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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第七百七話 『憎悪の追跡者』

 妙な力を纏い、生意気にも生きた目をして向き合ってきた人と鬼。肌を焼くような気迫は、戦闘の段階が進んだ事を嫌でも感じさせてくる。



「良いねぇ、譲らねぇ、譲れねぇって感情をビリビリ感じさせるじゃねぇか」

「悪魔の好物、欲の気配がビンビンするぜ……他者の欲を踏み躙り、己の欲を満たす、俺の絶頂がそこにある」

「なぁ退魔の魁人さんよぉ、お前やれんのか? 俺を倒して自分を貫けんのか? あぁ!?」



「それが出来なきゃ、何も守れないだろうが」



「格好いいなぁ魔物殺し! 覚悟も信念も捻じ曲げて終わらせてやるよぉ!」



 空間を捻じり、ウィローが魁人達を狙い螺旋状の波動を放つ。周囲を巻き込みながら放たれたその一撃を、紫苑の一閃が吹き飛ばす。



(波動も瓦礫も一撃か、『聞いてた』通りこの鬼の力は普通じゃあない)

「だが、それで凌げる程俺の能力は甘くはねぇぞ!」



 砕けた波動の欠片から再び捻じりを生み、複数個所の空間を歪ませていく。紫苑が砕いた分だけ増えた歪みから、捻じれた空間が打ち出される。



「主君、前へ」



「あぁ、こっちで合わせる」



 短く言葉を交わし、魁人が地面を蹴り姿を消した。紫苑は頷くことでそれに応え、同時に振るったラファグラスが迫る波動の雨を吹き飛ばす。しかし一撃では全ては消せず、死角から迫る螺旋が一発紫苑の右脇腹に直撃した。



(身体も捩じ切れるぞ、俺の螺旋は物体の強度関係なく捻じ曲げ……)



 紫苑はその捻じりを右手で払い飛ばし、混ざっていた瓦礫も埃のように一緒に吹っ飛ばした。瓦礫は物理的に弾かれたが、どう見ても能力部分は無効化された。



「は?」



「どうした螺旋、脳の回転速度が落ちてるぞ」



 背後から魁人が飛び掛かってきた。咄嗟に後ろ蹴りを放つが、その蹴りは紙の札一枚に受け止められた。



(退魔の力に、魔力を増強する印が刻まれた魔物狩りお得意の特注札か……!)

(近距離は不味い、こいつの力は悪魔も縛る……!)



 魔物の力は種族特性も固有技能スキルメントもとにかく無効化すると『聞いて』いる。螺旋で捻じり殺す事は出来ないし、この距離じゃ瓦礫を巻き込んで当てても速度も距離も足りず致命傷にはならない。直接攻撃はダメージ0で逆に縛られる、一度捕まればそれで終わる可能性の方が高い。



「ふっ!」



「ひりつくねぇ!」



 魁人と自分の間の空間を捻じり、魁人の攻撃の軌道を僅かにずらす。即座に捻じった空間を元に戻し、その際に生まれる弾けるような勢いに乗って距離を開ける。間髪入れず両腕で空間を捻じり、魁人の足元を狙って放った。



「足場を……!」



(一瞬生まれる隙を狙い、大きく空間を捻じる……周りの雑魚共を巻き込むように、周囲の建物を大きく巻き込むように……!)

「雑魚の肉塊と瓦礫特盛の大サービス大螺旋だ……、お前も混じってシェイクになれ!」



「紫苑!!」



 魁人が声を上げ、右手から退魔の力で出来た鎖を伸ばす。それは凄まじい速度でウィローの脇を抜け、背後の紫苑の左手に絡んだ。



「あ?」



 紫苑は即座にラファグラスを構え直し、地を蹴りウィローの捻じった空間に斬りかかる。放たれる前の空間に亀裂が走り、螺旋の効力が失われ歪みが元に戻る。



「なんだと……? 無効化……? それは退魔の、何でお前が!」

(いや待て、さっきの螺旋の直撃も無効化のような……退魔の力を鬼であるこいつが纏ってるのか? どうして滅ばない、相反する力だ有り得ない、これは『聞いてない』!)



 魁人は鎖で紫苑を引っ張り、紫苑はその力に身を任せる。もう一方の螺旋を斬り払い、今度は紫苑が鎖を右方向へ振り回す。勢いのまま魁人はウィローに肉薄する。



「曲芸かよ!」



「そんな器用なものじゃない、腕力に頼りきりだ!」



 眼前に迫る魁人の拳を、ギリギリで螺旋の力で曲げて凌ぐ。そう思っていたのに、螺旋の力は退魔の力で消されてしまう。振り抜かれた拳は、比喩でもなんでもなくウィローの顔面を潰した。



(ざけんな、俺が悪魔じゃなかったら首から上が無くなった哀れで無残な死体の出来上がりだぞ)



 一瞬動きを止めたウィローを退魔で縛ろうとする魁人だが、ウィローが右手から螺旋状の衝撃波を放ち自らを吹き飛ばす。顔を再生させながら、ウィローは魁人達から距離を取った。



「死なない事を良い事に容赦なく反撃の目を潰して確実に縛りにきやがって……怖い怖い」

(速度も力も明らかに上がった、それこそ向こうの鬼基準に……厄介だな……)

(それにあの鬼……螺旋を無効化しつつ適度な距離を保ちやがる……周囲を巻き込もうとしても確実に邪魔してくる)



 螺旋は放つ前に発動地点を捻じる溜めが居る。その範囲と捻じった分だけ次の威力は増す。紫苑は退魔の力を纏い、ウィローの背後に常に陣取っている。空間を曲げると、即座にそこに飛びつき螺旋を消される。位置を歪ませようとも即座に反応してくるし、此方が大きく動いても正面の魁人と上手く連携し前後の包囲から抜け出せない。



(それを可能にするほどの身体能力向上に……互いが退魔を纏っているこの状況……)

「面白くねぇな、情報と違うじゃねぇか」



「知らないのか、生き物は成長するんだ」

「もう誰も傷つけさせない、観念しろ」



「おいおいやめとけそんな言葉、好きに生きる悪魔にとっちゃ説得なんて無意味だぜ」

「好きに生きるにゃ責任が伴う、駄目だよやめなよなんて言葉で止まるならこちとら悪魔になんてなってない」

「何が立ち塞がろうとも、俺は俺の好きにやるのさ」



「では、覚悟してもらうほかありません」

「乱暴な手段になろうとも、貴方はここで封じます」



「好きにしな、それがお前達のやりたい事なら貫くと良いさ」

「けどなぁ……今言ったよな? 好きに生きるにゃ責任が伴うって」

「善悪は関係ない、行動には意思とは別に色々なものがまとわりつくんだ」

「貫いて来た分、お前達にだって色々こびりつく……足引っ張られなきゃいいよなぁ」



 追い詰められているのは明らかなのに、ウィローの余裕が崩れない。あの煽りはでまかせじゃない、何かがウィローの支えになっている。この状況でも、不利を覆せる確信があるようだった。



(紫苑との連携なら、周囲の被害を広げずこのまま押し切れる)

(勝ちは目の前、なのになんだこの胸騒ぎは)



「分かるぜ魁人、戦闘経験豊富だもんな……頭回しちまうよな」

「勝ちを確信した瞬間が、一番危ないもんなぁ……警戒するよな、慎重になるよなぁ」

「お前の性格、聞いてた通りだよ」



 ウィローの不気味な笑みに合わせるように、辺り一帯を冷たい空気が包み込む。床や天井、壁が黒く塗り潰され、悪魔の気配が一層濃くなった。



「これは……!? 主君! 何か来ます!」



「新手か……!? 他にも悪魔が……?」



 魁人の言葉を遮るように、床から腕が飛び出してきた。後方に飛び退いた魁人が見たのは、竜人種リザードマンのような黒塗りの影のような存在。



「悪魔……? いや、実体なのか……?」



「主君!!」



 紫苑の声に顔を上げると、床や天井から無数の魔物達が這い出て来ていた。その全てが虚ろな表情で、身体が黒く染まっている。



「はっはっはっは……有利不利の押し合いなんて楽しいじゃないか! 白熱してきたなぁ!」



「なんだこれは……お前この魔物達に何をした!」



「違う違う、俺じゃねぇよ」

「これもまた、お前にへばり付いた責任さ」



「そーそー、ぜーんぶ魁人君のせいだよー」



 聞き覚えのある声。気の抜けたようで、そこには明確な敵意が含まれている。信じたくなくても、それは目の前に立ちはだかる。あの日より、憎悪を増して。




「…………信じ難いな、リリネア……!」




「いやん、絶対に後悔させてあげるって言ったはずよん?」

「リリネアちゃん、君にギャフンと言わされたあの日からずーっとイライラしてたんだ」

「君をおかしくした子を狩りに行ったら、ジェイク君まで変になるし、なんだかんだで魔葬砂塵は解散ししちゃうし……何もかも上手くいかない、かき回されて大迷惑」

「君に嫌がらせしたくて堪らなくて……見てよ魁人君、ここまで落っこちたリリネアちゃんの姿♪」




 リリネアの背から生えているのは、紛れもない悪魔の翼。四枚羽の悪魔と化した嘗ての同僚が、明確な敵意を持って牙を剥く。



「あの人……あの時の……」



「あぁ、元魔葬砂塵の、俺の元仲間だ」



「元々って律儀にくっつけてお喋りしないでよむかつくなぁ、そういうとこだよ魁人君さぁ」

「自分だけさっさと進んでさ、そんな簡単に切り捨てられるもんじゃないでしょ、過去ってさぁ」

「その面絶望に染めて、お願いだから死んでよ」



 リリネアが懐から取り出したのは、例の本だった。あの本には、嘗て魁人が退治屋時代に狩った魔物達が封じられている。魔物使いファミリアテイマーを名乗り、強制的に使い魔契約を結んだ魔物達を多数従えているのだ。




「お前……!」




「魁人君へ復讐したい? そう聞いたらこの子達は契約を簡単に結んでくれた」

「今ならリリネアちゃんもその気持ち、すっごく良く分かっちゃう」

「どす黒い感情がこんなにも心身を押し上げるなんて、びっくりだよ」

「逃がさないよ、どれだけ目を背けても……あたしは君の罪を目の前に叩きつけてあげる」

「絶対に……幸せになんかさせてあげない……日向の方にはいかせない」




 リリネアの影響を受けているのか、本から溢れ出した魔物達は身体が黒く染まっている。憎悪の化身のような魔物の軍勢が、魁人達を取り囲む。



「形勢は逆転だなぁ、魔物を庇いながら戦ってたのに今度は魔物に囲まれちまったぞ?」



「謝っても許してあげないよー、魁人君には日陰の中の血だまりがお似合いだもんねー」



 相手は魔物の軍勢に四枚羽の悪魔が二体、非常に苦しい戦況だが引くわけにはいかない。そう、これは自分にこびりついた責任だ。



「すまんな紫苑、面倒をかける」



「水臭いですよ、何度でも言いますが私はどこまでも付いていきます」



「あぁ、その言葉に救われる」

「おいリリネア、勘違いするなよ」



「はぁ?」



「逃げる気はないし、もう一瞬も目を逸らさない」

「お前の言葉じゃ、俺はもう揺れないよ」



「ふーん?」

「リリネアちゃんを煽るとか、生意気」



 いざ、決別の死闘。



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