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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十五章 『虚像を照らすは月明り、零れる欲と怠惰の声』
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第六百十三話 『同じじゃないから』

 コピーされたゲルト城の上で戦い続けるレラ達は、時折大きく国が揺れるのを感じていた。桁外れの力が、地上で暴れている。気にはなるが、構っている余裕はない。自分達の相手は、よそ見なんて出来る相手ではないのだ。



「下も気になるが……!」



「大概っ! こいつも化け物だよっ!」



「誉め言葉として受け取っておく、それにお前達も大したもんだぜ」



 レラの飛ばす無数の刃を腕で弾き、ピリカの放った無数の魔法を力任せに拳で砕く。二人がかりの物量攻撃は、ストレートな力技で真正面から防ぎ切られた。



(信じられねぇ……! 不完全とはいえ、まだ完ぺきではないとはいえ……! 英知技能マルチメントに入ったピリカの魔法を正面から凌ぎやがったっ!)



(長くは続かないとっておきをこんなに早く使ってるのに……出来るだけ削っておきたいのに……! 一発も有効打がない……!)

(ただでさえ今日二回目……いや、焦るな、思考を乱すな……! 強敵なのは始めから分かってた、この後の事は考えるな、わたし達は持てる全てを出し尽くして刺し違えてでもこいつを倒す……!)



「たかがエルフ二匹が、辛うじてではあるが俺と渡り合っているんだ、お前達の事は意識に刻んでおこう」



「その余裕がどこまで続くか見ものだなっ! ピリカッ! 量より質だ、魔力を貯めろ!」



 刀を構え、レラは塔の上を全力で駆け抜ける。ゾーンは翼を広げ、狭い屋上から飛び上がるように飛翔する。



(近接系の小僧は、風の力が一番得意か……低空なら空中を跳ねて斬りかかってくる)

(より厄介なのは、女の方だな……何をしたのか知らんが先ほどとは比べ物にならん魔力だ、小僧の動きに合わせ様々な魔法が飛んでくる、息の合った動きだ面白い)



「”風切刀かざきりとう”・”弾き疾風はやて”」



(レー君の風の刃の影を這うように……!)

「”探求心にマルチプル果ては無しエンドロール”っ!」



 高速で宙を駆け、レラは風の刃を連続で放つ。その裏を縫うように、ピリカの魔法がゾーンを襲う。だがその大半は避けられ、僅かな当たりも殆どダメージを感じられない。



(動きを封じる封印系の魔法も、糸みたいに千切られる……単純に素の能力が馬鹿強いのですよ……!)



「このっ!」



「気づいていないわけじゃあないだろう、無意識以前の問題だ」



 レラの刀が、空中でゾーンの腕にめり込んだ。一撃じゃ切断出来ないほど硬い上に、刀身が再生力に押し負け弾かれた。



「知らない筈がない、悪魔の、いや……魔力を持つモノにとっての翼の意味を」



「っ! 四枚羽の事なら、当然っ!」



 空中で態勢を整え、ピリカを庇うような位置取りをしつつレラは刀を構え直す。息を整え魔力を練り直すピリカに、意思の折れないレラ、二人を感心したように眺めるゾーンはその翼を大きく広げた。



「知っていて尚、無意識を抜け尚、挑む姿勢は勇敢か……いや、無謀だな」



「チィ……!」



(…………翼は、魔力の象徴、悪魔や天使は階級、力が強いほど翼の枚数が多いとされます)

(…………鳥人種ハーピーの上位種は声に魔力を乗せ、翼の美しさも上がるという……龍種も力の強いものは力強い翼を持つ、その他強力な種はその特徴の多くが翼に現れる)

(魔力だけじゃない、自然の力も極みの域に近づけば自然とその力は背に翼として現れる……わたしは天焔闘技大会でクロノ様の精霊技能エレメントフォースを見て、だからこそ興奮したんだ……)



「魔力管は指先などの末端、そして肩の辺りに集中してる」

「向きの関係上、膨大な魔力を内に宿すと自然と肩の辺りから魔力は翼のように吹き出すようになる……肉体が自然界の力で構成される精霊、そして天使や悪魔はその溢れる力がいつしか肉体の一部となっていく」

「力が増せば翼が増えていく原理はこれだ、意識せずとも勝手に漏れ出す力が受肉していく」

「意識して違った形に整える奴もいるが、放っておく奴が殆どだな」

「分かるか? 翼の数は純粋な力を表してる、四枚羽の俺は魔力量だけなら現状大罪様より上だ」

「なぁ、勝てる道理がどこにある? この答えは無意識の中でも見つかるはずらぁ……」



 言葉の最後を待たず、レラの刃がゾーンの口を切り裂いた。



「くどい」



「貴方は、わたし達が倒します……必ず、絶対」



「…………かひに……ぬぅ、仮に……俺を倒せたところで、無意識に覆われた絶望を知る事になるだけさ」

「夜が来れば、何もしなくとも知る事になる、お前達が勝つことはない」

「それにさっきから気づいてる筈だ、俺の無意識を貫くこの揺れが、造られた悪魔が解き放たれたんだろう」

「歪だが、非道の限りを尽くした欲の化身、最悪の六枚羽だ、どこに希望があるというのだ」

「俺は悪魔だが、まぁ頑張る奴は嫌いじゃあない、お前達は弱いなりに頑張った、抵抗をやめるなら無意識の中痛みなく殺してやるぜ」



 慈悲とも取れる言葉、ゾーンはゆっくりとレラ達に手を伸ばした。レラは刀を下げ、その手を素手で引っ叩く。



「お前の慈悲は、俺達に対する侮辱だ」

「上から目線はやめろ、俺達は全部をかけてお前に勝つ」

「どれだけの絶望が、この霧の中に隠れていても……最後に勝つのは俺達だ」



「わたし達は、仲間を信じています」

「仲間達に希望を託す為にも、貴方の無意識はここで晴らす!」



「…………攻撃を重ねても俺には効かん、仮に傷を負っても俺を倒すには至らない……悪魔への決定打に欠けるお前達に何が出来ると…………?」



 妙な感覚に、ゾーンは言葉を区切る。足が動かない、いや、そもそも言葉を区切ったわけじゃない。足が動かないだけじゃない、声が出ない、身体の自由が利かない。



(足に……針……これはっ!?)



「それに……俺達だけじゃ勝てそうもないなら、力を束ねるだけだぜ!」



「わたし達が希望を紡ぐように、わたし達に希望を繋ぐ方も居るのですよっ!!」



「希望って程大層なもんじゃないですけどおおおおおおおおっ!」



 下から水流で押し上げられた狂が、ゾーンの足に毒針を打ち込んだ。その隙を見逃さず、ピリカは会話の最中も練り続けていた魔力を解き放つ。渦のように圧縮された無数の魔法がゾーンの胴体に直撃し、花火のように弾け飛ぶ。




「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」




「行くぜピリカッ!! 残った体力、魔力っ! 全部ぶつけるっ!」




「無意識で見て見ぬふりはさせない、貴方の意識に敗北の文字を刻んでやるっ!」




 派手な爆発音に続き、レラとピリカはゾーンに飛び掛かる。偶然にも、その音に続くように地上ではクロノがジュディアに飛び掛かっていた。



(ジュディア……! 報告にあった名前、強欲の器になっているという元勇者の精霊狩りっ!)

「クロノ少年ッ! こちらは気にするな! 俺は死なんっ!!」

「そいつも大罪なら! 放置は出来ん案件だっ! あの大暴れしてる化け物は化け物故に認識阻害の中でも位置は分かりやすい! 悔しいがこの俺の煌めきより現状目立ってる!」

「俺は引き続き奴を止める! 君はそいつに集中してくれっ!」



「助かるっ!」



「だろうっ! サインなら全てが終わった後で幾らでも!」



「ならっ! 死ぬなよっ!!」



「死なんさっ!」



 位置替えで姿を消したバロンを尻目に、クロノは宙を駆けジュディアに突撃する。拳を構えるクロノに対し、ジュディアは魔力を纏った右腕を振るう。重力が横に薙ぎ払われ、周囲を大きく粉砕した。咄嗟に上に飛んだクロノだが、建物の中にはまだ一般人や魂を抜かれた人がいるかもしれない。ここで戦うのは、危険すぎる。



「テメェ……!」



「はぁっ!」



 空中を回転しながら飛び回るクロノ目掛け、ジュディアはメリュシャンで見せた毒霧を吐き出す。クロノは風で毒霧を払い飛ばすが、寒気を覚え手を上にかざす。真上に炎を撃ち、身体を地上に打ち出すように加速する。頭の上を、嫌な力が突き抜けた。忘れる筈がない、精霊の力を強制的に無力化し、契約者から引き剝がす精霊剥離アンチエレメントの力だ。



「全部奪い取って踏み躙ってやる、精霊使いぃっ!!」



(前と同じなら、第二段階の精霊技能エレメントフォースなら剥がされないはず……けど不確定なまま突っ込むのは嫌だ、もう二度とこいつに精霊ともだちを奪われるのは嫌だ)

(俺も前とは違う……精霊剥離アンチエレメントだって能力だ……水の力で斬れるか? それとも精霊の力だから不利か……?)

(いや……!)



「前と同じと思うなよぉっ! 奪った力はまだまだあるぞ、ヒヒャハハッ!」



 空中に黒い穴が開き、そこから火球が打ち出される。左右に高速で駆け、クロノはジュディアとの距離を詰める。拳を握ったクロノに対し、ジュディアは両腕を広げ精霊剥離アンチエレメントを展開した。



精霊剥離アンチエレメント…………空域エリア!」

「前と同じと思うなよぉっ! 精霊の力は確実に消すっ! 何重にも重ねた対精霊バリアだっ! 能力に過信せず万が一もないように重ねに重ねた究極防衛バリボォェッ!」



「”暗獄解放””黒の手”!」



 右目から黒い魔力が吹き出し、クロノを黒い渦が包み込む。渦が左腕を飲み込み、巨大な黒い拳がジュディアの顔面を殴り抜く。



「前と同じと思うな……? それはこっちの台詞だぜっ!!」



「こ、の……!」



 吹き飛びながら、ジュディアは手をかざし黒い穴を作り出す。重力を打ち出し、遠くで気絶していたアッシュを弾き、ワープ能力で自分の手元に引きずり出す。



「!?」



「ヨコセ、ヨコセヨコセヨコセ……! 力をヨコセァアアアアアアアッ!!」



 アッシュの身体から能力を抜き取り、自身の身体に取り込んだ。魔力その物も取り込んでいるのか、ジュディアの力が増していく。



「お前……どこまで……!」



「前と違う、ヒヒャヒャハ……僕はついさっきとも違う、奪って奪って変わっていくんだ……ヒャハヒヒャハ……!」

「精霊は勿論、人も、悪魔も……全部全部ゼンブッ! ッカヒ、アァッ!?」



 狂ったように笑うジュディアを見て、クロノは拳を握り締めた。怒りだけじゃない、今はそれ以外の感情も持ってしまっている。



(俺はこいつとの初戦を知らねぇが、随分とまぁ歪んだ男だな)



(……エティルちゃん的には、良い思い出がないんだよね)



(僕達も正直、何もしていないも同然だからなぁ)



(…………ね、クロノ……同情してる、余裕ないよ)



(……分かってるよ……)



 同情なんてしたくない、こいつは敵だ、悪い事をした敵だ。でも、知ってしまった。知ってしまった以上、見て見ぬふりは出来ないんだ。強欲を取り戻す為の戦いだし、落とし前を付けさせる戦いでもある。だけど、自分の性格上無視は出来ない。『同じ』精霊使いとして、自分はこいつを、助けたい。



 知ってしまったからには、自分は手を伸ばすんだ。



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