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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十四章 『脈動する大罪、コリエンテを駆けろ!』
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第五百七十九話 『もう一度、手を』

「さて、どうしたもんかね」



 ラベネに戻ってきたクロノは、珍しく一人で街中を歩いていた。話はほんの数分前に遡る。ラベネに戻るや否や、バロンは用があると言って何処かへ行ってしまったのだ。フローに島であった事を報告しようにも、どうやら今は手が離せないらしくファクターに止められてしまった。



『ごめんねー! 今フーちゃん手が離せなくて残像残すレベルで対応してて……なんとか時間作るから、後でクロノ君達の宿に顔出すからー!』



『ファクター! ここからそこまで工房に運んでおくのじゃ!』



『ヒーン! 忙しいよぉーーーっ!!』



 今まで多忙でもこっちの対応はしてくれていた、そのフローが手が離せないレベルなのは異常だ。何か手伝えないかとも思ったが、確実に邪魔になる為身を引いた。あちらから顔を出すなら、行き違いにならないように宿で待つべきだ。だが今は大きな戦いに備える時、精神を研ぎ澄まし、静かにその時を待っていればセツナは勝手にプレッシャーで地面に埋まってしまいそうだ。



(現にマッサージ器になりそうなレベルで震えてるし……)



『ガクガクブルブルガクガクブルブル』



『セセツナちゃちゃちゃんどうしどうしたたののののあばばばば』



 セツナの頭の上に乗っているエティルがバグった機械のような喋りになっている。今のセツナにはリフレッシュが必要だ。気の休まる時間はこの先には無いかもしれない、休める時に休んでおくのも大切だ。だからレヴィと四精霊を護衛にラベネの街に放り出した。



『レヴィも行くの……?』



『待ってくれクロノ! 私をこの精霊達と一緒にしないでくれ!』



『何かあっても精霊と俺は会話が出来るから、まぁ安心して観光でもしてなよ』

『俺は宿でフローを待つから、お前達セツナを頼んだぞ』



『待ってくれクロノ! 頼む一人にしないでくれっ!』



『よぉし! セツナちゃんケーランカの続きだよぉ!』



『嘘だ拷問の続きだなんてあんまりだ!』



『ラベネは治安も悪いし、気を付けて切り札するんだよ?』



『そう思うなら傍観決め込むスタイルをやめて助け合いの精神を持てっ!』



『じゃあ仲良くなー』



『嫌だああああああああああああっ!』



『…………嫉妬も乾くよ』



 最近精霊達とも仲良くやっているし良い息抜きが出来ればいいのだが、セツナの事だから今も何処かで転んでいるかもしれない。不安だが、まぁ四精霊とレヴィがついているし何とかなるだろう。



「フローの事だしビビるくらいの速さで時間作ってきてもおかしくないからなぁ……俺は真っ直ぐ宿に戻ろうか……」



 人々が行き交う中、クロノは一人故の沈黙を感じていた。声や音が自分の周りを飛び回るが、クロノ自身は口を開かない。普段は仲間達がこれでもかと騒ぎまくっている為、このように静かな時間は久しぶりだった。周囲の音から切り離されるように、クロノ自身は静けさを深めていく。深く潜った先に、音が響いた。



『聞こえるか』



「ははっ、やっとお目覚めかよ寝過ぎだぜ」



 憤怒の大罪が、声をかけてきた。クロノは冗談交じりに応答する。勿論、ここ最近ずっと気配は感じていた。ずっと起きていたのを、クロノは知っている。



「レヴィちゃんと同じく、お前も思うもんがあるんだろ?」

「今更やっぱ無理ですは無しだぞ、お前の力も貸してもらうからな」



『……僕にだって、意地がある』

『仲間達を救い出す、その時まで君に協力する』



「俺がお前達に協力するんだ、トップに立つのはお前だぞ」

「お前が、みんなのリーダーだったんだろ?」



 宿の扉を潜り、クロノは借りている部屋に戻ってきた。一度伸びをし、そのままベッドに倒れ込む。天井を見上げ、息を吐きながら目を瞑る。意識を内部に放り投げ、クロノはマルスと対面した。



「聞かせろよ、お前達の事をさ」



「…………夢が、あったんだ」

「世界とか、大層な話じゃない……僕は僕を取り巻く範囲しか見えてなかった、それでもね」

「君と同じ、種族なんて関係ない……ただ一緒に居たかったんだ、当たり前に笑って、毎日過ごしていたかっただけなんだよ」

「みんなと、一緒に居たかったんだ」



 真っ黒だった背景が、平原の景色に変わった。遠くには、大きな国が見える。アナスタシアでの修行中に見た、マルスの記憶だ。



「ここ……」



「小さい頃、三人で遊んでいた場所だ」

「僕と、幼馴染二人……後の傲慢と色欲」

「僕達はここで誓い合った、夢を、未来を」

「後の傲慢、エゼクツェンは口は悪かったけど……仲間の為に全力を尽くす男だった」

「後の色欲、ミライは……心から仲間達を愛する優しい子だった」

「僕達三人は小さい頃から一緒でね、成人してギルドに所属するようになっても一緒に仕事をこなしてた」



 草原を駆け回る三人組の子供が遠くに見える。その姿は一気に成長し、景色が塗り替わり室内の物に変わる。多くの人々が行き交う光景、ここはギルドの中だろう。大きな国では依頼板だけじゃ処理しきれない仕事がある、それらを管理するのがギルドだ。勇者じゃなくてもギルド自体に所属すれば仕事を受けられる。ただ、最近はギルドの存在は減りつつあった。持ち込まれる仕事の多くは魔物関係であり、最近その手の仕事は退治屋が請け負う事が多いからだ。



(いつからか、魔物関連の依頼は処理、殺しが当たり前になってきて……だからこそ退治屋の存在が幅を利かせて……)

(魔物関係は退治屋が占領、その他のどうでもいい依頼は依頼板に集まり、ギルドの存在意義は薄れていった……殆どのギルドは潰れるか退治屋に名を変え、ギルド自体廃れていった……)




 だから、古い印象が強い。それこそ、滅んだ国の話に通ずる。




「後の嫉妬、レヴィに出会ったのは依頼の最中だったよ、ボロボロで怯えてた」

「例の森から逃げ出してきたんだ、彼女はドルイド、人じゃない」

「僕達の夢の始まり、ミライはレヴィに手を差し伸べた……種族を越えた未来を僕達はここから追い求めた」

「ギルド所属の研究者だったディッシュ、後の暴食は自身の身体すら実験材料にするぶっ飛んだ奴でね」

「当時はレヴィの事も、研究材料としか見てなかったっけ……いつからか、放っておけない存在になってたけどさ」

「自分の身体を弄って擬態種ミミックモドキになって……仲間内から弾かれて僕達と一緒に行動するようになった、いつもレヴィは彼の肩に乗ってたよ」

「人じゃない仲間を抱える事で、迫害、白い眼を強く感じるようになった、変えたいと強く思うようになっていった」



 また周囲の景色が移り変わる。過去のマルス達は実績を重ね、どんどん存在が強くなっていった。



「無謀な夢を語るには、実績が必要だった、力なき者の声に価値はない」

「僕達は国に貢献しながら、ひたむきに頑張ったよ」

「人の身でありながら桁外れの才能故に輪から弾かれた男、後の怠惰、プラチナ」

「奪われ続けた故に欲が深まった人外、後の強欲、ドゥムディ」

「僕達は受け入れ、同じ夢を掲げて頑張った……いつか自分達の繋がりを変だって言われない世界を作ろうって」

「君と同じだ、僕達は共に在りたかったそれだけだ」

「友達と、ただ一緒に居たかったんだよ」



 俯くマルスの後ろで、7人は笑っていた。後に大罪と呼ばれる彼等は、ただ普通で居たかっただけなんだ。



「僕達は求めた、欲した、力はそれに応えるように大きくなっていった」

「欲のままに力を振るって、溢れる魔力は身体を蝕んで」

「いつの間にか、僕達はみんな人の姿を失っていた」



 目標、夢への熱意は欲を孕んで肉体を蝕んだ。だが、想いは変わっていない。その身が変化しても、彼等にとっては大きな問題ではなかったんだ。人も魔物も関係ない、姿形は気にしない。共に在る為、前に進む力が大きくなったに過ぎない。変わったのは、きっと周りだ。



「変わったつもりはなかったのに、それでも周りは僕達を恐れた」

「前から魔物と一緒だったからね、全員が変貌すればそりゃそうだ」

「でも、それでも……尽くしていれば変えられるって信じてた」

「仲間内で考えを違える事も増えた、でも、みんな目指す場所は一緒だったんだよ」

「それでも、掛け違えた結果……僕達は危険な存在に成り下がった」

「尽くした結果、僕達は国の敵だ」

「仲間達が封印されて、夢も未来も全てを奪われて、僕は怒りのままに国を滅ぼした、暴れ回った」



 空が赤い、笑い声は消え去った。焼けた大地、崩れた城のシルエット。積み重なる人の山、血の涙を流す悪魔が、天を仰ぎ咆哮している。



「結局、最後には感情を制御できず、力も暴走……典型的な人類の敵を演じ僕は封じられた」

「呆れるよ、共存を目指した結果が大量虐殺に加え故郷を滅ぼした、まさしく大罪じゃないか」

「理想を追い求めた結果、何一つ残らなかった、それどころか最後は自分の手で台無しにしたんだ」

「だからこそ、憤怒と呼ばれる僕の中に……もう彼等への怒りも復讐心も残ってない」

「残ってるのは、後悔と、自分自身への怒りだけだ」



 周囲の景色が霧のように溶け、再び黒く塗り潰される。きっと何度も何度も思い出し、その度に後悔で自分を縛り続けているんだろう。



「お前は、自分のせいだって思ってるのか?」



「……分岐点は幾つもあったんだろう、避けられた筈だと何度も自分を責めた」

「過ぎた事だからね、もう自分を責めるくらいしか出来ないんだ」

「夢を追うのは、壊れた時を考えると怖い」



「……けど、お前達の物語は続いてる、役者も揃ってる」

「お前の仲間達は、きっとお前に手を引かれて舞台に上がったんだ」



「……そうかもね、手を差し出したのは僕からだ」



「だから、責任があるだろ」



 クロノは手を差し出した。マルスはその手を見て、驚いたような顔をする。



「まだ続いてる、お前達の物語を悲劇で終わらせない」

「舞台に上がれマルス、後悔するくらいなら、俺と一緒に足掻いて見せろ」

「お前の欲を、俺に貸せ」



 手を繋いだ、最初は三人で。仲間が増えて、七人で手を繋いで円を作った。幸せな世界は、七人分の広さしか無くて。その中はとても暖かくて、いつまでも続いて欲しくて。でも円の外はもっと大きな円で囲われて、潰れそうになった。潰れないように、守る為に、一人、また一人円から外れていく。その度に円は小さくなって、最後には自分しか居なくなってた。円を守ろうとしたみんなはもう何処にも居なくて、最後までそこに居た自分は、守りたかったモノも、そこに居た仲間も全部失った。悔しくて、悲しくて、繋ぐ為にあった手を真っ赤に染め上げた。みんなで目指した円は、もう何処にも無い。でも、もう一度。





(悪魔だから、悪魔に墜ちたから、どうしても消えない、捨てられない)

(あの日胸に宿った欲が、もう一度って叫ぶんだ)

(また、みんなと手を……)





 マルスがクロノの手を取った瞬間、真っ黒な世界が白く光る。ゆっくりと目を開いたクロノの右目に、黒と赤の魔力が火花を散らす。




「覚悟しろよ、俺は諦めが悪いんだ!」




 無言で頷く気配に満足するように、クロノは笑う。どれだけ困難でも、不利な舞台でも、主役の座は譲らない。最後に笑うのは、拳を突き上げるのは、自分達だ。



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