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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百十七話 『夢の終わり』

「なんか今、すっごい風が吹いたような……?」



「いくらここが変な場所でも、外じゃねぇんだからそりゃねぇだろカルディナ更に馬鹿になったのか?」



「元から馬鹿みたいな言い方酷くないかな!?」



「マスターは馬鹿でもシズク好きだヨー」



「嬉しいけど慰め方が違うと思うんだよね……」



「ボロボロで戦力外な癖に随分と余裕だなァ人間よォ」



 暴食ディッシュの指摘はもっともであり、ダメージの大きなカルディナは隊列では後方に位置している。リウナとシズクを両サイドに構え、現状大罪の後ろをついて行っているだけだ。



「いやぁ……あはは、前衛が頼りになり過ぎるもので……」



「良いご身分だよ、本来そのまったりおサボりポジションは俺の物だってのに」



「お前は少しはやる気を出せ、お前が本気になれば誰より早く片付くだろうに」



「あのねー、いつもやる気が動力ですみたいな欠陥暴走ゴーレムと一緒にしないでくれますぅ? こっちはやる気アレルギーなの働くと死ぬの怠惰なの」



「お前等もお前等でコントなんだよなァ、どう頑張ってもシリアスに戻れないから見ろお前等、ツェンの居心地悪そうな面ァ」



「分かっているなら話を振ってくるんじゃない、我は大層機嫌が悪い」



「いい加減観念しろよなァ、そもそもお前のせいで昔は空気最悪になったんだから少しは我慢するんだなァ」

「間違ってたとは言わねェけどなァ、誰がどうやってどうしていても、ボク達を取り巻く環境は悪循環に悪循環を重ねた最低最悪クソ塗れだったからなァ」

「遅かれ早かれ、崩壊してただろうからなァ」



 軽口を叩き合い、大罪達は過去に思いを馳せている。だが彼等はカルディナの前を進みながら、襲い来る黒くてドロドロしてる訳の分からない悪魔らしき軍勢を叩きのめしていた。正直強すぎてやる事がない。



「これじゃ目で見ても返って邪魔しちゃうよ……」



「ちょっと勇者がサボってますよー、大罪より大罪ですよー」



「この野郎これ見よがしに……! そこの傲慢野郎が誰のおかげで戻ってきたと思ってんだあぁん!?」



「まだ戻ってきたわけじゃ……」



「協力したよねぇー! 一人の手柄みたいに言うの良くないと思うんだけどなぁー!」



「すまない、プラチナはサボれない時間が長引くほど全体的に残念になるんだ……非礼を詫びよう」



「ポワポワ、残念なら仕方ないよネ……」



「残念回避の方法がサボりじゃどの道残念じゃねぇの?」



「あーあーあー! やる気死んだーもう死んだー! ディッシュの翼に絡まってサボるーもう怠惰マックスですー!」



「だる絡みするなよなァ、あんな目に遭ったんだから少しは変わっておけっての」



「別にー? クソな扱いはお前等に会う前に慣れてたしー」

「だから面倒だったから止めもしなかったわけだし、ツェンに限らず、ドゥムディもレヴィも、みんな放置したわけだし」



「…………」



 口を紡ぎ、ただでさえ微妙だった空気が重くなる。事情を知らないカルディナには、その空気は重すぎた。



(気まずい……空気がのしかかる……その状態で敵を薙ぎ倒して進んでいくから追いかけなきゃいけないのに、この空気を追いかけるのがとても辛い……)



「なんかあれこれ言ってるけど、何があったのかナ?」



(辛い……心の具現化みたいな伝説種が空気を読まずに飛び込んでいくのが辛い……)



 マスターの心の内を知ってか知らずか、シズクが重苦しい空気に飛び込んでいく。この場から逃げ出したいカルディナだが、シズクは今カルディナの治療の為に全身にへばり付いている。つまりほぼ一心同体で逃げられない。大罪達の視線がシズクに集中するが、それはすなわちカルディナに集中しているようなものなのだ。



「あァ?」



「ごめんなさいすいませんうちの子がそっちの気も知らずにおバカな事を」



「ポワワワワ、マスター暴れたらシズク零れちゃうヨー」



(こいつ絶対分かってて聞いたよな……)



「別に、ツェンが全員が思ってて言わなかった事を最初に口走って、空気を悪くしたってだけだなァ」

「ボク達全員、それを責めちゃいない……全員が思ってた事だから」



「どれだけ仕事をこなしても、お国の為に働いても、俺達を見る目は白かった」

「優秀過ぎれば妬まれ、強すぎれば恐れられる、更には人外に変人の集まり……当然といえば当然なんだよね今思えばさ」



「それでも止まる事は無かった、マルスの理想は俺達の理想でもあり夢、その為に日々努力を重ねた」

「言い聞かせるように、いつか努力は報われると励まし合ったものだ」

「おれ達の欲は本物だった、夢を想うと活力が湧いて来た、力が湧いて来た」

「欲は身体を蝕み、おれ達は次第に悪魔と化していった」



「…………我等は、俺達は……ただひたむきだっただけだ」

「……俺に悪魔化の兆候が表れた時、世間の目を見て確信した……このままじゃ何一つ変えられないと」

「さっきの戦いで散々こいつらが口撃してきたろ、聞いた通りだ、俺は真っ先に悪魔に堕ちて、悪役を演じようとしたのさ」



「けど、純粋な欲が身体を蝕んでいったって話が本当なら……一番最初に悪魔になった貴方が一番夢に対して真面目だったって事じゃ……」



「へいへいへい、言われてるぜ傲慢さんよォ」



「…………ッ!」



「言うまでもないけどねー、誰よりも真面目でマルスの右腕やってたお前が急にグレて違和感半端じゃなかったし」

「俺達を悪く言う奴等とか、嫌な依頼主ぶん殴って黙らせてさぁ……確かにお前に悪評は集まったけど、俺達に対しても増えたよ? やり方やばすぎ」



「黙れ怠惰、最後まで傍観していたくせに」



「最初から最後まで、だよ……無理やり誘ったのはお前等だ」

「何回同じこと言わせるのさ、誰が何しても、どうせあぁなってたよ……お前のやり方は不味かったけど、あの現状に変化は与えた」



「そうだなァ、空気は最悪になったが、何も変えられない、夢は叶わない、現実を見つめるいい機会にはなったなァ」

「いっそ全部投げ出して、一番大事な物だけ選んでりゃそれ一つくらいは守れたかもなァ」



「それって……?」



「おれ達自身、おれ達は欲と夢で繋がった、言ってみればおれ達の輪は小さな夢の完成形」

「輪を広げる事を諦め、おれ達だけで閉じこもっていれば、安全だったかもしれん」

「国は消えずに、血も涙も流れずに、欲は満たされ誰にも迷惑はかけなかったかもしれんのだよ」

「もっとも、欲深い悪魔にそれで満足しろってのは、些か難題過ぎた」

「誰もが困難と知りながらも、おれ達は皆、諦められなかったんだろうな……」

「なぁツェン、やっぱりお前達三人が、一番頑張ってたよ」



「全員バラバラの方向いて違うやり方でなァ」



「…………俺達はいつもそうだった、性格も考え方も何もかも違って、それなのに離れられない」

「…………離せないんだ、俺も、ミライも、あの、馬鹿も……」



「知ってるなら折れろよなァ」



「折れるわけがないだろう、どんな手を使ってでも、あの時の俺は自分を犠牲にしてでもお前達を未来に生かすと決めていたんだから」



 ツェンの言葉に、軽口を返す者は居なかった。沈黙とは裏腹に、大罪達は敵を薙ぎ倒し進んでいく。気配が感じにくい状況でも、引かれ合うようにその場所へ。












 感知が役に立たない状況だが、例え内から抜け出したとはいえマルスはまだクロノと繋がっている。憤怒の器として、その繋がりは正確にクロノを導いていた。悪魔の群れを蹴散らしながら、クロノも精霊達と共にそこを目指していた。



「じゃあ、クロノは寝てる間ずっと憤怒の悪魔にボッコボコにされてたんだね?」



「ボッコボコのボッコボコにされてたよ、精神体じゃなかったら数回死んでたねあれは」



「クロノも大変だったんだねぇ……頑張ってたんだねぇ……」



「寝てただけじゃなかった、偉い偉い……よしよし……」



「お前は看病せずに割と寝てばっかだったけどな」



「途中途中でマルスの過去を鑑賞してたんだけどな」



「休憩ついでに映画鑑賞みたいなノリで言うなお前」



「傲慢と他の仲間達のすれ違いは、正直みてて辛かった」

「このままじゃダメだって漠然とみんな分かってても、世界が色んな選択肢を封鎖していくみたいな最悪の空気で、どんどんダメになっていってさ……傲慢の行動で、現状にヒビが入った感じ」

「傲慢は自己犠牲で自分だけが悪者になって、皆の正当性を示そうとした」

「色欲は仲間を見捨てられなくて、全員が居て初めて夢は成ると、自分達の絆を信じた」

「マルスは迷いながらも、全員の欲を優先した、最後まで傲慢を信じて離そうとしなくて、乱れすれ違う時間が長引いて……揺れる悪魔を抱えた国は、手を打った」

「全てを抱えようとしたマルスは、全員を失った……最悪の結末を迎えた」

「何も言えなかった、何も気の利いた事、言ってやれなかった……最後の瞬間まで、マルスの記憶を見て、俺は何も言えなくて……」

「隣でマルスは、疲れたように笑ってた」



『あ……あの、さ』



『これが、僕達の終わりだ』

『何も守れず、何一つ選べず、どっちつかずでフラフラした結果だ』

『国からすれば、とんだ八つ当たりだ、当たり散らして、暴れて暴れて、最後には封じられた』

『結果だけみれば、国を滅ぼした最低最悪の悪魔…………何も違わない』



 記憶の終わり、燃える国と人々を虐殺する一体の悪魔。悪魔は怒り、叫び、涙を流しながら暴れ続けていた。目の前で笑う男と同じ顔で、天を仰いでいた。




『マルス……!』




『お前は悪魔が嫌いだろう? 僕も嫌いだよ、大嫌いさ』

『ただ夢を追いかけただけで、欲望は僕等を喰らい、この身を変貌させた……本気で欲しただけなのに』

『今なら分かる、僕は悪魔に堕ちた時から怒ってたんだ、変わらない世界、理不尽な扱い、全てに怒ってた……怒りは溜まって、最後に弾けた』

『最後の最後に、我慢できなくなって、弾けてしまった…………僕は僕を、許せなかった』

『これが僕の結末、愚かな夢の敗北者…………同じような夢をヘラヘラ語る君が、僕は大嫌いだ』

『だから目に焼き付けろ、決して忘れるな、君は、僕みたいになるな』




 そう言って笑うマルスの背後では、王国が炎に包まれていた。一体の悪魔の絶叫が、空間を震わせる。自らの選択で全てを失い、己に怒る悪魔の声。夢の終わり、大罪の始まり。



『マルス……俺は……!』



『目覚めの時だ、外は随分荒れているな』

『ッ! この感じ…………悪いなクソ野郎、僕は先に行かせてもらうぞ』



『え、は!?』



『もう二度と、仲間を失うわけにはいかないから』



『待て! 一緒に!』



『…………器は、怒りに満ちた……既に肉体は再構築できる、君の中に留まる理由がない』

『他人事なのに、なんで君が怒るんだ、本当に、君に見られたのが心底不快だよ……!』



 そう言って、マルスは自分の中から消えた。何も言えなかった分、残された時間沢山考えた。悪魔は嫌いだ、今でもそれは変わらない。それと同じくらい、助けたい気持ちも変わらない。



「知ったからには、首突っ込むなって方が無理な話だ」

「お前と仲間達の絆が切れてないように、俺とお前の縁だってまだ切れちゃいない」

「この怒りは、共有させてもらうぞ」



 速度を上げ、クロノはマルスの後を追う。大罪の集う場所、最後の欲が待つ場所へ。罪を焼き払い、己の身を怒りで焦がす憤怒の大罪は、誰よりも早くその場所へ舞い降りた。




「…………ここは、室内とは到底思えないな……異質極まれりだ」




 通路を抜けた先には、空が広がっていた。漆黒の空、迸る雷、何処までも続く荒野に、転がっているメイドと犬。



(……あれは、絵札の……)




「憤怒の器も満ち、肉体を構築するに至りましたか……実にめでたい」

「溢れる欲と力が周囲に影響を与えたようでしてね、何せ地獄帰りなもので……体験が反映されてしまっているようですね」




「……確かに地獄のような光景だ、嘗ての仲間の声で勝手に喋らないでくれないか」

「お前が何者で、僕達を利用し何をしたいのか、そんな事どうだっていいんだ」

「僕達を大罪と呼ぶのも、今も昔も好きにするがいい……僕達はもう周りに振り回されたりしない」

「大事なのは今だ、今を共に生きる事が何より優先だ、だから、ミライを返してもらうぞ」



 巨大な岩の柱の上、嘗ての仲間であるミライが座っていた。だが、中身が違う。肉体を奪われ、その力を道具のように利用されている。その現実が、憤怒の悪魔を滾らせる。



「喜ばしい、大罪の目覚めは僕の理想そのもの」

「彼女のように、僕の夢となるがいい」



「お前の罪を焼こう、僕達の夢と同じように」

「欲の果てへ消えろ、愚か者がっ!!」



 集いし欲が描くのは、新たな夢か、次なる悲劇か。



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