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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十五章 『虚像を照らすは月明り、零れる欲と怠惰の声』
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第六百九話 『上空の死闘』

 空を駆け、逃げるアッシュを追走するクロノ。狂化の影響で感情が暴走しかけるが、そんなクロノを両サイドからフェルドとマルスがぶん殴ってきた。



「痛ぇっ!?」



(理性無き怒りは後悔しか生まないぞ、しっかりしろ)



(前にも言ったよな、冷静に怒れってよ)

(お前が狂ってどうすんだ、しっかりしろボ契約者)



 両の頬がジンジンする、視界もチカチカする。大丈夫、味方の声は鮮明だ。クロノは自分の胸に手を当て、水の波紋を身体に打ち込む。失敗は出来ない、ここを落とせば戦況は大きく傾くことになる、何より自分を先に進ませたバロンに顔向けできない。イライラは飲み込め、狂気すら乗りこなせ、怒りをコントロールしろ。




「大丈夫、俺にはお前達がいる……狂気に飲まれることはない!」




 風の精霊球エレメントスフィアを踏み砕き、両足を風化させる。一気に加速し、三回方向転換を挟みながらアッシュとの距離を一息に詰める。



「!?」



「お前が俺を狂わせるってんなら、お望み通りこの怒りテメェにぶつけてやらぁっ!!」



 渾身の蹴りがアッシュを捉え、鈍い音と共に悪魔の身体が吹き飛んだ。血を吐き出し、アッシュの顔は苦悶に歪む。



(速い……! この人間……人間のくせに、くせに……!)



(いっけぇー! クロノーー!)



(このまま、一気に……)



 脳内にガンガン響く精霊の声に応えるように、クロノは両手で精霊球エレメントスフィアを生み出す。足元には風の精霊球エレメントスフィアを生み、両足を風化、両手は水化させ態勢の崩れたアッシュを狙う。



(クロノ、畳みかけろ! 相手は悪魔、物理攻撃じゃ仕留めきれない!)



(分かってる! 水の力で心を刈り取る、意識を奪えば能力も切れる筈だ)

(最優先は暴食を狂化から救い出す事、時間はかけられない、このまま一気に倒す!)



 両手を水の刃と化し、クロノは一本の矢の如く加速する。アッシュの身体に刃が触れるその瞬間、クロノの全神経が警報を鳴らした。認識阻害でどんな事にも気づけないこの状況でも、『それ』は存在を主張してくる。危険が阻害の霧をぶち破り、地上から襲い掛かってきた。紙一重で宙を蹴り上に飛んだクロノは、さっきまで自分が居た空間が殴り抜かれるのを見た。



「こいつ……!」



「ケヒャッ……やっちまえ、まえ……デモリッションッ!!」



「がああああああああああああああああああああああああああああああっ!」



 六枚羽の化け物が、天を仰ぎ咆哮する。その両腕は、血に染まっていた。巨躯が放つ威圧感は、今まで相対した悪魔の比ではない。



(血……バロンさんは……!)

「…………ッ! この野郎……そこを退けっ!!」



 左手に炎の精霊球エレメントスフィアを構え、クロノはデモリッションに殴り掛かる。それを見たアッシュは笑みを浮かべ、再び翼を広げ距離を取る。



「馬鹿……馬鹿め……デモリッションは破壊の権化、僕達の傑作、最高傑作だぞ……ケヒヒッ」

「お前如きに、如きに……倒せるわけがない、ないんだよ! ケヒヒヒヒッ!」




「”活火山”!」



 爆撃のような音と一撃がデモリッションの鳩尾に叩き込まれるが、手応えの割にその巨体はビクともしない。痛みに怯むこともなく、デモリッションの両腕が左右からクロノを狙う。本能がずっと警報を鳴らしている、喰らえば不味い。相手を蹴りつける事で後ろに飛び、クロノは何とか相手の両腕から逃れる。嫌な汗が止まらない。



巨山嶽きょざんがくの上からでも、あれを受けるのは不味いぞクロノ)

(仮に三重トリプルでも、受け切れるか微妙だ)



(破壊の権化とはよく言ったもんだぜ、一撃でもまともに貰えばあの世まで特急便だ)



 肌で感じる危険度は、目の前の怪物に集中しろと叫んでいた。視界の端ではアッシュが逃走するのが見えている、焦るクロノだが心を乱せば相手の思うつぼだ。デモリッションの両腕は血に染まっている、足止めしていたはずのバロンを思えば、感情が怒りで塗り潰されそうになる。だが、ここで乱すわけにはいかないんだ。



(落ち着け、こいつを瞬殺するのは不可能だ……余力全部こいつに注いでも、どうにかなるとは思えない……認めろ、こいつは今倒せない……!)

(頭を冷やせ、冷静になれ……! 俺は何のためにここにいる、何のために前に進ませてもらったんだ! 自分のやる事を見定めろ、それは可能か判断しろ、不可能なら可能にするために足掻け偽勇者っ!)



 デモリッションが翼を広げ、クロノ目掛け襲い掛かる。凄まじい速度で突っ込んでくる巨体は、その拳を握り締め殴り掛かってくる。単純に速い、そして強い、シンプルな強さが迫ってくる。逆に言えば、それ以外は無い。クロノは風の力を一旦切り、自由落下で相手の拳を避ける、瞬時に宙を蹴り、デモリッションを振り切った。



(こいつに構ってる暇はない、絡め手はない分、全感知をこいつに向ければ回避は出来る! 認識阻害をぶち抜いてくるこいつに限って感知は働く! あのクソ悪魔はマルスの能力でどんだけ逃げても位置は割れる!)

「逃がさねぇぞ、クソ悪魔ああああああああああああああっ!」



 超加速で空を突っ切り、逃げるアッシュを追いかける。次の瞬間、ゲルトの空で複数の大爆発が巻き起こった。能力というより、高密度の魔力がそのまま弾けたような爆発だ。咄嗟に爆発の中心から逃れたが、余波はクロノの身体を大きく吹き飛ばした。



「…………っ! ふざけんなよ……!」

(あの怪物、魔力を投げてきやがった! 圧縮された魔力がコントロールを失って爆発した! 力任せの暴走技だ……脳筋の極みのくせに遠距離持ちかよ!)



(しかも魔力を投げる為に振るった腕が風圧を放ってきたぞ ここが地上なら建物が消し飛んでるところだぜ)



(広範囲の破壊で他の悪魔が巻き込まれても、向こうにとっては有効打になり得ない、一方的に不利だね)



 分析は精霊達に丸投げだ、今はそれどころじゃない。即座に態勢を立て直すクロノの前に、既に怪物は迫っている。



「がああああああああああああああああああああああああっ!!」



「くそ……邪魔するなデカブツッ!」



(ひーん! 足止めしてたキラキラさんは何してんのさぁ!!)



(やられたんじゃねぇの、考えたくねぇけどよ)

(仇討ちは後回しだ、残酷だがここは戦場、振り返ってる暇なんざねぇ)

(こいつを振り切ってあのクソ悪魔を倒せなきゃ、どの道俺達にも明日は拝めねぇぞ)



 デモリッションの猛攻をギリギリで避け続けるクロノだが、その間にアッシュはどんどん遠くへ逃げている。このままでは、時間と体力だけが削れていく。歯噛みするクロノだったが、その意思は決して挫けない。そんな思いに応えるように、地上で潰され、人型を失った何かが片腕を上げた。グチャグチャになっているそれは、惨状の中で軽快に指を鳴らす。軽い音が響き、腕は力を失いパタリと倒れた。命の気配が消え、数秒沈黙が辺りを包み込む。そして絶望を笑い飛ばすかのように、人型だった物はそこから消えた。入れ替わるように、その男は血塗れになったステージの中心に立っていた。






「さぁ、第二幕と行こうじゃないか」

「絶望の中でこそ、チャンスは眩く輝くものだ!」






 その身体は無傷だ、構えた剣も折れてはいない。ただ変わらぬ輝きを身に纏い、劣勢に対し高らかに宣言する。絵札の役目は切り札を守る事、決して先に倒れたりはしない。困難に怯む事もない、理想を諦める事もない。描いた夢を実現するまでが、挑む者の役目だ。国の上空で鳴り響く轟音、そして交差する二つの点、見上げた絵札は楽しそうな笑みを浮かべた。




「君の頑張りと、俺のタイミングだな……魅せてやろうぜクロノ君」

「刮目しろよ悪魔共、ひっくり返るのは一瞬さ」




 そのマジックは、不利有利すら入れ替える。



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