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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十七章 『切り札奮闘記』
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第六百八十四話 『絆の数が、違うのです』

「だーかーらー! ティターニアは女王の総称! ラズライトが私の名前だ!」



「そ、そうか……ラズライトさんか……あの」



「なんだその他人行儀な呼び方は! 気安くラズと呼べ切り札よ!」



 レヴィの手により女王に捧げられたセツナは、さっきからずっと女王に纏わりつかれていた。セツナの後頭部にへばり付く大型妖精は好き放題に騒いでいるが、セツナ一人の犠牲で済んでレヴィ達は安心したように腰を下ろしている。



「儚い犠牲は出たけど、どうにか興味を誘導出来てほっとしたよ」



「これで多少は静かだねぇ」



「真っ先に切り札を犠牲にするんじゃないよ! ツイ! タイナ! ヘルプ!」



「いやしかし女王の機嫌を損ねるのは不味いだろう……」



「さっきの魔力見ちゃうとねぇ」



「薄情者がぁ!」



「えぇい私を構え切り札! お前には何が出来る? お前はどれくらい面白いんだ!」



 セツナの耳を引っ張りながら、ラズライトは全身から魔力を放つ。近くの木々がウネウネとセツナに這いより、木の実や葉っぱを打ち出してきた。



「ぎゃああああああああああああああああああああ!」



「ふははは! どうした急に走り出して! 愉快な奴だお前は!」



「少し可哀想だが……結果として女王の機嫌は良くなったな」



「しかし話を進めるべきでは? このままではセツナさんが力尽きてしまいますよ」

「私達は依然女王の世界の中、一手間違えるだけで先ほどのような状況に成りかねません……あちらの機嫌が良い今が切り出すチャンスだと思うのですが」



「あの害虫の興味はセツナに移ってるから、その役目はセツナに任せるべきだよ」

「あの害虫、こっちの話は基本聞かないから……今はセツナ以外会話無理だと思う」

「ってことで、進展あるまでのんびりしてよう」



「フェルルちゃんー? 甘い物あるー?」



「ふぇぇ……遠慮ってものがないよぉ……だめだめぇ……」



 くつろぐエティル達だが、その後方ではセツナが空中に投げ出され飛んで行ってしまっている。一応何かしらの感知能力で常にセツナを見張ってはいるようだが、九割程丸投げらしい。



「本当に大丈夫なのか?」



「あの害虫は命までは取らないよ、絶対にね」

「なんせ久々の非日常、チャンスを自ら潰したりはしないよ」

「まぁ、セツナがあいつを満たせないなら……その時は……」



「満たせるまで解放はされないねぇ、ラズってば無尽蔵の体力だもん」

「エティルちゃんはあの子が満足したの、一回しか見た事ないや」

(あの子以上のお遊び精神持ち、ルーンだけだよ、ラズちゃんが体力切れ起こしたのは)




「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!?」




 幻想世界に響く切り札の悲鳴、様々な騒音が鳴り響く中、セツナの身体に異変が起きる。木の根に弾き飛ばされたセツナだったが、なんと普通に着地を成功させたのだ。



「あれ……?」

(ドジらなかった……なんでだ、当たり前みたいに、知ってるみたいに片足で着地出来た)



 違和感は、全身に広がっていた。自分の身体じゃないみたいに全身が軽い、不自然な程身体を動かせる。こんな自分は知らないが、身体は知っているようにクルクルと軽い身のこなしを見せた。だが、それはすぐに消えてしまい、今度は違った身体の動かし方を見せてくる。違う人物が次々と自分に乗り移り、それぞれが好き勝手に自分の身体を操っているような感覚だ。一瞬一瞬で違う動きをするセツナを、ラズはキラキラとした目で追いかける。



「気持ちの悪い奴だ! 面白いな!」



「攻撃をやめろおおおおおおお!?」



「別にやめてもいいが、ならお前はどうやって我を楽しませてくれる!?」



「えっと、危ない事じゃないならなんでもいいぞ!!!」



「ほぉ?」



「ひぃひぃ……あれ、攻撃が止まった……」



 息を切らすセツナの目の前に飛んできたラズは、セツナの額に人差し指を押し当てる。グリグリしてくるラズの顔は、そりゃあもう悪魔みたいな笑顔だった。



「なんでもと言ったな、小娘が言うじゃないか」

「我は女王の定め故、ここから出られぬ……言ってみれば妖精一族の奴隷よ、生まれながらのな」

「自由など夢物語、毎日毎日大樹のお世話! 暇で退屈で死んでしまうわ!」



「あの、嫌なら投げ出したり逃げたりしないのか? この世界ってお前が作ってるんだろ?」



「は? 投げ出したらみんなが困るだろう、この仕事は我にしか出来ぬのだぞ」

「汲め汲め話の流れを、別にみんなが嫌いなわけじゃない、同情を誘う建前よ」



「……なんだ、お前も仲間が大好きなんだな」



「汲み過ぎだボケナス! 恥ずかしい部分だけすくい上げるな! 我のキャラを考えろ!」

「ごほんっ! 我はこの世界から出られない、だから見てみたいものとか色々あるのだ」

「これでも長い時間生きてきた、お前達の目的はあれだろ、大樹の実だろう? それくらい察している」



「あぁ、私はそれを……」



「何のために欲しているかなんて興味はないなぁ! そして当然タダじゃ渡せない! 私を満足させなきゃあげないもんねー!」



 舌を出して挑発してくるラズだったが、事前情報で散々脅されたセツナはその程度じゃ怯まない。何より、ここを乗り越えればクロノを起こせるんだ。自分がどれだけヘッポコでも、ここで引くほど雑魚じゃない。



「なんでも言ってみろ……受けて立つぞ!」



「若いって良いなぁ! 覚悟しろよ無理難題しか言わないぞ!」

「そうだなぁ、昔絵本で読んだユニコーンの角を見てみたい!」

(入手難易度鬼やばな素材だ、涙を流して弱音を吐いてみろ!)



「オラァ!」



 ラズの目の前でセツナは虚空に鍵を突き刺す。この幻想世界の中でも、この鍵はアジトに繋がるらしい。黒い渦が現れ、ラズの目が点になった。



「え、なにそれは」



「ちょっと待ってろ!!」



 渦の中にセツナが飛び込み、数分後転がり出てきた。盛大に着地は失敗したが、その手にはユニコーンの角が握られていた。



「はぁ!?」



「あいたぁ……」

(ケーランカの戦いが終わって……帰る前にユリさんがくれたんだ……生え変わりで抜け落ちた残りの角、全部くれたんだ)



『この先も苦難が続くだろう、頑張れよ』


『ありがとう……ルトにも宜しく伝え……』


『それはよせっ! あくまで私個人が、お前個人を想っての事だ!』



「どうだ! 本物だぞ!」



「綺麗……癒しの魔力もすげー……はっ!?」

「どんな手品使ったんだよ……! じゃあ癒し繋がりで浄水珊瑚が見てみたい! 浄化の力を極めた珊瑚で……」



「馬鹿めそのターンは終わってるんだ! 私は気絶したけどみんなが余分にゲットしてくれたんだ!」



 渦に飛び込み、すぐさま戻ってきたセツナは珊瑚をラズに投げつける。キャッチした瞬間、ラズの両手が少し浄化された。



「この浄化の力は……本物だと!?」



(珊瑚が汚れって判断したぞ、この女王……)



「この……中々やるじゃないか……!」

「だったら逆の方向にシフトだ! 妖炎の灯りを見せてよ!」



「あぅ……?」

(知らないよぉ! でも、でも……)



「自分で言うのもなんだけど魔物由来の難しい素材ばっかり言ってるからね、そうポンポン取り出せるわけないんだよね! 嫌がらせレベルの無理難題を……って居ねぇし!」



 セツナは要求を受け、すぐに渦に飛び込みアジトに戻っていた。聞いたことの無い素材、今の自分は知らない素材。それでも、魔物由来の素材なら、自分の仲間達なら。




「みんなーーっ! 手を貸してくれ、助けてくれ!」




 流魔水渦なら、無理難題だって超えていける。



「だぁっ! 霊球種ウィルオウィスプの生み出す消えない炎だ!」



「どうなってんだよその渦! だったら人魚の宝玉マーメイド・スフィアを……」



「りゃあ! クロノから借りてきたぁ!」



「マジか……!? なら龍の鱗剥いで来て見せろよ!」



「うりゃあ! ありがとうティドクランさん!」

(※ラーネアが引っぺがしてくれた)



「マタンゴの蜂蜜ソースがけ!」



「おあがりよ!」

(※暴食の森一同合作)



「淫魔のパンツ!」



「変態!」

(※コロンがシトリンから盗んできた)



「混沌核!」



「良く分からないけど! マイラがくれた!」



「伝説のエルフのサイン!!」



「ピリカが手に入れてきてくれた!!」



「なんで!? じゃあなんでもいいから混血の血を」



「ロベリアが噴き出してた! てぇい!」



「吹き出してた!?」



 その後も素材要求が続くが、セツナの積み重ねた縁は伊達じゃない。途中意味不明な要求もあったが、ラズの息が切れるまで見事に耐え抜いてみせた。結果、希少素材の山が築き上がった。




「や、やるなぁ……マジで何者だこの無表情野郎……」




「けほ……はぁ……はぁ……何の取り柄もない……名ばかりの切り札だったんだ……」

「けど、そんな私でも、頑張ろうって思えたんだ、思わせてくれた奴が居たんだ」

「そいつのおかげで、周りに居てくれた大切な奴等にも気づけて、縁に気づけたからここまで出来た」

「妖精大樹の果実が、必要なんだ……友達を助けるのに、必要なんだ……!」

「私を変えてくれた、クロノを助けたいんだ……! だからっ!」




「……っ」

「どいつもこいつも、助けたい、ね……」

「そりゃ、現を飛び越えここまで来るような奴等だもんね……どんだけ無理難題ふっかけても、助けたい奴が居るわけだ」

「エティルやレヴィが裏に控えてるわけだ、軽い気持ちじゃないってか」

「……良いよ、おふざけは終わりだ」




 そのおふざけで国が傾くほどの希少素材の山が生み出されているのだが、この場にその価値に気づける者は居なかった。



「我も女王、種の代表、ここまでの想いを見せられて無下にするほど鬼じゃない」



「やった!」



「スターライトクリスタル」



「え?」



「自然由来の希少素材だ、持ってこれたら果実をあげる」

「友達の為なら、どんな苦難も乗り越えられるって? 生憎絆や友情は良く分からない」

「だから我は、いや……私はそれに興味がある、おふざけ無しに見てみたいんだ」

「二つ返事で応えてみせてよ、君の覚悟をみせておくれよ」



「……やってやるよ、腐っても切り札なんだ」

「言ったじゃんか、なんでもやるってっ!」

「今の私は、空っぽじゃない……色んな事がわかるし良く見える……だから、出来るって信じてる!」



「面白いなぁ……本当に、胸が躍る」

「君の煌めきが果実に相応しい物か、見定めようじゃないか」



 女王としての本気の圧にだって、怯みはしない。この覚悟は、偽物じゃない。



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