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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十六章 『欲と罪、暴走戦線ゲルト・ルフ』
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第六百三十九話 『限界突破』

「おいクロノ! お前早いって!」



「レラ! 倒れてるみんなを頼む!」

「俺はこいつを、止める!」



 後ろから追いかけてきたレラ達を待たず、クロノはデモリッション目掛け突撃する。デモリッションの巨体を殴り飛ばし、周囲の状況を水の力で感じ取る。



(全員倒れてるけど息はある……余裕は無いけど、可能性はある……!)

「セツナ! 無理させて申し訳ないけど、レヴィちゃんを起こせ!」

「レラも強欲を、ドゥムディさんを起こしてくれ! 後はさっき言った通りに、うおわっ!?」



 デモリッションから伸びてきた触手のような腕が前髪を掠める。風の力で宙を蹴り、クロノはデモリッションの攻撃を掻い潜る。一撃でも喰らえば致命傷だが、今こいつを自由にさせる訳にはいかないのだ。猛攻を凌ぎ、渾身の一撃を叩き込み後方に吹き飛ばす、出来るだけセツナ達のいる場所から引き離す。



「クロノ……あ、私なに……」



「無理させて……? 今更……一番無理してるくせに……嫉妬しちゃうな……!」



 セツナの肩を掴み、レヴィが血を拭いながら立ち上がる。傷の治りが遅い事から相当消耗しているのが分かる。



「レヴィ! 平気なのか!?」



「平気じゃないけど悪魔舐めないでよね、この程度の傷で死ねるなら苦労しないんだよ」



「クロノが足止めしてる間に、他の奴等を助けるぞ!」



「僕が水で引き寄せる、気休めでも回復術を……!」



 ネプトゥヌスの操る水を追い越し、何者かが戦場に飛び込んだ。クロノとデモリッションの間に割り込んできたのは、木の根だった。



「なんだこれ……!」



「アァ……?」



 一瞬動きを止めたデモリッションの肉体が、次の瞬間両断された。デモリッションの身体が再生するのと、武器を構えた男がクロノの隣に着地するのはほぼ同時だった。



「……あんた……」



「味方と思ってくれるな、俺の生に味方など存在しないんだ」

「我が覇道の邪魔を消しに来た、それだけよ」



「ゲルトの王様だな、噂通りのおっかねぇ人だ」

「つまりあんたの覇道の邪魔をしなきゃ、隣に立って良いわけだ?」



「……お前の事は例の大会で知っている、なるほど狂っているな」

「敵でも味方でもない奴の隣に、好き好んで立ちに来るか」



「共に在る事が、俺にとっちゃ大事なんで」



「面白い子でしょ? クロノ君は可能性を感じさせてくれるよね」

「けど雑談はそこまでだよお二人さん! ボスキャラが暴れてんだぜ!」



 ミルメルを背負ったカラヴェラが瓦礫の上から飛び出してきた。槍を地面に突き差し、ミルメルと共に植物の根を操りデモリッションの動きを抑制する。デモリッションの傷は既に治っている、あの再生力をどうにかしない限り、勝ち目はないだろう。



「王様、初対面だけど頼みがあるんだ」

「あいつを倒す方法がある、ちょっとだけ足止め頼めるか」



「元々あいつは俺の国に喧嘩を売ってきたんだ、俺の獲物だ」

「譲る気はない、席を外すなら勝手にしろ」



「頼もしいね、すぐに戻って横取りしてやるよ」



「生意気なガキだ……」

「おいっ!! ヴェル、オイルッ!! いつまで寝ている、それでも貴様等この国の専属勇者かっ!!」



 王の咆哮と同時、デモリッションに斬撃と砲撃が叩き込まれた。倒れていた専属勇者二名が、飛び起きると同時に一撃見舞ったのだ。



「不覚……このような無様を晒すなど……!」



「むぅあああああっ!! 痛いし怒られるし最っ悪!! 覚悟しろデカブツッ!」



「どう見ても軽傷じゃねぇのに……やっぱ凄いなこの国の勇者は……」



「さっさとしないと、お前の出る幕は残らんぞ」

「なんせ好き放題されて俺達は怒っているからな、加減などしない」



「そうかそうか、なら存分にやり返してやってくれ」

「すぐ戻るから、俺にも一緒に怒らせてくれよ」



 最前線を一旦任せ、クロノは足場を蹴りつけセツナの元に戻る。すぐ傍には、大罪達がネプトゥヌスに回収され横になっていた。アクアやピリカが回復術をかけているが、あまり状況は良くないように見える。



「魔力を消耗しすぎているのですよ、悪魔本来の再生力もかなり落ちているのですよぉ……!」



「強がってるけど、レヴィ達は全盛期と比べると相当弱化してる……言い訳じゃないよ? 嫉妬させないでよね」

「器作りをカットしたディッシュですら、長い時の流れで能力は錆び付いてる、復活早々にあんな化け物とぶつかるとかハードモードも大概にしてほしいよ」



「弱化してそれなら、十分頼りにしちゃうよ」



「クロノ! わた、私どうすればいい!? あんな化け物にどうやって……!」



 泣きついてくるセツナを受け止めるクロノだが、足に力が入らずふらついてしまう。既にクロノも限界が近く、今のままじゃ希望なんて見えない。だから、当初の予定通り反則技を使うしかない。



(反動を想像すると恐怖はある、身体の事を完全に無視した反則技なんだ、どうなるかなんて想像は付かない)

(けど、何かを失う方がずっと怖い……迷いはない……!)

「レヴィちゃんに、それと可能ならドゥムディさんに頼みがあるんだ」



「ちゃん付けやめて、…………何さ」



「タイミング良く目が覚めたぜ、なんだ? 欲深き人間よ」



「今から俺は自分の身体がぶっ壊れる可能性がある力を使う」

「レヴィちゃんは能力で、俺の身体が壊れないようにして欲しい」

「ドゥムディさんは、そこに転がってる悪魔の能力を俺に使って欲しい、無意識の力だ」

「俺が感じる痛みを、無意識で覆って欲しい」



「おいおい、痛みってのは脳の警告、無視すりゃ危険って理解して言ってんのか?」

「人の身体は脆い、取り返しのつかないラインを超えても気づけないんだぞ?」



「……レヴィも、壊れないようには出来る」

「けどそれで平気かどうかは別の問題、能力解除後どうなってもレヴィは知らないよ」



「分かってるし、精霊達に止められた、説教の予約もされたよ」

「けど、何もしないで失うよりマシ、負けを受け入れて諦めるより全然マシだ」

「俺は、ハッピーエンドを諦めない」



 ドゥムディは身体を起こし、倒れているゾーンに手をかざす。欲庫ストックの力で、無意識の力を吸い取っている。



「おれもレヴィも、魔力は残り僅か……どの道長くは持たないぞ」



「三分持てばいい方だけど、それでもやるの?」



「やるしかないんだなこれが」



 肩を回し、クロノはデモリッションに目を向ける。ヴェルクローゼン達が頑張っているが、やはりどれだけ攻撃しても再生力を上回れていない。あれを倒すには、超火力で一気に削り、再生より早く切り札の一撃を叩き込むしかない。



「あの、あたしの魔力も使って……!」

「償いってわけじゃないけど……何もしないで見ているのは……」



 能力の準備をしているレヴィ達に、ククルアが声をかける。その一言に続くように、レラ達も魔力を差し出した。



「良いの? レヴィ達は悪魔なんだよ? そんなひょいひょい魔力差し出しちゃって」



「クロノが信じてるんだ、疑いとかないよ」



「さっき助けてもらいましたしね」



「器代わりにされた僕からすれば、今更の話だ」



「兄さまが言うなら」



「あたしは回復術で魔力スッカラカンなんだけどね!?」



「お姉ちゃん役立たずだなぁ……」



 そして、レヴィの小さな頭に暴食が手を乗せた。



「デッシュ……?」



「吐きそうだ、持っていけ」

「喰えたもんじゃねェや、さっさと終わらせてもう少しマシなもんが喰いたいなァ」



「俺ももう動きたくないから、あと任せるねー」



 プラチナも残りの魔力を全て、ドゥムディに差し出した。



「奇しくも、この場の全てを託すような形になったな」



「…………ここまでして負けたくないから、マルスとマルスの器くんは負けたら許さないから」



「それがマルス的には敗北は罪らしいんだよね」

「負けたら浄罪で俺が焼かれちまう、恐ろしい話だははは」

「って事で引けないところまで来ちまった、黙ってないで最後の後押し頼むよジュディア」



 端の方で黙っていたジュディアに声をかける、彼の力がないと話は始まらないのだ。



「これで無理だったらどうするつもりだ? 笑うか?」



「出来るさ、お前はさっき不可能を可能にしたんだ」



「どうして元敵をそこまで信じられるのかね……どうなっても知らないぞ」



「どうなっても、俺は勝つから安心しろ」

「セツナ、今からあの怪物をボコボコにする」

「お前は信じて剣を構えてろ、お前の眼前にあいつを捧げてやる」



「甘いなクロノ、それで私がやり切れるとでも思うのか?」



「あぁ、俺はお前を信じてる」



「ずるいなぁ……怖くても震えても、逃げられなくするんだもんなぁ」



 セツナが剣を握り締めるのが、背中越しに伝わった。ジュディアが肩に手を置き、能力を発動する。精霊に対し何でもありの力、契約者の力量に合わせて力をセーブする絶対の決まり、その撤廃。嘗て伝説の勇者の精霊だったフェルド達は、自分に合わせ相当弱化している。その枷を外せば、クロノの中で扱い切れぬ大きさの力が四つ、爆ぜる事になる。このままでは自殺行為、何も出来ず死ぬ可能性すらある。それを、外部の力で無理やり抑え込む。この後どうなってもいい、そんなヤケクソでどの視点から見ても正しくない壊滅的な戦法。ただの諦めの悪さ故、負けたくない、零したくない、そんな我儘の延長線。



 レヴィは足元の小石を拾い上げ、魔力を練り上げる。もはや、目の前の人間に託すしかないのだから。最大限の嫉妬を乗せ、彼女は理を否定する。



「嫉妬は巡る、今も昔もグルグルと、今を壊して未来へと、壊れて、壊れぬ未来へと」



 小石を砕き、クロノに砕けぬ力を宿す。それに続き、ドゥムディも奪った無意識をクロノに放った。



「痛み苦しみ、これでお前は意識出来なくなった筈だ」

「奪って即使ったんだ、精度は保障出来ないぜ」



 そして、ジュディアの力が枷を外す。身体の中で、爆発が起きたような気がした。タダで済むとは思っていなかったが、見てわかる程の変化が出てきた。クロノの身体が、輪郭を失い始めた。これは、仮霊化プロトに近い現象だ。



(……フェルド達の力が跳ね上がったから、内側で精霊球エレメントスフィアが爆発したみたいな事になったのか……?)

(あまりにも精霊達の力が強すぎるから、俺の内側で精霊の力が常に燃えてるような……)



 痛みや苦しみは無意識で感じない、だから今自分がどうなっているのか正しく理解は出来ない。自分の視界にはユラユラと輪郭を失い、幽霊の手のようにぼやける両手が映っている。握ったり開いたりしても感覚はない、だが今の状態は仮霊化プロトに近い。なら、扱える。



(みんな居るか?)



(そりゃあな)



(うおー! 久々に全力全開だよぉ!)



(君には悪いけど、絶好調だね)



(ふわ、ふわ……)



 精霊達は絶好調だ、フルパワーでここに居る。痛みも苦痛も完全にシャットダウンしているからか、温もりしか感じない、漲る力は己も焼いている筈なのに、今は恩恵しか感じない。調子に乗っている場合じゃないし、今も命を削っているのは間違いないのに、昂りが止まらない。負ける気が、まるでしない。




 揺らぐ姿が消えた、音を置き去りに風が一薙ぎ突き抜ける。デモリッションの身体が、武器を構えていた専属勇者二名の前から消え失せる。



「なんだ!?」



「っ! 上! 何かが跳ね上げた!」



 上空に打ち上がったデモリッションの身体が、数回何かに弾かれ更に上に打ち上がる。ブレる視界の中、デモリッションは幽体のようなクロノの姿を捉えた。



「貴様……まだ……っ!」



仮霊技能プロトフォース限界突破ルールダウン……」

「負ける方が難しいぜ……怖いくらいに、溢れてくる……!」



 その力は、在りし日の伝説。



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