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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十六章 『欲と罪、暴走戦線ゲルト・ルフ』
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第六百三十一話 『目覚める者達』

「……ッ!? 何だ、何が起きてんだっ!?」



 悪魔に魂を抜かれた人々を魔法で運んでいたレラ達は、突如勢いを増した氷に追われていた。コロン達が半分洗脳に近い方法で人々を誘導していても、魂を抜かれている者はそもそも動けない。レラ達は風、ネプトゥヌス達は水の魔法でそういった人々を避難させていたのだが、そんな状態での氷責め、ただでさえ消耗しているレラ達では凌ぐのも限界がある。それでもギリギリまで諦める事無く抗う覚悟だったが、急に勢いを増した氷が今度はいきなり目の前から消し飛んだのだから混乱は加速していた。



「氷が、溶け……いや、水が、蒸気すら残さず……消えた……?」



「あれ程の氷が……国を囲むようにそびえたっていた氷が一瞬で消えました」



「いやおかしいだろ!? これだけでかい現象が起きてるのに俺達にも、国にも何の影響も残さないって……」



「なんですか……なんなんですか……こんなの……こんなの…………ッ!」

「未知じゃないですかああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」



「ただでさえボロボロなんだから余計な体力使わせないでくれるかなぁっ!?」



「みな、皆さん……いま、いまま……今なら国からの脱出が出来ますよぉ……!」



 屋根の上から転げ落ちてきた狂がレラ達に方向を示す、彼女はボロボロの身体に毒を打ち無理やり身体能力を上げ周囲の偵察を行っていた。



「狂さん、無理をさせて申し訳ありません」



「い、いえ……私も出来る事はしたいので……残った魔力は感知より避難に役立てて欲しいです」

「シーさんはマリアーナちゃんを守ってあげてください、その子の目は避難民の発見にとても役立ってます」



「えっへん!」



「向こうから国を出て、正面へ回りましょう、ダークエルフの子や封印した悪魔を置いてきた場所を目指すのが良いかと」



「纏めて縛り上げておいた方が良いだろうからね」



 気絶したゾーンを抱えながらそう言うクェルムに、トリュフを封じた水球を弄りながらネプトゥヌスが頷く。敵は倒したとはいえ殺したわけじゃない、一か所に纏めて封じておかねば安心は出来ない。まだ敵は残っているのだ、避難と並行で一度下がり状況の整理をしたい。時折鳴り響く粉砕の音が、ここはまだ戦場なのだと嫌でも思い出させる。



「この音……暴食の向かった方だよな」



「向こうで凄い煙が出てました……戦闘中ですよあれは……」



「感知に魔力を回さなくても肌で感じる程の力、あれをどうにかしないとハッピーエンドとはいかないだろうね」



「うひょー! ここにもあそこにもあっちにも魔法陣が光ってるのですよぉ! 弄り回したい!」



「避難を手伝えアホピリカッ!!」



「こんな滅茶苦茶な魔法陣そうそうお目にかかれないでしょうがっ!!」



「あぁくそピリカホイホイが多すぎる!」



 実際魔法陣は無視したくない要素だが、今は避難で手一杯だ。どう見ても正常には動いていないし、感じる魔力も滅茶苦茶、最初から良い感じはしていないが、今言い表すなら危険の一言がしっくりくる。



(とはいえ手が足りないし、数が多すぎて処理するにも……ここは早々に避難と共に下がって……)



「ふぁ~……寝過ごした結果ひっどい事になってて笑えるわぁ」



 突如、聞き慣れない声が響いた。その声は妙な危険性を孕んでいて、レラ達は一瞬で声のした方向へ向き直る。だが周囲の魔法陣の光が強まり、爆発した為その動きは途中で止められる。



「うおっ!?」



「ッ!」



「リーダー代理は発狂寸前で何処に行ったのやら、まぁどの道もう予定通りに行くことは何一つないだろうね」

「あはは、楽しいなぁ、滅茶苦茶だよ何もかも、ねぇそう思わない君達さぁ」

「あぁ別に答えは求めてないんだ、僕は一方的な感謝を伝えたいだけなんだよ、滅茶苦茶なのが良いんだ、凄く、とても、最高だよね」

「だって予定通りにいったら何もかもマイルドでさ、ここまで滅茶苦茶になった方が何してもいいじゃんって空気になるでしょう? その方が全部楽しめて、全部味わえるんだ」

「どんな事でも、どんな時でも、最大限に楽しみたいじゃないか、好きに生きたいんだ悪魔なんだから」

「だから突き抜けて行こうよ、派手に、盛大に、特化してさ」



 周囲の魔法陣が暴走し爆ぜていく、屋根の上で笑う悪魔からは、狂った何かを感じる。間違いなく、こいつは危険だ。



「会敵するとはな、泣き言は言ってられないが……ピリカ、どう見る」



「…………周囲の魔法陣が全部爆弾になったって言えば分かるかな」

「能力の範囲が広いし……国中で何かが一斉に動いてる」



「あははははっ! 魔法陣が狂っても、ベースになった僕達の能力は何も狂ってないからね」

「要は使い方次第でしょ? 滅茶苦茶のままに楽しんでいこうじゃないか」

「初めまして親愛なる敵対者さん達、僕は『特化マイブーム』のエギー、少し寝坊したけどここからは楽しんでいくつもりだよ」

「抵抗してくれ、抗ってくれ、もっともっと滅茶苦茶にしてくれ」

「グッチャグチャが、楽しいから……!」



「悪魔にまともな奴っていねぇのかよ」



「一度嫉妬に堕ちた身から言わせてもらうと、まともなら悪魔になってないかな」



「た、大変です!? 急にこ、子供達が国中に!」



 臨戦態勢を取るレラ達だったが、狂が屋根の上から声を上げる。武装した子供達が、ゲルト・ルフ中を走り抜けていた。



「ゲルトの退治屋、最後の道ラストストーリー……身寄りのない、生きる希望もない子供達だけの退治屋」

「どいつもこいつも虚ろな目をして、明日に希望なんて抱いてない、その日その日を生きる為に戦い、魔物を殺す人形みたいな奴等だ」

「だからその戦闘衝動や薄い感情を特化させたんだ、良い所は伸ばし、都合の良いマイナスも伸ばす……手軽な兵士」

「そしてその歪な戦闘人形を分身アクションドールで増やしたんだ、僕の仲間の能力ね」

「怠惰様の力と違って、強力すぎる存在のコピーは出来ないけど……感情は希薄、強さもそこそこの人間の子供くらいなら増やせるからね」

「これで戦況はこっちに傾くかって言えば、微妙だよね、でも戦争って数じゃない?」

「駒が多いほど、カオスは加速すると思わない? 君達って今人間を避難させてるんでしょ?」

「もうこっちの計画とか何もかも滅茶苦茶ならさ、手当たり次第に殺してもいいと思わない? 滅茶苦茶になると思うんだそれってさぁっ!」



「おいふざけ……!」



「後ね、今僕は魔法陣の暴走具合を特化させて暴走暴発どっかーんってしてるわけだけどさ」

「こっちには時間操作の能力者も居てね、単純な加速や減速が出来るんだ」

「例えば魔法陣の特化爆発を加速させると、さてどうなるんだろうね」

「あはは、あはははは!! やばいよ寝起きのテンションじゃないよねこれっ!!」



 危険どころじゃない、最悪は最高速で襲い掛かってきている。ピリカが即座に飛び上がり、弓を構え全魔力で周囲の反応を探る。だが、魔法陣の暴走する魔力や子供達の反応が多すぎて正確な情報は掴めない。



(っ!! 悪魔の位置が分からない……!)



「ならお前を討つしかねぇよなぁっ!」



 飛び掛かるレラの刀とクェルムの拳は弾かれ、ネプトゥヌスとアクアの水魔法も片腕で粉砕される。エギーの右腕が粉々になるが、即座に再生する。



「腕力を特化、再生速度を特化、特化を発動出来るのは一度に一つだけだけど……効果自体は割と長く続くんだよね」

「それにインターバルとかは無いから、一瞬でも凌げればカオスをカオスでかき混ぜるくらいは出来るんだよねぇ」

「手始めに国のどこら辺を吹っ飛ばしちゃおうか、沢山死ぬと良いなぁ!」



「ッ!! この、お前やめ……」



「あははははっ! 滅茶苦茶になガボァッ!?」



 魔力が膨らみ爆ぜる瞬間、エギーの首が飛んだ。何が起きたのかレラが理解する前に、刀を構えた影がエギーの隣に降り立った。その影は、ゲルトの城から飛来してきた。



「死刀・霹靂神はたたがみ



 斬撃が視界を埋め尽くし、エギーの身体がバラバラになり宙を舞う。斬り飛ばされまだ空中に浮かんでいるエギーの首が、影の正体に気づいた。



「あぁ……滅茶苦茶じゃないか……バラバラにされても胸が躍るようだ」




「驚愕、相当な変態だな」

「主の命により、剣聖・ヴェルクローゼン……参る」



 刀を構え直したゲルトの専属勇者、彼女の宣言と同時にゲルトの城が火を噴いた。国中を駆ける武装した子供達を弾丸が打ち抜き、その動きを封じていく。ゲルトの外壁に片足で貼り付き、巨大な筒のような銃を両手で構えた少女の仕業だ。



「むぅ……むぅ……むむぅ~……!! なんったること! 一体全体何が起きているのですか!」

「我々の知らぬ間に一体何が……我等のゲルトがよそ者にあれやこれやと……! くぅぅ……!!」

「我が主の命によりっ!! 禍筒・カーラオイルッ!! 出ますっ!!」



 幻龍の払った氷は、ゲルトの最高戦力を解き放った。氷が消えた城の中、ゲルトの王はケラケラと笑うメリュシャンの王と対峙していた。



「何がおかしい」



「おかしいでしょう、覇道云々抜かしてた奴が悪魔にここまでされてんのは滑稽だろう」

「いい加減反撃しようよ、なんなら手を貸そうか?」



「要らん」



「要らんつっても貸すけどね、その為に来たんだし」

「国全体に根も張り終えた、ミルメルー? 外のマシンガン嬢ちゃんに余計なお節介してあげてー」



「ん」



 ミルメルが魔力を足元に流すと、国全体に広げた根が一瞬発光した。その感知は、最後の道ラストストーリーをコピーした悪魔の位置に光の柱を立てる。



「な!?」



 その柱に一瞬で反応、異常な視力で悪魔の姿を捉えた禍筒は抱えた筒状の銃をすぐに構えた。




「悪魔居たぁっ!! 吠えろっ! 生神一砲せいしんいっぽうっ!!」

「スットラーーーイクッ!!!」




 砲撃音が悪魔の耳に届くより早く、魔弾が悪魔の脳天を貫いた。戦場が滅茶苦茶になろうとも、希望は途切れない。誰一人、諦めない。



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