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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第八章 『人魚の探し物』
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第六十九話 『新大陸・コリエンテ』

 マリアーナから聞いた通り、帰り道でクリスタルシャークが襲ってくる事は無かった。神海しんかいから出た時にはもう姿は無く、クロノ達は安全に帰路に着く事ができたのだ。


 マリアーナ達の住処に戻ったクロノは、マリアーナの兄から手当てを受けていた。



「本当に人魚の宝玉マーメイド・スフィアを取ってくるとは……正直驚きましたよ」


「約束通り、僕は君の夢を信じる事にする」





「じゃあ、姉妹同士の勝負は……」





「マリアーナの勝ち、だね」




 その言葉にマリアーナは両手を上げて大喜びだ。



「勝った~っ! 初めて勝った! 勝った勝った~!」




「……まぁ、あたし達も認めざるを得ませんもの……」

「そこの人間君には完敗ですわ」




「お姉ちゃん!? 勝負はあたしの勝ちなんだけど!?」




「まぁまぁ、マリアーナも勝ったんだし、細かい事は置いておきましょうよ」



 シーがマリアーナをなだめるが、マリアーナは納得がいっていない感じだ。



「なぁ、お前達は何でこんな勝負する事になったんだ?」

「見た感じ、本当に仲が悪いわけじゃないみたいだろ?」



「クロノお兄さん、目が腐ってる!?」



「こんな妹、どうも思ってませんわよ!」



 両者顔を赤くして反発してくる、こんなところもそっくりだ。




「私は兄さまは勿論、姉さまもマリアーナも大好きですよ?」




 そんな中、シーだけは素直にそう言った。



「ちょ、シー!?」



「姉さまもマリアーナも、意地張りすぎです」

「大体、事の発端は姉さまが馬鹿言うからでしょう」



「あれは、マリアーナが融通がきかないから……!」



「14才にもなった妹に、『お姉さま♪』って呼んで欲しいとか頼むお姉ちゃんがおかしいんだよっ!!」



「一回くらいいいじゃないですのっ! 小さい頃は本当に素直で可愛かったのに!!」



「絶対絶対絶対やだっ! 気持ち悪くて死んじゃうっ!」



「そこまで言いますか!?」



 再びギャーギャーと言い争う姉妹達、クロノは止める気力も湧かなかった。



(俺……そんな事の為に頑張ってたのか……)



(いいんじゃない? 別に後悔してるとかじゃないでしょ?)



(大事なのは、魔物の為に頑張ったって事実だよ、クロノ)



(……まぁ、そうだな)



 そういう事にしておこう。



「あれ、だったらシーさんは何でお姉さん側に着いたんですか?」



「シーお姉ちゃんはアクアお姉ちゃんに買収されたんだよ」

「なんとかっていう鉱石でさ、可愛い妹を敵に回すとか有り得ないよね」



「基本的に鉱石や武器のほうが大切ですので」



「ぶれませんわね、あなたは……」

「あんな石ころとマリアーナを天秤にかけるとか有り得ませんわ」



「その石ころで買収を持ちかけるお姉ちゃんも、十分最悪だからね?」

「とにかく、勝負は僕の勝ちだったんだし、今回は言う事聞かないからね!」



「うぅ……仕方ありませんわね……」

「マリアーナ一日占有権が……」



 落ち込むアクアとは対照的に、マリアーナは随分とご機嫌だ。



「……マリアーナも素直じゃないな」



「クロノお兄さん? 何を訳の分からない事言ってるのかな?」



「アクアさんに似てるなぁって」



「……意味がわからない」



「いやぁ、本当に嫌ってるなら、身を挺して庇ったりしないだろ」

「何と言うか、見てて微笑ましっ!?」



 言い終わる前に、マリアーナの尾びれがクロノを吹き飛ばした。



「……ふんっ!」



 背けた顔は真っ赤だ、背後ではアクアが顔を輝かせていた。



「別にいつでも甘えてきていいんですのよ~?」



「頭から腐敗してきてるのかな? 寝言は寝てから言いなよねっ!」



 ……結局は、このツンデレ姉妹の喧嘩に巻き込まれただけだったようだ。頭を強打したクロノは水中をプカプカと脱力していた。




「とはいえ、クロノ君には僕の負担を大きく減らしてもらったからなぁ」




 そんなクロノに、マリアーナ達の兄が近づいてきた。



「君のおかげで随分と楽が出来た、僕個人は大助かりだよ」

「いつもいつもこの調子でね、いい加減うんざりだったんだ」




「……お疲れ様です」




「いやほんと、そう言ってくれるだけで涙が出そう」

「人間にも君みたいな子がいるんだね、初めて知ったよ」



 手を差し出してくれたので、その手を取って起き上がる。



「人と魔の共存……考えた事もなかった」

「けど、君は本当にその夢を目指してるんだね」




「まぁ、まだまだ戯言にしか聞こえないかもしれないですけど……」

「俺個人は、凄くちっぽけですし」




「なら、そのちっぽけな君にこれをあげよう」



 そう言って右手を差し出す、その上には先ほど渡した人魚の宝玉マーメイド・スフィアがあった。



「申し遅れたが、僕の名前はネプトゥヌス」

「これでも僕は、海の中ではちょっとした地位を持っているんだ」


「訳があって妹達とこんな場所に居るんだが、それは今はどうでもいいね」



 そんな事を話していると、右手の上の人魚の宝玉マーメイド・スフィアが輝き始める。そして、透き通る宝玉に紋章のような物が浮かんできた。



「この宝玉は海住種マーメイドだけじゃない、海に住む者には結構特別な物だ」

「その宝玉に僕の紋を刻んだ、海に住む者にこれを見せれば、話くらいは聞いて貰えるだろう」



「君の旅の助けになればと思う」



 テニスボールほどの宝玉を手渡される、その気持ちが本当に嬉しい。




「あ……っ! ありがとうございます!」




「お礼を言うのはこっちだよ、帰ってきてから妹達の機嫌も良いしね」


「まぁ、勝手に妨害行為をしようとしたアクアとシーには、後でお仕置きが必要だけど……」



 その目は若干の闇を含んでいる気がした、この人を怒らせるとやばいと直感で察する。



「に、兄様? それはシーの案でして……」



「流れるように何を嘘言ってるんですか」

「私は姉さまに従っただけです、鉱石分の働きをする為に」



「鉱石分の働き云々言うなら姉を庇いなさいな!」



「心の底からゲスですね、姉さまは……」



「安心して良いよ、両方とも平等に罰を与えるからね」



 ネプトゥヌスが浮かべた笑み、それはどこか冷たい物だった。クロノは苦笑いを浮かべていたが、そんなクロノの手をマリアーナが握ってきた。



「えへへ、お姉ちゃん達は大事な用が出来たみたいだし、僕達も行こうか?」



「え? どこに?」



「お兄さんをコリエンテまで届ける約束、ちゃんと守るよ!」



 そういえばそうだったが、体は大丈夫なのだろうか。



「クリスタルシャークから食らったダメージがあるだろ、平気か?」



「お兄ちゃんに回復術して貰ったし、平気平気!」

「クロノお兄さんのおかげで、初めて勝てた、本当にありがとね♪」


「お礼に全速力でコリエンテまで送り届けるよ!」



「そっか、アルディ!」



(あぁ、任せろ)



 生身の状態では少々危険だろう、クロノは金剛で身を固める。



「仲間を待たせてるんで、俺はもう行きます」

「縁があったら、また会いましょう!」




「クロノ君、またね」




「ま、まぁ……次あったら遊んであげてもよくってよ?」




「旅の武運を祈るよ、また会おう」




 笑顔で再会を誓い、手を振りながら洞窟を出た。




「よ~っし! 全開で飛ばすよ!」




 洞窟を出た瞬間、マリアーナは大きく加速する。クロノはそんなマリアーナに手を引かれ、次の大陸へと進んで行った。










 一瞬で小さくなってしまったクロノを、洞窟の入り口から眺めるネプトゥヌス。彼は昔を思い出していた。



「兄様? どうしたんですか?」



「……いや、アクアとシーにどんな罰を与えようかとね」



「やはり私もですか、とんだとばっちりです」



(……人間、人間か……)



(……海王様も、人間を信じていたのかな……)



 昔の主を思い出し、あの事件を思い出す。自分達兄妹がこの洞窟に身を隠す事になった、あの事件を……。




(いや、忘れよう、済んだ事だ)



(もう、済んだ事だ……)




 洞窟の奥へ戻っていくネプトゥヌスだったが、彼はこの後、ある騒動に巻き込まれる。


 洞窟の奥、アクアの部屋でその時を待ちかねる、悪魔の書物によって……。


 彼が再びクロノと再会するのは、その時までお預けだ。


















 マリアーナの全速力は凄まじい速度だった、金剛を使ってなかったらやはり酷い目にあっていただろう。他愛無い話を数時間ほどしていただろうか、そろそろ到着するとマリアーナは顔を前に向けた。




「お兄さんとは会ったばかりだったのに、助けてもらっちゃって本当にありがとね」

「お兄さんが居なかったら、僕はまたお姉ちゃんの玩具にされてただろうしね」




「まぁいいよ、どんな理由だったとしても、俺にはきっと放っておけなかっただろうし」




「……ほんと、変な人間ー」




「うっ……自覚はあるんだからほっとけ!」




 そうこうしている内に、陸が見えてきた。



「船で4日かかる筈の距離だってのに、凄いな……」



 まだ完全に日が落ちていない、夜になる前に着いてしまったようだ。



「海に住む生き物の中じゃ、海住種マーメイドの遊泳速度はトップクラスだしね」


「このくらい余裕って感じだよ~」


「えっと、マークセージからの船が入る港に行けばいいんだよね?」




「あぁ、セシルがそこで待ってるはずなんだ」




「港に直接は無理だから、港町の近くの浜辺に向かっていい?」




「あぁ、それで十分だ」




 マリアーナは方向を変え、浜辺を目指して泳ぎだす。到着するのはすぐだった。



「それじゃ、ここでお別れだね」



「そうだな、これ返すよ」



 空気の腕輪エア・ブレスレットを外そうとするクロノだったが、それをマリアーナは制した。



「それ、あげる」



「え?」



「綺麗だったから気に入ってたんだけど、僕が持ってても役に立たないしさ」

「お兄さんにあげるよ」



「けどこれ、お前の宝物だろ?」



「いいの、お兄さんになら」

「役に立ててよね♪」



 そう言って笑顔を浮かべるマリアーナ、少し悪い気もするが、ここはありがたく受け取ろう。



「そっか……ありがとな、凄い嬉しいよ」



「それじゃ、また会おうな!」



 そう言って背を向け、陸へ向かって泳ぎだそうとするクロノ。





「……お兄さん!」





 マリアーナに呼ばれ、振り返ろうとする。





「ちゅっ♪」





 不意打ちで、頬にキスされた。





「……え」





「えへへっ! また会おうね! 絶対だよ!」



「本当にありがとね~っ!」




 何か言う前に、逃げるようにマリアーナは泳いでいってしまった。



「えっと……えぇ……?」



「役得だね、クロノ」



「クロノ、顔赤いよぉ?」



「う、うるさい!」



 耳まで真っ赤に染まっているクロノを、2体の精霊はここぞとばかりにからかう。精霊達に笑われながらも、クロノはコリエンテ大陸へ上陸した。



「この大陸に、ウンディーネがいるのか……」



「もう日も暮れてきてるし、まずはセシルと合流が先だね」



「港町はあっちだよぉ! 早く行こう行こう!」



 クロノはエティルの指差す方へ駆け出す、新大陸の冒険はもう少し我慢だ。早まる鼓動を抑え、クロノは港町を目指して行った。























 港町から少し離れた場所に位置する密林、その奥に不気味に佇む大きな屋敷。少し前から、この辺りには幽霊が出るという噂があった。



 人気の無いその屋敷の入り口に、一人の女性が立っていた。入り口を開けようと手を伸ばすが、その手は扉をすり抜けてしまう。そのまますり抜けて中に入ろうとするものの、手首から先が入っていかないようだ。




「透過、能力って言うんですかね、こういうの……凄く半端ですぅ……」




 ブツブツと独り言を零す女性だったが、その背後で風が草木を撫で、ガサガサと音を立てた。





「ひにゃああああああああああああああああああっ!?」





 悲鳴と共に腰を抜かす女性だったが、腰から下は存在していない。透けるように下半身が消えてしまっているのだ。




「怖いよぉ……誰か助けてくださいぃ……!」




 ガタガタと怯える霊体種ゴーストの彼女こそ、クロノを次の冒険へ導く魔物だ。


 コリエンテ大陸での冒険が、始まろうとしていた。



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