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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十五章 『虚像を照らすは月明り、零れる欲と怠惰の声』
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第五百八十五話 『四色の戦い』

 ゲルト・ルフより4つの光が上がり、それぞれ別方向へ飛んでいく。その内の一つが空中で爆ぜ、ゲルトの上空で暴風が巻き起こる。



「あははははっ! 凄いやちっさいのに力強い風だ!」



「ちっさいのはお互い様でしょ! 急に何するのさ!」



「えぇ? 僕達風の精霊は自由が売りでしょ? 何処に吹こうが流れようがとやかく言われたくない」

「僕は僕の思うままに、吹き荒れたいだけさ!」



 そう言い放ち、ランは両手で風を集め始める。悪魔と化したシルフの操る風は次第に黒ずんでいき、重く息苦しさを感じさせる。狂ったように笑い、ランは両腕を竜巻のような風で覆ってみせた。



「今は楽しくお散歩気分なんだ! 同じシルフのよしみで少し付き合ってよ!」



「あのねぇ……!」



 風を纏いエティルに殴りかかるラン、エティルはその一撃を片手で払い飛ばす。クルクルと回転しながら吹き飛んだランは、楽しそうな笑みを崩さない。



「女の子を誘うなら、方法考えた方が良いんじゃないかな」



「やっぱりそうだ、あの人間はマスターより精霊使いとして劣ってる」

「けどこの風の使い方、精霊としての格の違い……ちっさいのに君の内に秘めた風は規格外だ」

「あの人間との契約で枷が付いてるけど、本来はどれほど自由なんだろうね」



「……確かに今は、クロノの力不足でエティルちゃんは全力出せないよ」

「けど、クロノはいつかエティルちゃん達を超えていく、そこに疑いも不安もない」

「そもそも、今の状態でも君に劣ってるつもりはない……あんまり怒らせると容赦しないよ」



「分からないなぁ、全力で飛べない重荷を背負わされてるのに不満が無いって?」

「僕は全力全開の君が見たい、一緒に飛べばどれだけ楽しいか……100%を封じられてどうして満足出来るのさ?」

「無能な契約者のせいで、君の翼はもがれているのに」



 次の瞬間、ランの右半分が風によって抉られた。無言で風を放ったエティルの周囲に、風の刃が集まってくる。



「契約者への侮辱はご法度、精霊の基本だよね」

「あんまり年上をからかうとさ、お仕置きしちゃうよ」



 消し飛んだ半身を再生し、ランの肉体が変色していく。黒い翼を顕現し、悪魔化したランは歓喜したようにエティルの殺気に向き合った。



「あは、あははははっ!! 何処まででも飛べそうだよ! 君の風は本当にすっごいなぁ!」

「叱ってみろよ、ババアッ!!」



 二つの影が激突し、ゲルト上空で嵐が吹き荒れる。荒れ狂う風の余波を受け、アルディは視線をゲルトに向ける。彼は今、海沿いで災岳のノームと対峙していた。



(エティルの奴……派手にやり合っているなぁ……)

「わざわざ契約者から引き離して、君達は何が目的だい?」



「ふふふ……ふふ……」



「確かシンと名乗っていたね、用がないなら僕はクロノの元に戻らせてもらいたいんだけど」



「うふふふ……まるで巨山、契約者の力量に縛られてはいますが、秘めたる力は私を遥かに上回る……」

「あぁ素晴らしいですわ、このような愉悦過去に数えるほどにしか……」



「……出来れば会話くらいは成立させて欲しいなぁ」



「あぁ申し訳ありません、悪い癖ですわ、楽しい事があるとすぐ夢中になってしまいますの」

「我等がマスターはそちらの契約者と楽しいお茶会の真っ最中、その為貴方達のお相手を承りました」

「危害は加えませんので、どうかごゆるりと」



「面白い冗談だね、敵対している相手とのお茶? 警戒するなって方が無理な話だ」

「それにゆったり出来るわけもないだろう、少しは殺気を隠したらどうだい?」

「そっちの精霊の中で、君が一番血生臭いよ」



「あら、あらあらあら……どうしましょう……」

「そんな、ダメですわ、そのような目で見られたら私……」



 丁寧な振る舞いを見せていたシンの瞳が、紅く光った。一瞬で黒い翼を広げたシンは、周囲の地形を捻じ曲げアルディを襲う。腰を落とし、アルディは大波のように形を変えた地面を一撃で粉砕してみせた。



「うふふ……ふふふふ……」



「無視して帰るわけにはいかないかな、どうもね」



「ノームの本質は守りの力、契約者を守護する堅牢なる力」

「ですがどうでしょう、守りとは、力とは、ただの見る者の見方に違いないでしょう?」

「最強の盾は最強の矛でもある、ご覧ください! 貴方は今防御の為に地を砕いた! 防御の為の破壊です!」

「最強の防御とは全てを粉砕し、無力化する絶対な破壊……ノームの真髄は全壊だと私は悟ったのです」

「悟ったあの日から、私は目覚めてしまったのです、この衝動に……」

「ねぇ、貴方なら、それほどの力を秘めた貴方なら分かってくれますよね? 同じノームですもの!」



 シンの立つ地面が隆起し、ボコボコと形を変えていく。変化の速度も範囲も広く、アルディの前に山のような大地がそびえ立つ。アルディは表情一つ変えず、ただ拳を握り締める。



「僕は契約者の為なら、どんな困難も強敵も打ち倒す覚悟は出来てる」



「うふふ……そう、苦難も困難も砕くのが私達の……」



「けれど、この手は己の愉悦の為に血に染めるものじゃない、地に付け、再び立ち上がる為にある」

「守りの見方は各々の解釈があるだろう、そこにとやかく言うつもりはないけど……君の守る意思はどうだろうな」

「君は、自分の楽しみの為に壊したいだけじゃないのか?」

「現に今、僕を見る君の眼は獲物を前にした獣のそれだ」



「あらあら……うふふ……」

「悪魔と化したあの日から、どうしても隠し切れないのです」

「えぇ、私は全部を、壊したい……貴方も私の中で、千切れて、潰れて……楽しませてください」



「ノームの在り方なんて説くつもりは無いけどさ、君は放置できないな」

「僕等の契約者に近づけたくない、教育上ね」



 地鳴りがゲルト周辺に鳴り響く中、ティアラは海の中に居た。向こうのウンディーネに引っ張られ、上空から海に投げ落とされたのだ。



「…………不快…………」



「お前の心は分かっている、契約者と引き離された事に対しての不満」

「俺はお前に聞きたい事がある、お前は満たされているのか」



「…………?…………」



「俺は乾いている、ただの精霊だった時も、悪魔と化した今も」

「俺達ウンディーネは心に敏感だ、考えている事が透けて見える……故に分かる、この世がどれだけ薄汚れているか」

「求め欲する物がどれだけ曖昧で、現実味の無い物か、乾き続けるのが苦痛ではないか」



「…………良く、分からない……けど」

「私は、クロノと一緒、みんなと一緒……それだけで信じられる……だから苦痛じゃ、ない」

「苦しいなら、見限ってるなら……どうして、貴方は、まだ契約を続けてる……?」

「求めてるから、悪魔になるほど、欲が渇いていないから……じゃ、ないの?」



「…………このウツロを突き動かす欲は、本当に俺の物なのか」

「諦めたくないと求め続けた契約者に応え、俺は今もここに居る」

「この欲が俺の物なのか、欲した先に、乾きが癒える何かがあるのか……俺は確かめたい」

「故に、強い何かを秘めたお前と戦いたい……同じウンディーネだというのに、お前にも汚れが見えている筈なのに……その目はどうして透き通っているのか……」

「乾くばかりの俺は、お前を通して答えを見つけたい」



「…………汚いものは、沢山見てきた……うんざりだって、したよ」

「それを拭ってくれたのは、絆と、繋がり……教えられる事なんて、あんまりないけど……」

「私が貰った温もり、それで得た力……見せてあげるよ……」

「貴方の曇りを、渇きを、拭ってみせる」



 水を刀のように変化させ、ウツロは静かに構えを取る。両手で水を操り、ティアラもその動きに応えた。二つの力がぶつかり合い、海が荒れ始める。波と波がぶつかり飛沫を上げる中、フェルドは海の上で呆れたように笑っていた。



「わざわざこんな場所まで引っ張ってきて、何が目的だ?」



「タイマンッ!」

「地に足付けてやりたい所だけど、うちらがガチでやり合えば地形が変わりそうだしね……」

「それに時間切れになったらウツロを連れていかないとだから、ここでやろう!」



「そっちの都合を押し付けまくってくるじゃねぇの、どうして俺がお前とタイマン張らねぇと駄目なんだ」



「だってさぁー! これからマスターとそっちの契約者は戦うことになって、うちらも戦うことになるけどさぁ、それって団体戦でしょお」

「うちはあんたとやりたいんだ、燃え盛るようなあんたの力とうちの力を比べたいんだ!」

「悪魔になるほどうちは強さに飢えてる、毎日毎日それしか考えてない」

「そんなうちの欲に負けず劣らず、マスターやみんなも欲深い、同じように深みに墜ちて、求めて、欲して、最高じゃんっ!?」

「止まってらんねぇんだよ! 少しくらいは理解出来ないかな!?」



「そうだなぁ……」



 フェルドは天を仰ぎ、数秒考えを巡らせる。脳裏に浮かんだ記憶は、胸の奥底を冷たくした。大きく息を吐き、少しばかりのお節介を焼いてやる事にする。



「来いよ、相手してやる」



「そう来なくっちゃっ! 話が分かるぅ!」



「求めるばかりじゃ、いつか燃料は尽きちまう」



「ん?」



「燃え続けるにはどうすれば良いのか、お前はもう分かってるらしい」

「仲間がいるってのはあったけぇよな、有難い事だぜ」

「だから貰った分、熱を返してやらねぇといけねぇ」

「仲間を引っ張っていくのが、サラマンダーの役目だ」



 紅蓮の炎を纏ったフェルドは、その熱で海の表面を焼いた。同じサラマンダーの筈なのに、規格外の力に威圧される。



(くはは……! 怖気づいたわけじゃない、今も心はメラメラさ……!)

(だけど、マジか……! 燃える魂が、圧だけで焼ける……焦がされる……! 枷を嵌めた状態でこれか……!)



「先輩として、稽古つけてやるよ」



「最高に燃えてくるよ、長く生きて燃えカスになったサラマンダーは沢山見てきたけどさぁ……」

「ここまで洗練された炎は、初めてだっ!! サラマンダー、カゲリ……いっくよおおおっ!!」



 黒い炎を纏い、カゲリは螺旋状に回転しフェルドに突っ込んでいく。フェルドは黒炎を力任せに殴りつけ、海上で大爆発が巻き起こる。ゲルト・ルフ周辺で精霊同士の激戦が続くが、国は反応を示さない。大気が揺れ、大地が鳴く程の衝撃が続いているのにも関わらず、国は沈黙を続けている。



 それは、分かる者には分かる異常だった。



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