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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十四章 『脈動する大罪、コリエンテを駆けろ!』
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第五百七十六話 『日の光の如く』

 幾度となくぶつかり合う衝撃は高度を上げ、雲を散らす高さまで昇っていく。熱波は雲を飛沫に変え、冷気が水蒸気を凍らせる。周囲の環境を液体、気体、固体と変え続け、両極の属性が空を割るように叩きつけられる。互いに譲らず、力任せに振るわれる威力が島全体を揺らしていた。




「昔っからそうだった! 生き方って奴に疑問ばかり抱いてた!」

「俺達鬼に限った話じゃあない! 魔物全体の生き方、在り方は停滞してたんだよ! お前が氷漬けの間に何があったか、どうだったか前にも話しただろう!?」

「導く者、先導者! 全ての種族の上に立つ魔王があの様じゃそりゃあそうだろう! 魔物達は大きな目標も無く各々がチマチマ毎日を過ごしてた! その日その日を維持する成長もしない日々、改善も見込めない毎日さ!」

「それを取り巻くのが好き勝手する人間! 浅い理想を描く勇者! 振り回される魔物達に何もしない魔王! くだらねぇ、堪えるだけじゃ奪われるだけ、力が無けりゃ失うだけ! 力に固執して何が悪い!」

「だから俺は鍛えた、強くなった! 四天王の名を掴んだ! 従うだけじゃ道は開けない、だったら自分で切り開く! 何がおかしいっ!?」




「そこまではおかしくはないさ、お前が掴み取ったその名を、お前がお前だけの為に使っていなければな」




「慈善事業で名乗ってるわけねぇだろっ! それでも四天王らしくお仕事でもしろってんならなぁ……!」

「俺が、全魔物の目標にでもなってやるってんだ……! 文句があるならこの名を奪い取ってみろってなぁ!」

「停滞した魔物社会、少しでもやる気が灯れば上等じゃねぇか!? その日その日をくだらないまま過ごすよりさぁっ!」




「なら奪われて文句を垂れるなっ!」




「テメェみたいなクソガキに負けた事実を認めて納得しろってぇ!? 悪いが俺はそこまで出来た鬼じゃあねぇんだよ!」

「つうか仮に誰に負けても俺はまた挑むぜ、止まっちまったら、それこそ生きてる意味がねぇ」

「生きてる意味を探して、なんにも無かった恐怖をお前は知ってるか? 空っぽの生の虚しさを知ってるか? 定めてくれる存在を探して、一番上があんなのだった絶望が分かるか!?」

「単純でも、虚しくても、俺は強さにそれを求めた、世界中見渡してみろよそんな奴はごまんと居るぜ!?」

「それくらいしか目指すものが無かった、見つからなかった! くだらねぇ世界を続けてる奴が悪いだろうがっ!!」

「自分を保つので精一杯なんだよっ! 他人を気遣う余裕なんざねぇなぁっ!!」




 右腕を氷で覆い、霧雨は高度を上げる。そのまま回転しながら急降下し、金棒のように棘だらけになった右腕を振り下ろしてきた。セシルはヴァンダルギオンで受け止めるが、威力を殺し切れず吹き飛ばされる。孤島の端に叩き落され、島が揺れる。



「人間、勇者や退治屋は好きに世を闊歩し、それに巻き込まれた魔物達は上が何もしねぇから各自で動く」

「世の中の筋書きは大抵人の行いから始まる、魔物はそれを彩る良い悪者として描かれる」

「魔王は何もしない、四天王へ人殺しを禁ずるくらいだ……何もしないから各魔物の長はそれぞれが選択を迫られる、後手後手でな」

「奪われるだけだ、傷つくだけ、じゃあ噛みつくか? 目立てば袋にされて駆逐されるだけだ」

「救いを求めても魔王は動かない、分かるか? 今の世の中は見渡せばそんなものさ」

「個々の力は違っても、魔物は奪われる側じゃないか、人間は汚いねぇ、何かあれば被害者面して、少しずつ幅を広げて……羨ましいよ、横並びでおてて繋いで繁栄出来るのは」




「そう嘆く頭があるのなら、無能な魔王の代わりに律するのが我等の仕事ではないのか?」




「立場で言えばそうだろうな、でももう遅すぎた、名ばかりじゃ届かない場所が増えすぎた」

「五百年ばかり停滞し、固まった在り方はそう簡単に変わらない……今の四天王は律する名誉ある名ではない」

「唯一、力を持って自己を証明できる場でしかないんだ! そこにいる奴だけが、スポットライトで照らされる、それ以外は端役に過ぎないんだよ!」

「お前は四天王だからあれやこれやと意味を求めるが、俺にとっては四天王であることに意味があるんだ!」



 立ち上がり、セシルは霧雨を睨みながら言葉を返す。声は届かない、そこには強さに固執し、世の中に壊された魔物が居るだけだ。五百年、想いがあっても辛く長い年月だ。時間に翻弄され、世の流れに染まった者達にとって、今の在り方は残酷過ぎたのかもしれない。ここから変えるのは、難しいかもしれない。だけど託された物がある、繋いで来た物がある。だから絶対、譲れない。



「…………己を鍛え上げ、四天王の座まで上がってきたのは事実だ」

「師と呼べる者も居なかったのだろう、たった一人でそこまで這い上がるのは、並大抵の努力ではない」

「惜しいよ、悪魔に墜ちるほどの欲……ひたむきに真っ直ぐ在れば、きっと貴様は今よりずっと強かった」

「出来れば、肩を並べる存在で居たかったぞ」




「ぬるい事をほざいてんじゃねぇよっ!! 並大抵の努力じゃないだぁっ!? そりゃそうだろうがっ! 自分以外全部捨てて、死に物狂いで掴んだ力だ! 鬼であることも捨て、家族も仲間も何もかも捨てて! 強さにだけ執着してここまで来たんだ! ひたむきだ? 真っ直ぐだ!? 綺麗ごと抜かしてんじゃねぇっ!!」

「歪んで曲がって、堕ちるところまで墜ちなきゃここまで来てねぇんだよ! だから寄越せ、だから返せっ!! 四天王の名を、その座を、強さの証明を…………最強の、証明、ヲ……!! 寄越せェッ!!!」



 螺旋状の氷が、天を覆うように形成されていく。あれが落ちてきたら、セシルどころか島ごと粉々だろう。凄まじい魔力は、執念から生まれたモノだ。悪魔に墜ちた鬼には、抱えきれない物語があった筈だ。彼だけじゃない。自分が氷の中に居た間に、数え切れない物語があった筈、多くの願いが散っていった筈なんだ。叶えられなかった願い、成せなかった想い、時の流れの長さの分だけ、過ぎ去った年月の分だけ、散っていった輝きがあったんだ。それを思うと、胸が痛い。取り戻せない失敗、どうにも出来なかった無念、悔しくておかしくなりそうだ。どうしてこうなった、何であの時、私達は、何度も何度も胸の中で考えた。






(だが、取り戻せない、やり直せない、振り返っている時間はない)






 後悔しても、何かが戻ってくることは無い。旅路の中で、立ち止まってる奴は居なかった。あの日々を共に生きた仲間達は、みんな前を向いていた。繋いだ想いを、消すわけにはいかない。何の因果か自分は今四天王でもある、あの日見た輝きを、絶やすわけにはいかない。成せなかった世界で、遂げる事の出来なかった時間の中、壊れ傷ついた者が居る。その無念を背負うなんて言えない、気持ちが分かるとも言えない、自分はそんなに偉くない。だがその痛みを刻み込もう、その無念をこの身に刻もう。五百年前の悲しみを胸に、五百年の月日の無念を飲み込み、この先の未来の為に、全ての意味を強さに変える。




「お前は寒さに弱かったよなぁ! 氷から出てきたばかりのお前は特に弱そうだった!」

「この一撃で海に沈めてやる! あの時みたいに泣き喚くと良いさっ!! 仲間の名前を呼びながら、他者に縋るような奴に四天王の名は相応しくないっ!」

「砕けて死に晒せっ! ”天蓋てんがい・氷鬼”っ!!」




 島より巨大な氷の塊が、凄まじい速度で落ちてくる。切り裂く空気が凍てつく程の冷気を纏い、島の周囲の海が凍り始める。吐き出す息が白く染まり、セシルの体温はどんどん下がっていく。危機迫る中、セシルは目を閉じ息を吸い込む。いつだって、あの日々が瞼の裏に張り付いていた。思い出さない日なんてない、取り戻したいと何度も願った。だけど、もう戻らない、やり直す事は出来ない。振り返るな、どれだけ辛い毎日でも、託された願いはここに在る。どんなに難しい道でも、見つけた希望は今も自分を追いかけている。




「燃やせ、燃やせ、燃やせ……!」

「”幻龍飛焔げんりゅうひえん・昇り火龍”!!」




 想いを、願いを、心の中で燃え上がらせろ。燃料は五百年前に沢山貯め込んだ、沢山貰った。描いた理想まで駈け抜けろ、飛び続けろ、きっとあいつは追いついてくる。その日まで、太陽よりも強く輝け、燃え上がれ。セシルの全身から炎が噴き出し、ヴァンダルギオンが緋色に輝く。大剣の一振りが炎を舞い上がらせ、その熱は巨大な氷を一薙ぎで消し飛ばす。




「は……っ!? なっ……なんだこの熱量……なん……ふざ……!」




 声は続かない。巨大な炎は龍の姿を成し、大きく口を開け霧雨を飲み込んだ。そのまま天高く昇った炎の龍は、遥か上空で大きく爆ぜた。熱は上に逃がしたが、それでも夏のような蒸し暑さが周囲に広がる。海は元通りになり、島中の緑がキラキラと輝いていた。先ほどまで島中を覆っていた氷は、見る影もない。




「…………あの時から随分荒れている、そんなの私がよく分かっているさ」

「全く、随分と面倒ごとを押し付けられたものだ……どれだけかかるか、どれだけ大変か、果ても見えない重労働だぞ」

「…………早く追いついてこい、クロノ…………私だけじゃ到底、共存の世は成せそうもない……」

「投げ出すつもりはないから、早く来て手伝ってくれ……」




 この名に相応しい自分で、出来る事をやろう。描いた理想の為、出来る事を続けよう。あの日のように、共に前を歩める仲間をここで待とう。いつの日か、あの日掴めなかった理想を成してみせる。あの時と同じように、前を目指せる日が来ると信じてる。追いついてくると、信じてる。だから、自分ももう逃げない。もう、迷わない。



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