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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十七章 『切り札奮闘記』
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第六百九十五話 『欲成る方へ』

「切り札だかなんだか知らないけどよ、お前は今から壁の染みだぜ」



 再生させた右腕を振るい、まだ空中のセツナを狙う悪魔。セツナが反応する前に、間に入った魁人が札で拳を受け止めた。



「あぁ?」



「お前如き、切り札が相手するまでもないな」



「貴方の相手は、私達ですっ!!」



 拳を弾かれ態勢を崩した悪魔を、紫苑が背後から殴り飛ばす。吹き飛んだ悪魔を睨みながら、魁人と紫苑は臨戦態勢を取った。



「襲撃を受けているのは明らか、状況は常に動いている……1秒が惜しい」

「ここは俺達が請け負う、君達は先に進むんだ」



「これ以上、あの悪魔の好きにはさせません」



「けど……!」



「……セツナ、あんたがやるのはここじゃないよ」

「状況の確認、やるべきこと、ちゃんと見据えて」



 レヴィに諭され、セツナはこの場を後にする。瓦礫を吹き飛ばし、紫色の炎をかき分けるように悪魔が起き上がってきた。



「湧いて出てきたモブ共が、俺の欲を満たせるのか? あぁ?」



「己の欲の為に、ここを壊して他者を傷つけたんですね」



「悪魔はそういう生き物だろう、今更な事言うなぁお前……鬼の癖に理性で生きようってか?」

「本能こそが、進化と成長の栄養素だろうが……真理だぜこれは」



「……経験上、人か魔物かで生き方や在り方を語ろうとは思わないし、思えない」

「結局、悪かどうかは考え方、個人の個人の捉え方だ」



「へぇ? じゃああんたにとって俺はどう映ってんだ?」



「正しく悪魔で、俺個人として許し難いかな」

「俺は退魔の魁人……友人の仲間を傷つけたお前を狩らせてもらう」



「そりゃ理性からの行動か?」



「怒りっていう本能からの行動だ」



「なら、その挑戦は喜んで受けてやるよ……人間」

「俺はウィロー、螺旋のウィローだ! さぁ感情をぶつけ合おうじゃねぇか! 最後に立ってた奴の欲が、一番だぁっ!!」



 空間が歪み、何かが魁人達に放たれる。退魔の力が目に見えない力と激突し、衝撃音が響き渡る。



「……始まったみたいだね、この調子じゃどこもかしこも戦場かな」



「兄ちゃんもどっかで戦ってるのかな……お嬢様にも繋がらないし……!」



「どうしよう……何処を目指すにしても道が出来ない、無理やり突き破っても何処に出るか……」

(そもそも何を優先すれば良いんだ……? みんな大変で、何処も危ないなら、切り札は何処に行くべきなんだ……? クロノも起こさなきゃなのに、やっと起こせそうなのに……今もみんな、傷ついてるのに……!)



「……風が淀んでるなぁ……」



「とにかくボサッとしててもどうにもならないね、ここのボスなら何か知ってるだろうしまずはそこを…………は?」



 黒ずんだ壁を適当にぶち破ろうとしたレヴィだったが、その表情が突然固まった。



「レヴィ? どうしたんだ?」



「……薄っすらと、ミライの力を感じる……」



「えっと……誰? お知り合いかなー?」



「そっちに通じるように言うなら、色欲の大罪だよ」



「……ん? 色欲の魔本は大罪組のボスが持ったまま地獄に落っこちたって……」



「なんだ? どういうことだ?」



「……ミライが起きたのか、敵味方どっちの立ち位置なのか分かんないけど……あの女の能力を感じるのは間違いないよ」

「この異常に関係してるのも、多分間違いないと思う……」



「能力って、なんだ、どんな力だ」



強制好意マッドラブ、範囲内の対象の行動を強制的に自分にとって有利なものにするって最悪の能力だよ」

「生き物、物体、自然現象、どんなものでも、感情や意識の有無に問わず……ミライが望めば全てがミライにとって有利に動く……望めば敵も肉壁になるし、雨はあいつを避けて降る、レヴィは理を解釈次第で二つの意味に捻じ曲げるけど、あいつは望み通りに全てを叶える」

「全てを愛し、全てに愛される……否、愛させる……ある意味無敵の力……敵の存在を許さない力」

「……全てを愛して、受け入れて……それでも拒絶されて、悪魔に堕ちても愛を信じて……みんな仲良く出来る世界を夢見た結果、それを強制する力になった」

「望みを強制する力に、一番絶望したのはミライだったんだよ……なんて、今更レヴィがなんでそんな弁明みたいなこと……」



「……そんな奴が、こんな風に力を使うか……?」

「こんな、どす黒い事になるか……?」



「……さぁね……知らないよ」



「しないだろっ!! レヴィの仲間が、そんな事しないだろっ!!」



「レヴィに言われても困るよ、しないって信じたいけどさ、混乱してるのはこっちもなんだよ」



「……そもそも色欲の大罪が魔本から解放されたなんて、そんな情報聞いてないよー?」

「地獄に落ちた、大罪組のボスが関係してるんじゃないかな……力の有無に意思が関係するなら……どっちかっていうと色欲さんよりそっちの意思よりの気が……」



「結局、あいつはレヴィ達も利用しようとしてたしね……大罪組だって信仰とか言っておきながら勝手な理想押し付けたり、悪魔らしく自分の欲優先だったし」



「じゃあなんだ? レヴィの仲間の力が、好き勝手利用されてる可能性があるのか?」



「……嫉妬しちゃうね」

「あぁ本当に、グルグル渦巻いてしょうがないよ」



 俯くレヴィが前方に魔法を放ち、壁を打ち抜いた。何処に繋がるか分からないが、それでも今はこうして無理やり突き進むしかない。



「薄っすら感じるミライの力、行けるか分からないけどその方向に突き進むよ」

「放っておくなんて、出来ないから」



「大罪を目指すのかー……うへぇ……」



「ん、広い場所に出たぞ!」



 開けた空間には、大勢の魔物達が寝かされていた。動ける者は応急処置に当たっている、その中には慌ただしく駆け回るナルーティナーの姿もあった。



「はいはいはいはい押さないで、チョコを食べる暇もないくらい切羽詰まってるね人が足りないよ全くねこれねはいはいはい今治すからね治療するから魔力も足りないねこれ!」



「ナルーティナー!」



「やぁ切り札ちゃんじゃないか今忙しいからごめんねチョコは待ってねチョコは!」



「一応目的の一つには辿り着けたね、セツナと鎌鼬、それとシルフはマルスの器起こす為に残りなよ」



「え?」



「アイテムは揃ったんだ、あの治療担当の指示通りに動けば起こせるでしょ」

「レヴィは行くよ、ミライを放っておけない」



「あ、えっと……」



「仲間を、放っておけない」



 歩いて行ってしまうレヴィの小さな背中を見て、セツナは懐から妖精大樹の果実を慌てて取り出す。それをタイナに押し付け、セツナはレヴィの後を追った。



「うえぇ? 切り札ちゃん!?」



「タイナ、クロノを、クロノを頼む! 出来るだけ急いで起こして、急いで助けに来てくれって伝えて欲しい!!」

「後エティル! お前もクロノの方に!」



「オッケー! 任されましたぁ!」



「……? セツナ、何してんの?」



「クロノも放っておけないけど、レヴィだって放っておけない!」

「仲間を放っておけないのは、切り札だって同じだ!」



「……あんた……」



「急に貴重品押し付けられたから心臓がー!」



「んん? それは妖精大樹の果実!? あれあらあらあれ、揃ったんだね貴重品なのに全部揃ったんだねぇ! クロノ君に使ってあげたいけど手が離せないねぇ!?」



「タイナ、ナルーティナーを手伝ってクロノを起こしてみんなを助けてくれ!」



「あたし分身とか出来ないんだけどなー!?」



「君は鎌鼬の参だねぇ! お薬の大活躍チャンスだから手伝ってくれるとチョコあげちゃうよ!」



「な、仲間のピンチだし手伝いますけど、チョコは遠慮しておきます……」



「クロノにお薬届けるよぉ! みんなも待ってる筈だから!」



 後の事はタイナとエティルに任せ、セツナはレヴィの隣に立った。



「馬鹿じゃないの、切り札のやるべき事じゃないでしょ」



「本当にこの異常が色欲の力のせいなら、一番危ないところかもしれないだろ」

「異常の中心に切り札が向かうのは、当然だ!」



「……震えながら言う事じゃないよ、格好つけるならちゃんとしなよ」



「だ、大丈夫だ……クロノがきっと助けに来てくれる!」

「それまでは、私がレヴィを助けるぞ!」



「…………格好悪いね、嫉妬しちゃうよ」



 混沌渦巻く戦場に、色欲の気配。嫉妬と切り札は並び立ち、その気配を追いかける。目覚めの可能性を託されたタイナだが、未だ眠り続けるクロノの元にも混沌は這い寄っていた。黒ずんだ壁を突き破り、悪魔が一体クロノの元に現れる。



「精霊にぃ……人間かぁ……?」



「そりゃ来ちゃうよね、この状況なら敵がさ……!」



「ティアラ、クロノを守ってろ」

「しゃあねぇ、この悪魔は俺とアルで……!」



「精霊如きがぁ、生意気に俺を倒せるどぉっ!!?」



 そしてその悪魔が、背後から現れた影に叩き潰された。



「あぁ?」



「精霊如きとは聞き捨てならないな、精霊を舐めるなよ? 心に、魂に一番近い存在だぜ?」

「共に在ると心が賑やかで、同じ方向を見て欲を語る時間なんて最高なんだ、そう、最高なんだよっ!!」



 多重に重なった属性波が、悪魔を粉々に消し飛ばす。砕けた悪魔の残骸を、男の身体から湧き出た精霊達が喰い尽くす。



「だから語ろうぜ、同じ精霊使いとして……」

「なぁ……クロノ・シェバルツゥウウウウッ!!」



「あのババア居ないじゃん、凪るなぁ」



「アルディオン様……ようやく貴方様を……!」



「答えは、ここに……」



「はっはぁ、リベンジの時間だぜぇ!」



 悪魔と化した四精霊、そして彼等を率いる精霊使いがクロノに迫る。狂った笑みを浮かべた災岳達に対し、クロノは未だ眠りの中。



「さて、どうしたものかな……」



「空気を読んでエティルが間に合えば良いが、あいつにそれを求めるのは酷かね」



「クロノ、起きて……起きろ、アホ……!」



 目覚めが先か、滅びが先か。物語は、次のページへ。



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