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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十四章 『脈動する大罪、コリエンテを駆けろ!』
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Episode:ルイン  ④ 『一緒に居たいよ』

 クロノが来たる戦いに覚悟を固め、セツナが大罪と仲を深めている頃、コリエンテ大陸では別視点の物語が進行していた。己探しの為、か細い手がかりと知識を元に、ルインとシャルロッテはラベネ・ラグナを目指して歩を進める。



「ルインの生き様、シャルはずっと見てたよ」



「あぁ、視線を背中で感じてるぜ」

「だが待ってくれ、まずは弁明をさせてく」



「今シャルが喋ってるんだよ」



「はい」



「ルインの弁明は一日に十回は聞いてるんだよ、どうしてシャル達は一日かけて進んだ距離と同じ分だけ引き返してるのかな」



「そりゃお前……足を痛めたお婆ちゃんが居たら村まで届けてあげるだろう」



「そしてお婆ちゃんの代わりに荷物をお孫さんのところまで届けてあげるのがルインだよね、また日が沈んでいくよ」



 ラベネ・ラグナまでの地図は持っているのに、何故だか一向に辿り付かずにいる。視界に入った全てに関わっていくルインのおかげで亀どころかミミズ以下の進行速度だ。



「……依頼はシャルが選んでも、依頼ですらない細かなイベントで時間が消えていく」



「まぁなんだ、そんなに気を落とすなよ」



「粉々にしてやろうか」



「シャルロッテちゃーんっ!? 魔力漏れてるっ! 漏れてますよーーーっ!?」



 背後に巨大な髑髏型魔力を背負い、目一杯の怒りをルインにぶつけるシャルロッテ。マジギレ寸前ではあるが、実のところ少しほっとした部分もある。ケーランカの一件以降、どうにも落ち込んでいる様子が続いていたからだ。



(……なんでシャルが、心配なんてしてるのさ)



「……心配かけたな、ごめん」



「ひゃい!?」



「大丈夫、立ち直った! あの子が俺の手がかりなのは間違いないけど、なんでか俺は会うだけであの子を泣かせる、悲しませる」

「だから、違う道で自分が何者なのか、どんな罪を犯したのか、調べる! 辛くても、知らない方が良い過去だとしても、俺は知りたい! これも俺の欲だ!」

「悪魔が欲深いのなら! 俺は俺の求めるままに生きて! やりたい事をやるっ! ここはブレねぇっ!」

「それに関わらないのと調べるのは別の話、あの子が何者でどうして俺を嫌うのか、そこを知る事が大事なのかもしれない!」



「……呆れるくらい前向きだよぉ」



「けどそんな俺を見ていたから、シャルも変わったじゃないか」

「ケーランカでの戦い、明らかに能力に変化があったぜ」



 問答無用で全てを破壊していたシャルロッテの能力は、先の戦いで異物のみを消滅させた。不要と思ったモノを、傷口すら消し去り破壊と真逆の再生に等しい力を発揮してみせたのだ。だが、あの時は必死過ぎて正直どうやったのか、シャルロッテ自身良く分かっていない。



「ふふふ、俺との旅は癖になるだろ?」



「一億歩くらい譲ってルインとの旅が影響してたとして、今のシャルに再現は無理そうだよ」

「…………大体、万物を破壊するシャルの力が誰かを救える力になるとか……そんな上手い話……」



「見ず知らずの悪魔の心配するくらい優しいシャルなら、有り得る話だろう」



「シャルがどれだけ傷つけて、殺してきたかも知らないで……」



「知らないよ、けどそれでもお前は生きていたいと、償いたいと願ったじゃないか」

「誰も許してくれなくても、お前も好きに生きたいって言ったじゃんか」

「好きに生きようぜ、石を投げられるとしても、血みどろの手だろうが、敵だらけの道でも進んで行こう」

「俺達は罪人と悪魔、それでもこれから人助けして生きていくんだ、そうしていきたいから」



「最低、自分勝手、偽善、反吐が出る」

「いや待って、なんでケーランカでシャルが想った事を知ってるの!?」



「だってめっちゃ叫んでたし……え、口に出てたけど無意識だった?」



「シャル、今とっても能力の試し打ちしたい気分だなー」



「おっと理不尽が振り下ろされるぞこれは、デビル回避ッ!」



 頭上から振り下ろされる破壊の一撃をギリギリで回避し、シャルロッテとルインの命がけの鬼ごっこが始まった。数十発に及ぶ即死攻撃を避け続け、辺りはあっという間に闇に包まれる。



「馬鹿やってる間に夜だよーーーーーーーーーーっ!!! なんなのさぁっ!!」



「癒しのいの字もない即死攻撃の嵐でしたね……歩道が抉れて……うぇ……脇腹いてぇ……」



「ルインの馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿っ! お人好し! クソ悪魔! ゴキブリ羽っ!! 単細胞っ!!!」



「罵りよる……終始じゃれてきたのはそっちだろう……」

「いやぁしかし何やら懐かしいなこの感じ、ひょっとすると昔の俺も命がけの駆け引きを日常的に繰り返してた可能性が……?」



「そんな仙人みたいな生き方してたらこんな脳みそ賞味期限切れは生まれてないよ」



「辛辣ぅ」

「しかしどうするかね、引き返しても進んでも中途半端な位置だ」



「野宿しかないでしょ、もぉ……」



「おいおい、シャルちゃんみたいな小さい子に野営させるわけにいくかよ、悪魔でも俺は大人だぜ?」



「こんなに頼りにならない大人やだよ」



「いやぁ、そう捨てたもんじゃない、ぜっ!」



 身を翻し、飛んできた何かを片翼で弾く。地面に突き刺さったそれは、細い針のようなものだった。



「ここ数日ずっと付けて来てたよな、何者だあんた」



 夜の闇に紛れ、空間に黒い穴が現れる。中から姿を現したのは、フードで顔を隠した女性だった。



「ぴょぁっ!?」



(……ん? 今シャルが面白い声を……)

「人を付け回すのは良い趣味とは言えないなぁ、とはいえ女性に剣を向けるのは気が引ける」



「…………シャル」



「ん? あれ、知り合い?」



「…………鈴…………」



「あ、これ知り合いなパターンだ」

「なんだよシャル、お前探してくれる人が居るんじゃねぇか」

「いや待てよ……? 鈴……あー俺記憶ないけど記憶力良いみたいだ前に聞いたぜその名前……ウーン……」



「…………心配した、ずっと、ずっと探してた」

「…………勝手に一人でどこかに消えて…………心配した、みんな心配してる……!」



「うぅ……駄目だよ鈴、シャルはみんなを傷つける……一緒に居ちゃ駄目なんだよ!!」

「沢山殺したシャルに、一緒に居る資格なんかぐえっ!」



「そのくだり俺ともうやったでしょうに」



 逃げ出そうとするシャルロッテの襟首を捕まえ、これから始まろうとしていたシリアスイベントを出初めから粉砕するルイン。バタバタと逃げようとするシャルロッテをしっかり捕獲し、ルインは鈴に近づいていく。針を両手で構え戦闘態勢を取る鈴に、ルインは無防備に距離を詰める。



「…………っ!?」



「きっと鈴は私を探すから、見つからない場所で死ぬ」

「思い出したよ、初めて会った時にシャルはそう言ってた」



「うーうー!!」



「生きるって決めたじゃないか、ならもう会っちゃ駄目な理由はないだろう」



「だとしてもっ!! 勝手に抜け出して心配かけた!! 人としてやっちゃダメな事だよっ!」



「殺した数も知らないくせにとか言ってた子の言葉とは思えないね、スケールが違うや」

「まぁでも、見た目には合った理由かな」

「観念して、ちゃんと謝りなよ」



「うー……」



「見りゃ分かるだろ、この子髪も服もボロボロだぞ」

「目なんてクマが酷い、殆ど寝ないで探してたんだろう」



「…………っ…………」



 サッと目元を隠す鈴だが、どう見てもかなり疲労している。能力も連発していたのだろう、魔力もかなり薄く見える。



「……なんで、シャルは人殺しの道具なのに……」



「…………っ! …………違う、貴女はサイレスの被害者だっ!」

「…………罪は私達のモノ、貴女には奪われた時を取り戻す権利がある」



「そんなのないよっ! こんな見た目だけど、記憶は全部戻った! やってきた全部シャルの中に残ってるっ!! 奪ってきた全部覚えてるっ!! 今更被害者なんて言えるわけない、罪は罪なんだっ!!」

「今更陽だまりになんて戻れない、全部抱えて死のうと思った、止められるって分かってたから、だから一人で死のうって……」



「まぁ俺に止められて、死んでないわけなんですけどね」

「誰にも認められなくても、贖罪の道を生きるって決めたんだよね」



「ぐぅ……」



「…………だったら、戻ってきてもいいじゃない」

「…………一緒に居ても、良いじゃない!!」



「良いわけないよ! 鈴はサイレス達を色んな所に運んだ、そのせいで沢山の被害が出た、でも手にかけた数は0じゃんか!」

「シャルは八柱の中で一番殺してる、罪の重さが違うんだ!! 鈴達と一緒に居ていいわけ……むぎゅ……」



 悲痛な顔で泣き叫ぶシャルロッテの頬が、両サイドからルインによって潰された。



「さっきからなにすんのさっ!!!!」



「これ以上罪を重ねる前に、潔く自首しなさい」



「はいっ!?」



「一緒に居るのに、資格なんかいるかよ」

「この子はお前を心配して、涙まで流してんだぞ、これ以上心配かけてどうすんの」



「だってっ!! シャルはっ!!!」



「お前は、一緒に居たくねぇの?」



「シャルは…………っ!!」



 サイレスの呪縛から解き放たれ、封じられていた記憶は全て戻っている。そして、シャルロッテ・レプリカントとして過ごした時間も全て残ってる。八柱として殺し続けていた血みどろの記憶は、今もシャルロッテを苦しめている。だが、討魔紅蓮として過ごした日々は、全てが絶望の記憶だったわけじゃない。



『鈴、鈴』



『…………はぁ、何』



『シャル、がんばった』



『…………そうね』



 思えば、『仕事』の後は良く鈴の隣に寄って行った。サイレスやアディゲンの後を追いかけるように命令されていなければ、自分は常に鈴の傍に立っていた。理由なんて、単純だった。



『…………飴、いる?』



『ん』



 鈴は優しかった。頬についた血を拭いてくれたのは、いつだって鈴だったから。最悪な毎日の中で、いつも気に掛けてくれていたのは鈴だった。人形だった頃も、その温もりに救われていた。一緒に居たくないわけがない、友達だ、仲間だ、素直にそう言えたらどれだけ楽だろう。それでも、自分と鈴とじゃ罪の重さが比べ物にならない。他の仲間達だってそうだ、自分が傍にいるだけで非難の声は倍増する。投げられる礫の数は跳ね上がる。自分は贖罪の道を歩むと決めた、これ以上周囲に迷惑はかけられない。遊びじゃないんだ、この道は孤独なモノだ。自分は縋る事は許されない。





「独りよがりの贖罪と、仲間に心配かけて泣かせるの、どっちが重いよ」





 悪魔の囁きだ、本当に酷い。固めた決意が、簡単に決壊した。ズルいな、自分はズルい。涙なんて、流す資格ない筈なのに。どれだけ甘えれば、気が済むんだ。



「シャルは……鈴と一緒に居たいよぉ……」

「うわあああああああああああああんっ! ごめん、勝手に出てって……ごめん……!」



「…………うん、うん……!」

「…………罪の重さなんて関係ない、私達はきっと永遠に許されない、死ぬまで私達を恨む人は沢山いる」

「…………だからシャルロッテの罪も一緒に背負うよ、仲間だもの」

「…………一人で苦しむ必要なんてないんだよ、咎人の道だもの、一緒に切り開いていこう」



 シャルロッテの小さな身体、温もりの無い人形の身体。鈴はその身体を両腕で受け止め、ギュッと抱き寄せる。もう二度と、離さないように。



「いやぁ……感動の瞬間だなぁ……」



「…………いや、説明不足が過ぎる」



「ん?」



「…………なんでっ!! シャルロッテが悪魔と一緒に居るの!!」



「えぇこのタイミングで!?」



「それはかくかくしかじかなんだよ」



 無我夢中で飛び出し、成り行きでルインと出会い行動を共にする事になった。シャルロッテはここまでの経緯を丁寧に鈴に説明する。出来るだけ丁寧に説明しないと、悪魔であるルインは簡単に攻撃対象になり得るからだ。



「…………数日見てたし、この悪魔に敵意が無いのは……理解した」

「…………人助けに目がない、善行に欲の全てを向ける奇行種……ね」



「丁寧に説明されてその評価?」



「妥当」



「…………とにかく、礼を言う……シャルロッテを守ってくれてありがとう」



「最強の退治屋所属だったんだろ? 悪魔に礼なんて言って良いのか?」



「…………所属は変わった、それに偏見も消えた」

「…………元々魔物にそこまで恨みはないし、魔物を否定する事はシャルロッテを否定する事になる」

「…………もう二度と、貴女を泣かせたりしない……手元に残った数少ない希望くらい、守り抜きたいんだ」



「……鈴」



「…………シャルロッテを探す為、私は無理言って別行動の許可を貰ってる」

「…………シャルロッテ、出来ればみんなの元に一緒に帰って欲しいんだけど……」



「…………」



 鈴の言葉に、シャルロッテは小さく首を振った。



「ごめんね、でもまだシャルはルインと一緒に旅をしたい」

「シャル自身も、この旅で在り方を定めたいんだ」

「この善行悪魔と一緒に、シャルにも出来る事があるかもしれないから」



「へへっ……」



「シャルは必ず鈴達のところに帰るよ、心配しないで」



「…………なら私も一緒に行く」



「帰る場所があるって幸せだね、えへへ…………ん?」



「…………ここ数日見てたけど、シャルを連れ回し過ぎ」

「…………私が旅のフォローをする、これ以上シャルに負担はかけさせない」



「おぉ? なんか分かんないが頼もしい仲間が増えたぜ!」



「えぇ……まるでお守りだよぉ」



「…………散々好き勝手して心配かけたんだから、これくらい良いでしょ」



(自分だって別行動の許可無理して貰ってるって言ってたのに……延長線上で考えてるよこれ絶対……)



 早速シャルロッテと手を繋いで歩き出す鈴。遅れないように後を追うルインだったが、不意に鈴が振り向いた。



「…………さっきの会話から推測するに、お前の言う『あの子』は私達が狙い仕留め損なった男だ」



「は?」



「…………私が今現在所属している『俗世の真理ボイドトゥルース』のボスは、そいつと仲が良い……事実上私達はその男と協力態勢にある」

「…………敵対していた頃、そいつの事は調べ上げてる……故郷がどこにあるのかも知っている」

「…………私の能力ですぐにでも飛べる、シャルロッテを助けてくれたお礼に連れて行ってもいい」



 別視点の物語は、加速度的に進展する。かの地で悪魔は、何を見るか。



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