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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十七章 『切り札奮闘記』
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Episode:ルイン  ⑦ 『伝説か、呪いか』

 記憶を失い、結構な時間彷徨った。出会った少女は全てを塵にする危ない能力を振り回してきたし、案外この世界の平均戦闘力は高いのではないだろうか。そんなズレた方向に思考が逃げ出そうとするくらい、割り込んできた女性は常軌を逸していた。




「…………光を殴ってる…………」




 空中を蹴って移動しているようにも見えるが、霊体のように見えるのでそこはギリギリスルーできる。だが無数に放たれ、しかも上下左右から追尾してくる光線を力技で砕いているのは少々物理の法則を歪ませてはいないだろうか。



「なんなんだあの人……人……?」

(連射の合間に挟まれるように、回避不可能な距離から放たれる光線が混じってる……気づけば喰らってるレベルの必中攻撃……それを……)



「不愉快極まるな……! 我が必中を身体能力だけで捌くか……!」

(必中+光だぞ……、特別な能力も無しで……狂ってるのかこの女……!)



『怒りに身を任せてーって感じの敵さんに不覚を取った事はこちとらないのです』

『それはいつだって視野を狭めるから、身に染みてんのよね』



「説教のつもりか……? 我に対して……?」



『そんなつもりはないですよ? 欲のままに生きる悪魔くんに出会ったばかりのお姉さんの言葉なんて心に届きゃしないでしょうに』

『けどこっちも想いのまま動いてんだ、やりたいからやってんだ、それを否定するのは悪魔極まる生き方してちゃどの口が言うのって話になりやすぜ』

『それにお兄ちゃんさ、気に入らないだ復讐だってのは本気でやってるみたいだけど……自分の為だけじゃないねぇ? それって一体誰の為の衝動だい?』



 その問いかけで、傲慢の悪魔の表情が変わった。纏う魔力が跳ね上がり、光線の連射速度もそれに比例し増した。もはや点ではなく面で迫る光の猛撃だが、女性は光を砕きそれを上回る速度で傲慢に肉薄する。



『見せてあげよう、嘗て暴れ狂う地獄の化身を黙らせた白夜の勇者最強の武器、そしてそれに込められし究極の力をね』

『これが地獄を、魔王を、ついでにクソチート勇者を定期的にぶっ飛ばした、愛のビンタだオラァッ!』



 光線を粉砕し、女性のビンタは傲慢の右頬を貫いた。若干空間すら歪ませた一撃は大罪の悪魔を地上へと叩きつける。



「クレーターが出来たよ……」



「衝撃で雲が散った……」



 絶句するルイン達だが、その背後で鈴がゲートから顔を出した。



「ん? お前何処に行ってた?」



「…………村に……これだけ大きな音出して戦ってたら流石に場所だって特定される」

「…………村を襲った奴は、こっちで止める……近づくなって、警告をしてきた」



「流石鈴だね、手際が良いよ」



「まぁ、自分から近づこうなんて馬鹿は居ないだろうけどな……」



「どうだろ、ルインの家族なら誰かの為とか言って突っ込んできそう」



「だからあの村は……」



「ルインの村で間違いないってよ、話に出てきたローってのがルインの事みたい」

「シャルもよく、っていうか全然分かんないけど……あの鬼つよ幽霊がそう言ってたよ」



「…………じゃあ、欲しかった何かに手は届いたんだ」



「……あの幽霊が、俺を知ってる……?」



 ルインの視線の先では、丁度女性の霊が地上に着地するところだった。対する傲慢はというと、ビンタ一発で明確なダメージを負っていた。



(なんだ今の一撃……視界が揺れる、足が震える……ダメージが再生しない……!?)



『地獄に『地獄が見えた』とまで言わせた一撃だ、効いたでしょう?』

『八戒神器が無けりゃ、このビンタこそ神器と呼ばれてたと自負してる! 数多の曇りを晴らしてきた白夜の相棒さ!』



 胸を張る女性だが、傲慢は地面を殴りつけ強引に立ち上がる。その表情は、曇っていた。



「救う側は盲目だ、自らの足元が見えていない……だから崩れる寸前まで気づかない、他者を救う高揚に酔い、現実を正しく認識しない……!」

「どれだけ正しく生きようと、どれだけ誰かを救おうと、どれだけ想いが清らかでも、報われず裏切られ堕ちる奴は居るんだ、だったら好きに生きて何が悪い……己を第一に考え、力のままに他者を踏みつけなり上がって何が悪い……その資格があるからこその強さだ、力で示して何が悪い……!」

「善行を続け、認められるのを待っていても何も変わらない……変わる事を待っていては何も始まらない……だからこう生きると決めた……!」

「英雄気取りの善人は殺す……! 綺麗な夢物語ばかり並び立てる妄信者も殺す! 我等を貶めたゴミも、その末裔も、悠々と続く文明も国も世界も何もかも、我が気に障る全てを殺す!! 我はその為に、再び始まった、始めるんだっ!!」




『後二十七秒……悪魔くんや、縁はそう簡単に切れやしないよ』

『というか、結び付いてるんだよね……一方通行じゃない、君も離していない』

『誰が為の傲慢なのやら……不器用だね、君は』




「その上から目線が気に食わな……っ!」




 再び光線を放とうとした傲慢が何かに気づいた、遠くから何かが近づいてくる。



『そこの美人ちゃん! さっきの移動系能力準備!』



「…………え?」



「ツェン!」



 数体の魔物を引き連れた悪魔達が、空から降りてきた。



「いい加減落ち着いて話す場を設けたいんだが? 追いかける方の身にもなれ」



「相変わらずの強欲だなドゥムディ……どれだけ欲しても手に入らない物があると学んだだろうに」

「言ったはずだ、我が復讐は止められん……お前達にもな」



「ほら面倒くさいの極みだ、マルスも居ないしどうにもならないでしょこの自意識暴走頭さぁ」



「力尽くでも連れて行くよ……仲間を諦めるなんて嫉妬も許さないよ」



 突然現れた数体の悪魔と一触即発の空気を作り出す傲慢の悪魔。身動き一つ取れない緊迫した空気の中、女性の霊は手を振り上げる。




『はい失礼、視界貰います』




 振り下ろされたビンタが、地を割った。舞い上がる土と岩が周囲一帯を包み込む。思わず顔を覆ったルインだったが、不意に腕を引っ張られた。



「うわあ!?」



『後は若い悪魔にお任せして、あたし達はすたこらさっさですよ』

『美人ちゃん! 行先は任せた! 出来るだけ遠くに!』



「…………なんだか分からないけど、準備は出来た!」



「逃げて良いの? なんかゴタゴタしてるよ」



『あの子達の物語だからね、答えはあの子達にしか導き出せない』

『君達とは道が違うのさ、さぁ行こう!』



 鈴の能力を使い、ルイン達はこの場を離脱する。名も知らぬ悪魔達がどんな物語を紡ぐのか、交わらぬ以上知る術は無かった。何処かの森の中に移動したルイン達は、ようやく一息つく事が出来た。



「大丈夫かな、ルインの村」



「…………現れた悪魔達の目的はあの傲慢悪魔だ、狙いが違う以上大丈夫だとは思う」

「…………それに、悪魔なのに悪い感じもしなかった、後ろの方に固まってた魔物達も」

(…………恐らくあの魔物達は流魔水渦の……それに見た目は違ったけど小さい悪魔からは強欲の森で感じた大罪と似た気配もしてた……そろそろ情報共有の為に一度戻るべきだろうか……)



『便利な能力だねぇ! まだアノールドみたいだけどどの辺りかなここは!』



「滅茶苦茶普通にしてますけど、何者なんですか貴女……」



『おっと、自己紹介すらまだだったね……あたしは……ん?』



 女性の身体が大きくぶれた。輪郭が揺らぎ、今にも消えてしまいそうだ。



『ありゃりゃ、やっぱり外からの影響かぁ……あたしの見立てじゃ……』



 女性はルインを見つめ、薄く笑い小さく頷いた。そしてシャルロッテの方に向き直り、その身体をまさぐり始める。一瞬硬直したシャルロッテだったが、次の瞬間には絶壊の魔力で殴り掛かっていた。



『おっと危ない』



「危ないのはあんただよ変態」



「…………同感、怪しさも手伝って敵対一歩手前」



「よせ二人とも……絶対勝てない……!」



『お嬢ちゃんの身体、人のものじゃないでしょ……物凄い精巧な人形ボディ』



「……だったら?」



「…………シャルを曇らせるつもりなら本気で敵と認識するよ」



『このままだと後三十二秒でお姉さんは消えてしまうのです、お墓戻りになっちゃう』

『って事で、入ーれて♪』



「きゃあ!?」



 女性の身体が霧のように溶け、シャルロッテの身体に吸い込まれていった。



「…………!? シャル!」



「……平気、でも……なにかが内側に入ってきた……」



『とんでもない身体ですね……機人種マシナリーも腰抜かすくらいだよ……ピットに見せてやりたいくらいだ』

『さっきまでのあたしは外部からの能力で身体を維持できてたんだけど、それが切れちゃった……だから憑依する形でここに居させてね』



「シャルは許可してないんだけど……」



『お助け料って事で』



「最悪だよこの悪霊、本当に元勇者なの?」



「…………早急に除霊が必要」



「ルインのせいでシャル呪われちゃったよ」



「なんだか理解が追い付かないけど……なんかごめん」



『凄い腫物扱いされてるよー、冷たい世の中になったもんだぜ……! よよよ……』



「身体の内側からすすり泣く声がするんだけど、霊障が始まってる」



 ちなみに、声がするたびシャルロッテの全身が淡く光っている。辺りが暗くなってきているのもあり、正直目立ってる。



「もうおかしな事しか起きてないんだが、本当にあんたなんなんだよ……」



『落ち着いたことだし自己紹介しとこうかな? あたしはレイネシア・シェバルツ……白夜と呼ばれた元勇者』

『とはいえ普通の勇者よりはバグった人生歩んできたつもりだよ、地獄と結ばれた人類なんてあたしくらいだろうさ』

『正直こうして喋ってる事自体とんでもない事なんだけどさ、あたしはこれを意味のある事だって受け入れてる……こうなった以上あたしにはまだやるべきことがあるんだって思ってるわけ』

『あたしの知ってるロー君とは若干違うけど、それでも君の根っこの部分は間違いなくロー君だ』

『あたしの知る存在が奇跡ぶら下げてこの現象を引き起こした、鍵は君が握っていると睨んでる』

『ってことで、君達にお節介焼かせてもらうからよろしくね♪』



「…………シャル、凄く光ってる」



「完全に呪われた気分だよ、呪いの人形になっちゃったよ……」



『全く歓迎されてねぇ!』

『でもまぁ……君達とあたしの物語はまだ終わってないって事は間違いないのさ』

『交差した以上、先に何が待っているのか……確かめようじゃないか』



「物語は……終わってない……」

(何もかも失った、無くしたと思ってた……けど、何かがこの先にあるっていうなら……俺は……)



 きっと、この足を止めるにはまだ早すぎるのだろう。信じられるモノが何も残っていないのなら、衝動のまま突き進もう。導かれるまま、欲するままに……。



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