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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第六百九十八話 『舞台の上に』

「四天王……は? え、なんで……?」



 呆気にとられるタイナだが、隙を晒した彼女を狙い悪魔が飛び掛かってくる。タイナが顔を上げる前に、その悪魔は肥大したディムラの左腕に殴り飛ばされ、壁に叩きつけらた。



「四天王言うても、ここじゃまだまだ新入りの雑用マンやで」

「先輩方には指一本触れさせんよ、見とるだけなの飽きたしな」



「なんでここに居るのさー! セシルちゃんと一緒に居たじゃん!?」



「ん? あぁ本体が言うてたなぁ、セシルちゃんにもワイがくっついとるらしいやん」

「こう見えてもワイは本体やないで、右手のワイやよろしゅうな」



「え、四天王? え?」



「ほら見てみい、同期達がが困惑しとるわ……これだから正体明かしたくなかったんや」

「おもろそうな場所やったから見学させて貰ってたんやけど、あんま干渉せずにタイミング見計らって抜けよう思っとったんやで」



「…………じゃあ、なんで助けてくれたのかなー?」

「お嬢様の目まで欺いて、あたし達の中に紛れ込んで、どうしてこのタイミングでわざわざ……?」



「ん? あー自分で言うのもなんやけどシンプルな理由やで? 実際」



 ケラケラ笑うディムラの背後から、四枚羽の悪魔達がゆっくりと迫ってくる。ディムラの腕に叩き潰された悪魔も、肉体を再生しながら起き上がってきた。狙いはディムラだけではなく、部屋の中の負傷者も対象になっている。無差別に襲い掛かろうとする悪魔達は、ディムラの背中から生えてきた翼や尻尾、無数の種族の腕に一瞬で消し飛ばされる。



「ヒェッ!?」



「ここが、楽しくて居心地のええ場所やったからや」

「ぶっちゃけ魔王領よりずーっとええ場所や、皆が皆思いやり助け合い、気持ちのええ場所や、興味本位で紛れ込んだが、楽しかったでほんま」

「クロノ君の語る未来が、小さな範囲で現実化してるみたいやった……ワイはこの場所の可能性が育つのを見てみたいと思ったんや」

「まぁ簡単に言うとな、ワイの好奇心が君達を選んだってだけの話やで」



「四天王が感情で動いていいのー? 昔は色々大変だったんだよぉ?」



「そんな事言うてもなぁ……ワイが生きとるのは昔やなくて今やし」

「なぁんにも無い空っぽのワイやから、満たされるもんは大事にしたいわけやし……?」

「エフィクト君があれな以上、ワイら四天王がしっかりせんと未来もクソもないやんけ」

「己の欲に溺れて壊れただらしなーい悪魔共の未来なんぞ、期待も興味も湧かんわい」



 吹き飛んだ残骸が蠢き、悪魔達が身体を再生させ起き上がってくる。その歪な再生は、どう見ても普通じゃない。



「なんなのこいつら……強さは分かるし脅威だけど……それ以上に不気味……」



「この場所は特殊な場所や、この世と地獄が混ざっとる狭間の世界」

「恐らく地獄の要素を取り込んだんやろ、んで半暴走しとる」

「欲のままに、生きたいように生きる為に力を欲し、飲まれて逆に不自由になっとる……こういうのは大体があくどい奴にそそのかされてんねん」

「道具みたいに扱われて、体のいい捨て駒や……裏に居る利用してる奴を倒さなどうにもならん」



「おぉー、冷静だねぇ……」



「あのな? これでも魔王様が役立たずの間ずーーーーーーっとお仕事片付けてんのワイなんやで? 今はセシルちゃんが手伝ってくれとるけどクソの役にも立たんし……あぁええわ今は脱線しとる場合やない」

「さっき見とったけど、切り札ちゃん達が向かった先が一番臭い、この状況で正気を失わずに動いとる奴等が核や」

「グッチャグチャで気配を探りにくいけど、確かにおるで、はっきりと自分の意思で動いとる真っ黒い奴等が何体か」

「切り札ちゃん達が向かった先が大元大当たりでも、そこを止めて全てが止まるとは限らん、流魔水渦のモットーが全取りなら、何かを失う前に核を先に全部ぶっ潰すのが勝利条件や」

「って事でや、そろそろええか? 優秀なあんたなら優先しとるやろ」



 ディムラの声に応じるように、ナルーティナーが何かを上に突き上げた。白く輝く液体の入った瓶が、この場の全員の視線を集めた。



「治療をしながらずっと調合してたんだよねチョコ食べる暇もなかったよほんとでもでも出来たよやーっと出来た」

「集まったアイテムの効能を引き上げ掛け合わせた超絶秘薬だよ名前はまだない今付けようねどうしようね」



「クロノの薬ーーーーーーーーーーーっ!!!」



「なんともシンプルな名前になったねそう出来たんだよクロノ君の薬がねもうこれね性能やばすぎて常人が使うと逆に死ねるねもうね肉体も精神も活性化しまくって爆発するレベルだねこれね」



「遅刻や遅刻、お祭りに主役不在や話にならへん」

「未来は広がるだけやったらダメや、引っ張っていく奴がおらんと迷ってしまうんや」

「起こしてきてや、人手不足の真っ最中……どこもかしこも助けを待っとるで」



 ディムラの言葉より早く、エティルがナルーティナーの手から薬をかっさらう。矢のように加速したエティルが、契約者の気配を辿り全速力で部屋から飛び出していった。



「エティルちゃんだけならクロノのところにすぐいけるけど、これ持ったままじゃ直接飛んでくしかないよぉ……急がなきゃ、みんな待ってる筈だもん……!」



「話が早くて助かるなぁ、頼んだでー! 速達やでー!」

「さぁてと……倒しても倒しても起き上がってきよる……力に塗り潰されたお前等の相手なんぞ暇で敵わんわ」



 エティルを見送ったディムラの背後には、再生を繰り返す悪魔の群れが迫っていた。



「けど再生するんじゃどうしようも……」



「たははは、安心せい……ワイはこれでも四天王や」

「先輩も同期も、誰も傷つけさせんし、最終防衛ラインはワイに任せろなんて安い事も言わんよ」

「ワイは変幻、何者でもないワイは何にでもなれるんや……傍観者を辞めて舞台に上がったからにゃ、それ相応の働きはせんと格好付かんやろ?」



 正体を晒してから、ディムラはずっとケラケラ笑っていた。四天王だと分かっても、正直タイナはそれほど圧を感じて居なかった。だけど、たった一瞬。一秒にも満たない一瞬で、空気が変わった。タイナやナルーティナー、意識を取り戻していた怪我人達、それどころか意識が無い者まで全身から汗が噴き出した。虚ろな目をしていた悪魔達すら、その足を止めた。



「貴様等にとっての絶望に成ってやる、遊びにもならんからとっとと消えろや」

「防衛ラインは押し上げる、ここだけやなく全部救う、誰も死なせん」

「ってことで優秀な回復担当さんは、ワイの後ろに付いてくるんやで」



「はははは、四天王に優秀と評価されるとはいよいよ殿堂入りも近いかなこれは」



(…………足が黒く……何かを、吸い上げて……)

「あの、まさか……」



「この方が、相手にとっては屈辱やろ? それに本拠地の力を借りながらの防衛線なんて燃えるやん?」

「さぁ地獄のディムラさんの降臨や……礼儀も弁えんとズカズカ入り込んできた悪魔は文字通りの地獄行きやでっ!!」



 地獄の力を吸い上げ、敢えて悪魔の姿に変貌するディムラ。その背中からは翼やら腕やらが生え、最早何の生き物か訳が分からない姿だ。理解が追い付かないタイナだが、それでもこの化け物が味方をしてくれている事実だけはどうにか受け止める。自分の今出来る事は、ナルーティナーと共に治療を続ける事だ。



「あたしは鎌鼬の参……回復手伝います!」



「助かるねそうだねやる事やらないとの助けないとねぇ!」



「ほんじゃま、雑魚を薙ぎ倒しながら行くで特級救急列車・四天王便っ!!」



 ディムラの足が床と一体化し、部屋が一瞬脈動する。次の瞬間、部屋がそのまま動き出した。



「はっ!?」



「部屋ごと行くでっ!! 何でもありな狭間のこの場所でっ! 何でもありなワイが大立ち回りやっ!!」

「たはははっ!! 見てるだけのワイじゃないって事を、魅せたるでーーーっ!!」



「兄ちゃん……あたしはどうなっちゃうのでしょう……」



 理解を置き去りにしたタイナ達を連れ、変幻の四天王が悪魔を轢き潰しながらアジト内を突き進む。異様な気配と振動を感知したルトは、怪訝な顔で情報を洗う。



「悪魔の襲撃は予想の範疇でも、これは予想外だな……まさかあたいの目を盗んで四天王がね……」

「…………変幻か、女の子にもなれるかな…………いやいや今は集中しろあたい!! これは追い風になる、なんとか反撃の……」



 部屋の様子が一変し、ルトの部屋が真っ黒に染まる。部屋の天井から、悪魔の上半身が生えてきた。



「見つけましたよ、ここだけ隔絶されていて時間がかかりましたが」

「貴女が流魔水渦の心臓、貴女を潰せば流魔水渦は死ぬ」



「女の子の部屋に無断で入り込むとか、礼儀をママのお腹の中にでも置いて来たのかな?」



「これは失敬、混沌に礼儀が必要とは……無法の中から生まれた者なのかと」



「平和を愛する混沌で何が悪い? あたいの胸の中は愛とラブがいつだってお祭り騒ぎだよ」



「……同じ意味では?」



「相乗効果さ、無敵だろ」



 ガッツポーズを決めるルトに対し、呆れたような様子で白髪の悪魔が部屋の中央に降り立った。



「平和を否定する名を持ちながら、それを愛するとは滑稽な……」



「平和を維持する為に、求め欲する限り休みはないって事さね」

「例えばあたいの愛の巣を、愛する仲間達を傷つけたお前等にお仕置きしなきゃとか、いつだってお仕事に追われる日々さ」



「そんな日々も、今日で終わりますよ」



「そうかい、そりゃ迷惑な話だ」



 触手のように髪を操り、機械の操作や各員に連絡を飛ばし続けるルト。ルトは髪の操作は止めず、そのままの状態で席を立つ。白髪の悪魔もそれに応じ、ルトの方へ向き直る。



「ワタクシはイクスタ、ヘディル様の代わりに大罪組を率いてきました」

「今日からこの狭間は大罪組の物、さっさと立ち退いて頂ければと」



「断固拒否だ、お引き取り願おうか」



「平和に狂った混沌、貴女の存在自体が狂気です……丁度地獄はすぐそこだ、突き落としてあげましょう」



「はぁ話が通じない……一方通行かよ……まぁ不法侵入者に礼儀を求めるのも変な話か」

「地獄に突き落とすだ? 生憎そこもあたいの庭さ……脅し文句にゃちと安い」

「お喋りはここまでさ、さっさと降参しお仕置きに身を任せな、さもなきゃこの世からお引き取り願っちまうよ」



「我等の欲に対し、貴女方はあまりに拙い」



「拙いからこそ、足掻くんだろうが」



 互いの短い動作から、魔力が放たれぶつかり合う。潰し合いは、止まらない。



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