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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百十四話 『渦巻き、叫ぶ』

 大罪集いし地獄の底、欲が渦巻く戦場と化した流魔水渦のアジト。至る所で戦火が上がる中、クロノは相対せし災岳の身体を思い切り蹴り飛ばしていた。黒ずみ泥のように変容したアジトの壁をぶち抜き、複数の精霊球エレメントスフィアを操りながらクロノは災岳に狙いを付ける。



「はははははっ! クロノ……クロノ・シェバルツッ!!」



「そんな名前連呼しなくても、俺はここに居るよ」

「そんなに楽しいか? 俺と戦うのがさ」



「楽しいね、強者との戦いは心が躍る、いつだってそうだ生きてる実感がある」

「もっとだクロノ、もっとお前の強さを……!」



「それを求めても、もうお前はここに居ないんだ」

「お前達の叫びは、虚しさしか感じないぞ」



 空中を蹴りつけ、精霊球エレメントスフィアを回転しながら蹴り砕く。加速と強化を乗せ続けた一撃が災岳の鳩尾に叩き込まれ、再びその身体を吹き飛ばす。威力は関係ない、ダメージなんて存在しない。ただ、言葉だけが心を抉る。四つの心で塗り固められた偽りの身体が、言葉によって乱れていく。



『僕達はここに居る、僕達がマスターの存在を証明するんだ』



『あの日も、それ以前も、私達は心躍る戦いの中に居たのです』

『いつだって、私達はそう在ったのです、これからもずっと』



『どれだけ乾こうと、悪魔としての自分が、この欲を証明する』

『この衝動が、俺達をマスターと繋ぎ止める』



『これを楽しめなくなったらさぁ、少しでも疑ったらさぁ、うちらは消えちまうんだよ』

『止まっちまったら、それこそ死なんだよ、うちらはマスターを死なせない』



「さぁ、死合おうクロノ・シェバルツッ! 強者の時間を始めようじゃないか!」



 目の前で狂気に笑う男は、もう何処にも居ない。精霊達の想いで作り上げられた、人型に過ぎない。どう見ても生きていて、存在は本物のようにそこにある。これほど精巧で生き生きとした虚像、どれだけ理解していれば作り上げられるのだろう。親愛と、失った際の絶望を肌で感じる。縋りつき、歪な形で塗り固めたモノ。言ってみれば、それ自体が欲の塊。



「精霊と精霊使いの別れ、か」

「嫌だな、言いたくないな……嫌な役回りだ、目覚めの一発目がこれかよ」



(クロノ……)



「けど、付き合ってやるって約束したしな」

「お前達のマスターは、もう居ないんだ、眠らせてやれ」



「それは違うぞクロノ・シェバルツ、望む限り、欲する限り、悪魔は永遠だ!」

「永久に戦い続けよう、俺と共に、精霊使いの極致を目指そうじゃないか!!」



「永遠なんて無いから、俺達は絆を繋ぐんだ、今を大事にするんだよ」

「これ以上歪むな、お前達の思い出まで汚す事になるぞ」



「永遠はある、俺自身が永遠だ」

「楽しいな、楽しいぞクロノ・シェバルツ……闘争こそが我が衝動……っ」



 ボコボコと災岳の身体が歪に変容していく、精霊の動揺が肉体に現れている。バランスを崩した身体にアジト内の壁や床が取り込まれ、地獄の力を呑み込み暴走を加速させる。



「あ、あぁ……ああああああああああああああっ!!」

「もっと、力……だ、め、崩れ……マス、たー……消えな、い……消させない……まだ、ずっと……」

「永遠に……ま、だああああああああああああああああああああああッ!!」



 絶叫と共に、災岳が突如飛び上がる。天井を突き破り、そのまま力任せに凍獄の外まで飛び出した。



(外に……!?)



「気配が遠ざかる、逃げたのか……」



(この場に満ちる地獄の力、取り込み過ぎて契約者を維持できなくなったってところか?)

(欲のままに生きる故に、外部からの欲で乱されたと)



(クロノ……)



「正直追いかけたいところだけど、分かってるよ」

「あいつらは、必ず俺が止める……けど今は……」



 黒く染まっていくアジトの中を見つめ、クロノは息を呑む。今はやるべき事がある、優先すべき事がある。巨悪はまだ、ここに居る。









 大罪達がアジト内に雪崩れ込んだ影響か、アジト内に充満する欲の気配が少し変わる。滅茶苦茶な気配でも、欲に敏感な悪魔達はこれを肌で感じ取る。紫苑と相対していたリリネアも、変化を捉えていた。



「戦場は依然としてカオス……誰が死んでもおかしくない状況だねぇ」

「リリネアちゃんも魁人君をさっさとミンチにしてやりたいんだ、だからいい加減退いてよ暴走女」



「本当に主君に執着しますね……! あれなんじゃないですか!? リリネアさんの欲って色欲なんじゃないですか!?」



「ウケるねそれ、どんな解釈? 意外に脳内ピンクだったりする?」

「安心しなよ、リリネアちゃんはちゃんと魁人君が大嫌いだから、リリネアちゃんの欲はね、きっと憤怒とか嫉妬とかそっち系だよ」



「嫉妬の大罪が言ってました! 嫉妬は好きだから湧いてくるものだって!!」



「脳内ピンクだなぁ!? 違うって言ってんでしょうが!」

「それにね、リリネアちゃんが好きだったのは全部に絶望してた、死んだ目をしてた魁人君なんだよね」

「今みたいにお目目キラキラ未来に希望満ちまくりな魁人君、不幸極まって死んじまえとしか思わないんだよね!」



 距離を詰め、紫苑の頬を殴りつけるリリネア。退魔の力を纏った紫苑にはまるでダメージは通らず、岩のような感触が拳に伝わった。



(硬くない?)



 歯を食いしばり、紫苑が右腕を大きく振るう。ビンタという名の破壊の衝撃が、リリネアの頬を打ち抜きその身体を床に叩きつける。



(痛くない?)



 その衝撃は、戦場を一瞬沈黙させた。



「リリネアさん!!」



「待って悪魔になってなかったら今ので粉々だったけど……?」



「貴女を助ける為に、降参するまで攻撃はやめませんっ!!」



「こういう女の戦いってビンタの応酬とかになったりしない!? 攻め続けてくるの!? ちょ、待っ」



「大丈夫です! ラファグラスが良い感じに半殺しにしてくれるはずですから!」



「何が大丈夫なのよ! ちょっと魁人君この鬼やべぇ奴じゃない!? 冗談じゃ、きゃああああああああ!!!」



 途中からリリネアの悲鳴しか聞こえてこなくなった、任せる相手を間違えたかもしれない。



「あーらら……リリネアちゃんの悪魔の素質は本物だってのに……それ以上に化け物が相手だなぁ」

「憎しみも憎悪も吹き飛ばす程、圧倒的な暴力の化身……とんでもねぇのを野放しにしたもんだ」



「正直今の紫苑を好き勝手やらせると、取り返しのつかない事になりかねない」

「困ったもんだよ、だからお前相手にこれ以上時間はかけられない」



「やる気になればすぐ片付けられるみたいな言い方するなよなぁ、傷ついちまうぜ」

「多勢に無勢なこの状況、退魔のお前が如何に強かろうと不利なのに変わりはねぇんだぞ」



 ウィローは空間を捻じり、常に何が起きても対応できる距離を維持している。紫苑の力を借りているとはいえ、その攻撃力も届かないなら意味がない。当然退魔の力も警戒されている。普通にやっても攻撃は当たらない。しかも周囲はリリネアの使い魔に囲まれている。不利以外の何でもない状況だ。



「不利を覆すのが、運命を変える絶対条件だ」



 右手に装備した籠手ガントレットの溝に、魁人は札を数枚装着する。魔力札の効果を永続させるタイプの装備品だ、特別な効果は無い。



(そう、特別な効果なんてない……ただ札の効果を永続させるだけ)

(紫苑と繋がっている今、俺に宿るのは鬼の力と元々の退魔の力…対魔物に対しては退魔の力だけで事足りる、そこに加わった鬼のパワー、身体能力、特別な効果なんて必要ないくらい攻撃に関しては揃ってる)

(必要なのはサポート、そもそも今まで戦闘に使ってきた魔力札は残数制限のあるサポートアイテム、強力すぎる攻撃能力に対して継続力も支援能力も不安が残る、だからそれを補ってやる)



 籠手ガントレットに装着した札から魔力が溢れ、鎖のような物が飛び出してきた。それは魁人の意思のまま動き、周囲の魔物達の動きを縛る。



「魔力札は込めた魔力が尽きれば効能を失う、使い捨てのアイテムだろうが」

「なるほどねぇ、その籠手ガントレットは充電器ってか? 札に常に魔力を流し続けて効果を永続させると」

「ただでさえ鬱陶しい退魔の力を札でのブースト、変形を垂れ流し状態にしやがって、魔物への配慮が足りてねぇぞ」



「今更俺が配慮したところで、許されるようなものでもないだろう」



「開き直ってんじゃねぇよ大罪人がぁっ!! お前が傷つけた魔物達に向き合いもせず突き進んでくる気かぁ!?」



 魔物達を縛り、ウィローへの道を切り開く。空間を歪められても、退魔の力がそれを貫く。



「目を逸らさないからこそ、俺はお前を穿つんだ」

「向き合うからこそ、お前に構ってる暇なんてないんだよ」



「傲慢だな退魔、犯した罪は永遠にお前を許さないぜ」



「なら、永遠に罪に焼かれよう」

「そうやって、生きていこう」



「なるほど? 狂ってやがる」

「悪魔以上に、狂ってやがる」



 振るった退魔の一撃が、螺旋の悪魔の身体を射抜く。永久に誓った贖罪の想いが、未来に手をかける。



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