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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十五章 『虚像を照らすは月明り、零れる欲と怠惰の声』
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第五百九十三話 『再突入』

 最初に正門を潜った時、違和感は無かった。だが、今は違和感しか感じない。目には映らないが、魔力が霧のように漂っているし、そもそも人の気配が全くない。静けさが、国の死を語っているようだった。



「さぁてここからシトリンとコロンには全力で探りを入れてもらうぜ」

「メリュシャンの王は権力を武器に王との謁見を求めているとか、まぁ心底嫌な男だが実力は確か……彼には彼にしか出来ない役割があるだろうし後回しだな」



「リーダーの本音は?」



「エルフの可愛い子や美人人魚さんの救出こそ最優先だろう!」



(ブレねぇなぁこの人……)



「クロノ少年なんだいその目は、心配するな君の友人は必ず全員無事に救い出すさ!」

「この場にルト様が居たら俺と同じことを言っているとも! 我々は救いを諦めない!」



「ま、その点に対しては反論はないですけどねー」

「行くよシトリン、お仕事の時間じゃい」



 コロンを乗せた段ボールが、路地裏へと消えていく。ゲルトは表通りも賑やかなほうではなく、国全体が冷たい空気を纏っていた。前に来たときはスピネルが路地裏に死体が転がっているとか言っていたが、この状況じゃそれすら冗談になっていない。



「さて、クロノ少年分かっていると思うが……」



「はい、敵陣のど真ん中……油断しないように行きましょう」



「セツナちゃんがドジるまでそう時間は残されていない」



「………………」



「俺達はセツナちゃんがドジるか、彼女のメンタルが限界を迎える前に暴食の裏にいる奴を成敗しないといけない」



 改めて言われると複雑だが、セツナの震え具合を考えるに猶予はとてもじゃないが夜まではないだろう。仮に優勢を取り、クロノ達が夜まで戦い続けられたとしても切り札がドジってやられてましたじゃ話にならない。ある意味、今一番危険な場所で踏ん張っているのはセツナとレヴィだ。



「俺はセツナを信じてます」



「そりゃ俺だって切り札ちゃんを信じてるさ、そして信じられてる自覚もある」

「だからこそ、やり遂げるために物事の優先順位を決めておくぜ」

「クロノ少年、今からこの戦いが終わるまで……俺の命は最優先で無視するんだ」



「…………何言ってるんですか」



「君は俺には敵わないが中々のイケメンだ、ルト様が評価するだけの救いの想いを持ってる」

「でも君はまだコントロールが甘い、誰かを守ろうとして戦況を不利にした事もあるだろう」

「君の手は本当に救いを求めている者に伸ばすんだ、俺の事は気にするな……俺は一人でも輝ける、眩しすぎる程に……!」



 右手で顔を覆い、大袈裟にポーズをとるバロン。一見アホにしか見えないが、その言葉はクロノに重くのしかかる。的確に弱点を突かれ、何も言い返せなかった。現に精霊全員がほぼ同時に頷くのを心の中から感じた。



「善処……します」



「善処じゃだめだ、約束しろ」

「仮に目の前で俺が殺されても、君は俺より他を優先するんだ」



「それは……」



「安心しろ、俺は死なない」

「信じろ少年、言っただろう格好いいところを見せてやると、俺は信頼を裏切らん」

「何故なら……絵札っ! だからなっ! 断言しよう、この戦いが終わった時、君は必ず俺の大ファンになっている!」



「…………じゃあ、その時は出来る限り崇めるんで、死なないでくれよ」



「俺は仲間との約束は破ったことがないんだ、自慢じゃないがな」

「さてクロノ少年、君の手には俺のサインが刻まれている、敵陣に踏み込みながら少し補足説明だ」



 先導するバロンが懐から何かを取り出した、先ほどから目にする拳大の機械だ。



「これはアゾットで作った俺用の媒体だ、詳しい説明は省くがこれは俺として認識してくれ」



「良くわかんないですけど……」



「前にもチラッと話したが、俺の能力は対象同士を入れ替える能力、視界内ならマーキング不要、マーキングしてあれば距離も関係なしだが燃費は最悪だ」

「正直、連発すれば俺の煌めきは流れ星のように一瞬だろう、特別魔力が多いわけでもないからな」

「俺が対象に含まれている場合は消費魔力は格段に抑えられる、俺の魔力でマーキングしている場合も多少は緩和される、だからこそこの媒介を利用し節約して能力を使おうって話さ」

「特に視界内だからってマーキング無しで2つの位置を入れ替えるのはきつい、魔力全快でも一日十回持つかどうかだ」



「正直強すぎる能力だと思ってたけど、流石に乱発にはリスクありか……」



「だがクロノ少年にはマーキング済み、そして事前に打ち合わせもできた」

「君は戦闘中、出来る限り俺のばら撒くこいつにも気を配ってくれ」

「位置の入れ替えは互いに認識して初めて真価を発揮する、君の動きに俺が合わせ、俺の考えを君が汲む事で戦闘は何倍も有利に運べる筈だ」



 前にバロン達がヘディルと戦っていた時の事を思い出す。凄まじい速さの位置入れ替えは、確かに強烈だった。



「……なるほど」



 クロノが考えを巡らせていると、不意に周囲が殺気で埋め尽くされた。建物の屋根や壁から、真っ黒な人型が浮かび上がってきた。



「おっと……一般人のコピー体かな?」

「ふっ!」



 早い、バロンが周囲に媒体をばら撒いた。周囲の気配が認識阻害の影響で掴みづらい中でばら撒かれたそれは、暗闇の中で線を描く火の玉くらい鮮明に映る。周りの殆どが霞に覆われている状況で、必要以上に煌めく気配がはっきりと感じられる。しかも媒体に込められた魔力が、ランプのようにチカチカと光っている。魔力の大きさが違う、あれは順番だ。クロノは即座に理解し、両足で風の精霊球エレメントスフィアを踏み砕く。




「即断即変え、色彩連転クイックネスチャンジャーッ!」




 媒介とクロノの位置が入れ替わり、クロノは即座に空中で回転、すぐ傍のコピー体を蹴り飛ばす。半回転もしない内に次の場所と入れ替わり、途中だった蹴りが別のコピー体に命中する。一瞬で数十回位置を変え、周囲のコピー体が薙ぎ倒される。



「良いねクロノ少年、勝ちの煌めきが見えてくる」



「この程度なら幾らでも、感知できる範囲で合わせるよ」



 バロンのすぐ傍まで位置替えで戻されたクロノだったが、ばら撒かれた媒介全てがバロンの手元に戻ってくるのを視界に捉えた。



「やっぱそれ反則じゃない?」



「はっはっは! 惚れるなよ!?」



 高らかに笑うバロンに圧倒され、クロノは気づけなかった。だが、クロノの中のティアラはバロンの様子に一抹の不安を感じていた。確かに消費は減っているが、バロンの魔力は凄まじい勢いで消費されている。どう考えても持たないペースで、彼の魔力は減っていた。額に浮かぶ汗を拭い去り、それでも笑顔を絶やさない。無茶の果てに、栄光は輝くのだろうか。




















 その頃、ゲルト近くの海岸で大きな爆発が巻き起こっていた。不意打ちで吹き飛ばされ、今尚攻撃に晒されている狂は状況判断より先に泣くことを選んでいた。



「きゃあああああああああああああっ! 本当に夢も希望もないじゃないですかああああああああああっ!」



「あはははっ! 一人で楽しそうだなお嬢ちゃん!」



「目ェ腐ってんのかおどれはっ!! はぁ鬱もう鬱すごく鬱、鬱の毒煮込みですはい」



 翼を広げた悪魔が、狂を狙って魔法を連打する。ギリギリ直撃を避けているが、爆発魔法は地形を抉り爆風で狂の細い身体を空中に舞い上げる。無気力で空中に投げ出された狂だが、悪魔の隙を狙い指で毒針を放つ。爆風を突き抜け、毒針は悪魔の首に突き刺さった。



(いきなり後ろから襲ってきたのはそっちですし……手持ちの毒でとびっきりやばいの使いました、許可無しで使ったけど王様怒らないよね? 誰も責めないよね……? 早くシーさん達と合流しないとメンタル尽きて吐く、吐きます)



 クルクルと回転し、ネガティブを抱えたまま着地する狂。そんな彼女の背に爆発魔法が叩き込まれた。視界がぶれ、激痛が背中に走る。



「がっ!?」



「あはははっ! お嬢ちゃんがそんな汚い声出しちゃダメだよぉ」



(……!? 効いてない……? 動けるはずない、声すら出せない痺れ、細胞の壊死、一滴でミノタウロスが倒れる毒ですよ……!? 悪魔といえど……)



「良い顔してるねぇ、やっぱそうだじっとしてるなんて向いてないや」

「夜までみんながみんな良い子ちゃんで待機ちゃんじゃないんだよ、悪魔だもん、欲に忠実に行こうよ」

「君達には見えない感じない気づけない、霧の中のゲルト・ルフでも僕達からすれば丸見えだからね、遊びに来ちゃった」

「特に君が面白そうだ、この匂いって毒でしょそうでしょ? 懐かしいなぁ、僕って人間だった時お医者さんだったんだよ」



「っ!」



 飛び起き、距離を取る。相手の足元に毒煙玉を投げ込み、ありったけの毒を塗ったナイフを投げつける。悪魔は毒煙の中に飲み込まれ、シルエットにナイフが何本も突き刺さる。そのシルエットがナイフを引き抜きながら、笑顔で毒煙の中から歩いてきた。



(……っ……物理攻撃が悪魔に対して効果がないのは百歩譲って良いです、でもどうして毒が……)

(痛みに怯む様子もないし、毒の効果が一つも……)



 悪魔にだって毒は効く、経験上間違いはない。精霊に近い悪魔は物理攻撃では滅ぼせない、間接的な方法じゃないと滅せない。だからこそ、狂の毒は決して相性が悪いわけじゃない。良い悪いでいえばむしろ良い方だ、事実仲間から任せられた事だってある。



「あぁごめん名乗ってなかったよね、僕はトリュフ、今から君を嬲り殺す悪魔みたいな男さ」

「ところでこのナイフに塗ってる毒はアカグロカブトから作った毒だよね、最悪失明するよえげつないなぁ」

「でも残念……僕の能力は活性化なんだ、生きる力をむんっ! って出来るんだよ」

「物理的に死なない悪魔の身体を活性化するとね、毒なんて消えちゃうんだ凄いだろう?」

「一瞬苦しいけど、多分死ぬラインも無視できる悪魔ならではだよね荒療治で笑っちゃう」

「人間だった頃他人にやって面白可笑しく笑ってたのに、今じゃ自分にそれして無双するのって凄いよねぇ」

「あぁこれ? 言ったろ? 生きる力をむんっ! ってしてるんだ、生命の煌めきって爆弾みたいだね」



 ケラケラと笑いながら、悪魔が手のひらから光の玉を生み出し投げつけてくる。生命エネルギーの塊が文字通り爆発し、直撃した狂が吹き飛ばされる。吹き飛びながらもナイフに別の毒を塗り、空中で身を捻り投げつける。避ける素振りも見せず、トリュフはナイフを胴体で受け止める。刺さった個所が一気に紫色に染まり、トリュフは口から吐血する。だが、次の瞬間には変色した個所は元通りになっていた。



「僕はさ、昔っからどうにもならない絶望に直面した子の表情で興奮するどうしようもない屑だったんだ、悪魔に堕ちたのは当然の報いだよね……」

「もう治らない難病、解放されることのない苦痛の日々……そんな可哀想な哀れな子に活性化での救いをちらつかせる、そして爆ぜる人体、飛び散る血肉、響き渡る断末魔……医者は僕の天職だったよ」

「そして悪魔もまた天職、違った形での絶望を楽しめる……生きるって素晴らしいよ、夢と希望に満ち満ちている」

「ごめんねお嬢ちゃん、人生に絶望している君で僕は最高に楽しむから……お願いだ、沢山苦しんで、足掻いて、最後には壊れてくれ」



 投げつけられた生命エネルギーが狂の肩にめり込み、活性化で限界を迎えたエネルギーが大爆発を起こす。ボロボロになった狂は高所から地面に叩きつけられ、まるでゴミのように地面を転がる。脳裏に浮かぶのは、役立たずと捨てられたあの日の記憶。自分は確かに絶望と歩んできた、活力とは無縁だった。だけど、今日まで生きてきた。生かされたあの日から、今日までの軌跡は確かに自分のものだ。絶望してばかりだし、毎日苦しいししんどいし吐きそうだし鬱塗れだ。だけど、悪魔の玩具になんかなってたまるか。



「くそったれな人生でも、寄り添ってくれる友達が出来ました」

「意地悪の中にも、思いやりがあると最近気づけました、まだ半信半疑だけど」



「ん?」



「しんどいけど、生きていたいと、ここに居たいと、思うくらいは出来るんです」

「私は迅魔旋風じんませんぷう……毒隠れの狂……」

「貴様程度に、壊されるほど……私の絶望は脆くない……!」

「お遊び気分でここに来てない……貴様が敵なら、私の毒が貴様を討つっ!」



「良いねぇ……生命力がパンパンに詰まった風船みたいじゃないか」

「パァンって……弾ける瞬間が最高なんだよなぁ……!」



 死闘は既に、始まっている。



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