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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百九話 『おはよう』

「リリネアちゃんの能力は魔素粘結マナビティ、決して消えない追尾の力」

「絆とか、親愛とか、目に見えない曖昧なものなんてバカバカしいと思わない? リリネアちゃんは思うのよ」

「あたしは目に見える物しか信じない、空っぽの言葉なんて信じない、繋がって、通じ合って、理解し合おうなんて思わないし思えない」



 己の身体から溢れ出す禍々しい魔力、それはリリネアから周囲の魔物達へ流れていく。どうやら彼女は自分の能力で使い魔達をマーキングしているらしく、悪魔化の影響で深く黒ずんだ魔力が使い魔達を追尾していた。



「主君、あれは……?」



「マーキング対象を距離も時間も無視して追尾し続ける、距離が開けば追尾速度は落ちるが解除は決してされない……そんな能力だった・・・筈だ」

「……恐らく使い魔への魔力供給を能力でブーストさせてるんだろう、悪魔は欲、己の感情で力が揺れ動く……その影響を全使い魔に強制的に流し込んでいると予想する」

「感情のリンク……否、強制的な塗り潰し……洗脳と変わらないぞリリネア」



「訳の分からない感情論より、洗脳の方がよっぽど信頼出来るよ」

「魁人君への憎しみって共通の感情は、型にハマるようにスッとあたし達を繋ぎ合わせてくれる」



「ひゅぅ、味方ながらぞっとするぜ」

「どんな生き方すればこうも憎まれるんだろうな? 真っ当に生きたがってる分余計に笑えてくるぜ」

「開き直って好きに生きりゃ楽なのによぉ、自分の選んだ道だのなんだの理屈を並べてもお前の道は大層生きにくそうだなぁ退魔ぁ!?」



 凄まじい憎悪を纏い、リリネアの使い魔達は一斉に魁人達に襲い掛かってくる。ウィローもそれに合わせ捻じった空間を放ってくるが、その全てを紫苑の一薙ぎが消し飛ばす。



「いやそれはやべぇだろ」

(螺旋で捻じった空間が抉れたんだが!?)




「前も思ったけどなんなのよその鬼は!!」




(ラファグラス+紫苑の全力+退魔の力……当たれば問答無用で吹っ飛ばす超ごり押しパワーになっているな……)



 凄まじい憎悪を纏った使い魔達がギャグのように宙を舞っている。どうやら憎悪に支配されている魔物達の視界には魁人しか映っていないようで、負傷した流魔水渦の面々は眼中にないらしい。



(リリネアも俺が狙いだし、螺旋の悪魔にさえ注意すれば被害は抑えられるか……)

(これ以上周囲を破壊されるのも避けたい、狙いが集中している今の内に誘導を……)



「リリネアさんに一言申します!」



「!?」



「はぁ?」



「辛い事が沢山で、心が擦り減ってしまうのは分かります、凄く、凄く分かります!」

「けど、貴女は足掻きましたか!?」



「…………なにそれ」



「足掻いて、手を伸ばして、努力しましたか!? 貴女は最初の使い魔と、言葉を交わしましたか!?」

「色々やって、どうしてもダメで、転がり落ちたなら捻くれるのも分かるけどっ!! そうじゃないなら、何もしないでダメだって決めつけて、投げ出しただけならっ!!」

「私は、貴女の八つ当たりを許しませんっ!!」

「勝手に絶望して、主君を恨んで、悪魔になった貴女を許さないっ!! 放っておかない、絶対にっ!」

「引っ叩いてでも、貴女を連れていく! 大罪組なんかに居ちゃ駄目です!」



「…………気持ち悪いなぁ」

「仮に、対話を求めたり、仲良くなろうとしたり、無駄な努力を重ねてたらどうだってのさ」

「その分傷ついただけで、無駄を理解して努力した分だけ滑稽に転がり落ちた無様なリリネアちゃんだったら、お前はどうしてくれるんだ? あぁっ!? 同情でもしてくれるのかなぁ? やぁん気持ち悪くて余計悪魔化進んじゃうなぁ!!」




「その場合は、引っ叩いてでもお友達になります」

「私は、貴女を放っておけません」




「どっちにしても殴るのかよ、害悪な鬼だなぁ」

「流石魁人君の使い魔☆ おんなじくらい不愉快だ♪」

「ほんとお願いだから死んでよ、マジで」




 リリネアの感情に押されるように、使い魔達が勢いを増し紫苑に迫る。一つの塊のように突っ込んでくる魔物の群れを、魁人が伸ばした退魔の鎖が縛り上げる。



「紫苑! まずはあいつらをここから誘導して……」



「主君! そのまま縛っててくださいね!」



「は? いやお前待て何する気……」



「誘導しますっ!!!」



 魔物達を鎖状にした退魔で縛った魁人、そしてその魁人と結魔の鎖ファミリアチェーンで繋がった紫苑。この一繋ぎを見逃す紫苑ではない、彼女は魁人との絆を握り締め、己の主君ごと魔物達を後方にぶん投げた。



「この脳筋馬鹿がああああああああああああっ!!」



「主君! リリネアさんは私が相手します! その間使い魔と螺旋の悪魔をなんかこうどうにかしてください!」



「お前ラファグラス入ってるな!? 思考が暴走気味になってるぞしっかりしてくれ!」

「クッソ……結魔の鎖ファミリアチェーンがドンドン伸びていく……引っ張っても止まらない……!」



 無限に伸びる犬のリード状態だ、さっきまでの連携はお互いの息が合っていたからこそらしく、暴走気味の紫苑のせいでこの能力も制御が利かなくなっている。



「なんだありゃ、さっきまでの息の合いようはどこいった」



「あんなイノシシみたいなのに用はないんだよね、リリネアちゃん魁人君を殺したいだけだし」



「私は主君と仲が良いですよ! 使い魔さんが沢山居ても信頼関係0の貴女とは違って!」



「殺す」



「リリネアちゃん? 乗るの? いやまぁ、いいけどよ」

「暴走使い魔達が退魔囲んでるし……だったら俺は悲劇の上塗り役に徹しようかぁ? その辺のぼろ雑巾を千切って……ん?」



 いつの間にかウィローの右腕に鎖が巻き付いている。退魔の魔力が沁み込み、右腕から焼けるような音が上がる。



「いつの間に……クソが、切れねぇし食い込んできやがる……!」

(腕を螺旋で引き千切るか……!? いやこいつは肉体に、俺の魔の部分に食い込んできている……、物理的に切り離しても、俺に沁み込んだ魔力から奴に向かって鎖が再発動する……!)



 鎖の伸びる先、数十体の魔物を傷つけないようにいなし続ける魁人が居た。挑発的な笑みと共に、手招きをしている。



「来いよ螺旋、ハンデ付きで捻ってやる」




「踏み台がぁ……! 周りを嬲った方が嫌がるよなぁ分かってるぜ」

「けどその挑発乗ってやるよ、今にも己の罪に嬲り殺されそうな偽善者がぁ!」



「偽善なのも、自己満足なのも分かってるよ」

(36回目の依頼で倒した鳥人種ハーピー、俺は退魔で翼を焼いて、落ちてきたところを仕留めた)



 頭上から襲い掛かってくる黒く染まった鳥人種ハーピーの攻撃をしゃがんで回避する魁人、動きを止めたところに、両脇から魔物達が襲い掛かってくる。



獣人種ビースト……畑を荒らしていた子だ、そんなに強い子じゃなかった、今思えば口で注意すれば、依頼主とも話し合えば、和解の道を示せたはずだ)

(あの蛇人種ラミアも、俺が退魔で焼いた子だ、泣いて、怯えて、死の恐怖に震えていたところをリリネアが捕まえた、俺は見てるだけだった)

(分かってる、魔物に情を抱く事がおかしい、それが普通で、疑わないで、己の生の為に踏み台にした)

「今更向き合う、助けたいだなんて、当人からすればふざけるなって話だ、だからこれは当然の復讐劇、当然の権利だ」



 両サイドからの攻撃を、魁人は退魔無しで敢えて受ける。ただし、少しも怯まないし、一歩も引かない。口の端から血を流しながらも、魁人の目はウィローだけを捉えている。



「それでもこの命はくれてやれない、死んだら償う事も出来ない」

「生きにくそうだと? ガキの頃よりずっと生きてる実感があるよ、存在することがこいつらの復讐心を煽るなら、こいつらの生きる糧になるのなら、意味なく生きていたあの頃よりずっと自分を誇れるよ」

「どんな形でも、たとえそれが黒でもマイナスでも、俺は己の犯した罪の為に在り続ける、逃げはしない、その上で理想も貫く、エゴだろうが誰にも文句は言わせない」

「守りたいモノは守る、やりたい事は零さない、お前達風に言えば、俺の欲だ」




「ほぉん? 全部背負って、全部欲するって? 大層な強欲だ」

「それだけ背負えば大抵の踏み台は潰れるだろうに、如何に退魔だろうがしんどいだろうよ」

「罪は消えない、どれだけ生き方を変えようが螺旋から弾かれる事は無い……背負い続けていつか潰れるだけさ、人の身のままじゃ壊れるだけさ」

「己を保ったまま、贖罪の生き方なんて続くわけねぇのさっ!!」




「それが出来たら、俺は悪魔より欲深い人間って事になるのか?」

「退魔の俺が? そりゃあいい、この力で迷い苦しんだ俺にとって最高の称号だ」

「それくらいじゃないと、あの共存馬鹿と並び立てん」



 結魔の鎖ファミリアチェーンがあるにも関わらず、紫苑の半暴走により二分された戦況。しかし何も奥の手が尽きたわけじゃない。魁人は懐から、普段の和服とは不釣り合いな金属の塊を取り出した。



「あっ……? 籠手ガントレット……?」



「ジェイクだけあの超絶天才なお方から武器を賜るなんてズルいだろう?」

「出来る事はなんでもすると決めたんだ、理想に手を伸ばす為には、なんだってな」



 輝く光沢は、天才の輝きの如し。


























 どこもかしこも戦闘音が鳴り響く中、一際馬鹿でかい音と共にクロノの部屋が砕け散る。隆起した岩石が棘状に変化し、部屋を内側から破壊したのだ。



「ふふ、うふふふふ、うふふふふふふふふ」

「破壊とは、どうしてこうも心が躍るのでしょう、あぁ、どうして、こんなにも、簡単に壊れぬ物とは、愛おしく映るのでしょう、うふふふふふふ」



「おいアル、向こうのノームお前よりやべぇ性格してんぞ」



「色々と聞き捨てならないけど、まぁ危ない性格なのは同感だね」

「悪魔も精霊も、確かに物理的な攻撃はあまり意味を成さないけど、彼女……自分の仲間ごと攻撃してきやがったよ」



 災岳達の襲撃を受けたアルディ達は、未だに目覚めないクロノを守りながらの戦いを強いられていた。臨戦態勢のフェルドとアルディの後ろには、クロノを水流で移動させるティアラの姿があった。



「ん……む……」



「ティアラ、その寝坊助落とすなよ? 一応怪我人だからな」



「妨害、受けてる……邪魔……」



「俺は今尚乾いている、お前の心も長く満たされていない」

「契約者の沈黙、俺の答えはお前達に映るのではないのか? お前達は先を見せてはくれないのか?」



「だからこっちの契約者はまだ寝てんだよ! 起きるまで待てって言って……」



「マスターはそっちの契約者と約束してんだ、起きないってんなら叩き起こしてやるまでさ!」



「そう言う事さ! あのババアが居ないなら尚更起きてくれないとつまんない!」

「いくよカゲリ! 辺り一面燃やし尽くそう!」



「あっはっはっはっはっ!! 前戦った時の炎はどうしたよ!? 防衛線なんて温いじゃないかぁっ!!」



 ランとカゲリが生み出した灼熱の渦が、辺りの壁を焼き溶かす。向こうの精霊達の猛攻に徐々に押されるアルディ達だったが、何故か契約者である災岳だけ攻撃してこない。




(……? クロノを見てる……?)




「……見事だったぞ、精霊使いとして新たな境地を垣間見た」

「倒せるはずがない敵を、お前は見事下してみせた……勝つのはお前達なのだろう?」

「感じる……感じるぞ……!」




「ちょおおおおおっと待ったあああああああああああああああああっ!」




 辺りに広がる灼熱地獄を風で吹き飛ばし、エティルが戦場に乱入してきた。



「あーーーっ! やっと来た! クソババア!」



「だーれがクソババアだぁっ! ってあっ」



 そしてランの挑発に乗って急停止し、その手から小瓶がすっぽ抜ける。



「いやそれは不味い……!」



「おい馬鹿……!」



「…………っ!!」



 間一髪でティアラが水を操り小瓶をキャッチ、そのままクロノの口元へ持っていき薬を飲ませる事に成功した。



「あははは~……流石ティアラちゃんナイスなサポート……うわあ! アルディ君の目がめっちゃ怖い!!」



「君ね……」



「つうか良いのか? 普通に飲ませたがあれで良いのか?」



「先生はなんか凄い効果だから常人が使ったら逆に死ぬとか爆発するレベルって言ってたよぉ」



「それはダメな奴なんじゃ……」



 不穏な空気が出てきそうになったが、その空気を吹き飛ばすような光がクロノを包み込む。手を握っていたティアラが涙を流し、一部始終を静観していた災岳が笑みを浮かべた。



「何一つ、零さないと言ったな?」

「次の舞台は始まっているのだが……いい加減準備は出来たか?」




「……うん、悪いな……寝坊した」

「マルスはもう行っちまったか……状況は分かってるつもりだよ」



 ティアラの頭を撫で、身体を起こす。状況は分かってる、何もかも聞こえていた。目元の涙を拭いとる、見てきた全てを無駄にしない為に、大罪の真実を胸に。精霊達が近寄ってくる、説教は甘んじて受けるつもりだが、今は少しだけ後回しだ。




「おはようって言わなきゃいけない奴が、沢山居るんだよな」

「だから悪いけど災岳、すぐ終わらせるけど恨むなよ」




 クロノ・シェバルツ、戦線復帰。



こいつ主人公なのに寝すぎじゃない?

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[良い点] ねぼすけクロノ起床
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