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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十五章 『虚像を照らすは月明り、零れる欲と怠惰の声』
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第六百二十話 『無視出来ない力』

「レヴィちゃん……? それに……」



「あ、嫉妬人魚だ、ちゃん付けやめてよ嫉妬しちゃうよ」

「みんなボロボロだねぇ、ほら切り札出番でしょ」



「この状況をひっくり返せと!? あの数相手に余裕見せてるあのクソ怖悪魔相手に!?」



「レヴィ達のが怖いでしょ」



「そうだけどそうじゃないだろ!!」



 セツナの両脇を抱え、まるで今から投げますよと言うようにゆっくりと前後に揺らすレヴィ。そんな彼女らを尻目に、暴食がほんの少し前に出た。それを見たゾーンは、楽しそうに大罪に向き合う。



「最初から大罪様方がこちらの思い通りになるなんて思っていない、むしろそれでこそだ」

「己の欲に忠実で、圧倒的な力で好きなように生きる……羨ましいね、憧れる……まさに悪魔のお手本のようだ」



「好き勝手崇めてくれるのは勝手にしろ、けどなァ……好きに生きた結果落っこちたのがボク達だ」

「欲を満たせなかったからこそ、ボク達はみっともなく足掻き、ずっと求め続けたからこそ醜くどん底まで堕ちたのさ」

「思い通りにいかず、歪んだ末それを嬉々として持ち上げられても困惑するだけ、ボク達にとってそれは無価値だなァ」

「人の失敗談を伝説みたいに語り継ぐなよなァ、それも都合の良いようにさァ」



「悪魔の指針、憧れだよあんた達のお話は、真実なんて誰も興味がない、それこそ無意識に誰も見ようとしない」

「あんた達の残した力、欲こそ根っからの屑には希望なのさ、あんた達が実際どんな奴だったのかなんてどうでもいい」

「欲のままに生きた先に、あんた達みたいな力がある……その事実こそ俺達にとっちゃ希望だ、夢みたいだろ? 悪や屑の先に覚醒が待ってるんだ」

「好きに生きたもん勝ちだって、事実が示してるんだ、あんた達は最高だよ!」



 両手を広げ笑っているゾーンだが、その身体からは凄まじい魔力が溢れている。信じたくないが、今の今まで手を抜いていたらしい。



(当然か……やろうと思えばマジで無意識の中で死んでいた……)

(…………ピリカも、皆もまだ辛うじて動ける、能力を封じる切り札ちゃんも来た、ここは……)



 策を講じるレラだったが、その脳内に亀裂が走った。組み立てた策が、自分の想定していない何かに阻まれた。現実的な案を、本能がストップした。



(…………? 俺は何をしてる? 何を……)



 思考が、逆回転した。真正面からの正攻法だけじゃない、全ての可能性を考慮し、現状を正しく認識する。その結果、レラは自分でも信じられない未来を想像する。その未来を攻略する為、数秒前とは違う動きをした。ピリカの元に駆け出し、想像を実現するために力を振り絞る。そんなレラを気にも留めず、ゾーンは四枚の翼を大きく広げた。



「好きに生きた結果が、これだ」

「俺は四枚羽、魔力量だけならあんた達大罪より上なんだぜ」



「へェ?」



「思い通りにならないなら、認識の外から思い通りにするだけさ」

「けど俺としては、あんた達とは仲良くしたいんだよな……だから一度は手を差し伸べよう」

「な? 好きに生きようぜ? 俺達は味方だよ」



「レヴィもやろっか?」



「いやァ、もう必要ねェわ」

「もう十分、理解した」



「余裕そうだな、いつまでそこで見下ろしてんだ大罪様」

「どれだけ強くても、あんた達が偉大でも、無意識に潜む者に対応は出来ない」

「意識の外にいる俺には、あんた達でもどうしようもないんだよ!」

「大人しく俺達側で崇められてろっ! 欲の犠牲者共がっ!!」



 ゾーンの身体が見えなくなる、奴の存在を意識出来ない。誰にも気づかれず、ゾーンはディッシュの背後に回り込む。その拳が、ディッシュに迫る。















 その頃、国の地下ではネファリウスが消えた怠惰を探し回っていた。



「怠惰様が居ねぇんだがあああああああああああああああっ!?」



「おっ、リーダー代理じゃねぇの元気だねぇ」



「災岳……貴様、強欲様はどうした……?」



「なんか顕現した後寝返ったぜ? 器も負けてたぞ」

「つうか怠惰様が居ない? なら俺もう自由行動で良いか?」



「お前は何のために上に出たんだ!? えぇ!?」



「遊びに」



「ねー、暴食様も完璧寝返ったっぽいよー? ネっさん的に発狂一歩手前的な?」



「もういやああああああああああああああああああああっ!! ヘディル様やイクスタ様になんて言えば!? どの面下げてお会いすればあああああああああああああああああああっ!!」



「けどけど、怠惰の限りを尽くしてその上で自分の好きに動く怠惰様ってやっぱ素敵だなぁ」

「惚れ直しちゃうよぉ、にへへ~」



「にへへじゃねぇんだよクルクルパーッ!!」



「ククルアですって、大丈夫っすよぉ……そもそも欲のまま好き勝手動いてたほうが大罪様らしいじゃないですかぁ」



「それはそうだがこっちの好きを妨害されるのはだな……!」



「己の欲を貫く為なら大罪すら利用する……結局悪魔である俺達は自分が一番優先なんだよなぁ」

「崇拝しようが、どんだけ崇めようが、最後に己が笑えればそれでいい……こんな存在なんだ、仲良く手繋いでハッピーエンドは有り得ないだろうさ」



「もうすぐ夜ですし、みんなそろそろ起きますからご安心くださいな」

「そもそも、ゾーンの兄貴は変わらず大暴れしてるんですしぃ」



「ぐぬぬ……」



「無意識の霧が国を覆っている以上、計画に支障はないんだしさ? 代理も大船に乗ったつもりでどしっと構えてなよぉ」

「ってことで~もすこし時間あるしククルアちゃんはみかんでも食べてまーす」



「万が一ゾーンが負けたらどうするつもりだお前はっ!!」



「負けるわけないですって、ゾーンの兄貴は化け物ですよ?」

「もし負けたらククルアちゃん本気出してもいいですから、賭けてもいいよん」

「兄貴とは人間だった頃からの付き合いなんですし、良く知ってるんですよ、あれについて生きてたからククルアちゃんはこの通り怠惰の化身になれるくらい楽出来たんだ」

「ゾーンの兄貴は単純に強い、あれに勝てたらそれこそ怪物ですって、あははは」



 それはとてもシンプルな、力への信頼だった。事実、無意識のゾーンの魔力は桁外れに大きい。国を能力で覆って尚、底が知れない膨大な魔力。四枚羽が示す通り、魔力量は大罪をも凌ぐ程だ。そしてその無意識の力は、大罪にだって通用していた。効果は変わらず発揮され、ゾーンは意識の外に潜り込んでいる。誰も、ゾーンの存在を認識出来ない。誰一人抵抗出来ない、自分だけが思い通りに動ける場所、それが無意識下だ。無抵抗な相手を、自分は思い切り傷つける。誰も殴られた事にすら気づけない、地面を転がっても倒れた事にも気づけない。例え死んでも、それに気づけない。意識出来ないということは、絶対的な『下』を意味する。






 ――――筈だった。






 ゾーンは、倒れていた。ディッシュの背後から襲い掛かった筈のゾーンは、攻撃を空振りし、そのまま偽ゲルト城の屋上を転がった。



(…………外した? 避けられた? いや待て落ち着け、俺は全て認識してる、覚えてる)

(攻撃は外れたんだ、俺の拳が届くより先に、先に……)



 自身の脇腹に手を伸ばすが、そこにある筈の身体がない、感覚もない。脇腹が抉れ、下半身が千切れ落ちていた。



(…………食われた…………!?)



「ん? あぁそこか」



 動揺で能力が剥がれた、こちらの姿を認識した暴食が手を振り上げる。振り下ろされる前に、もう一度意識の外に飛び込んだ。肉体を再生し、翼を広げディッシュとの距離を詰める。



(何をされた!? さっきは嫉妬が何かしてきたのは分かった、能力に干渉されたのが理解できた)

(だが、食うしか能のない暴食が、どうやって俺の無意識を……!)



 距離を詰め、拳が届く範囲に入る。その瞬間、ディッシュは腕を振り指が牙となる。まるでオートだ、自動攻撃だ、自分自身ですら認識していない一撃が、凄まじい速さと正確さで襲って来る。ギリギリで顔を逸らすが、親指が頬を掠めた。それだけなのに、掠めた部分が抉られた。魔素で出来た身体が、光る指に吸い込まれていく。



(なんなんだこいつっ!! なんで意識の外にいる俺を……!)



「どこに潜んでいるかは、まぁ分かんねェし認識出来ないけどなァ」

「食は本能だ、ボクはこの牙で抉り、獲物を喰らう…………そこに意識なんて向いてない」

「大した魔力だ、能力だ、好きに生き伸び伸びと育ったお前は、まァ上位の悪魔と呼べるだろうなァ」

「けど、そんだけだなァ……つまみ食いなんか、一々考えてやんねェよ」



(化けも……!)



暴食追牙マップヴァイト



 何気なく、軽く横薙ぎに振るわれた暴食の右手がゾーンの肩に当たる。無慈悲な牙の軌道が、ゾーンの左肩を抉った。



「っ!?」



「あァ、そこにいたのか」

「誇って良いぞ、お前は割と美味い」



 認識阻害が剥がれた。再発動する前に、ディッシュの両手に左右の翼が掴まれた。



「っ!!? はな、離せっ!!」



 突き出した拳が顔面を捉える、次の瞬間激痛が走った。右腕が、食い千切られた。



「ひっ!?」



「再生力も高い、魔力の質も良い、お前は確かに強い…………けど、それだけだなァ」

「まさかとは思うけどよォ……翼の数や魔力の多さだけで、ボク達の上にいるつもりだったかァ?」

「先輩はちゃんと正しく崇めろよ、格下ァ……!」



 翼に指が食い込み、痛みと恐怖が全身に広がる。無意識に逃げられない、この恐怖は意識を汚染する。抵抗する間もなく、左右の翼が乱暴に千切られた。落下する途中、千切られた翼が光る手の中に吸い込まれるのが見えた。理解した、これは戦いじゃない。一方的な食事に過ぎない。





(勝てない、絶対に)





 残った翼を広げ、ゾーンは己の最高速でこの場から離脱した。意識の外に潜り込み、誰にも気づかれないように全速力で逃走を図る。



(ふざけるな、なんだあれは、勝てるわけない、常識の外の存在だっ!!)

(幸い、無意識が通用していないわけじゃない……意識の外に居れば逃げ切れるっ!!)



 そう、無意識というのは恐ろしいものだ。認識出来ないというのは、ただ目に入らないものよりずっと恐ろしい。あると思ってないから、対応が遅れてしまう。気づけないだけで、思わぬ不覚を取る。ゾーンは気づいていなかった、偽ゲルト城の屋上が、水のドームで囲まれている事に。



「存在に気づけずとも、何かが水を通り抜ける感覚までは消せやしないぞ」

「そしてその感覚は、エルフの二人に託した」



 アクアとネプトゥヌスが張った水のドームは、逃走対策だった。万が一ゾーンが逃げようとした場合、無意識の能力を使われたら追撃は不可能、対策無しじゃ確実に逃げられる。圧倒的劣勢の中、強者が逃げ出す可能性なんてあるわけがないと思うだろう。だが、大罪の登場によりその可能性が生まれた。四枚羽だの魔力量だの、要因は確かにいくつかあった。だがそれらを容易く捻り潰し、圧倒する未来がレラには見えた。万が一だろうが億が一だろうが、自分達は出来る事を全てやる。全ては、確実な勝利の為に。



「当てろよピリカ、俺の魔力も全部くれてやる」



「狂さんの毒をこの辺の魔素に加え、数百の変化を起こしたこの一撃……四枚羽の悪魔といえどただじゃ済みませんよ」

「逃げるなんて許さない……! 貴方の意識に敗北を刻み込んでやるっ!!」



 倒れながら必死に生成してくれた狂の毒、それを加えたレラとピリカ二人の魔力。魔力は巨大な矢を形作り、意識の外の悪魔を捉えた。ゾーンの頭には暴食から逃げる事しかない、それ以外は意識の外だった。



「敗因は舐め過ぎたことだなァ、上も下も、お前は舐め過ぎたんだ」

「もっと意識を向けるべきだった、正しく理解しなきゃ、簡単にミスるもんだ」

「慢心した強者の足元は、あまりにも脆い」




(早く……皆のところに……! ………………え?)




「「”毒嵐一穿どくあらしいっせん”っ!」」



 螺旋状に回転した紫色の矢が、音を置き去りにする速度でゾーンを射抜いた。当たった矢はゾーンを貫通する事なく、傷口の中に溶けるように吸い込まれる。すぐに毒が効果を発揮し、傷口から全身に広がっていく。



(毒……!! しかもなんだこれ、この症状の多さは……!)

(視界が歪む、吐き気が……どっちが上だ、不味い不味い不味い……!! 再生出来ない、毒を消せない……!!)

「格下が……雑魚の分際で……よくも……!!」



「えぇ、私達は貴方に比べれば弱く、小さな存在です」



「っ!!」



 空中を幾つもの水撃が走り、その中を泳いでシーが距離を詰めていた。それに気づいたところで、既にゾーンの身体は対応出来ないのだが。



「だからこそ、力を合わせるのです」



「やめ、やめろ……! 待ってくれ、助け……!!」



「”水流双刃”・”八重ノ蛟やえのみずち”」



 八連の水刃が振り下ろされ、毒に侵されたゾーンを地上に叩きつける。本来なら再生されるであろう攻撃だが、毒により再生も抵抗も叶わない。四枚羽の悪魔は、意識を保つ事すら許されない。



(馬鹿な……俺が……こんな奴らに……)



「束ねた力は未来を切り開くと、私達はあの子に教わりました」

「私達の夢は、無意識なんかに潰させない」



 シーが双剣を収めると同時に、ゾーンの意識が完全に途切れた。その瞬間、国全体を覆っていた霧が夜空に散っていった。



「お、おぉ!? 勝ったのか!? 霧が晴れたぞ!!」



「嫉妬しちゃうね、力合わせて勝利とかさ」



「いや! まだ終わってないぞ! レヴィも力を貸してくれ!」

「私は切り札だからな! 目指すは完全勝利だっ!!」



「威勢がいい切り札だね、嫉妬で落としちゃいそうだよ」



「やめてっ!!?」



 無意識の霧が晴れ、仲間達は互いを称え合う。国中が異変に気付き、波紋が大きく広がっていく。悪魔の手に堕ちた国が、その手の中で暴れ出す。飲み込むか、抜け出すか、この夜でケリが付く。



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