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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十八章 『罪と欲は狭間に集う』
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第六百九十七話 『変貌する未来』

 一息でヘディルとの距離を詰め、マイラはその拳をヘディルの顔面目掛け振るう。しかし、その動きは寸前で止まってしまう。



「!?」



「加えて今の僕は、色欲の力もある……如何に絵札と言っても相手にならないよ」



 眼前にかざされた手のひらから魔力が放たれ、マイラの身体が弾き飛ばされた。単純な攻撃だが、魔力量が桁外れすぎる。マイラじゃなければ、首から上が消し飛んでいるレベルだ。



「この……!」



「色々と想定していた筈だろう、大罪組が君達をかき乱していたのは分かっていただろうに、何か仕掛けてくるとは予想してたんだろう?」

「以前僕の襲撃を許した君達は、絵札三枚で僕を迎え撃った……なのに今回は君だけだ」

「手が足りないんだろう? 分かっていたのに後手に回り、不利を受け入れるしかなかった……大切な部下を負けると分かっていても時間稼ぎに送り出すしかない、哀れなリーダーだよね」



「口が達者な奴……!」



「地獄門の門番であるケルベロスは、僕に負けたよ」



「!」



「心配なら門の向こうに行ってごらん? すぐ近くに倒れているから」

「生きてるかどうかわからないから、もしかしたら助けられるかもよ?」



「……彼女達は絵札、心配せずともすぐに舞い戻るでしょう」

「私の役目は、貴方をここでぶちのめす事です」



「揺るがないか、心が強いね」



「メイドですから」



「立派だね、でもそれ故に残念だ」

「格好いいのに、それ故に無様だ」



 マイラの猛攻は、全てヘディルに届いていない。無敵の能力で阻まれているわけじゃない、全てマイラが寸前で攻撃を止めていた。凜然と攻め続けていたマイラも、この異常に顔を歪めている。



「色欲は全てに愛され、全てに愛させる」

「敵ですら、僕に害する事が出来ない……あぁ、なんて理不尽、なんて非情、これこそ大罪に相応しい」



「どうして……っ! 器も無かったはず、どうやって色欲の身体を……っ!」



「器ならあったさ、僕自身の身体がね、適正もばっちりだ、僕は大罪を、悪魔を、欲を愛しているのだから」

「地獄に堕ちた僕は、その身を色欲の大罪に捧げたんだ、己の欲でその力を取り戻してもらった……けど悲しいよね、地獄に蝕まれ僕の肉体は滅んでしまう運命だ」

「だから色欲に急いで身体を取り戻してもらったんだ、事情を説明して、やむを得ずって形でね」



「……そして、色欲の大罪が身体を顕現したところで、逆に身体を奪ったと?」



「僕も悪魔だからね、肉体を失ってもそれくらいの動きは出来るよ、人の身を残しておいたのは大罪を油断させる為だったわけだし」

「身体を顕現出来ても、力を全て取り戻したわけじゃない、全快していない色欲を飲み込むのは容易い事だった」

「自分にとっての不利を全て無効化する力と僕自身の無敵の力、この二つがあれば残りの大罪を呑むのも難しくない」



「最初から、大罪の力全てを奪うつもりでしたか」



「僕は大罪が好きなんだ、尊敬もしている」

「そんな僕が彼等を好きにするのは、当然の権利じゃないかな? 実際起こしてから僕は彼等に好きにしてもらったんだよ?」

「好きに生きる事を許したんだ、だったら僕も彼等を好きにさせてもらうさ」



「なるほど、一つだけ教えてあげましょう」

「貴方に何かを好きにする権利、ありませんよ」



「それを決めるのは僕だよ」



 静かに怒るマイラの拳は、やはりヘディルに届かない。寸前で動きを止め無防備を晒すマイラを、ヘディルは笑顔で殴り飛ばす。壁に叩きつけられたマイラだったが、顔を血で染めながらも膝は折らない。勝ち目のない戦いでも、その目は死んでいない。



「哀れだね、死ぬほど憎いだろうに、僕を愛してしまうんだから」



「失礼、私が愛しているのはお姉ちゃんただ一人です」

「そしてそのお姉ちゃんに、死んでも死ぬなと言われここに居ます」

「感情も、使命も、勝敗も、何一つ貴方の好きにさせるつもりはありません」



「ふぅん? …………ん?」



 ヘディルの背後から、大きな足音が響いた。地獄門を巨大な影が潜り抜けてくる。



「おや、まだ動けたんだ」



「三位一体……この姿のケール達を舐めないでください……!」

「勝ったと思ってんじゃねぇよ……下衆野郎が……!」

「※怒っているようだ」



 腹部から血を流しながら、ケルベロスモードのケール達が現れた。絵札二枚に挟まれ、それでもヘディルは笑顔を絶やさない。



「阻まれるとそれだけ、手に入れたくなるものだよね」

「親愛なる敵対者達、最後のその時まで僕を阻んでくれたまえ」

「今日が君達の、最後の日なんだから」



「何一つ、好きにさせないと言っているでしょう」



「最後になるのは、お前の方だっ!!」



 ヘディルに対し飛び掛かる絵札達だったが、その想いも虚しく状況は最悪だ。戦闘員の数が絶望的に足りず、被害は増える一方。地獄の力を取り込み半暴走強化状態となった悪魔達は、アジト内で止まる事無く暴れ続けていた。理性の欠片も残さず暴走する悪魔により、非戦闘員やまだ入って間もない魔物達は成す術なく薙ぎ倒されていく。治療も手が回らず、完全に後手に回っていた。



 全ては、ジワジワと消耗戦を仕掛けていた大罪組の思惑通り。世界各地で暴れ回り、流魔水渦の戦力を削ぎ落していった。各地の復興を手伝いつつ、世界中の問題に関わってきた、全てに手を伸ばしてきたツケが来たのだ。細かい事は見ないように、取捨選択をしていればここまで追い込まれなかっただろう。全てを望んだツケ、全部救おうと奮闘した結果、全てを失おうとしている。愚かな末路だ。



 実際、今まさに未来が失われようとしている。四枚羽の悪魔が襲来し、怪我人が運び込まれていた一室が襲われていた。



「うひゃああ! 強そうな子が来たよぉ!?」

「チョコの人!! クロノ起こす薬はまだーーー!?」



「まだなんだよねこれねここには怪我人もわんさかいるのにこれは不味い状態だねこれねっ!?」



「っ!! あたしがどうにか……」

(出来るかな……兄ちゃん達抜きで、どこまで戦える……? けどやるしか……ここにはまだ動けない子達が……!)



 ナルーティナーを庇うように、タイナが前に出る。だが彼女は鎌鼬の参、攻撃は得意じゃない。怪我人大勢を庇いながら、四枚羽を相手にするには力不足過ぎる。それでも、戦うしかないのだ。



「でりゃああ!!」



「ああああああ……!!」



 虚ろな目をした悪魔に体当たりを仕掛け、何とか部屋の外に押し出す事が出来た。タイナが顔を上げると、壁や天井が黒く染まっており、そこから四枚羽の悪魔が何体も生え落ちてきていた。



「…………嘘でしょ…………ねぇ…………」



「…………あ、が……死……ェあ?」



 起き上がってきた悪魔に蹴り飛ばされ、タイナは部屋の奥まで吹き飛んでしまう。痛みで身体が動かない、それ以上に心が折れかけている。迫る悪魔達は表情が虚ろで、恐らく純粋な四枚羽よりは強くはない。それでも半暴走状態の魔力と、純粋な身体能力だけで十分な脅威だ。そもそも呆然としているが、しっかりとこっちを狙ってきている。戦闘行為だけはちゃんとしている以上、この状況が絶望的なのは疑いようがない。



(虚ろな表情だけど、倒れてる子の方を見てる……! 意識のあるなし関わらず、あたし達を敵と認識して襲ってくる……! 動け……あたしがやらないと……他の子が……!)



「うおおおおおおっ!!」



「やああああああっ!!」



「は?」



 怪我をして治療を受けていた魔物達が、悪魔に向かって飛び掛かった。彼等はまだ流魔水渦に入ったばかりの、新入り達だ。



「俺達だって、軽い気持ちで流魔水渦に入ったわけじゃねぇぞ!」



「まだ何にも出来てない、貢献出来てない! 悪魔の好きになんてさせるもんかよ!」



 訓練もしていない、気持ちだけで流魔水渦に入った彼等にはまだ戦闘能力は期待できない。当然、悪魔に敵うわけも無く一瞬で弾き飛ばされてしまった。



「ぐえっ!」



「っ! 下がって! 相手は四枚羽の悪魔、勝てるわけ……!」



「変えられるわけないって、思って……それでも、クロノさんとか、世界の動きとか……見て、もしかしたらって、確かに思ったんだ……」

「流魔水渦に入れば、何かを変えられるかもって……! ここからならって……!」



「人も、魔物も、悪魔ですら、全部、全部ってバカみたいな理想語る、ここならって、自分達は思っちまった」

「ここから何かが始まる気がしたんだ! ここで、何かが終わるのは見たくねぇんだっ!!」



 悪魔が迫ってくる、このままじゃ失ってしまう。失うわけにはいかない、ここに未来を視た者を、ここを信じてくれた者を、この場所で終わらせるわけにはいかない。どれだけ馬鹿でも愚かでも、ここは全てを願い欲する者の場所だ。その欲だけは、裏切れない。雪崩れ込んでくる四枚羽の悪魔達、勝ち目なんて存在しない。だけど、諦める選択だって存在しない。



「死なせない……絶対、諦めるもんかぁっ!!!」



「ッ! こうなったら、エティルちゃんのとっておきで……!」



 襲い掛かってくる悪魔の群れ、絶体絶命のその瞬間、誰かが大きく手を叩いた。






「――――いやぁ、ごっつおもろかったわ」






 巨大な肉塊が、悪魔の群れを薙ぎ払う。四枚羽の悪魔達は部屋の外まで吹き飛ばされ、タイナ達は何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くす。部屋の隅で寝かされていた怪我人の一人が、ゆっくりと起き上がった。包帯を引き千切りながら歩いてくる男を見て、エティルが顔を引きつらせた。




「なんでーーーーーーーーーーーーっ!?」




「ええリアクションどうも、なんでもなにもあれや、おもろそうやったからや」

「本当は満足するまで楽しんだらひっそり抜けようと思っとったけど……楽しませてくれた礼くらいせんとバチが当たるわ」

「ワイは結構、義理堅いんでな……ほな四天王が一人、変幻のイコージョン・ディムラ……魅せたるで」




 変幻自在、魔の渦に混じりてここに成る。全てを望んだ結果、不利を招くことになった。だけど、招いたのは不利だけじゃない。ここは、そういう場所だから。繋がりが、未来を紡ぐ場所だから。



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