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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十六章 『欲と罪、暴走戦線ゲルト・ルフ』
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第六百四十一話 『後片付け、バトンタッチ』

 おはようございます、みんなの切り札セツナです。私は今良い汗を流している、流魔水渦のアジト内にあるなんだか良く分からない空間で基礎トレーニングに精を出している。これも胸を張って切り札と呼ばれる為の日々の努力なんだ、決してクロノの精霊達に虐められているわけではない、自主訓練なんだ。軽快なステップで足場を渡り、転ばないで移動出来た距離の記録を更新していく。剣だって振ってみちゃう、当然のように私の手の中からすっぽ抜ける剣をギリギリで回避し、己のドジを努力で相殺してみせる。ゲルト・ルフでの戦いから、五日が経過した。



「ふぅ……うん、昨日の私を超えたぞ」



 あの暴走やばすぎ悪魔は私の剣を受け、再生しなくなった。そして跡形もなく暴食が喰い尽くした。敵のボスは私より震えてたっけ、気持ちは分かるけどな。敵の気配が消えたからコロン達が流魔水渦のみんなを連れてきて、悪魔達は全員捕まってた。ククルアも連れていかれちゃったけど……ルトは女の子に酷い事は絶対しない筈だ。ククルア以外は分からないけど、ルトは共存を目指してる、捕らえはしたけど酷い事はしない、そう信じてる。まぁ情報云々は欲しいからなにかはすると思うけど私には良く分からない。



 国が滅茶苦茶にされたわけで、その元凶をこっちが連れていくのはどうなのかってゲルトの王様は口を挟んでた。森の王様が間に入ってたけど、どうやらあれは体裁がどうのこうのな演技だったみたい。国の人達からすれば何が何だか分からない間に悪魔に好きにされて、それを悪魔含む魔物軍団がなんとかして、国がズタボロになってるけどもう大丈夫! なんて言われて納得なんて出来やしない。国の専属勇者や王様もされるがままじゃ面子が保てない、だからこそ異を唱え、魔物ではなく他国の王が対応する為声を上げた。森の……メリュシャンの王様が私達流魔水渦と手を組み、人と魔物を率いて援軍に来たと、国間の連絡が途絶えたとかそれっぽい理由をこじつけ、なんやかんやと表向きの処理を済ませたんだって。



 ゲルトは例の大会の後から魔物関係の連絡網に反応が無かったとか、困った時はお互い様だとか(凄く胡散臭い顔してた)、メリュシャンは秘密裡に鳥人種ハーピーやドルイドと繋がりがあり、それは他国も薄っすら感づいていた、だから構成員の殆どが魔物の流魔水渦と組んでいてもおかしくはないとか、今は世界中で悪魔が、大罪組が活発で警戒してた、案の定危なかったねあははは、とか凄い勢いで会話が進んでいたのを私は呆然と眺めてたぞ。けど向こうの専属勇者がクロノの事を信用できるって王様に説明してたのは、聞いてる私も少し嬉しかったな。



「そろそろ切り上げようかな、集中力が切れそうだ」

「集中力が切れた時、私の装備は全て私に牙を剥く」



 汗をタオルで拭いながら、私は黒かったり白かったりする部屋から飛び出していく。扉を潜ると通路は無くて、私は真っ逆さまに地下水路に落っこちる。毎度ここはどうなっているんだドジとか関係なく理不尽に私にとってハード過ぎる。しかもこういう時に限って周りに誰も居ないじゃないか。



「望む場所にそのまま直中で繋がるって……私が水路に落ちる事を望んだってのか……?」

「汗を拭いてたけどさ……まさかこのアジトは水浴び気分で地下水路に切り札を落っことすのか……?」

「あぁもう……ビシャビシャだ……」



 そうだ、悪魔は捕まえたって言ったけど……大罪達はそれっぽい感じでアジトに招いている。一般市民には誤解を招きそうだから捕まえるフリはしたけど、大罪は今のところ無害って向こうの偉い人達には伝わってる。無害、とは違うんだろうけど……レヴィ達とは現状協力体制だ。ゲルトの戦いでも協力してくれたし、凄く助けてくれたって私も頑張って説明したんだ、レヴィは後ろで溜息ついてたけど。



 こっちに着いたら着いたで暴食の森から来てた虫さん達が暴食に喧嘩売ってたけど、なんか一回戦った後は仲良くしてたな、足とか数本食われてる子居たんだけどね、種族間の価値観の違い怖いなって。



『暴食の森ねェ……寝ている間にどう呼ばれ、そこで何が生きていたかボクにとってはどうでもいい』

『けれどボクの歪めた地で生まれ育ったならボクの子に等しい、なら理解している筈だよなァ、弱肉強食を』

『それを呑み込み、それでもボクに牙を剥くならそれはそれで愛おしい、強者を喰いたい欲を持つ程ボクの本質に近い』

『挑んでくるなら受けてたとう、君達の本能はボクが張った根だからなァ』



 暴食の森から来た魔物達には、森や仲間を喰われた事を怒ってる者は殆ど居なかった。怒りを抱いてる子も、それ以上にその身を突き動かしていたのは暴食の欲だ。結局仲間や故郷を傷つけたなんて戦う大義名分、彼等の本能は喰らう事に染まり切ってる。理性や知性ある会話は、殆ど通じない。彼らは食欲と強者への挑戦で構成された生き物、セツナには理解できない通じ方があるらしい。当然生みの親足る暴食には理解出来て、通じる事が出来たのだろう、分かり合えたなら何よりだけど当然のように腕を食い千切ったりしてて滅茶苦茶怖かった。尚、虫系の魔物さん達曰く数日で元に戻る程度の傷しか負わされなかったとの事だ。



『ぐああああ暴食羨ましいいいいい、あたいも食べられたいいいいいいいっ!』

『っていうかここ最近お世話してあげたあたいより好感度稼ぐのはずるいだろこっちだって欲塗れだってんだぞおらあああああああああああっ!』



『お姉ちゃんはまだお仕事があるでしょ、はい連行です』



『マイラお前どっちの味方だ!! 畜生そこの大喰い悪魔テメェハーレムかよ覚えておけよおおおお!!』



『…………やべぇところに来ちまった気がするなァ』



 大罪の悪魔ですら、ルトを見て青ざめてたんだ。やっぱりルトは凄いんだ、私以外絶句してたのは気のせいだって思いたい。そういえば帰って早々バロンがルトに花を送ってたけど、マイラにグチャグチャにされてたな。全裸だったから当然だと、私も思うぞ。



 私達はみんな回復魔法で手当てをしてもらって、ご飯を食べてぐっすり休んだんだ。五日経った今日も、ルトは忙しそうに各地の情報を整理している。暴食の森、メリュシャンにケーランカ、続いてゲルトの復興にも流魔水渦は人員を割いている。削れた部分はルトが補っているんだ、そう思うとまだ何も解決していないのが私にだって分かる。まだ止まるわけにはいかない、やるべき事が残ってる。私はタオルを頭から被り、ずぶ濡れの髪をわしゃわしゃと拭う。視界が覆われた私は悪魔の期待通り、階段に躓き顔面を強打した。




「だから……私が何をしたと……」




 涙目で顔を上げると、階段の上に扉が見えた。あの扉は、きっと私の行きたい場所に続いている。出る筈だった言葉を呑み込み、私は階段を駆け上がる。扉を開くと、そこには昨日と変わらない光景が待っていた。何をしたって? 何もしてないじゃないか。もっと私が動けていたら、もっと切り札だったら、こんな事にならなかっただろ。これはずぶ濡れだからじゃない、水が滴っているわけじゃない。無表情な私でも、情けなさから溢れる涙は止めれない。





 あれから五日、――――クロノはまだ目覚めない。





 精霊達が言うには、限界を超えたせいで疲労も限界突破したらしい。命に別状はないと、精霊達も回復担当のナルーティナーも言っていた。



『優秀な僕の能力でも、食べたチョコは戻せない…………あぁごめんね分かりにくかったねお詫びのチョコだよはいどうぞ』

『クロノ君はねぇ、今体力の最大値が削れている状態なんだよねこれね? 僕の、いや基本的な回復魔法って体力を回復するわけでね、最大値まできっちり満タンに出来るのね』

『けどクロノ君の今の体力最大値はいつもが100なら3くらいまで減っちゃってるのね、3までなら回復するけどそれ以上は最大値が戻るまで優秀な僕でも無理無理チョコプリンなわけさ』

『クロノ君の回復力は常軌を逸してる、休めば最大値も元に戻ってく筈だけど……それまでは目は覚まさないと思うな』



 精霊達は無茶ばかりする大馬鹿め、起きたら大説教だとプンプンしていた。だけど、毎日心配そうに看病する姿は胸が痛くなる。自分は切り札だ、貢献もした、気を落とすなとも言われた。だけど、クロノがこんなになるまで身を削ったのに、自分は最後殆ど立っていただけだ。隣に並び立てたか? ほんの一瞬でも? 不甲斐なくて、無力感で一杯で、この忙しい中最大級の戦力を寝たきりにさせてしまった。寝て起きると、この役立たずはこの無力感を一時忘れてしまうのだ。ふざけた事に、『クロノ―? 今日の朝ご飯なんだー?』とか舐め腐った事を言いながらこの部屋を訪ねるのだ。そしてクロノの顔を覗き込んで、ゆさゆさと身体を揺さぶった辺りで全てを思い出す。その度悔しくて泣きそうに、いや泣いてしまうのだ。何度思い出しても、無力感が自分を満たすんだ。とてもじゃないが、勝利の余韻なんかに浸れない。ここでクロノが目覚めるのを待っているなんて、絶対に出来ない。身体を動かすだけじゃダメだ、強くなる為の努力なんて当たり前の過ごし方じゃ、この想いは納得しない。空っぽで、何も感じないなんて言い訳はもうしない。昨日を忘れてしまう自分はもういない、引き継いだ想いがこの身を突き動かすんだ。昨日を未来に繋いで行ける、それを可能にしてくれたクロノを何としてでも救うのだ。






「クロノは、私が目覚めさせる……!」






「嫉妬しちゃうね、当てはあるの?」






 部屋に入ってきたレヴィが、意地悪な事を言ってきた。当然だけどあるわけない。



「ないっ! けど、私がやるんだ、絶対絶対、ここは譲らない!!」



「いやいや、自信満々にないって情けないなぁ、相変わらずのダメ切り札」



「泣くぞ?」



「まぁ? 器くんがやばいと中のマルスがどうなるかわからないし? まだあのバカにレヴィ達言いたいこと沢山あるし? 手伝ってあげてもいいけど」



「レヴィィイイイッ!!」



「うわぁ引っ付くなっ!?」



「なァにやってんだガキ共がァ」



「ぴゃあ!? 虫喰い悪魔ァ!!」



「はァ?」



「おっと、お揃いだな、丁度いい」



「めーんーどーくーさーいーってばああああああああああ! 離せよドゥムディー!」



 大罪がわらわらと集まってきた、なんだここは地獄か。……現世と地獄の境目だったわ。



「つまり……クロノを元気にするのを手伝ってくれるのか!?」



「レヴィも言った通り、そいつの中のマルスに言いたいことが山ほどあるからなァ」



「おれは仲間の為なら協力を惜しまん、俺の欲を満たすのはこいつらだけだからな」



「寝てるからそっちで勝手にやっててくんない?」



「ぶっちゃけほぼ軟禁状態で暇なんだよね、自由に動いてるお前等に嫉妬しちゃうよ」

「手が足りてないなら、つよつよレヴィ達をぶらぶらさせてるのも違うでしょ」



 なんて良い奴等なんだ、物凄い頼りになるぞ。



「それに心身共に弱ってるなら、それこそボク達の出番なんだよなァ」

「悪魔に堕ちた後も色々使い回されて、ボク達も消耗してた頃があってなァ」

「欲を満たす以外に、色んなアイテムに頼ったもんだぜェ」



「精神力、体力、どちらも癒すアイテムには心当たりしかないからな」

「マルス達に出会う前、おれも貴重なアイテム収集してたし役に立てそうだ」



「Zzz……」



「流石歴戦の悪魔だな! 正直私だけじゃ手がかりもなくて詰んでいたんだ!」

「教えてくれ! クロノを目覚めさせるにはどんなアイテムを手に入れれば良いんだ!? 何処にだって私は向かうぞ!」



「そりゃ当然、飛龍の生き血だろォ?」



「深海洞窟の浄水珊瑚だな」



「Zzz…………え、はぁ? そこは導き鈴蘭一択じゃないの?」



「いや、妖精大樹の果実でしょ、呆れた…………」




「「「「はぁ?」」」」




(全員バラバラの上、何一つ手が届きそうにないんだがっ!?)




「話は聞かせてもらったぜ」




 青ざめるセツナだが、その背後から声が上がる。寝ているクロノを囲むように、精霊達が姿を現した。



「僕達の契約者の為に動いてくれるんだ、僕達が待ってるだけってのは違うよね」



「目的地は丁度四か所、都合が良いじゃねぇか」



「待って欲しい、まだ行くとか言ってないしなんで全部集める流れに」



「あたし達も一か所ずつ着いていく! セツナちゃんをサポートするよ!」



「不安しかないんだが!?」



「クロノ、絶対……治してあげるからね……」



「待ってくれ!? 発言権が薄れていく……!」

「マジで全部集めるのか!? 今のわけわからんのを!?」

「伝説の何かが作れそうな素材だったが!? 私が!? えぇっ!?」



 次回新章、セツナの奮闘記乞うご期待。



「クロノ起きろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」



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