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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百八話 『塞がらない傷』

「ははは! 捻じれた人間関係ってのは面倒だなぁ退魔ぁ!」

「全部自分に引っ付いたもんだ、好きに生きるならそれは時に自分と逆に動いたりする」

「弱っちい人間の身で、お前それをどうにか出来んのかぁ!?」



 ウィローが空間を捻じり、放たれた螺旋が戦場を両断する。リリネアが操る魔物達の猛攻を凌ぎつつ、魁人は僅かな隙を狙いウィローへ一枚の札を投げつけた。



「おっと」



 直接触れるのも、能力を当てるのも退魔の影響を受ける。だからウィローは空間を引き絞る事で札の軌道を変え、更に大きく横に飛び回避した。



「弱っちい人間の能力がそんなに怖いか、笑わせる」

「欲のままに生きる悪魔なら分かるだろ、好き放題やるなら責任は必ず付いて回る」

「力で黙らせ踏みつけるお前等と一緒にするな、俺はもうとっくに向き合うと決めたんだ」

「それが例え、背中から突き刺してくるような罪でも、全てを否定するような罰でも、逃げたりしない」



「…………まるで悪魔が好き放題勝手に生きて欲のままに迷惑かけまくるクソだって言ってるみたいだな?」



「少なくても、お前は自分の欲の為にここに居る者を傷つけてるだろうが」

「人だろうが悪魔だろうが、最低の行いに違いないだろう」



「なるほどね、聞いてた通りの良い子ちゃんだ」

「理想を実現するには、理想とは程遠い道筋が必要なんだぜ魁人ちゃんよぉ!」



 大きく空間を捻じり、特大の螺旋を構えるウィロー。両サイドから襲い掛かってくる魔物を退魔で弾き、魁人は紫苑に指示を飛ばす。



「紫苑! 魔物達は俺が捌く、お前は螺旋と距離を詰めろ!」



「了解です!」



「前と比べると仲良くなってるねー、息もピッタリだし、なんなのかなーその能力は」



(リリネア……!)



「魁人君は目が赤くなってるし、力も強くなってる……まるで鬼じゃんね」

「極めつけはそっちの鬼子ちゃんでしょ、どうして退魔を纏ってるのかな? 魔物が退魔に触れたら問答無用で滅んじゃう筈なのにさ」



 正直この力については、分かっていることが少なすぎる。ただ、これは己の想いによって目覚めた力。邪悪なモノじゃないと、確信している。



「これは主君との絆の力です!」



「うん、まぁそうだ……そうだな……」



 そこまで堂々と自信をもって言われると、正直むず痒い。



「……使い魔契約が主張するように光ってるね、絆、絆ねぇ」

「そんなのこの世に存在しないよ、気持ち悪いなー」



「……悪魔に堕ちても相変わらずだな、相変わらず……お前は仲間すら信用しない奴だった」

「いつもおどけて、明るく振舞って、その癖慣れ合わず、お前は単独行動を好んだ」



「だって存在しないんだもの、仲間とか親友とか、家族とか恋人とか、絆? 友情? 愛? バカみたい」

「同じだと思ってたのにさ、だから可愛がってたのにさ、初めてそう思えたのにさ」

「どうして君も、そっち側にいるのかなぁ」



 リリネアの持つ本から真っ黒な魔力が炎のように溢れ出す。それに呼応するように、魔物達が黒いオーラに包み込まれた。



「主君、あれは!?」



「あの本は魔物達を封じ、リリネアとの繋がりを強固にする役目を担ってる」

「あの本を通じて魔力を流し込んでいるのだろうが……悪魔化の影響か随分禍々しい事になってるな」



「良いねェ、盛り上がってきたぜ!」

「そうだそうだぜリリネアちゃんよぉ! 感情は抑え込まないのがコツだ!」

「暴走させた感情に乗っかれよ! 溢れ出す欲望だけが俺達悪魔を次のステージに連れていく!」

「責任なんて踏み倒せ、普通を蹴散らして、新しい世界で俺達悪魔が笑うのさ!」



「良いよそんなの、どうでもいい」



「は?」



「リリネアちゃんはね、魁人君を殺せればそれでいいの」

「あの子の幸せが、ただ憎いだけ」



 リリネアの横顔を見たウィローは、背筋が冷たくなった。外野のウィローですら、リリネアの纏う憎悪に威圧された。それほどまでの、冷たく暗いマイナスのオーラ。



「逸材だよ、本当に」

「お前が大罪組に拾われたのは、運命だな」



 運命なんて言葉、リリネアは欠片も信じていない。耳障りの良い言葉を何度聞いて来ただろう、その度に心は乾き、世界に失望してきた。家族はいつも笑っていた、子供だったリリネアは自分が愛されていると信じていた。家族を愛し、自分も愛され、世界はキラキラ輝いていた。友達だって居たし、楽しく遊んで毎日幸せだった。当たり前に日々が過ぎる中、自分は奴隷になった。



 それはあまりにも突然で、何が起きたのか分からないくらいだった。流れるように自分の立場は変わった、それも愛していた家族の手によって。両親は変わらずに笑っていた。



『愛しているよ、リリネア』



『貴女には、私達を幸せにする義務があるの』



 これは後になって知った話だが、自分には姉妹が居たらしい。自分の両親は、自分の子供を奴隷商に流していたのだ。愛なんて、何処にもない。ただ相手を油断させる甘言に過ぎない。怒声を背に逃げ出したリリネアは、心に傷を負った。奴隷に落ちかけたリリネアは街を彷徨っている途中、友達から石を投げつけられた。自分は人から商品に落ちかけた、人としての扱いを失ったのだ。子供同士の友情なんて、紙切れみたいに簡単に千切れる、傷はドンドン大きくなった。



「リリネアちゃん故郷が嫌いなんだよね、最悪な思い出しかないし……っていうかウィルダネスがもう最悪、暑いし、砂多すぎだし」

「故郷を飛び出しても、子供に砂漠越えとか無理過ぎだしさ」

「運よくキャラバンに拾われて生き延びても、また売られかけるし、そんなにリリネアちゃんの可愛さって需要あるのかなぁ」



 関わる全てが、心の傷を広げていった。次第に理解する、この世に信じられるモノは何一つ無いと。弱い者は奪われるだけだ、強さだけが信じられる。だけど、残酷な事にリリネアは強くなかった。戦闘力は、人並みしか持っていなかった。唯一人より優れていたのは、使い魔の使役能力。



「退治屋時代に聞いた話、魁人君は覚えてるかなー?」

「使い魔との戦闘について、笑ったよねあれ……使い魔は魔物使いにとって大切なパートナー、人と魔物の垣根を超え、真摯に向き合う事でとかなんとかって」

「魔物ってだけで忌み嫌われ、恐怖の対象……それを引き連れる魔物使いだって、良い顔されないこのご時世……よくもまぁ小奇麗な言葉ばかり並べるもんだって笑ったものだよ」

「それでもまだリリネアちゃん若かったなぁ、ほんの少しでも期待してさ、使い魔契約したんだよね」



 傷ついた獣人種ビーストに、命を助ける代わりに契約を求めた。契約を結んだ次の日、自分の使い魔が自分に向けていたのは恐怖と怒りの目だった。心のどこかで、絆なんてものを期待していたのだろう。本当にバカバカしい、そんなものはこの世に存在しないのだ。傷は埋まらない、期待するほど広がっていくばかりだ。変に期待するくらいなら、絆や縁など介入する余地がないほど縛った方が良い。



「血は争えないよね、両親に似てるなって自分でも思う」

「けど仕方ないよね、縛って従順にしなきゃ怖いんだもん、反抗出来ない関係性じゃないと安心できないんだよ」

「この世に絆なんて存在しない、信頼関係なんてあるわけない、そんなの信じるのおぞましい」

「ゴミを漁って、生きる意味を失ってた魁人君を見てさ、昔のリリネアちゃんに重なったんだよね」

「この子もリリネアちゃんと同じ、全部を憎んで、全部を疑って、自分だけ信じて生きていくんだって思ったよ」

「リリネアちゃんと同じ子なら、もしかしたら一緒に居ても不快じゃないかもって、そう思ったのにさ」

「どうして君は、道具の筈の使い魔と絆を輝かせてるのかな……どうして君は、まだ世界に絶望してないのかな」

「どうしてあたしの傷は、あの時から塞がらないのに……君は日向を目指してるのかな」

「どうして君はっ!! 出会いの数だけ輝いてるんだよっ!!」



 リリネアの憎悪が魔物達に伝播している、肉体が限界を迎え、魔物達の中には身体から血を吹き出す者も居た。リリネアの発言も何もかも、ただの八つ当たりだ。退治屋時代、何度か闇の深い発言を投げかけられたりした。冗談交じりに、薄暗いどん底に引きずり込んでくるような、そんな事が何度もあった。その度ジェイクが庇ってくれたが、自分の想像以上にこいつは壊れていたらしい。



(……気づいていながら、何も出来なかった……これも俺の責任か……)

「ただ、俺は出会いに恵まれただけだよ」



「周りを見てよ! 全部魁人君が傷つけた魔物だよ!」

「自分だけ幸せになれると思ってるの!? 忘れさせない、逃がさない、離さない!! 全部君がやった事だ!」

「絶対に、こっち側に引きずり込んでやる! 薄汚れたクソガキが! 絶対に進ませやしない!」

「あたしには、幸せを否定する義務があるんだっ!!」



 リリネアの絶叫と共に、魔物達が飛び掛かってくる。憎悪の塊のような猛攻は、紫苑が地面を殴りつけた衝撃で吹き飛ばされた。



「退魔の力が乗った衝撃波だぁ……!?」



 吹き飛んできた魔物達を空間を捻じることで明後日の方向に逸らすウィローだったが、その捻じりすら衝撃波は僅かに掻き消してきた。



「主君、この場の全てを守るんですよね」



「あぁ」



「逃げないし、目を背けないんですよね」



「当然だ」



「主君、私はリリネアさんを見捨てられません」

「あの人は、ずっと泣いてるんです」



「自分だけ幸福であろうとは思わない、思えない」

「壊れていくお前を見捨てて、この先になんて進めない」

「今更絶望に沈む事もしない、引きずり込まれてやる事は出来ない」

「俺達は、お前を引き上げる……お前が何より信じられない、絆の力でだ」



「ははは、まるでヒーローだな」

「怒れよ恨めよリリネアちゃん、歪みに歪んだ君だけが、否定の代行者になれるんだ」



「絆も救いも、この世界にはないんだよ」

「魁人君を殺して、リリネアちゃんはそれを証明するんだ」

「魁人君はリリネアちゃんの固有技能スキルメントを知ってるよね……悪魔になって変貌したリリネアちゃんの力、見せてあげる」

「昔みたいに空っぽになって、死んじゃえよ……」



 これは守る為の戦いで、救うための戦いだ。

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