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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十七章 『切り札奮闘記』
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第六百八十八話 『さらばリコーラ、永遠なれ』

「ケーランカのお姫様とは、意外な人物との邂逅だな」



「皆々様には我が国をお救い頂き、頭が上がりません」

「愚かな父、無力な私、そして国民を助けてくれた感謝を……随分と遅れちゃったけどね」



「一度はあの大きな木と主君の元主君に滅茶苦茶にされましたものね、流魔水渦の悪魔さん凄かったです」



 元ルーンの仲間であったテイル、そしてその得物である八戒神器はっかいじんぎアマテラスの力によって、ケーランカは一度は滅んだものの奇跡の復活を果たした。父も、国も、終わりを経て再び歩き出した。まだ戻らない、ヨナ自身も変わる為、成長の為の前向きな家出の真っ最中だ。



「まだ戻るつもりはないけど、この前インクに抱えて貰って空からケーランカを眺めたの」

「お城の屋根が、お花でいっぱいだった……沢山の人に指示を出してるお父様が見えた」

「未来を視なくても、キラキラするケーランカが確かに見えたんだ」



「後始末を手伝った後も俺は何度かあの国を訪れてますが、前とは別の国のようですよ」

「国に活力が溢れている、皆が前を向き歩き出しているのを感じます」

「王様も毎日、流魔水渦の手を借り頑張っているようです」



「そっか……まだどんな顔をして会えばいいかわからないけど……いつか必ず戻るよ」

「その時は、悪魔の餌にしやがってーって引っ叩いてやる、あはは」



(良い笑顔だ、ここにもクロノに救われた笑顔がある……温かいな……)



「良い話オーラで結界張ってるとこ悪いんだけど、浄化手伝ってくれない? 嫉妬しちゃうよ」



 魁人と紫苑は何もヨナと世間話をしているわけではない、ヨナの生み出してしまった毒物にヨナ自身を近づけないように足止めしていたのだ。鍋を腐食させ、零れ堕ちた毒物は世界を蝕み始めていた。そして何故かヨナが片付けようとすると飛び散り拡散し世界浸食が加速するのだ。



「ぎゃあああなんだこれ腕を這い上がってくるぞ!!」



「セ、セツナが蝕まれていく! 今助け……」



「兄ちゃん駄目だよ! 触ると感染する! 切り札ちゃんは、もう……」



「見捨てるの早すぎるだろ! なんだこれ水体種スライムなのか!?」



「ちょっとセツナちゃん腕振り回すと飛び散るよぉ!?」



 後方では毒物処理班が死闘を繰り広げていた。溢れた毒物は既にセツナよりでかく肥大化している。



「ヨナ様、一体何をお作りになられたのでしょうか?」



「えっと、キャンプの定番であるカレーとやらをですね」



「…………鬼モードの紫苑よりやばいな」



「鬼モードの私の料理は見た目がやばいだけですもん!」



「喋ってないで手を貸せって言ってるんだよ、レヴィは今すぐ逃げ出したいよ」



「ぎゃあああああああああレヴィ助けてくれええええええええええええ」



「地獄ならとっくに見たの筈なのに、ある意味それを上回る地獄絵図だよ」

「そこのお姫様、訳あり欲ありなんでもありみたいだけどね、言っとくけどカレーは動いたりしないんだよ」



「あははは……なんでだろうねー……」

「あ、あんなんでも……味は結構いけてたんだけど」



「食べた悪魔がぶっ倒れてるよ」



「おぅ……即効性は保証するぜ……」

「俺が悪魔だから症状継続中だけどなぁ? 普通の生物が喰ったら秒であの世を拝めるぜ」



 紫の泡を吹き出しながら痙攣中のインクが、腕だけ上げてそう言った。あれは死に抗い、次の犠牲者を出さないように警告する歴史に残すべき善行だ。



「悪魔をここまで追い込むなんて、並の退治屋にも出来ないよ」

「今レヴィはセツナを逃がさずレヴィは逃げる為に能力を使いたい気持ちでいっぱいだよ」



「最高戦力が早々に逃げの一手してんじゃないよ早く助けもごごご……」



「今切り札が混沌に埋もれていったよ」



「不味いな犠牲者が増えていく……」



「セツナーーーーーーーーーーーーーーッ!」



「兄ちゃん駄目だよ! 飲み込まれる!」



 膨れ上がる毒物カレーに沈んでいくセツナ、誰もが切り札の死を確信した中、一筋の光が紫色のカレーを吹き飛ばす。ペンダントに擬態していたリコーラが、セツナを抱えカレーを食い破ってきたのだ。



「リコーラ!」



「スタッと着地! もうツイ君はいつまでたってもりっちゃんって呼んでくれないなぁ」



「そっか! 食べるのはりっちゃんの得意分野だ! 切り札ちゃんが装備しててくれて助かった!」



「そゆことそゆこと、まぁ任せておきたまえよ……こんなの軽くランチタイムさ~♪」

「じゃ、切り札ちゃんよろしくね……」



 白目になってるセツナをタイナに預け、リコーラは魔物カレーに向き直る。一瞬見えた表情は、どこか消え入りそうで……。



「待ちなよ、死ぬつもり……?」



「大罪ちゃんに心配されるなんて、ミミック生不思議な事もあるもんだね……」



「あれを食えばタダじゃすまない……そんなの明らかだよ、現に口から垂れてるそれは涎じゃなくて、血だ」



 紫色に変色した血を口の端から垂らすリコーラ。そう、これは特攻。明らかな死出の旅。



「あれをどうにか出来るのは、りっちゃんだけさ」



「そんな、リコーラさん!」



「兄ちゃん止めないで! りっちゃんの覚悟を無駄にしないで! このままじゃあたし達の旅はここで終わりなんだよ!」



「お前勢いに任せてなんとかしてもらおうって魂胆だろ! 片付けしたくないからって卑怯だぞ!」



「あんなもん触れるかぁ! 利用できるノリは利用すんだよ馬鹿兄ちゃん!」



「みんな、切り札ちゃんの事……頼んだぜ……」



「…………馬鹿な、擬態種ミミックだよ…………その覚悟、嫉妬しちゃうな」



 目を背けるレヴィと、混沌カレーに突っ込んでいくリコーラ。その表情は過去一真面目であり、その背中は今までで一番頼りになり、そしてどこか、儚げに映った。この日間違いなく世界は救われ、それが仲間の犠牲の上に成り立っている事を思い知らされた。切り札の旅路は終わらない、ここで歩みを止めるわけにはいかない。リコーラの犠牲を無駄にしない為にも、自分達は突き進むのだ。



「また……私は……肝心な時に、何も出来ずに……」

「うわああああああああああああああああっ! リコーラごめんな、ごめんなあああああああああ!!」



「胃もたれです……うぇぇ……」



「普通に生きてんだよな」



「でも助かったね、りっちゃん様様ですわ」



 ダウンしているリコーラを抱えながら、セツナは天を仰ぎ絶叫していた。ちなみに汚染されたセツナとインクをモグモグして解毒したのもリコーラである。流石の雑食ミミックも顔を青くしているところを見るに、先ほどの毒物の毒性は異常だったのだろう。



「うぅぅ……感動した……仲間同士の友情、絆って美しいね……!」



「テメェは感動する前に反省しろ?」



「ごめんなさい……でも普通に作っただけなの……」



「じゃあレシピ言ってみろお前こら」



「えっと、まずは水とアクレナミトンコンバーラインを」



「一手目からおかしいんだよポンコツッ!」



 ちなみにアク(以下略)とは魔術を武具に付与する際に用いられる素材であり、調理に使う物ではない。



「どうして入れた!?」



「だって何かを混ぜるって魔術塔でしか見た事がなくて……」



「だからって入れる!? お前もう二度と料理するな!」



「そんなぁ……お城に戻ったらお姫様なんだから料理なんてこの機会にしか出来ないのに……」



「お前のチャレンジで世界が滅ぶわ!」



「中々あくの強いお姫様だね、レヴィはお近づきになりたくないよ」



「リコーラごめんなあああああああっ!」



「切り札ちゃんー、揺らすとオエッてなるよー……」



「と、とにかく、危機は去ったな……状況を整理しよう」



 とりあえずリコーラの体調がマシになるまで、魁人達はヨナに例の山について聞いてみた。



「むむむ? スターライトクリスタル?」

「なるほどなるほど、ケーランカを救ってくれたあの子を助ける為に、か……」



「魔術大国のお姫様であるヨナ様なら、何かご存じかなと……」



「ほぼほぼ軟禁だったからなぁ……けどその石なら小さい頃見た事があるよ」

「お父様がまだ魔術の研究に積極的に関わってた頃だったから、もう何年前かな……」



「ケーランカに在庫があれば、何もかもすぐに終わっちゃうんですけどね」



「うーん取れる数が激減したって聞いたし、流石に無さそうだけどなぁ」

「けど成る過程は知ってるよ、お城の魔術関連の本に書いてあったからね」

「読んじゃダメって本も色々盗み見たもんだよ、退屈でさ……」



「流石実験動物扱いの悪魔と談笑する姫様だ、狂ってやがるぜ」



「あたしは最初から、インクをそんな風に見た事ないよーだ」

「取れる山ってのは、星海の山……の筈、大昔に上半分消し飛んだ山なんて幾つもないからね」

「どうして吹っ飛んだかは知らないけど、五百年前くらいの事故? が原因らしいよ、採れる数が減ったのはその頃かららしいけど、流石に昔過ぎて分かんないや」



「エティルちゃんもわかんないや、不思議だねぇ」



 簡単に嘘をつくような生き物にはならないようにしよう、リコーラを抱きしめ泣きながらセツナは密かに誓うのだった。



「なるほど、けどどうすればクリスタルが出来るのか知っているのなら助かります」

「こちらは理を捻じ曲げる大罪も居ますし、方法さえ分かればなんとか……」



「なら善は急げだね、いざ行かん! 星海の地へ!」



「えっと……? お姫様も一緒ですか?」



「勿論! こんなチャンスは滅多にない! あたしも一緒に山登り!」

「それに、姫として貴方達に何も返せていない、国を救ってくれた恩人の為になにかしたい……これは私の本心であり、欲です」

「カレーも片付けて貰っちゃったし、せめてもの恩返しをさせてもらいたいな」



「またお前は誰かの為にってよぉ……」



「これは未来を視たわけじゃないから、勘なんだけどねインク」

「あの子は……クロノ君だったけ? ケーランカを迷うことなく助けるって言ってくれたあの子はさ、これからもっと沢山の何かを救いあげていく子なんだ」

「従うだけ、使われるだけ、そんなあたしはもうやめだ……だからこれは必要な事、あの子はきっと、世界の為に必要なんだ」

「だったらそれを助けるなら、世の為人の為あたしの為ってことで……欲深くて、罪深いでしょ? インク好みのあたしじゃないかね?」



「口の達者なお姫様だな、たっくよぉ……」



「えへへ、お褒めの言葉と受け取ろう」

「って事なので、君達のパーティーにお姫様と悪魔を入れておくれよ!」



 旅は道連れ世は情け、カレーは混沌クロノは昏倒。最後の素材を求め、いざ星海の山。



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