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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十七章 『切り札奮闘記』
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第六百七十六話 『もう少しで』

「って事でクランを連れて行ってもいいか?」



「大丈夫だ! ルトに許可を貰ったぞ!」



「絵札のあたしと切り札ちゃんが頭下げて許可してもらったんだ、感謝しろよな」



「一体僕はどうなってしまうんだ……」



「お友達が増えたー! シュシュー」



 龍の生き血を手に入れるつもりが、生ドラゴン丸ごと一匹を捕獲してしまった。テーウの触手に胴上げされている人間化中のティドクランからは覇気を感じられない。



「あの強引な会話の流れでよく同意してくれたよね」



「同意というか、諦め……まぁどちらでもいい、クロノの為になるなら」



「口では何と言っても結局こいつの中身も恨みだけじゃなかったってこったろ、長い付き合いだしな」



「都合よく解釈してんじゃないよ蜘蛛野郎! お前本当に覚えておけよ!! 絶対いつか土に帰してやるからな!!」



「反抗期の長い奴だなぁー」



「むきーっ!!」



「しかしルトちゃんも良く許可したね、男の子なのに」



「うちのボスはどんなイメージ持たれてんだ? いや正しいんだけどさ」



 ティドクランとラーネアがワチャワチャ言い争っている間に、ルベロが通信機を起動しルトと連絡を取っていたのはアルディも見ていた。だが、会話はすぐに終わっていたはずだ。



「割と短い通信だったけど、どんな説明を?」



龍王種ドラゴニア連れて行っていいか? 保護すれば暴食の森の虫娘達が喜ぶよって言ったんだぞ」



「即答でオッケーっつってたな、鼻息荒くして」



「頭下げてないじゃないか」



 溜息をつくアルディだったが、人間化しているティドクランも見た目はそこそこ美形だ。クロノ程じゃないが、女装でもさせればルトが気に入るかもしれない。



(使い道はありそうだし、ある意味平和的に解決したから良いのかな?)



「まぁうちに龍王種ドラゴニアは居なかったし、困ってる魔物を見捨てるお嬢じゃないしさ? 結果オーライだって」



「ねーねー! 尻尾齧っていーいー?」



「保護しろよ!」



「クロノの為の血を出せトカゲ……」



「保護する気ある!?」



「そんな事より貴方の知り得る限りの未知をっ!!」



「なにこいつぅっ!!?」



「はいはい、後にしようなー」

(こいつ今そんな事って言ったよな……)



「離せレー君貴様どっちの味方だそれでもエルフか己はっ!!!」



「このままじゃレラ君とクラン君が過労死するし、目的も果たしたんだから一回戻ろうか」



 アルディがカオスのエンジンを切り、ルベロが開いたゲートを潜り無事に流魔水渦のアジトへと帰還した。例によってアジトのどの辺かは分からないが、いきなり周囲の様子が変わった為クランは警戒モードに入る。



「なんですかここは……一瞬で……!?」



「ここは流魔水渦のアジトだ! 沢山の種族が一緒に住んでるんだぞ! 暴食の森の奴等も今はここにいるんだ」



「地獄ですか?」



「えっと、地獄のお隣だから地獄かな? 地獄かもしれないな」



「僕を地上に帰してーっ!!」



「そう怯えるなよクラン、お前はあたし達が責任をもって守ってやるから」



「今のあんた僕より弱いだろうがっ! 何に安心しろってんだよ!」



「新しいお友達を皆に紹介しよー!」



「クロノの為の血が先……」



「どっちもいやーーっ!! っていうかさっきから出て来るクロノって誰さ!!」



「あー……あたし達を変えた人間だよ」

「人と魔物の共存する世界が夢なんだと、今無茶して寝たきりなんだ」



「…………はぁ? いあいあ……ふぃーははは……ラーネア姉さんが人間の為に? あははは、あーお腹痛い痛い笑っちゃいますふへへへへあだぁっ!!!」



 楽しそうに笑っていたティドクランの頬がラーネアの拳に撃ち抜かれた。地面を転がるティドクランにキリハが追い打ちの蹴りを一発叩き込む。



「いだぁいっ!!! 何するんですかぁ!?」



「何笑ってんだテメェ!」



「今のところ一瞬も保護されてないんですけどぉっ!!」



「愛だっ!! 何笑ってんだテメェッ!!」



「笑うだろう!! 冗談だったら逆に笑えないんだから笑ってあげた僕を褒めるべきでは!!?」



「面白いじゃねぇかクラン、こっちには戦闘力平均化切り札がいるんだぜ、ボコろうと思えばボコれる事を忘れるんじゃねぇぞ」



「そっちこそ保護する約束秒で忘れてんだよ!!」



「はいはい喧嘩しないの、セツナちゃんが怯えてるでしょう」



 ちなみに怯える切り札はこの場で最も強そうなディッシュの背後に身を隠していた。



「何のつもりだァ?」



「う、うるさい役に立て……!」



「テメェ暴食! 切り札ちゃんに頼られるのはこの絵札であるあたしの役目だろうが!!」



「うざさ二倍なんだよなァ……!!」



「まぁ確かに、僕達の契約者はそのまま紹介しても大抵の魔物にとっては存在を疑われる異常者だからね」



「人と魔物がごった返してるここで言っても違和感あんまりないんだけどな」



「世間一般で言えば、クロノ様は異端ですからね」

「ふふ、今ではわたし達もでしょうけど」



「ラーネアさんが弱化しているのも、クロノに魔核を託したからだしね」



「あれは服を編んだついでに……」



「なんですかこの流れ? もしかしてマジな話なんですか?」

「ラーネア姉さんが? 人間に魔核を? 人間の為に弱化してる身で僕に頼み事を? ここは世界線を跨いだ平行世界とか?」



「…………なぁ、そんなに意外か? そんなにイメージ違うか?」



「捕食者が何してんのって感想しか出ないっすね」



(……普通にショックなんだが)



「ラーネアちゃん優しいのにね、昔から」



「……その優しさ自体、理解されにくい形……仕方がない、捕食欲とセットだし」



「つまりラーネアさん達が変わったのはクロノのおかげであり、そのおかげで君との関係性にも変化が生まれたわけだ」

「巡り巡ってクロノの行いが物事を良い方向へ動かしたってわけで、ちょっと血を分けてくれるとこっちも助かるんだけどなぁ」



(勢いに任せて都合よく話を進めようとしているぞ……)



 戦慄するセツナを他所にアルディが話を切り出す。少し迷った様子のティドクランだったが、諦めたように右手を突き出した。



「この場に来た時点でなんかもう手遅れ感ありますしね……その子が起きたら会わせてくれるって条件付きなら少しくらい血持ってっていいですよ」



「願ってもない申し出だよ、僕達の契約者なら喜んで会う筈だ」



「ラーネア姉さんをここまで狂わせた人間、少し興味があります」



「なぁ、狂うってレベルなのか?」



「狂ってるでしょ、本能捻じ曲がってるんだし」



「そうだけど、そうなんだけど納得いかねぇ……!」



 ラーネアは頭を抱えながら、ティドクランの右腕に糸を突き刺した。糸が赤く染まっていき、血が吸い出されているようだ。



「そこのエルフ、小瓶持ってるだろ、貸しな」



「筒状の糸で吸い出してるのか、良いのか? 医療器具とか使わなくて、ばい菌入らないのか?」



「面白い事を言う切り札だな? 龍の血の中でばい菌が生存出来るわけないだろう」



「基本龍は病気や呪いにもかからないからね、混血なら別だし例外もあるけど」



「これ飲めば切り札ちゃんもムキムキの超パワーかもしれないぜ?」



「…………ちょっと興味があるな」



「あの、僕の血を栄養剤みたいに言って回るのやめてもらえますかね?」



 こうして、小瓶に入った龍の生き血を手に入れたのだった。これで残るアイテム収集は妖精大樹の果実を残すのみだ。



「じゃあテーウ達はクラン君をみんなに紹介してくるね」



「クロノが起きたら、すぐに会いに行く」



「あたしはヒャクとシロガネに話付けてこないとな……」



「行く先に不安しか感じない……」



 ラーネア達に引きずられるように、ティドクランは何処かへ連れていかれてしまう。セツナは龍の生き血をナルーティナーに届けようとするが、その役はレラとピリカが請け負ってくれた。



「セツナちゃんはまだやることがあるだろ? 雑用は任せとけ」



「速攻で届けて偶然を装いティドクランさんとばったり合流して未知を絞り取るのですよ」



「雑念を少しは隠せよ……ヘイトの様子も見に行きたいしな」



 ゲルトでの戦いで保護したダークエルフは、まだ意識を取り戻していなかった。精神的にかなり消耗している以上、無理はさせられない。噂では余裕をもって取ってきた浄水珊瑚を使い、回復を促しているそうだ。レラ達と別れたセツナは、一度クロノの部屋に戻る事にした。



「今回あんまり疲れてないぞ!」



「大きな戦闘は触り程度で抑えられたしね、数発無駄なダメージ喰らってた気もするけど」



「おかげで牙が疼いて仕方がないなァ!」



「それについては同感だ、あんまり戦えなかったぜ」

「まぁ? 無駄な血が流れなかったから良いのか?」



「そう! それが言いたかったんだ私は!」



「反吐が出るねェ」



「なんでだっ!!」



「まぁボクはどうでもいいけどなァ、この牙を振るう展開はこの後すぐ控えてるからなァ」

「そうだろ、レヴィ」



 ディッシュが足を止め、振り返る。そこにはレヴィだけではなく、プラチナやドゥムディも居た。



「あ、レヴィただいま……なんだお前等、ボロボロだぞ」



「あいつさぁ……マジめんどくさいんだけど……」



「ツェンの器の人間、少し厄介だ」



「嫉妬がグルグルしすぎてキレそうだよ……!」



「大方またツェンに逃げられたんだろうなァ、そろそろ友情期待して突っ込むだけのクソ馬鹿プレイやめたらどうだァ?」



「があああああああああああああっ!! 嫉妬狂いでおかしくなりそうだよ!」

「マルスまだ起きないの!? ねぇセツナどうなのさ!」



「うわあああやめろ切り札は何も悪い事をしていない!」



 セツナに飛び掛かるレヴィだが、どうも大罪側の進捗は思わしくないらしい。



「本当にお前等はボクが居ないと単細胞しか残らねェなァ」



「返す言葉もない」



「言葉を返すのも面倒くさい」



「嫉妬」



「ケツ追っかけてるだけじゃ何も進展しそうにねェし、絡め手でも使ってみるかァ?」

「早い者勝ちとか言ったけどよ、確かツェンの器に因縁のある奴がどうのこうの言ってたよなァ」

「少し考えてみるか……レヴィ、お前は最後のアイテム集めに行ってこい、気分転換にはなるだろォ」



「むぅ……まぁマルス起こす為だし、別にいいけど」



「いひゃい……いひゃいぞれヴぃ……」



 セツナに跨り、両の頬を引っ張りまくるレヴィ。彼女と共に最後のアイテムを手に入れれば、クロノはきっと目覚めてくれる。沢山頑張ったから、沢山褒めて貰わないと割に合わない。




(……頑張ろう、もう少しだ……!)




 目覚めの時と共に、望まぬ衝撃も迫っている事を、まだ切り札は知りもしない。



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