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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十六章 『欲と罪、暴走戦線ゲルト・ルフ』
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第六百三十四話 『幕引きへの加速』

 分身の能力を持つ悪魔は自らの脳天を打ち抜かれながらも、状況を冷静に分析していた。何処から撃たれたかは分からないが、身体は動く。何か特別な効果のある攻撃じゃない、悪魔を仕留めるには一手足りない。当然それは相手も理解しているだろう、一撃で終わるわけがない次が来る。何処から撃たれたか分からなくても、方向くらいは分かる。悪魔はすぐに建物の陰に身を隠し、撃たれた個所を押さえながら息を整える。




(私がやられたらせっかく増やした兵隊は全て元通り、何もかも水の泡だ)

(既に優位は崩れている、ここは安全策で立て直すのが最優先……焦らず確実に……)




 次の瞬間、悪魔の側頭部から弾丸が飛び出した。弾丸はすぐ近くの壁に穴を開ける。



「……え?」



 壁の穴から発砲音が響き、悪魔の胸に穴が開いた。



「ッ!? 何が……!」



 振り返った悪魔の眼前に、筒のような銃口が向けられる。先ほどまで居なかった筈の人間が、此方を睨んでいる。



「ッ!」



「我が国に何をした……下衆がああああああああああああああああああっ!」



 叫び声は銃声に飲まれ消えていく、一発撃つたび発砲音は重奏のように増していく。死ねない事が救いになるとは限らない、分身の悪魔はそう悟り全てを諦めた。降伏すら、許しては貰えないのだから。

















 特化の力で再生力を上げ、エギーは首だけの状態から全身を再生させる。空から降り注いだ光により、国中の魔法陣は壊された。しかも今まさに、分身の効果が消え失せたのを感じた。せっかく増えた最後の道ラストストーリーがあっという間に元通りだ。目の前には国の専属勇者、それも剣聖と呼ばれる手練れがこちらを睨んでいる。周りには弱っているとはいえ、エルフや人魚と言った舐めてはいけない奴らが複数体、どう考えても分が悪い。



「あはは、あはははっ! 滅茶苦茶だなぁ……圧倒的優位を引っ繰り返されて、それをまた引っ繰り返そうとして秒で抑え込まれたよ……あははははっ!!」

「特に君だよ! たった一人で場を支配するような圧力! 専属勇者は伊達じゃないね!」

「けど残念、どれだけ剣の腕が優れていようとも! 悪魔を斬り殺す事は出来ません! 滅茶苦茶のお礼に僕も見せてあげるよ、特化の真の力……」



「不快、もう喋るな」



 閃光のような一振りがエギーを襲うが、ギリギリ後ろに飛んだおかげで射程外に逃れる事が出来た。首の皮を割かれたが、避ける事が出来た。



(また首狙い……確かに首を跳ねられると何もできない、再生までほぼ無力化される、ゾンビと違うからな……切断された部位を動かす事は出来ない……理解している動きだ、恐ろしい奴……)

(馬鹿げた速度だが、一度見たおかげでなんとか反応できた、今度はこっちの番……)



 刀の動きが止まった、振り抜く前に勢いを無理やり止め、逆方向に振り直す気だ。しかも踏み込みながら、力技で足りない分を押し付けてきた。



(ふざけんな人間業じゃないぞ! 踏み込まれた分余裕で範囲内、このまま振り抜かれたらまた首が飛ぶ、反撃は考えずまた下がるしか……)



 刀の輪郭が揺れた、早すぎて今まで気づけなかったが、こいつの刀に何か貼り付いている。




「”死刀・硬水挽歌こうすいばんか”」




 硬水種メタルスライムが刀のリーチを補い、後ろに飛んだ悪魔の首を切り飛ばした。何が起きたのか、エギーは一瞬思考が止まり理解できない。



硬水種メタルスライム……? 何故……? いや待て、まず身体を再生、再生力を特化し……)



「捕らえろ」



「ン」



 空中を舞っていたエギーの首が、斬撃と共に飛んだ硬水種メタルスライムに取り込まれた。金属質の液体は首を完全に包み込み、球状になって落ちてくる。



硬水種メタルスライムなのですよ! うひゃあ触りたい!」



「…………国の専属勇者が、どうして水体種スライムと……?」



「同感、私も妙な縁だと思う」

「だけど、私は彼女を友だと思う、思いたいのだ」



「プルプル、オカシナニンゲン」



 刀を収めた剣聖は、優しい顔をしていた。国の専属勇者二人が圧倒的な力で悪魔を討ち取り、戦況は再び揺れ動く。残された時間操作の能力を持つ悪魔は、仲間の気配が消えたことで焦りを感じていた。自分の力はメイン戦力じゃない、補助が役目の力だ、一人じゃ出来る事なんて限られる。このままじゃ自分もやられる、敗北が凄い勢いで詰め寄ってきている。焦った悪魔が取った行動は、逃走だった。



「付き合ってられるか……こんな負け戦……!」



 逃げる為に、なんだって利用しようと思った。未だ正気を取り戻せていない最後の道ラストストーリーのガキ共を使い、何とか国の外に出ようと思った。そのせいで、最後の道ラストストーリーを思いやる毒舌少年に見つかってしまった。



「悪魔見っけ、とりあえず倒しましょうか」



「スピ君顔怖いよー?」



「…………ッ! なんだってんだよ……!」



 ゲルトに残った悪魔も残り僅か、大きな戦いもあと少しだ。その中でも一番大きな障害は今も破壊音が響いている国の外れ、バロンが請け負ったデモリッションだ。ほぼ暴走状態で暴れ続ける、異形の悪魔。あれをどうにかしないと、ゲルト・ルフは更地になるだろう。国中の魔法陣が降り注いだ光によって処理された後、クロノ達は破壊音を頼りにデモリッション討伐の為国の上空を進んでいた。そして今、クロノは溜息をついていた。



「結局邪魔するのかよ、さっきは引いたくせに」



「仕方ないだろう、このままじゃお前俺をスルーしちまうからな」

「本当なら計画上外せないところを俺が守って、そこを目指してきたお前とぶつかる予定だったんだ」

「なのに怠惰さんは勝手にどっか行ってお前側に回るし、魔法陣を組んでた奴等スルーで魔法陣全部ぶっ壊されるし、物事思い通りにはいかねぇもんだなぁ」



「言ったろ、勝つのは俺達だって」



「いやマジに大したもんだよ、度肝抜かれたぜはっはっは」

「まぁもっとも……勝敗なんて俺達には正直どうでもいいんだわ」



 立ちはだかったそいつは、そいつらは、口調とは裏腹に凄まじい力を纏っていた。放置は出来ない、そしてこいつらの相手は、自分にしか出来ない。



「セツナ、先に行ってろ」



「それで私がビビらないとでも思ったのか? 不安過ぎるんだが?」



 ククルアに抱えられたセツナは、ガクガクと震えている。少し不安だが、彼女は既に一人じゃない。



「すぐ追いつくから大丈夫だよ、ククルアさんとレヴィちゃんだって付いてるだろ」

「それと、リコーラさんだってぶら下がってるし」



「あたしは……そんなに力になれないと思うなぁ……」



「ちゃん付けやめて、嫉妬しちゃうよ」

「……すぐ追いつけるの? 強そうだけど」



「なんとかするさ、そうでもしないとどうにもなんないんだし」



 そう言って、クロノは背を向けた。セツナ達が先に行くのを感じ、クロノは息を吐く。目の前の、悪魔と化した精霊使いに向き合った。



「この戦争の勝敗よりも、俺はお前の方が重要なんだよ」

「さぁ、最高の死合いをしようぜ…………クロノ・シェバルツッ!!」



「今じゃなくても良いだろう……本当に迷惑な戦闘狂だ」

「はっきり言って邪魔なんだよっ!! 速攻でぶちのめすっ!」



 互いに加速し、空中でぶつかり合う。衝撃が全方位に拡散し、互いの拳が炎を纏う。砕けかけた拳が、再生しながら削り合う。



「そりゃあ困るな、すぐ終わったら勿体ないだろうがっ!」



「俺にも、国にも、時間がねぇんだよ! 大事な瀬戸際だっ!」



「変な事を言うじゃねぇか、いつだって、生きる時間は大切なもんだ」

「一瞬一瞬を大切に楽しもうぜっ!? 全力で、後悔しないようにっ!!」



「後悔しないように、俺は俺以外の為にも時間を使いたいんだよ!」

「俺だけの命じゃないから、全部含めて俺の人生だからっ!」



「なるほどそれがお前か、お前の強さの意味か、尚更面白くて引けないねぇ」

「俺と違った形の強さ、ぶつけ合う意味が光るってもんだっ!」



 拳が振り抜かれ、クロノが後方に吹き飛ばされる。生半可な強さじゃないが、こいつは無視出来ない。正直時間も余裕もないが、だからって逃げられない。それにこいつには、負けたくない。



「さぁ、お前の全部を見せてみろ……クロノ・シェバルツ!!」



「勝手に盛り上がってんじゃねぇよ……障害物め……」

「だったら、俺達の全部でお前を超えてやるよ」



 残る戦いもあと僅か、終わりに向けて加速する。最後に勝つのは、人か悪魔か。

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