、こんな贅沢中々出来ねェぞ? おい切り札、お前鼻が利くじゃねェかァ!」



 なんか知らないけど滅茶苦茶喜んでくれてる、結果オーライだ。



「ま、まぁな! 私は切り札だからな! この店は前利用した事があるんだ!」

(クロノがね、頭を強打した私にサソリパン食わせてきたんだ、恨んだけどね)



「セツナのお手柄だし、サソリの刺身はセツナが最初に食べるべきだよね」



「!?」



「まァそうだなァ、弱肉強食は大事だがそのくらいの礼節も弁えてるぜェ」



「レヴィ!? お前自分が喰うのに抵抗あるからって……!!」



「レヴィ元々森育ちだから、虫とか食べるのに別に抵抗ないよ」



「!!?」



「残念だったね、セツナの負けだよ」



「た、たすけ……! うわああああああああああああああああああああああああああっ!!」



 前方からはサソリの刺身、後方には大罪達の壁。逃げ道は途絶え、セツナの悲鳴が店内に響き渡る。大罪達が静かに手を合わせる中、セツナは意識を失い崩れ落ちる。後にセツナは違う世界が見えたと語った。ただ一人、暴食の大罪だけがご満悦な様子だ。この店は大罪から星5を貰った店として世に認知される事になる。



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