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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百二十八話 『見せ場は地獄の底で』

 視界を埋め尽くす程の触手がクロノ達を狙って飛来する中、セツナは剣を落としてしまう。数秒の沈黙を触手が切り裂き、クロノ達が居た場所を轟音が埋め尽くす。その有様を大罪と絵札は呆然と眺めていた。



「反撃開始、ってとこだろうにやってくれるなァ」



「物凄い攻撃音なのにレヴィには剣がカラカラ転がる音の方が響いてるよ」



「あああああ! セツナ様に何かあってはお姉ちゃんに合わせる顔があああ!」



「問題ないだろう、あの程度で死ぬようなら僕がとっくに殺してる」

「目覚めた以上、暴かれ付き合わされた分は活躍してもらうよ」



 マルスの言葉に応えるように、クロノが風と水の斬撃で触手を切り払う。そのまま大地の力を足に纏わせ、空中を思い切り踏みつける。振動が真下に放たれ、地面を揺らし剣を跳ね上げた。片手で剣を掴みそのまま柄の部分をセツナの額に軽く打ち付ける。



「このドジ!」



「だぁってぇ……!」



「ビビるなって言ってんだろ! 俺もついてるし大罪も絵札もやる気十分なんだぞ!」



「頭では分かってんだよ! だからってこの切り札に任せろうおおおおおとはならないだろ! 私を見くびるなよ!? 緊張と恐怖でまともに呼吸が出来ないんだぞ!」



「それでもお前は今日までやり切って来ただろう! みんなに聞いたぞ、お前が頑張って俺を起こしてくれたんだろ?」

「沢山聞きたい事があるんだ、あんなのさっさとぶっ飛ばしてエピローグといこうぜ」



「私だってそうしたいけどあの見るからにやばそうなのをそんなさっくり倒せるわけが!」



「いつまでやってんだァ!? 漫才してェならそこ退けカス共がァ!!」



「ミライを返してもらうぞ、跪けデカブツッ!!」



 暴食の牙がヘディルの身体を抉り、傲慢の一撃が腹部に突き刺さる。色欲の力で覆われ、更には本体の無敵の力の影響もあり大きな傷には至っていないが、それでも完全に無効化はされていない。同格の力が、能力を無視して力技で食い込んでいる。



「無効化出来るのは要素一個ずつだってさ、なら数の暴力で押し潰そう」

「お前の在庫全部ぶっ放しちゃえよ、俺は砲身だけ用意するからさー」



 怠惰が大きく魔法陣を展開し、強欲のコピーを大量に生み出す。強欲は各々が違った固有技能スキルメントを構え、一斉にヘディル目掛け発射した。



「お前が奪ったミライも、お前が奪おうとしている未来も、おれ達のものだ!」

「返してもらうぞ、全て手放さない、全取りだっ!!」



 余りにも大量の要素がごちゃ混ぜに、更には連続して飛び交っている。全て無効化は出来ず、幾ら都合よく事象を折り曲げても限度がある、何発かはすり抜け、ヘディルに当たっている。距離を詰め猛攻を仕掛ける暴食と傲慢、距離を取り物量で攻める強欲と怠惰、嵐のような連続攻撃にヘディルの巨体が動きを止めた。



「鬱陶しい……勝ち目がないとまだ分からないのか」

「貴方達大罪が僕に立ち塞がれば立ち塞がる程、僕の物語の彩りにしかならないというのに……!」

「脳が無駄と理解するのを恐れているのですか? 過去の過ちがトラウマになっているとか?」



「失敗した、だから諦めていた……目が覚めて傷心だった、なのに大馬鹿のせいで前を向かされた!」



「恨みも憎しみも本物だったけど、それが馬鹿らしくなるくらいの環境に放り込まれたよ」



 ヘディルから少し距離を取ったクロノの横に、マルスとレヴィが並んできた。



「もう一度みんなで、その欲を取り戻した」



「復讐だってまだ頭をよぎるけど、レヴィ達は何よりも、またみんな一緒に居たいんだよ」

「それを無駄と思いたくない、トラウマなんかで手放したくない」

「だからゴチャゴチャ言ってないでミライを返せ馬鹿野郎!」



「…………!」



『……レヴィはただ、また嫉妬したいだけなんだよ』

『悪意無しで、難しい事考えず、遠慮なしでさ……』



 付き合いが長いとまでは言えない、だけどレヴィは大罪の中で一番セツナと行動を共にしていた。時折見せる陰を、セツナは何度も胸に刻んで来た。助けるとか、誰かの為にとか、そんな気持ちが薄くなっていたセツナはもう何処にも居ない。助けたいと、取り戻すと、本心からそう思った。その為なら、弱音も恐れも飲み込める。切り札に、なれる。




「クロノ、やろう」




 肩を掴む手から震えが消えた、背負っている存在が弱虫から戦力に切り替わる。



「なんだよ、良い顔になったな」



「私は切り札だ、助けたいこの気持ちは……もう本物だ!」



「よぉし、んじゃあ……」



 クロノは風の力を切り、突然セツナを背負ったまま落下を始めた。



「なんでえええええええええええ!?」



「マルス! レヴィ! 前座頼む!」



「物の頼み方から学び直せ、礼儀知らずめ」



「とっても嫉妬しちゃうな、力が溢れてくるよ」



「クロノなんで!? 私は下じゃなくて前に行きたいんだぞ!?」



「まぁまぁまぁまぁ……使えるモノは全部使わせて貰おうぜ」

「ってことで、コピー一つお願いできるか?」



 降り立った場所は、怠惰の隣だった。



「面倒が舞い降りてきた」



「その面倒は、決着と交換って事でどうよ」



「ふぅん……良いね、乗った」



 マルスの振り下ろす腕に合わせ、浄罪の雷がヘディルを焦がす。しかし効果は薄い、やはり色欲と無敵の二重ガードは対策無しのごり押しでは突き破れない。



(罪を狙う浄罪の効果で、必中はするが……ダメージは殆ど通らないか……)



 色欲の都合のよさ、無敵の無法っぷり、そのどちらも罪と定め命中こそするがただ当たるだけでは意味はない。一瞬硬直させる程度の効果しか出ないのでは、倒し切るのは不可能だ。



「レヴィの能力も必殺にならないよ、そもそも効果範囲に入れようとすると色欲で範囲を変に曲げられて上手くいかないよ」

「本体も能力も、レヴィはミライほど面倒な奴を知らない……色んな意味で敵に回したくない相手だってのにさ」



「今の僕にとっては、大罪すら蠅に等しい……!」



 ヘディルが全方位に魔力を放ち、自身の周囲全てを弾き飛ばす。そのまま虚空から触手を生やし、空間を埋め尽くすほどの全方位攻撃を放ってきた。うねりながら伸びてくる触手は攻撃の瞬間硬化し、黒い槍と化して大罪を狙う。ディッシュが暴食の牙を振るい噛み砕くが、数が多すぎて防ぎ切れていない。



「喰い放題かァ!? 笑えねェなァ!!」



「蠅呼ばわりとはな、蠅を喰らおうとするお前はどんなゲテモノだ?」



 ディッシュ達の猛攻も力技で押し潰され、ドゥムディも本体以外のコピーが薙ぎ倒された。空中のマルスとレヴィも触手に包囲され逃げ場を失った。



「あぁもううねうね面倒だよ!」



「焼いてもキリが無い……! 無尽蔵な魔力で好き勝手するな」



「弱音とはらしくないな先輩!」



 触手を切り払い、セツナを背負ったクロノが飛び込んでくる。そのままマルスに肩からぶつかっていった。



「馴れ馴れしいぞ」



「礼儀知らずなもんで」



「!」



 クロノの背負っているセツナを見て、レヴィが何かに気が付いた。一瞬遅れ、マルスも異変に気が付く。クロノが肩を当てた時、同時に背負っているセツナに触れ、察したようだ。マルス達の様子を確認したクロノは、背後のレヴィに指でサインを送る。



「嫉妬しちゃうな」



「もういい加減、終わりにしようぜ」



「…………あぁ、断罪の時だ」



 翼を畳み、レヴィが高度を下げる。クロノとマルスは互いに構え、ヘディルに向き直った。何かを感じ取ったのだろう、ヘディルも動きを止め、クロノ達を警戒する構えを取った。



「受けて立ちましょう、敵対者を破り未来を掴むのは僕だ」

「僕は父とは違う、世界の秘密に辿り着き、真のエンディングに到達する!」



「エンディング? 良く分からないけど未来は終わりの事じゃないぞ」

「俺が欲しいのは、終わりじゃなくて続きだ!」



 片目を黒く染め、精霊の力と暗獄の力を全開にする。全てを左腕に込め、クロノは全力を放つ。



「”黒霊化Lミルプロトエール”・”全霊の咆哮スタンロア”っ!!」



 その攻撃に合わせ、マルスは浄罪の力を螺旋状に纏わせた。



「”波紋涅槃”」



 浄罪の力を纏った渾身の咆哮。ヘディルは無数の触手を束ね、巨大な槍を眼前に構える。



「”極欲我輪”」



 高速回転する漆黒の槍が咆哮と激突し、周囲に衝撃が走る。その瞬間攻撃の反動で硬直していたクロノの身体を、マルスが思いきり蹴り落とす。



「いってぇえええええええええええ! 加減しろバカ!!」



「加減してどうこうなる反動じゃなかった! 良いから飛べ!!」



 地面を蹴り付け、クロノはそのまま前方に加速する。咆哮ロアの反動で左腕が霊化しているがそんなの構っている暇はない。ヘディルも気づいている、だが明らかに飛んでくる触手が少ない。



(結局攻撃の違いだ、俺のは撃ったら後はどうにもできない自動攻撃、でもお前の触手は自動じゃない、お前がコントロールしてるタイプの攻撃だ、無敵の力もそう、お前の意思で操るタイプ……!)

(お前は、お前自身で迎え撃たなきゃいけない、どうしても判断も操作も自分頼り、オートじゃない)

(大技を囮に攻め込む俺達を、お前は一人で捌かなきゃいけない!)

「さぁっ! 切り札が喉元にいくぞおおおおおおおおおおおおおお!」



「来ると分かっている脅威など、恐れるに足らん!」



 追加で空間の穴が開き、触手の雨が穿たれる。右手一本と両足の加速で掻い潜り、クロノはヘディルに飛び掛かる。右手を振り払い、色欲の力を叩き斬った。



(これで行動を都合よく曲げられる事はない……! 意味不明に後ろに下がったり、セツナを落としたり、俺の動きをどうこうは出来ない! 無敵の力は残ってるけど、セツナの剣は無敵ごと貫く!)



 色欲で距離を開けられる万が一も潰した、後はセツナが決めるだけだ。



「斬れ!」



 背負っていたセツナが身を乗り出し、剣を振るう。巨体に剣が当たり、それだけだった。



「!?」



「恐れるに足らんと、言ったはず」



 声は上からした。見上げると、そこにはミライの身体を奪ったヘディルが翼を広げ飛んでいた。地獄の力で肥大した肉体から抜け出し、それを遠隔で操り、自らは攻撃の安全圏に抜け出して。



「一発限りの特攻なんぞ、能力に頼らずともいなすのは容易だよ」



「…………!」



「……君の攻撃は僕の攻撃を打ち抜き、それ・・に当たるだろう」

「今の君の立ち位置なら、巻き添えを食うだろうねぇ」



 咆哮ロアは触手の槍にヒビを入れている。このままだと抜け殻になったヘディルの巨体諸共クロノ達を巻き込むだろう。



「無駄な努力、ご苦労様」



「…………言ったはずだぞ」



「負け惜しみを言う時間も残っていないよ」



 槍が砕け散った、咆哮ロアの閃光がクロノ達を飲み込んでいく。クロノはそれを、残った右手で受け止めた。



「…………は?」



「侮り過ぎだって、上から物を言ってるから足元すくわれるんだ」

「恐れろよ、あいつはいつだって、怖がってたぜ」



 一閃、斬撃が走った。ヘディルの胴体を割いた一撃は、地上から放たれたモノ。



「………………なっ……?」



 地上に居たのは、セツナだ。立ち上る力は怯えていた切り札のモノじゃない、別次元のモノだ。それでも、剣を振るったのは、セツナだ。まだ小さく震えているし、歯もガチガチと鳴らしている。それでも目つきだけはこちらを強く睨んでいて、放った斬撃は確かにこの身に届いていた。色欲の力も、無敵の力も、何もかも貫いて。



「嫉妬はグルグル、いつでも、いつまでも、レヴィを弱く、セツナを強く、決めるところは決めてよね」



「私は、切り札だっ!! お前の欲を、切り取り、封じるっ!!」



「だからあいつは、いつだって、強敵を逃さない」



 肉体が鼓動した、切り傷が熱を生み、抑え込んでいた何かが内側から暴れ出す。抵抗する間もなく、ヘディルの精神がミライの身体から弾き出された。



(馬鹿な、剥がされた!? 強制的に……!? 情報以上に無法な力……いやそもそも何故切り札があそこに……!)



 クロノに背負われていたセツナが顔を上げ、ヘディルに向かって舌を出してきた。そして、そのまま消え失せた。



(怠惰のコピー……全能力を無効化するんじゃなく、自身に有利な効果はそのまま受けられるのか、だから嫉妬の力も……!)



「残念だな、負け惜しみを言う時間は残ってないみたいだぜ」



 咆哮ロアの閃光が消えた、全てがクロノの右腕に飲み込まれたからだ。



咆哮ロアだって、圧縮された全属性……原理は精霊球エレメントスフィアと変わらない……現実で試すのは怖かったけど、これ自体は夢の中で何度も試した、出来ると分かってても怖かったけど!)



(ルーンも咆哮ロアを剣で撃ち返したりはしたけど、腕で受け止めて再度吸収なんて君にしか出来ないと思うよ)



(心臓止まるかと思ったよぉ!!!)



(お説教、案件……)



(まぁ今は、決めるところ決めちまえ!)



「これなら精神体でも構わず消し飛ばすぞ! 父親と同じ技で吹っ飛べっ!!」



 空を蹴り、ヘディルへと飛び掛かる。距離をゼロにし、直接渾身の一撃を叩き込む。



(僕の計画を、何もかも等しく一瞬でダメにした…………あぁ、あれか……あれこそが鍵か)

「…………欲しい」



「”黒霊化Rミルプロトアール”・”全霊の咆哮スタンロア”――連式ラッシュッ!」



 四精霊の咆哮がヘディルの身体を貫き、閃光が打ち上がる。ヘディルの精神体が消し飛ぶと同時、神の如き存在感を発していた巨体が崩れ落ちる。アジト内を汚染していた変化が消え失せ、地獄のような風景も元に戻る。大罪達を襲っていた触手も消え、弾き飛ばされたミライの身体もマルスが受け止めていた。



「……ふぅ……」



「やったああああレヴィやった、勝ったやったああああああああああ!」



「ぶわっ! 泣くな抱きつくな! 決めたんだから格好つけなよ!」



「当たってよかったああああああああ」



「嫉妬も出来やしない! あぁもう!」



「ははは……ほんと、凄い奴だ」

「これで全員、揃ったな……」



 気絶しているミライの元へ、大罪達が駆け寄っているのが見えた。天井を見上げると、黒ずんでいた壁や天井が元に戻り、触手がボロボロと崩れ落ちて来ていた。ヘディルの気配も、もう残っていない。敵の気配も、もうなかった。





「寝起きの運動にしちゃあ……ハードだったなぁ……」





 逃走した災岳、滅茶苦茶になったアジト、気絶しているミライ、まだ片付いていない要素が多すぎる。戦い抜いたクロノ自身目覚めたばかりで、頭の中は全く落ち着いていない。そのせいだろうか、いや、この場の誰も気づかなかった以上、責められはしない。降り注ぐ黒い破片の内、たった一つが脈動した事。それが、セツナの影に吸い込まれていった事。



  ――この場の誰も気が付けなかった、ただ一つの失敗。



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