第六百八十六話 『星を求めて、道を束ねて』
「うがああああああああああ何処に行けばいいんだああああああああああああああ!」
「おいこらうるせぇ切り札だな! 一応ここには怪我人が寝てんだぞ!」
頭を抱え床を転がるセツナを怒鳴りつけるフェルド。ラズライトと別れ一旦情報収集の為にアジトに戻ってきたセツナは、とりあえず山のような希少素材をクロノの部屋に運び込んできた。その後仲間達と分担してスターライトクリスタルについて聞きこんでいたのだが、有力な情報は得られずこうして愚痴りに来ているというわけだ。
「みんな親切に話は聞いてくれるけど、詳しくは知らないみたいなんだ……」
「毎日毎日色んな場所に行って、忙しそうに世間と関わってるみんなが知らないなんてもうこれ詰んでるだろ……魁人やツイ、レヴィが知らなかった時点で気が付くべきだったんだ……ラズは容赦なく難しい素材を指定してきたのに私は調子に乗って石ころ呼ばわり……行き詰まった……うぅぅ……」
部屋の隅に寄せられた素材の山に埋もれていくセツナ、自分の絆の数で集まった素材の山は折れかけのセツナ最後の自信の塊らしい。
「おいおい弱音はよしてくれよ、クロノに悪い影響が出たらどうするんだ」
「ただでさえティアラが引っ付いてジメジメしているんだからね、これ以上辛気臭い空気は勘弁だよ」
「……もぐもぐ」
「こいつまたクロノの上でチョコ食ってやがる」
「うがー! こっちは真剣に悩んでんだよ! お前達長生きなんだろ!? 知らないのか!?」
「知らないも何も、スターライトクリスタルが取れる山は昔ルーンとエフィクトの戦いの影響で吹っ飛んでるよ」
「へぇ、そうなのか…………ごめん、もう一回言ってくれないか?」
「とある山の山頂、幾つかの条件を満たした時星の光を吸って魔石がスターライトクリスタルに成るわけなんだけどね、その山の上半分はルーンとエフィクトの戦いで抉れ飛んだよ」
「五百年前の話だし、今も流通してるならその時各地に飛び散った残りなのか、別の何処かで取れるのか、それくらいしか僕達は知らないな」
「そうなんだよねぇ、だからこそエティルちゃんお悩み中なんだよぉ」
「…………どうして早く言わなかったんだ?」
「セツナちゃんのやる気に水を差すわけにはいかないでしょぉー」
「普段空気読まない癖にこういう時だけこうなんだよ、このチビは」
「このチビはーーーーーーーーーーーっ!!!」
「ひゃあ! セツナちゃんしーっ! クロノが驚いちゃうよ!」
実際苦し気な表情をしているクロノだが、今まさにマルスにボコボコにされている真っ最中だとはこの場の誰も気づかない。
「グロノォ……ごめんなお前のアホな精霊達のせいでぇ……」
「達? 達っつったかこいつ」
「聞き捨てならないなぁ、僕以外はアホだろうけど」
「やるかー!?」
「お前達の方がよっぽどうるさいぞ!」
「もぐもぐ…………けど、あの山……確かに、吹っ飛んだけど……大事なのは、位置、数、魔石……」
「位置と、時間、後は……根気があれ、ば……今でも、作れる……と思う」
「あえ?」
「あー、無理やり昔と同じ位置に魔石をって事? ティアラちゃん無茶苦茶言うねぇ」
「つうか星の光の角度とか量とか、理を無理やり捻じ曲げる嫉妬悪魔居るじゃねぇか」
「レヴィにはレヴィって名前があるんだよ」
「うわああ!?」
いつの間にかセツナの背後に立っていたレヴィに驚き、切り札の心臓が一瞬外気に晒された。
「いつから……」
「丁度山が吹っ飛んだとか話し始めてたところからだよ、なんとも嫉妬が茂る話をしてるものだよ」
「レヴィ達が今やってる情報収集の意味を欠片も残さず無意味にするそのスタンスは流石だね」
「どうして私が怒られそうになってんだ! 悪いのはあの場で言わなかったそこのチビ風野郎だぞ!」
「エティルちゃんは空気を読んだのです!」
「読めてないんだっての!」
「まぁどっちでも良いよ、レヴィはセツナを虐めるのが好きだから責めてるだけだし」
「どうして……」
「まぁそんなどうでも良い話は置いておいて、なんか力技でどうにかなりそうな流れだった?」
「まぁレヴィちゃんの力を使えば、どうにかなるっちゃなるかな……?」
「スターライトクリスタルが成る過程は、魔道具や錬金術に明るい人なら知ってるだろうし……」
「フローちゃんや、ケーランカの王様とか、後ミルナイさんとか!」
「……山自体は、まだ、デフェール、に……ある、はず」
「デフェール大陸に行くなら、ケーランカが都合が良いかもね……ほらセツナ、善は急げだよ……さっさと今頑張って情報集めてるみんなに無駄なお仕事ご苦労様って言いに行くんだよ」
「無駄に圧をかけるなぁ!?」
グネグネと道が変わるアジト内を走り回り、本当に真剣に聞き込みを続けてくれていた仲間達をかき集める。事情を話し、一同デフェールを目指す事になる。
「この度は無駄な時間を使わせて誠に申し訳ありませんでした……っと」
「わーん! 何この板ぁ!」
「切り札特製の首掛け謝罪ボードだ、エティルは暫くこれを首から掛けておくんだ……!」
「割と器用だな、セツナちゃん」
「勿論切り札はこんな小さな物作ろうとすると指がお亡くなりになるから、リコーラがモグモグしてくれました」
「その時点で切り札特製じゃないよ」
「なんかベトベトするよぉ!!」
「あれー?」
ギャアギャアと騒ぐセツナ達から少し離れ、デフェールへの移動ゲートを開こうとしていたタイナ。彼女は少し困ったように首を傾げ、その様子に紫苑が気づいた。
「どうなさいましたか?」
「ケーランカには何人か仲間が配置されてる筈なんだけど、連絡取れないなーって」
「復興作業とか手伝ってる筈なんだけどなぁ……」
「そういえば新型の魔術結界の試行運転がどうのこうの言ってた気がするな、もしかして通信に不具合でも起きてるのか?」
「ゲルトでの一件にも協力してくれたらしいし、最近のケーランカは凄い勢いで伸びてる感じがする」
「その伸びしろはセツナも見習うべきだよ」
「なんでどんな内容も異様なカーブで私を狙って来るんだ!」
「正直俺は今でもその黒い鍵がどんな原理で空間を繋いでいるのか分からないんだが……もし本当にケーランカの試作結界がまだ不安定なら、直接飛ぶのは避けた方が良いかもしれないな、ゲートにも影響がないとは言い切れないし」
「中途半端にゲートが閉じてセツナが真っ二つになる可能性もあるね」
「ひいいい……」
「んじゃー都合よくケーランカ付近にいるお仲間はー……兄ちゃん手伝ってよー」
「はいはいっと……」
「やれやれ、地味にグダグダが重なってうんざりだよ」
「他の大罪は大丈夫かな、レヴィも心配だよな」
セツナの言葉に少し考え込むレヴィだったが、失笑したように息を吐き、セツナの脇腹を突いた。
「ぎゃん!」
「心配なんて要らないよ、馬鹿ばっかりだもん」
「どんな手を使っても、全員揃えるよ……それが今のレヴィ達の欲だから」
「ヘッポコ切り札は余計な心配しないで、前だけ見てりゃ良いんだよ」
「ぐぬぬ、人の善意を……!」
「もっとどす黒い感情の方が、悪魔の好みだよ」
「レヴィを喜ばせたいなら、もっと嫉妬嫉妬しないとね……お腹満たせないよ」
「嫉妬かぁ……私は私以外を羨ましいとか凄いなぁとか思いっぱなしだからなぁ」
「歪んだ見方をすれば、嫉妬になるのかな」
「ま、好きが過ぎれば嫉妬って簡単に上澄むからね」
「レヴィはみんなが大好きって事かぁ」
「……ッ!」
ゲートが繋がるまでの間、切り札の脇腹は嫉妬の悪魔に執拗に狙われることになるのだった。
「少し距離があるけど、ゲート繋がったよー」
「とあるターゲットを追跡、見張りをしてた子が繋げてくれたー」
「とあるターゲット? 危なくないんだろうな」
「丁度面白い状況らしいよー」
「面白い? また切り札に対して辛い現実が待ってたりしないよな」
「ネガネガしてないでさっさと行くんだよ」
レヴィに蹴り飛ばされ、セツナはゲートに転がり込む。頭から地面に飛び込んできた切り札に対し、ゲートを繋げてくれた流魔水渦の隊員はギョッとした。
「セツナさん!?」
「やあ、今日も元気なセツナさんだ……大丈夫いつもの事だから……」
狼の獣人種に手を借り、セツナはフラフラと立ち上がる。辺りを見渡すが、面白い何かは見当たらない。
「面白い状況って聞いたんだけど、何がどう面白いんだ?」
「あ、はい……私はあの方達を見守っていたんですけど、丁度……ほら」
指差す方向には、何やら煙が見えた。どうやら二人組が焚火を囲んでご飯を食べているらしい。いや、様子がおかしい、煙は紫色だし、片方が痙攣しながらぶっ倒れている。
「あの二人は……もしかして……?」
セツナの記憶にも残っている、あの二人には見覚えがある。丁度目的地であるケーランカに関する、忘れたくても忘れられない重要人物だ。
「うわ、うわわ……インク、しっかり、しっかりしてっ!!」
「クソ……あたしが未来を見ていたらこんな事には、先が見えないってこんなに恐ろしい事だったなんて……!!」
「怖ェのは……テメェだよ……クソがぁ……!」
ケーランカのおかしな姫様と、普通の悪魔。この再会は、ミライを変える一手になる。




