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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十六章 『欲と罪、暴走戦線ゲルト・ルフ』
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第六百二十九話 『決まった未来を捻じ曲げろ』

「頭痛いし身体がだるいよぉ……」



「しんなりしてる場合じゃないぞセツナ! 間違いなく踏ん張りどころだ頑張れ!」



「さっきまでの化け物と同一人物とは思えないね、嫉妬しちゃうよ」



 近寄ってくるレヴィは少しだけセツナを警戒しているように見えた、だがその理由を聞いている時間は無い。宙に浮かぶゲルトのコピーを消したおかげで、眼下の国は月明りで照らされている。さっきまでは影で覆われていた為、国全体の至る所で魔法陣の輝きが見えていた。



(多少目視はしにくくなったけど……今でも目で確認出来るし、隠す気ももうねぇんだろうな)

「月明りを突き破るくらい、煌々と光ってやがる……目に優しくないし、何より物理的に危ないな」



「絶賛暴走状態でヤケクソなんだってさ、この子が言うには」



 レヴィは自身の後ろで俯いている悪魔を指差す、敵意は無いが覇気も無い。



「……? 敵、じゃないのか?」



「そのしんなり切り札が引き込んだの、ある意味今回の全部の元凶ね」

「あの歪な魔法陣を組んだのはこの子、手段を問わず、後先考えず滅茶苦茶したからこそ、疑似的にレヴィ達に並ぶくらいやっばい能力が出来上がった」

「後先考えずやったから、今暴走中、しかも止める気も止まる気も無くこのまま突っ走る気だよ」



「クロノ、怒るのは後でにしてくれ……助けてって言われたんだ」

「私は、その言葉でなんかこうむんっ! ってなったんだ……私の意思で、助けたいって思ったんだ」

「悪い事したって思ってるなら、償いの機会を与えるのも私達の仕事なんだ……だから」



「……お前がそう思ったなら、その事に関して俺は何も言うことは無いよ」

「けど、彼女が罪を受け入れても……他の悪魔がそうとは限らない」

「現に下から、まだ敵意を感じる……そいつらを止めない限り戦いは終わらない、ついでに魔法陣も止まらないだろ」



 国中の魔法陣から感じる魔力は、とてもじゃないが操作されているようには思えない。ブレーキが存在しないメガストロークのようなものだ、丁寧に止められるとはとてもじゃないが思えない。



「多人数の能力で組んだ魔法陣、今更使い手を倒した程度じゃ止まらないでしょ?」



「…………うん、暴走が加速するだけ、だと思う」

「…………最悪、形を留めるのが限界になったら爆発すると思う……」



「国全体に仕込んで今もピカピカしてるあれ全部がかっ!? 私でも肌でビリビリ感じるくらい魔力が良い感じにグチャグチャだけど!? 国が吹っ飛んで更地になるぞ!? どうしようクロノッ!?」



「残ってる悪魔はリーダー代理を含めて四人……それと味方なのかも曖昧な適当精霊使いが一人……」



(災岳だな、絶対)



「リーダー代理はもう正気じゃない、ここを任された責任と、絶対的有利を覆されたからパニックで……何をしても不思議じゃない」

「それにククルアちゃんが言えたことじゃないけど、残った悪魔はみんな自分が良ければそれでいい、自分自身の欲が最優先の子達ばっかり」

「特に『特化マイブーム』って能力を持ってる子は、同じ悪魔のあたしから見ても狂ってる」

「ここまで狂った魔法陣を見ても、多分あの子は楽しめる……暴走を特化させて喜んで自分ごと国を吹き飛ばしても全然おかしくない」



「仲間に爆弾抱えすぎだよ、嫉妬も引くよ」



「あたし達は仲間じゃない! 大罪組の中でも輪に入れなかった奴や、好き勝手を極めた奴、あぶれた奴がここに詰め込まれただけだ! それと、その……怠惰様の能力再現に向いてる、能力を、集めて……」

「殆ど堕ちたこの国を容器に、押し込まれたんだ……大罪組の殆どは別の仕事に向けて動いてて、あたし達はこの国で蓋をして開発とか、その他の仕事をしてたんだ……表に出ないから、楽で……だから……」



「あんたの兄貴分の能力で無意識だったのかもね、でも一度罪の意識に気づいたら絶対に逃げられないよ」

「償うのは、楽じゃない…………それでも助けてと手を伸ばして、差し出された手を取った」

「今まで居た場所を捨てて寝返るなら、普通の覚悟じゃ成り立たないよ」

「悪役が嫌なら、死に物狂いで頑張らないとだよ」



「…………うぅ……」



 ククルアは頭を抱え泣いている、その表情に嘘は無い。悪魔に堕ちた身でも、罪の意識は芽生えるし後悔もする。欲に忠実だからこそ、楽じゃない今を受け入れられない。楽するために、苦難を選んだんだ。



「今は現状を打開するのが先だ、悔やむ未来もこのままじゃ潰える」

「国全体の魔法陣は爆発寸前の爆弾みたいなもんだ、もう使用者を倒したり説得したりして消せるもんでもない、物理的に消すしかねぇ」

「しかも残った敵は道連れ上等、着火剤みたいな奴やヤケクソ野郎しか残っていないわけだ」

「しかも国民の避難はまだ完了してない上に、国全体は氷の壁に囲まれ作業を阻害されてる、あれじゃ増援が来ても入れない」

「極めつけは暴走を極めたようなやばい悪魔が下で暴れてる、確認したいけどあの六枚羽の悪魔は今言った数に入れてるのか?」



「……デモリッションは……入れてない」

「もう、制御出来ないから……こっち側の誰にも止めれない……」

「盛りに盛りまくった、止める事とか考えずに……弄りまくって作った最終兵器だから……」



「大変だクロノ、どうにか出来る気がしないぞ」



 まさに後先を考えない大馬鹿共の尻拭い、周囲を巻き込んだ大暴走の末路だ。理不尽と好き勝手を煮込んでぶちまけたような惨状、とてもじゃないが犠牲を出さずにやり切れる気がしない。だけど、諦められない。クロノは『さっきから電源が入りっぱなしの通信機』を懐から取り出した。



「こっちの状況は以上だ、フロー、なんとか出来るか」



『無論、妾は超絶天才じゃからな』



『はいは~い! みんなのルトちゃんだぞぉ!』

『準備オッケー、夜が悪魔の時間だって? 夜は大人の時間に決まってんだろエロの時間だぜ』

『みんなの朝ちゅんを守る為……例え戦争国家だろうと消し飛ぶのは許せないなぁ』



「雑音が混じってるよ」



「ルトォ! 大ピンチだ切り札を助けてくれぇ!」



『当たり前でしょぉかーぁいいセツナを助けますともさ! それと保護対象の悪魔たんもはぁはぁ……!』

『後ろでマイラが滅茶苦茶怖い顔してるから真面目モードに入るけど、反撃開始と行こうじゃないか』

『一刻の猶予も無く一国が吹っ飛ぼうとしてるけど、既にこっちは準備オッケー、超絶天才且つ超絶かーぁいいフローちゃんの奥の手見せたらぁ!』



『じゃが国を囲んでおる氷はどうにも出来ん、国の崩壊はどうにか出来てもその氷を退けんと反撃開始とまではいかんぞ』



 あの氷はただ壁になっているだけじゃない、今も国を外側から徐々に凍らせているし、何より暴走した魔法陣を取り込んでいる。魔法陣から溢れる魔力を吸い上げ、氷の勢いを加速させている。恐らく、あの氷の使い手に力として還元しているのだろう。だが、そんなのきっと関係ない。今も肌で感じてる、あいつが負ける筈がない。



「大丈夫、あの氷は必ず砕け散る」

「あいつの炎は、氷なんかに負けやしない」



 その言葉は、海上のセシルに届いていた。息を吐き、セシルは大剣を片手で振り回す。周囲の氷を消し飛ばし、次の瞬間フリーになった右手を握り締める。眼前の蒼鬼へ笑みを浮かべながら拳を叩き込んだ。



「生意気を言う、別にお前の為にこいつを倒すわけじゃあないぞ」

「まぁ、勝手に助かる分には好きにするといいさ」



「なぁに笑ってんだクソガキがあああああああああああああああっ!!」



 吹き飛んだ霧雨が海へ着弾するが、爆ぜた水は元の形に戻るより早く凍り付く。霧雨を中心に抉れた海が氷の牙と化し、セシル目掛け襲い掛かる。



「”螺旋氷河”ァッ!!」



「”幻龍飛焔げんりゅうひえん・火爪”!!」



 氷の牙と炎の爪、両者の攻撃が激突し爆音が響く。海の上でぶつかり合う怪物二体、互いの力で海は凍り付き、蒸発し、歪な形を取り続ける。このままでは、戦いが終わる前に環境が壊れるだろう。



「また偽物じゃないかと、確認はしたものの内心不安だったんだぞ」

「ようやく真の意味で安心出来たよ、あそこまで乱れた魔法陣、既にお前達にあのレベルのコピーは生み出せない」



「ちぃ、面白い出来だったから誘いに乗ってやったのに……負けてんじゃねぇかあいつ等」

「俺がどうこうしようが、ここまで滅茶苦茶にされたらもう当初の優位は戻らねぇなぁ」

「残念だが仕方ない、弱い奴が悪いんだ」



「強さこそ正義、お前のそれはどうなろうと変わらんか、芯がブレないのは好感を持つがな」



「居場所は己で掴み取るものと先の戦いで言ったはずだ、俺の根っこは弱肉強食、変わりはしない、染まりはしないんだよ」

「やりたいようにやる、気に入らない奴は叩き潰す、負けたなら勝つまでやる……シンプルだ、それが俺の世界、俺のルールだ」

「勝ち誇るな、見下すな、俺の前で俺より強い気になるな……殺すぞ、ガキ……!」



 霧雨の魔力は先ほどから上がり続けている、氷に取り込んだ魔法陣から魔力を吸い上げ、力を底上げしているのだ。また、セシルを前にして感情も暴走しつつある。強さへの執念、セシルへの敵対心、全てを力に転換している。



「貴様の欲、か……どす黒いな、黒い氷が貴様の心を表しているようだ」



「はははっ!! それが俺の強さの証明になるのなら、黒かろうが白かろうが俺は胸を張って扱うさっ!」

「先の戦いでお前の火力は分かってる! 戦法も癖も見せてもらった! 余裕ぶっているが隠せていないぞ! その震えっ!!」



 黒い氷を操作し、霧雨は巨大な金棒を作り出し両手に構える。一気に距離を詰め、セシル目掛け右手で金棒を振るう。両手でヴァンダルギオンを構えたセシルだったが、止めきれず吹き飛ばされた。



「拮抗していた冷気と熱は既に俺が上回った! 周りを見てみろ海は凍り付き氷の大地となった!」

「火ではなく白い息を吐いている、剣を持つ腕は震えている! 体温の低下はお前の能力の低下を意味する!」



「よく喋る鬼だな、優位になった途端口数が増える奴は決まって逆転されるのだぞ」



「ご忠告痛み入るよ! なら是非逆転してみて欲しいねぇっ!」



 金棒の乱打に晒されるが、セシルがギリギリで全てを受け流していた。直撃を避け、真正面から受け止めるのではなく流す。だが、凍った海面から伸びてきた氷の棘が脇腹を抉り、セシルの体勢を崩す。



「ッ!」



「遅くなってんだよォ! テメェの動きはァッ!!」



 振り下ろされた金棒がセシルの頭部を捉え、氷を砕き海中に突き落とす。巨大な水柱を生みながら、セシルの身体が海中に沈んでいった。



「楽には死なせねぇ、ただじゃあ殺さねぇ、ズタズタにしてやるよなぶり殺しだ……!」

「お前の屈辱ある死をもって、俺は強さを証明するんだ、俺が、俺である為に、あり続ける為に……!!」



 凍った海面を殴りつけ、霧雨は冷気を放出する。海中に無数の氷の棘が生え、瞬く間に海中を埋め尽くす。水底に沈んだセシルに氷が迫るが、セシルはゆっくりと目を閉じた。諦めたわけでも、勝負を投げたわけでもない。この戦いで霧雨が己の強さを証明するというのなら、自分はそれを真正面から捻じ伏せる。強さの権化を叩き潰し、己の四天王足る姿を証明しよう。




(私の覚悟は、私自身を燃やす燃料だ)

(強さを語るのならやってみろ、お前の冷気が私の熱を上回るのかどうか、試してみると良いさ)

(お前は私をクソガキと呼ぶが、ガキのままじゃ居られないんだよ)

(過ぎ去った年月は、子供のままで居る事を許してはくれないんだ、五百年は軽くない)

(内に秘めた想いも、この身体に流れる血も、お前如きに止められはしない)




 次の瞬間、セシルに迫る氷が消えた。閃光が空に上がり、霧雨の立っていた場所の氷が消える。氷が溶けたわけじゃない、そこには海も無かった。膨大な量の水が熱で蒸発したのなら、凄まじい範囲が爆発で消し飛ぶはずだ。だからこそ、霧雨は沖に出ないでゲルトが見える範囲で戦っていた。



(クソガキの力なら、俺の氷や海の水を蒸発させるくらいはやってのける)

(水は水蒸気と化す場合1700倍程に膨れ上がる、この距離に人の国があるなら甘ったれのクソガキは力をセーブすると踏んでいた……実際さっきまであいつは熱量を抑えていた、だからこそ強化分も含めて俺は冷気であいつを上回った、一気に力を削いで、勝負を決めにいった)

(何故氷が消えた? 海は何処だ、俺は何で空中に浮いている? 眼下のこの穴はなんだ、海になぜ穴が)



 思考が纏まらず、霧雨は飛行も忘れ謎の縦穴に落ちていく。周りを見ると、海の水が滝のように流れ落ちていた。視線を下に向けると、セシルが片手で剣を持ち立ち尽くしていた。その身体からは、蒸気のようなものが吹き出している。



(龍種の固有能力……沸血か……? 血を熱し全身の体温を上げ身体能力を向上させる……)

(熱……なら尚更この現象はおかしいだろ、熱せられた海の水は? 水蒸気爆発はどうなってる? 今も海の水は下に流れ落ちている、なんで蒸気が上がってこない、なんであいつの身体から昇る蒸気しか……)



 次の瞬間、セシルから吹き出す蒸気が赤く色付いた。違う、あれは炎だ、炎が噴き出しているんだ。セシルは深く、長く息を吐き出した。口の端から、空気と共に炎が漏れ出している。開いた目は朱く染まり、全身に血管が浮き上がっている。それ以上に、元四天王の霧雨が震えるほどに、力が増している。



「なんだ、あれは……」



「四天王は魔を律する立場、だが力無き者に理想は抱けない」

「私も証明しようじゃないか、理想である為に、その為の力を」

「沸血の上位能力、焔血えんけつだ……お前も初めて見るだろう? それくらい希少な力だ」

「水は熱すれば蒸気と化す、当たり前のことだ、自然の事象だ」

「当たり前すら捻じ曲げる、事象すら焼き尽くす異次元の熱を見せてやる……お前のルールを燃やし尽くす」



 熱された水が蒸気となり、蒸気が焼けて消えている。意味が分からない、説明が付かない、自然の原理が機能していない。理屈が真正面から、力技で焼かれている。ゆっくりと剣を構えるセシルの姿が、言い表せない程不気味に映った。この時、霧雨は本能で理解したのだ。




「お前は自分の証明を強さに託した、弱肉強食を己で語ったのだ」

「今更、加減を求めるなよ」




 ――――自身に、死が迫っていることに。



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