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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十七章 『切り札奮闘記』
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第六百七十五話 『続きを結んで』

 人間化状態のティドクランとラーネアによる殴り合いが始まる中、能力を封じられたディッシュ達は地面をのたうち回る切り札を回収し少し距離を取る。ピリカの回復魔法により、無事にたんこぶ切り札は避けられた。



「もう少しで泣くところだったぞ……」



「よしよし痛かったですねー」



「で? ボク達の戦闘を邪魔した理由はあるんだろうなァ? 場合によっては捻り潰すからなァ」



「か、勝手に突っ込んで暴れまわったくせに偉そうに……」



「あァ?」



「睨むな私はすぐ折れるぞ!」



「君の勇気は時限性だね……光るものはあるのに勿体ない」



「うっさい人がそんな簡単に切り札出来ると思うな!」



 剣をぶんぶん振り回しながら講義するセツナだが、ラーネア達の戦闘の余波で飛んできた石ころが後頭部に直撃しそのまま顔から地面に突っ伏した。



「なんだこの切り札は、不幸の星の下にでも生まれてんのかァ?」



「こっちがききたい……」



「アホくせェなァ……回り道なんざするから余計なイベントが挟み込まれるんだよなァ」

「他人の都合なんて無視してぶちのめせば簡単に目当ての血は手に入るだろうによォ」



「……そりゃ、私の能力とお前等の強さを上手い事使えば……現実的にそれが一番簡単だろうけどさ……私は簡単な方法じゃなくて、一番良い方法が良いと思ったんだ」

「私の今回の頑張りは、巡り巡ってクロノに行きつく……近道や簡単な方法じゃ、楽な道じゃ、あいつは喜ばないし正解じゃない……私は切り札だから、胸を張れる結末を作りたい」

「助けるとか、誰かの為とか、空っぽで分からなかった私はもう嫌だから、この胸の衝動は、捨てたくないんだ」



「その為にやったのが虐められてた龍と虐めてた蜘蛛の殴り合いかァ? わけわかんねェなァ」



「あ、あれは……蜘蛛さんが必要な事だって言ってたから……」



「っていうか平気なのか? タイマンになってるけど」



「レー君はやっぱりレー君だよね、その目は節穴なのかな?」



 既に戦闘観戦の未知収集モードに入っているピリカがレラの脇腹を突っついた。一瞬怯んだ後、レラはすぐにピリカの視線を追う。視線の先では、ラーネアがティドクランを圧倒していた。



「魔物の固有能力や魔力の類が封じられ、純粋な肉弾戦になってる……人間化も解けるんじゃなく、その状態で固定、解除が封じられているみたい」



「そうなのか? 私にはさっぱりだ」



「君が封じたんだよね?」



 アルディのツッコミからセツナは音速で目を逸らす、セツナの能力は彼女自身殆ど把握していない。



「ただの腕力に限れば、あのドラゴンさんの方が強い……けど技術は蜘蛛さんが上、完全に見切っていなしてる」

「暴食の森のイメージから粗暴で単純な捕食行為ばかり想像出来てたけど日々命の駆け引きが行われている極限状態で培われた戦闘経験の差がここで明確な差として現れているわけですよ短期間で凄まじい成長を遂げたクロノ様の例もありますしやはり暴食の森の環境は強さに大きな影響を与えるのはもはや明らかで言ってみればこの目の前の戦いは素人と達人の組手のようなものでして一つの動作一つの駆け引きに込められた情報量と未知栄養素の素晴らしき事既に眼球の移動速度に限界が来ている次第なのですがエルフの本能が未知を求めて今ここで更なる成長を限界突破を必要と」



「お前元気だなぁ……」



「けど本当に凄いなあの蜘蛛の姉さん、絵札のあたしとタメ張れるぞあの強さ」



 実際ラーネアの受け流しの技術は相当なものだ、力の差は相当なものだろうに両手と蜘蛛脚を器用に使い力の方向を逸らしている。ティドクランは一発も有効打を入れられず、隙を生み蹴りや掌底打ちを喰らいラーネアの間合いで戦わされていた。



「クソ……クソ、クソクソクソクソッ!!」

(なんで……! なんで当たらない……! 弱ってるのに、今の姉さんは僕より弱いのに……!)



「どうしたクラン、顔色が悪いぞ」



「クソ!! 魔法さえ使えたら……いや、龍の姿に戻れたら一瞬なのに、今の姉さんなら踏み潰せるのに!!」



「なんだ? 初めて会った時みたいに逃げ出すか? ヤバい場所に首突っ込んじまったって後悔して、半泣きで逃げ出すか?」

「あたしは強さも、糸も捨ててんだぞ、お前は剥がされた瞬間すぐ臆病風に吹かれるのか?」



「ッ!!」



 己の強さを過信し、暴食の森へ降り立った。すぐに敵わないと悟り、己が喰われる側だと理解した。恐怖し逃げても、逃げきれず叩きのめされ、弄ばれた。トラウマレベルの恐怖も、受けた屈辱に対する怒りも、煮えたぎるマグマのような熱を持つ本物だ。自分は生かされ、舌の上で転がされるような扱いを受け続けた。逃げる事を諦めたんじゃない、いつか、いつか強くなりやり返す為に、絶対に復讐する為に。



「その為にっ!! 毎回毎回負けると分かっていても、挑んで! ぶちのめされる度に、毎晩毎晩悪いところを直して、毎日毎日一人で修行して、鱗を剥がされながらでも、涙を堪えて強くなったんだっ!!」

「滑稽だったろう、虫相手に負ける龍を見下すのは! 上から見下ろすのは気持ちよかったろう!」

「無様だろう! 弱った姉さん相手に勝ち誇る僕は……!! けど、だけどっ!! 僕は……!」



「美味かったから、ここで喰い尽くすのは惜しい、そう思ったのも本当だ」

「だけどあたしは、負けても負けても諦めずに頑張るお前が可愛いって思って、殺すのは惜しいって思ったのも本当なんだよ」



 ティドクランの拳をいなし、ラーネアは蜘蛛脚で胸元を蹴り飛ばす。尻もちを付いたティドクランは、困惑していた。今まで伝わっていなかった、伝わる筈も無かった想い。言葉にしなければ、種族間の違いは超えられない。



「昔からそうだ、あたしは好いた者には食欲を抱く、その度傷つけ、失った」

「そりゃそうだ、相手からすりゃふざけんなって話だろう、痛めつけ、食い千切って、愛してごめんじゃねぇだろうにな」

「何を被害者面してんのかねあたしは、散々傷つけこれも愛だって、やられた方からすりゃ堪ったもんじゃねぇ」

「種を跨げば理解されるわけもねぇ習性、本能、見て見ぬフリで許されるわけもねぇ」

「自分自身受け入れて納得しても、何も解決なんかしねぇのにな」

「けどなクラン、何度負けてもあたし達に勝とうとするお前が大切なのは、本当なんだよ」

「けどお前が美味いのも本当なんだ、これがあたしだ、どっちも本心なんだ」




「ふざ、ふざけてるのか!!? それを話されて僕にどうしろって? 本心だろうがなんだろうがいい迷惑だよ!!」

「やめろよそういうの! 踏ん反り返って、負けた僕を笑ってろよ! 嫌な奴で居てくれよ!」

「それが出来ないならいっそ喰い殺せよ! こんなどっちつかずで生殺しで、生き地獄で……」




「いいや、あたしはお前を殺さない、殺させない」

「この先を地獄とも呼ばせない、在り方を変えにここに来たんだ」

「その為に、ケジメを付けに来たんだ」



 そう言うと、ラーネアは構えを解き頭を下げた。



「お前の心と身体を傷つけた、ごめんなさい」

「それと同時に、まだお前にこの背は超えさせない、勝たせない」

「お前は真正面から、あたしへの復讐を果たしてみせろ」






「ふっざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」






 ティドクランの絶叫が、周囲を震わせた。



「何を勝手な事ばかりっ! 結局そっちの都合を押し付けてるだけじゃ」



「そうだ」



「そうだっ!?」



「あたしはお前と共に在る未来は諦めない、だから許す許さない関係なくこの関係は続く」

「お前があたしを嫌いなら、実力で上回って殺せば良い」



「ならっ!」



「けど、今のあたしに勝ってもお前は絶対に後悔する」

「一瞬スッキリするだろうが、全力のあたしに勝ったわけじゃない、必ずモヤモヤが残る」

「諦めろクラン、あたしとの縁は例えあたしが弱くなっても強靭な糸で繋がってんだよ……」



「悪魔かな?」



「まぁ落ち着け、一方的なやり方は悪いんだってあたしも学習したんだ」

「クラン、あたしの力が戻るまで、そしてお前があたしを超えるまで、互いに休戦といこうぜ」



「あははは面白い冗談ですね、いつの間に脳みそもインセクトサイズになったんですか?」



 笑顔で応えるティドクランだが、青筋が立っているし声も震えていた。



「さっきも言ったが、暴食の森はもうないんだ」

「だからあたしは今流魔水渦ってところに世話になってる、あたしらの能力を封じたあの子はそこの切り札さ」

「あの切り札に口を利いてもらって、お前を保護してもらおうと思ってんだ」



「拉致監禁の間違いでは?」



「ヒャクやシロガネにもお前を虐めないように言ってやる、なんならあたしもお前を守る」

「今すぐに信じろとは言わない、けどあたしは本気でお前との関係を変えたいんだよ」



「ぐぬぬ……」



「たまに鱗齧らせてくれるだけでいいんだ、可愛い弟分として可愛がらせてくれよ」



「最低な事言ってんだよ結局さぁっ!!」



「テーウからもお願いー! お友達になろー!」



「クロノの為に、さっさと頷け」



「ぎゃああああああああああああああああ虫が群がってきたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」



 我慢できず突撃したテーウとキリハにより、ティドクランは押し倒されてしまう。会話の内容は悲惨なモノで、どう考えても平和的解決とは程遠い。だが、ラーネアは常に本気の目で語っていたし、ティドクランはそれを真っ直ぐ受け止めていた。何も変わっていないように見えるが、会話の途中から両者の間にあった戦闘の気配は消え、ティドクランの邪悪な圧も消えていた。



「結局、何が解決したんだこれは」



「これから、なんじゃないかな?」



「ルトに報告だ、流魔水渦に仲間が増えるぞ」



「イカレてるなァ、この先にどんなハッピーエンドが待ってるってんだァ?」

「無駄に頑張って、面倒くさい事山積みにして、最悪が待ってるって思わねェのかァ?」



「いや本当の事言えば何が待ってるかなんて私にはさっぱりわかんないな、自信もない」

「けど、良い結末を信じたい、求めたい……そもそもそれを面倒くさいって言えるなら、大罪おまえたちとこんな関係になってないぞ」



「少なくても、良い結末は個人じゃ作れない」

「大勢がその為に動くから、ハッピーエンドは作れるって僕は思うかな」



「馬鹿しか居ねェのかよ、ここには」



 ここで終わらせない、今は続くだけで良い。可能性は、消させない。



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