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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百十一話 『歪でも、それが欲だから』

「おおおおおおおおおおおおお!」



 錫杖を両手で構え、災岳が襲い掛かってくる。水と風の自然体を駆使し、常人には捉え切れぬ動きと速度でだ。一撃の威力も凄まじい、大地と炎で最大限強化された攻撃はまともに喰らえば致命傷は免れないだろう。そんな攻撃を、クロノは全て避けていた。



「随分冷静だな! 寝起きだからと加減しないで良さそうじゃないか!」



「元々そんな気遣い出来る奴じゃねぇだろお前」

「生憎、これよりよっぱど殺意込めてボコってくる悪魔が夢の中にいてさ、あれに比べりゃ温いし、夢と違ってこいつらが居てくれる」



 ティアラとリンクし、凝浸水ぎょうしんすいを発動させる。それに合わせ、クロノは取り込んだ属性の力を身体の中で流すように操る。目に波紋が浮かぶと同時、背中に顕現した翼状の力が揺らぐ。四色の翼の内、薄緑、黄色、深紅の翼が混ざり合い輪のように形を変える。鮮やかな色彩のまま輪は回転速度を上げ、中心に残った水色の力が後方に勢いよく噴き出した。クロノの身体がその勢いのまま前方に飛び出し、左の拳が災岳の顔面を打ち抜く。



「ッ!」



精霊技能エレメントフォース使えるのがマジでありがたい、一人じゃないって素晴らしいよ」



「精霊使いとして、精霊には日々感謝感謝だなっ!」



 すぐに態勢を戻し、災岳が錫杖を横薙ぎに振るって来る。水での感知で軌道は読み切っている。このままでも避けれるが、避けるだけで終わるなら戦いは長引くだけだ。そんな暇はないし、その次元で止まっているつもりもない。取り込んだ属性を全身に行き渡らせる。左腕が集まった属性により霊化していく。背中の輪が回転速度を上げ、水色の羽が深紅に変わっていく。ティアラに加え、エティル、アルディとリンクを繋げた瞬間、輪の三辺から三色の棘のようなものが突き出した。




精霊技能エレメントフォース三重トリプル…………ヴフト・ツェーレ」

「この精神力がゴリゴリ削れる感覚すら、懐かしいよ」




 水で感知し、風で追い越し、大地で砕く。前回四天王との死闘で使った時は守りに使った三重トリプルの力。今は違う、出来る全てをカウンターに転用する。相手の攻撃を見切り、生まれた隙に粉砕の一撃を神速で叩き込む。左拳は灼熱の霊化状態、威力は言うまでもなく最大だ。




「”無心舞踊むしんぶよう”・”緋色飛沫ひかしぶき”」




 錫杖を掻い潜り、顔面を殴り飛ばす。相手がよろけた分前に踏み込み、次の一撃をいなし鳩尾を蹴り飛ばす。相手は殆ど怯まない、相手も感知し、大地で受けている。だからすぐに反撃が来る、威力も速度も申し分ない危険な攻撃がすぐに飛んでくる。その全てを掠りもせず避けきり、全てに対しカウンターを決める。災岳は弱くない、世にも珍しい四精霊使いで、精霊の力の技量はクロノ以上の強敵だ。速いし、硬いし、そもそも悪魔故に物理攻撃はほぼ無効、不死身と言っても差し支えない厄介な相手だ。そんな相手が、今膝を付いた。



「ははははっ!! なるほど、なるほどなぁっ!!」



「流石に察しが良いな、精霊使いとして先輩なだけあるよ」



「周囲の属性を我が物とするその力、相対するこちらの力すら取り込むか」

「自然体を使う者、特に精霊使いの天敵と化したか……クロノ・シェバルツッ!!」



 仮霊化プロトの常時展開、それを維持する為の力の供給。精霊球エレメントスフィアを作る要領でクロノは自分の纏う黒衣に常に力を取り込み続けている。自然界に揺蕩う力だけではなく、文字通り周囲全てから、それは相対する敵からも例外じゃない。



「あんた達が強けりゃ強いほど、反撃の手は強くなるぞ」



「ふはははっ! なるほど、これは経験がない」

(しかも属性と一言で語るが、こちらから奪った力で『型』のようなものを鑑定されている……妙にハマるというか、一撃一撃が響く……こちらに最も効果的で通用する最適化されたカウンターが飛んでくる)



 災岳は呼吸を整えながら、自らの内側に意識を向ける。災岳の精霊達が全員、同程度に精神を削られ息を乱していた。



「俺だけではなく、精霊全てを削るとは、恐ろしい男になったもんだ」

「それも悪魔である俺達を物理的に弱らせるとは、どうにも今のお前の攻撃は防ぎようがないらしい」



「夢の中で文字通り死ぬ気で鍛え上げたからな、成長と経験で削れるようになった場所全部削って最適化した仮霊化プロト精霊技能エレメントフォース重ねてんだ」

「やっとこいつらと再会出来たんだ、今の俺は負ける気がしないね」



「確かに、こんな気持ちは久しぶりだ」

「死に物狂いじゃないと、勝てる気がしない程の強者とはな……血沸き肉躍るとはこのことよっ!」



 立ち上がり、災岳は凄まじいオーラを纏い狂気の笑みを浮かべている。しかしクロノに焦りはなく、むしろ不思議そうな顔をしていた。



(随分余裕じゃねぇか、相手も相当な化け物だぜ)


(けどけどクロノがすっごいよぉ! 夢の中でってのが良く分かんないけど!)


(うん……強い……凄い……私達の、知らないところで……なんかしてた……?)


(若干ティアラの嫉妬を感じるんだけど……マジで死ぬ気で頑張ったしボッコボコにされたんでここは普通に労って欲しいんだよね……)


(それは置いといて、何か気になってるみたいだけどどうしたんだい?)


(ん……さっきから気のせいだと思ってたんだけど、やっぱ変だなって)



 戦闘中、災岳に攻撃を当てる度違和感があった。それはとても小さなモノだったが、今のクロノなら確かに感じ取れる気配だった。



「さぁさぁ死合いはここからだ、こちらも出せる全てを持ってお前を叩き潰すとしよう」



「楽しそうなとこ悪いけどさ、一個気になるんだが」



「なんだなんだ? 今の俺は気分が良いぞ答えてやろう!」



「なんでお前から気配が4つしかしないんだ?」



 クロノの言葉に、場の空気が固まった。さっきまで笑っていた災岳が、表情をそのままにして止まっている。クロノの精霊達はティアラを除き首を傾げ、災岳の精霊達は沈黙している。



(4つ?)


(向こうには精霊四体に契約者一人、こっちと同じで気配は5つじゃないのかい?)


(俺も5つに感じるが…………ティアラ?)


(…………変なのは、気づいてた……けど、はっきりとしない……)



「精霊達の気配は間違いなく各々のもんだ、確かな4つの気配だ」

「けどティアラとリンクして、仮霊化プロトでブーストした俺には分かる、災岳……あんたの気配は歪だ」

「純粋な1個の気配じゃない、お前の気配は……」



 次の瞬間、災岳から力が噴き出した。それは正しい流れじゃない、まるで爆発するように弾けた力。それに合わせ、精霊達の絶叫が周囲を揺らす。怒りや悲しみ、悔しさや恨み、様々な感情を乗せた叫びは、災岳の肉体を震わせ、輪郭を歪ませる。





「あ、あ、ああ……うああああああああああああああああああああああっ!!」





 弾けた力が災岳の身体から全方位に放たれ、壁や天井に貼り付いた。それは黒ずんだ部位を引き剥がし、地獄の力を無理やり取り込んでいく。災岳の身体が人の形を失い、暴走した黒となりクロノの前に立ち塞がる。



(何がどうなってんだこりゃ)



「……あいつの気配は、精霊達四体の気配の混ぜ合わせだ」

「災岳の気配は、最初から存在してない、ずっと作り物だった……4つがごちゃ混ぜになって、1つの別物に成り代わってた、高レベルな感知じゃないと分かんないくらい精巧に、繊細に作り上げられてた」

「精霊達が作り出してた、偽りの精霊使いだ」



『偽りじゃない、マスターなら絶対にこうしてた』



「っ!?」



『マスターなら、必ず私達と戦いを楽しんでくれるんです』

『今も尚、私達と共にあるのです』



『……また、乾く……満たされずに乾くだけ』

『……俺達の欲は、器を満たす事もない……』



(あっ……曖昧で……現実味のない……もの……)

(前に、言ってた……欲の、在りか……)



『終わってないんだ、終わらせないんだ……だってうちらはマスターの精霊だから』

『ずっと、ずっと一緒なんだ……うちらの深淵を突っつくなぁっ!!』



 精霊達の咆哮が辺りを揺らす、暴走した力は再び人型に押し込まれ、笑みを浮かべた災岳が錫杖を手に飛び掛かってきた。



「さ、がぉあ…………さぁ! 楽しもうじゃないかクロノ・シェバルツッ!!」



「お前達の在り方に文句はないけどさ、楽しもうってそれ心からの言葉かよ」

「きっとこうだって演じ続けて、その茶番は空虚じゃないのか」



「何の話をしている? 俺達との戦いに集中しろっ!!」



「……あくまで続けるなら、良いよ」

「約束だ、今度は付き合ってやるって言ったもんな」

「お前達の欲を暴いて、終わらせる」



 目の前の人型から、叫び声が響いてる。泣き喚くような、悲痛な声が。見て見ぬフリはしない、それがどれだけ狂気でも、狂っていようとも。もう何一つ零さないと、決めている。












 アジト内での戦いが続く中、乱れに乱れた滅茶苦茶な気配をこじ開けるような衝撃が走る。外部から鍵を使ってゲートを繋げようとしているようだが、悪魔の影響で狂ったアジトには上手く繋がらない。悪魔達の策略で外部からの援軍が見込めない状態なのだが、何やら力任せに外から影響を受けている。遂にアジト内にゲートが出現したが、黒ずんだゲートはまるで通行止めのように固まっていた。そんな空間の固まりを、牙が食い千切り抉じ開けた。



「ようやく開通だなァ、異常事態の匂いで吐きそうだぜェ?」



「だるだる~……ようやくめんどくさいのが終わったのにさぁ……」



「今も昔も、多忙というのは喜ばしい事だ」

「歪んだ先に、懐かしい気配を薄っすらと感じるな」



 集う大罪が、戦況にヒビを入れる。そんな彼等の背後から、疲弊した様子のカルディナが顔を出した。



「か、帰ってこれた……あぁー……生きてるよぉ……」

「なんか大変な事になってるけど……えっと、後の事って任せても良いんですかね……?」



「勘違いするな人間、我等を思い通りに動かそうなんて傲慢が過ぎるぞ」



「そうツンケンするなよなァ、今ここに居る以上何の説得力も圧もねェや」



「昔からお前はそうだったな、大体我だの俺様だのキャラがぶれてるせいで身内には取り繕ってるのがバレバレなんだ」



「大体今考えても無理があったでしょ、全部背負いこもうとかだるすぎ、めんどくさい性格だよねー」



「お前等……ッ!!」



「積もる話は後にしようぜェ、最後の一人もすぐそこだしなァ」



「おいカルディナ、本当に大丈夫なのかこいつら……」



 シズクを頭に乗せたリウナがゲートを潜ってきた。正直不安もあるが、共闘したカルディナは一つだけ確信している。各々欲を抱えているが、大罪の欲の向く先は全て仲間を想っての事。それが関わる以上、信用出来る。



「大丈夫、きっとなんとかなる……」

「なんか大変なことになってるし、あたし達も出来る事をしよう!」



 前を目指し続ける勇者の行動が、戦況に波を立てる。暴食、怠惰、強欲、そして傲慢。引き合うように、全ての大罪が集まった。失った未来をもう一度描く為、歪でもそれを望んだから、欲のままに手を伸ばす。



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