第七百二十四話 『夢を繋いで』
スピネル達の猛撃により、独房を襲った触手は一掃された。だが飛び散った破片は消える事無く一か所に集まり、黒い塊に変貌する。それは一瞬鼓動のように揺れた後、隅で震えるククルア目掛け身体を伸ばす。
「きゃあ!?」
(目の前の僕達を無視して……! 大勢を一気に狙ってた時より速い……!)
瞬時に飛び込んだスピネルが剣を構えるが、伸びた部分が枝分かれし無数の手の形を取った。一本はククルアに迫り、残り十数本がスピネルを迎撃せんと襲い掛かる。
「お姉ちゃん!」
「スピ君の事なら一瞬一秒即理解!」
スピネルは現在、ロベリアの魔素流揮をコピーしている。その上、ここに来る前にロベリアはスピネルに魔力を纏わせている。魔素流揮は自身の魔力を纏わせた物を操る能力、この力でロベリアは自分の血を操って戦闘に役立てている。二人は合図と共に同時に魔素流揮を発動、スピネルの全身の血流を二重の力で加速させる。嘗て討魔紅蓮との戦いで使った、自らの身体すら崩壊させかねない全身ドーピングだ。
(この短期間で私達は凄く強くなった、心身共に鍛え上げた……だからってこの異常な身体強化に耐えられるほど頑丈になんてなれやしない)
(だから、能力の理解を深めた……何が出来るか、どんな力なのか……それは強さの幅と限界を引き上げる)
スピネルは自分の腕を斬りつけ、飛び散った血を舌で舐めとる。自分の肉体に干渉し、大人の身体に成長する。
「勇者技能って言うんですってね、これ……ラックさん達から聞きました」
「僕の脳内で勝手にほざいて消えた奴は輪廻展開って能力名だけ教えてくれましたけど、使い方くらい言っとけってんだよ……無駄に手間取ったせいで、何枚服が破けたと思ってんだ」
当然身体が大きくなるので、着ている服はその度破けた。ロベリアは修行中そのせいで何度も吐血し死んだ。現在スピネルが着ている服は、流魔水渦所属のアラクネ達が縫ってくれた特注の伸縮性マジやば耐久の服だ。良く伸びて身体にフィット、とても頑丈の素晴らしい服だ。ロベリアは少し残念そうにしてた。
「要は血を摂取することで、対象に干渉できる力……能力だってコピーしてるんじゃなくて、相手に使わせてるだけ……一つの力を二人で使う状態……」
「つまり今の私達は一心同体と言っても過言ではなく……うへへ……」
(これ使うとお姉ちゃんの吐血頻度が上がるから、継続ダメージの効果あるのかと思ったんだよなぁ……)
「自分の血を吸って自分に干渉、理すらも捻じ曲げて一定時間大人になれる、ようやく安定して使えるようになった、よっ!!」
二重血流加速により速度を上げたスピネル、振るう刃が攻める数十本の手を切り裂き、一気にククルアの前まで滑り込む。
「やらせねぇよカス」
血の刃が混じった斬撃は一薙ぎで数十回斬りつける。ククルアを狙っていた手は微塵切りになり、そのまま血の刃は黒い塊にまで届いた。再び鼓動のように震え、黒い塊は人の形を取る。
「力……力を……」
「声がするって事は、これも悪魔なんですかね」
「命の気配はしないよスピ君、何かの意思だけで動いてる」
「他者を食い物にしようと遠隔操作ね……他所でも正気を失った敵の悪魔が優先して狙われてるし、深読みすればするほど吐き気がするよ」
「切り捨てるだけならまだしも、骨の髄まで利用しようってとこがねちっこくてクソだ」
「きっとクロノお兄さんや流魔水渦はアホで馬鹿でお人よしだから……助けようとかどうにか出来ないかとか、クソを前にしても考え方から切り捨てられない、どこまでも優しいから」
「でも、どうしようもない奴は居る、助ける価値もないゴミは居る……僕はそんな屑を躊躇なく切り捨てる」
「誰が何と言おうと、クソな道を歩んできた僕だから、救いようのないゴミはクロノお兄さんの視界に入る前に、道に立ち塞がる前に、僕が消す」
「やり直そうとしてる奴等を食い物にしようとしたお前は、間違いなくゴミだ」
「欲を、満た、せ……!!」
人型を取った黒が、周囲に手を伸ばす。欲のままに、周囲に食らい付く。剣を構えたスピネルの姿が消え、赤い線が黒を断つ。
「我流奪命剣・”血染め鴉”」
超速加速から血を纏わせ巨大化した双剣で力任せに叩き斬る大技。切断と共に血で覆い、封じ込める。
「お姉ちゃん一人で抑え込めそう?」
「余裕でーす、もぞもぞするだけで抵抗も強くないしね」
「むしろ大人スピ君との会話の方がしんどい、意識が飛ぶ」
「お姉ちゃんの生態だけは未だに理解しきれないよ」
「けどお師匠も気持ち少し分かっちゃうなぁ、ちょっとがっしりしたのはガッカリだけど美形だしねぇ」
「スピ君は私のですからっ!!!」
「弟子が冷たい! まぁテイルちゃん女の子専門ですが」
「まぁそれはさておき制圧完了だけどー……派手にぶっ壊してくれちゃってまぁまぁまぁ、ここ一応独房エリアなんだけどなぁ」
壁は砕かれ、幾つもの独房がその機能を果たしていない。何人かの捕えていた悪魔が野放しだ。もっとも、襲われたショックと恐怖で皆呆然としているが。
「レラさん達の保護したダークエルフってここにいるんでしたっけ?」
「あの子は別の部屋らしいよ、この前会いに行ってた時別方向に歩いてたし……まぁここ方向とか距離とか変だからあてになんないけど……」
「どの道留守の間に何かあったら顔向け出来ないところでしたよ、これ以上取りこぼして堪るか」
「ここどうにかしたら、すぐ他に向かわないとね」
「異変の元凶にはクロノ君や我等が切り札セツナちゃんが対峙してるらしいけど、どうなることやらね」
「今までアジト内全域を襲ってた異変が、今数か所に一点集中強化型みたいになって点在してるみたいだし、まだまだ気が抜けないぞ弟子共よ」
「師匠がレズ淫魔とか誰にも言えない恥ですよ」
「その年で言葉攻めなんて将来有望だねぇ」
「スピ君に悪影響なので距離を取ってください、今すぐに!!」
言い争うロベリアとテイルに呆れつつ、スピネルは剣を納める。それと同時に能力が切れたのか、スピネルは子供の姿に戻ってしまった。その際、少しふらついた。
(…………お姉ちゃんには悟られないようにしないと、まだ負担が大きい……疲労が一気に来る感じだ……多用すれば隠し切れないな……)
「関係ない、使えるモノは何でも使う……例え擦り減っていっても……今戦えなきゃ未来なんてない」
「何の価値も見出せなかった僕が、未来の為に、未来を信じて戦える……擦り減るより足される方が、満たされる方が何十倍も大きい……幸せだって、心から思える……だから……!」
「あ、の……」
息を整えていたスピネルに、ククルアが近づいて来た。
「なんですか? 暴れるなら四肢を輪切りにしますが」
「ひぃ!? 子供らしからぬ言動!?」
「今……セツナって聞こえて……あたし、あの子のおかげで保護してもらえて……大丈夫なのかなって……今みたいに、滅茶苦茶な状況だし……また、会えるかなって……心配で……」
「その首叩き斬りますよ」
「なんでぇ!?」
「僕は切り札についてはよく知りません、なんかこう凄い事しか」
「けど、今元凶を相手にしてるのはクロノお兄さんだ」
「随分長い事寝込んでたらしいですし、これ以上グダグダしてるようなら僕は許さない、修行してた分お見舞いも出来てないので果物を口に押し込んでやりますよ」
「スピ君信じられないくらい心配してたけど我慢して修行してたもんねぇ」
「うるせぇな強くなるのが優先だろボケ」
(訳・不甲斐なくて顔向け出来なかったんだってば!)
「うんうん、これが終わったら会いに行こうねぇ」
「はぁ……つまり何の心配も要らないんですよ、あの人は絶対に勝ちますから」
「だから貴女はここで大人しくしとけばいいんです、切り札さんも全部が終わったら会いに来てくれますから」
「僕達は、そんな未来の為に戦ってるんだ」
「うんうん、メンタルケアも中々だ」
「夢は願う者の数で輝きを増す、多くが願う夢は未来を照らす太陽だ」
「共存の未来は、見えてるかい?」
「僕には明るく見えますね、前よりずっと」
「眩しいくらいにね、きっともっと輝くよ」
「そっか、頼もしいよ」
(そうでしょ? クソルーン……)
その輝きは、あの頃よりもきっと強い。だからこそ、テイルは今も夢を支えるのだ。だからこそ、信じ続けるのだ。




