第六百七十九話 『嫉妬の予約』
「事情は今話した通りだよ、さぁ手伝って」
「まさかいきなり大罪からパーティーに勧誘されるとはな……」
魁人達の行く手を阻み、電光石火の勢いで事情を話しレヴィは魁人達を仲間に誘う。後ろには引っ張り回されたセツナが倒れており、既にツイ達に介護されていた。
(嫉妬の大罪か……協力関係を築けたとは聞いているが、実際に目にすると魔力の圧が中々……)
「つうかあのクソガキまた無茶して倒れてんのかよ、学習しねぇゴミカスっすねぇ」
「クロノが私よりゴミカスなわけないだろ! それ以上言うなら私が相手に……!」
「はぁ? なんっすかこの顔面無表情は」
「ツイが相手になるぞ!」
「え、俺!?」
「喧嘩やめよーよー、話が進まないしさー」
「そうだな、クロノの為なら力を貸さないわけにはいかない……ジェイク、ルトさんへの報告及び仕事の引継ぎは任せたぞ」
「いや待て、なにを平然と仕事押し付けてるんすか? お前仮にもうちのボスだよな?」
「討魔紅蓮のワープ女が勝手に行動して抜けた穴まで俺がフォローしてるんすよ? これ以上働けって!?」
「じゃあお前がクロノの為にこの子達を手伝うか? 勿論ミクレムさんと一緒に行ってもらうぞ」
「この煽り兎を連れて……大罪や魔物と一緒にあのクソガキの為に妖精女王に謁見…………!?」
(それか兎と共に忙殺確定仕事の荒波とレッツサーフィンコース……!?)
「良いぞ、好きな方を選んでくれて」
「クソとクソの二択を強いるなクソ魁人……!」
「ルトさんへの報告の方がお前達には向いてるだろう、お前の透過ならミクレムさんを確実に守れるし、ルトさんを煽る心配もない……良い練習にもなるだろうしな」
「面倒ごとを全部練習とか修行って言うのやめないっすか?」
「お前が居てくれて助かってるよ、これからも宜しくな」
「あー駄目だ教育を間違えた結果がこのクソッタレだよなんなんっすかこいつ本当にさ」
「あの……あの、私お仕事、お手伝い……頑張りましゅ……!」
「なんでこの流れでやる気になれるんっすかねぇ……あーもうどっちにしてもゴミカスルート間違いなし……」
「テメェ用の仕事山積みにしといてやる……そっち速攻で片付けてこいよ!! オラ行くぞクソ兎!!」
「ぴゃああ、耳を引っ張らないでくださいーーー!」
ミクレムを引きずりながら、ジェイクはルトへの報告の為歩いていってしまった。
「よ、よかったのか……?」
「ジェイクは口は悪いが仕事は出来る男だ、任せて安心だよ」
「最近はミクレムさんにも優しいですしね、この前膝に乗せてました」
ちなみに正確にはパニックになったミクレムの下敷きにされただけである。当然だが直後に怒り狂っていたのだが紫苑の視界には映らなかったのだろう。
「さて……一度ケーランカで共に戦った仲だが、改めて三木桐 魁人だ」
「クロノの為なら協力は惜しまない、尽力することを誓おう」
「『主君』の使い魔、大江 紫苑です」
「未熟者ですが……喜んでお力添え致します」
「切り札のセツナだ! 頼りにしてるからな!」
「ケーランカ以降何度か顔を合わせてるが、鎌鼬のツイだ」
「魁人さん達が一緒なら頼もしいよ、本当に」
「タイナでーす、張り切っていこー」
「エティルちゃんはエティルちゃんだから紹介するまでもないよねぇ、それよりもこの子が大罪の一人! 頼りになるちびっ子レヴィちゃんだ!」
「ちゃん付けやめて、それとあんたの方がチビでしょ」
「あと、慣れ合うつもりはないけど一個だけ気になる事があるよ」
「ん? なんだ?」
レヴィの視線は魁人と紫苑に向けられている。両者の顔を何度か見比べ、小さく口を開く。
「あんた達は付き合ってるの?」
「え……」
「ふぇあっ!? そ、そんなことあるはずがそもそも私と主君にそのようなななん!?」
紫苑の背負う大鉈が光り輝き、パニック状態になった紫苑が右手をパタパタと振り回す。その風圧で壁が嘘みたいに凹み、周囲にヒビが入った。突然の事にセツナは固まり、レヴィは凹んだ壁を見て拍手をした。
(え、壁が水みたいに凹んだぞ……)
「おー、中々のパワー」
「……こほん、紫苑……落ち着きなさい」
退魔の力を纏い、魁人が混乱する紫苑の後ろから両肩を掴む。鬼の力を封じ、目を回す紫苑をそれだけで制してしまった。
「俺達はそんな関係じゃないよ、勿論大切な存在だけどな」
「うん、そうだろうね」
「お互い相当な奥手、こりゃ進展しないわ」
「あ、あははは……思ったよりお茶目だな大罪ってのは……」
「まぁ今ので戦力的にはそこの切り札より使える事は分かったよ」
「セツナ、一々漏らしそうな反応やめなよ、嫉妬がどんどん枯れていく」
「だ、だだ誰が漏らすかぁ!」
「ビビり切り札は放っておいて、さっさと出発しよう」
「じゃあアノールドに居る仲間に連絡取って、良い感じの場所に扉を開いてもらうか……」
「兄ちゃんに全部丸投げでー」
「おい……!」
その後ツイが仲間と連絡を取り合い、鍵を使って扉を開いてくれた。目指すはアノールド大陸・空蝉の森だ。
「みんなエティルちゃんに続け―! ギュンギューン!」
「賑やかだな、クロノはいつもこんな空気の中旅をしているのか」
「暖かいですねぇ……」
ほのぼのとした空気の中、セツナ達は歩を進める。少し歩いた辺りで、レヴィがセツナの顔を凝視し始めた。
「なんだレヴィ、切り札の顔に何かついてるか? ちゃんと顔は洗ってきたぞ?」
「セツナって無表情だよね」
「うっ……これはダメ切り札に絶望してだな……いつの間にか感情が死んだせいなんだ」
「昔は切り札ちゃんって普通だったんだぜー」
「あぁ、俺達と出会った当初は泣いたり笑ったり、それこそ誰と比べても変わらない子だった」
「ほぅ、鎌鼬共はセツナの笑顔を見た事があると」
何やらレヴィの纏うオーラが揺らいだ気がする。それなりの付き合いになってきたセツナには分かる、厄介な絡み方をされる前兆だ。
「じーーーーっ」
「なんだレヴィ、とても嫌な予感がするぞ」
「じんわり嫉妬が利いてきたよ」
「知らない嫉妬の運用をしないでほしい」
「大口叩いたことを忘れたとは言わせないよ、レヴィ達を仲間と呼び、助けるとか応えるとか言ってくれたよね」
「うん? それは本心だ!! 絶対にレヴィ達には恩返しするぞ! 歪な関係だけど、私達はもう友達だからな!」
「ふーん、仲間に笑顔も見せないんだ」
「え、えぇ……?」
「あー嫉妬するなぁ、昔の仲間しか知らないセツナが居るわけだ」
「嫉妬が積み上がってきたから、いっそこの嫉妬でその顔歪めちゃおうかなぁ」
「にじり寄ってくるなぁ!! す、好きで無表情なんじゃないぞ!! 表情筋が死んでるだけで嬉しいとか悲しいとか普通に感じてるからな!? やめろ両手をワキワキしながら近寄るな!!」
「危険を感じながらも、顔を青くしながらも、尚も無表情なのが凄く嫉妬だなぁ……」
「お前絶対暇潰しだろ!! 来るな! こっち来るな!! ツイ! タイナ!! 助けて!!」
逃走するセツナだが、レヴィから逃げ切れるわけもない。背後から組み付かれ、無理やり口の端を引き上げられる。
「いひゃいいひゃい!」
「うわ、なんて不細工な……あははっ」
「笑ってんじゃないよ!!! やめろー! 切り札いじめだーーー!」
「平和だねぇー」
「あぁ、嘘みたいに仲が良いな」
「そこの獣共! 眼が腐ってるぞ!?」
「あーあ、切り札さまは新入りに笑顔も見せてくれないんだね」
強引にセツナにおぶさりながら、レヴィはセツナの頬を軽くつねり始めた。
「セツナが秘めてる力、全部モノにしたら、その辺も変わるのかな?」
「…………分からない、けど、表情は元々あったものだ」
「私が勝手に絶望して、自分に失望して、気が付いたら無くしてたものだ」
「だからいつか、いつかきっと……胸を張れるようになったら、その時は……もう覚えてないけど、いつかの時みたいに笑ってみたい」
「ふぅん、レヴィ達の問題はさ……今のダメ切り札セツナにとって高い壁じゃん」
「それこそ、世界中見渡してもぱぱっと解決出来る奴はきっと居ないよ」
「そりゃな……」
「解決出来たら、胸張っても良いと思うよ」
「…………」
「とびっきりの笑顔でさ、胸を張ると良いよ」
「レヴィ達はそれを横で見ててあげる、セツナの仲間達も見た事ないような最高の笑顔をさ」
「それはきっと、レヴィ達が嫉妬されちゃうだろうから……嫉妬の大罪の欲が疼くよ」
「…………うん、私も、笑いたい」
背中に感じる、欲の温かさ。セツナはレヴィをしっかり背負い直し、前を見据える。その欲に応える為に、精一杯頑張るのだ。
ちなみに十秒後にレヴィごと転び、頭をポカスカ殴られる羽目になるのだがそれはまた別のお話。




